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『リポソーム』実は身近に分かる話

リポソーム

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美里康人

よく目にするようになった「リポソーム」
どうやってできるのか、ユーザーさんにも分かりやすい解説

大手ブランドコーセーさんが流行の先端をいく「リポソーム」という技術。
こちらのブログでもかなり以前から幾度か取り上げてきていますし、記事をまとめて整理もしています。
今でこそ「リポソーム」という言葉も商品名でなければ謳い文句として表記することも支障がなくなりましたが、以前は中堅以下のコスメでは「ナノカプセル」「有効成分のカプセル化技術」「ナノコスメ」などといった言葉でその技術をアピールしていましたので、実はここ10年ほどで広く様々なコスメにこの技術は使われてきています。

これまでの記事をまとめてご覧になりたい方は、コチラ。

「ナノコスメのお話」の記事一覧
https://cosmetic-web.jp/column/category/development/liposome/

ただ、ユーザーの皆さんにとっては、コーセーさんがHPで公開しておられるような図解はなんとなく理解できていても、なぜそんなのができるのか、はたまたなぜそれがお肌に浸透しやすいのかといったあたりがよく分からないかと思います。

今回はそんなところを、身近なものと繋げて分かりやすく解説してみたいと思います。

リポソームとは何

今さら述べる必要もないと思いますが、ご存知ない方のために少しだけなんのことなのか軽く説明をしておきましょう。

リポソームとはもともと医薬品業界の技術ノウハウで、薬剤を体内に導入する浸透性技術(DDS:ドラッグデリバリーシステム)のことです。
分かりやすい採用例としては、皮膚に塗布することで皮膚の深部に薬剤を浸透させ、血中を通って全身のあらゆる患部に届かせて薬剤を投与する製剤技術です。
つまり、臓器や神経疾患などに注射やカテーテルを使わなくても、皮膚に塗布するだけで薬剤を患部に投入できるという素晴らしい製剤技術です。

で、この技術は薬剤を小さなカプセルに抱合して投与する技術ですが、そのカプセルは人間の体内にたくさん存在している物質で設計されていますので、人体への安全性に全く課題がなく安全で、なおかつこのカプセルの設計をコントロールすることであらゆる部位に届けて薬剤を放出できるという、まるで夢のようなDDS技術です。

で、このカプセルは目に見えないほど非常に小さく設計されているのが特長で、ほとんどの設計がナノサイズで作られていることから、化粧品の業界でも「ナノカプセル」といった言葉が用いられているというわけですね。

そんな素晴らしい技術ですが、この技術を最初に化粧品の製剤に採用されたのがコーセーさんで、そのフラッグシップアイテムが既に発売から20年以上を経過してまだ爆発的に売れている「モイスチュアリポソーム」という美容液ですね。

この技術はただ単に化粧品の美容成分を皮膚の奥に浸透させやすくできるだけでなく、他にも保湿効果など様々な有効性があることからコーセーさんでは他のアイテムにも意欲的に導入されており、最高級ブランドのAQシリーズにもこの技術が採用されています。

ただしこれを読まれて誤解のないようにして頂きたいのは、その「浸透性」の部分です。
医薬品のDDS技術をそのまま採用したのではあらゆる成分が血中にまで浸透してしまいますので、コーセーさんではあくまで角質層レベルで留まるように開発に苦労されて設計されています。

ではこのリポソーム、どのようにできているのか早速お話を進めていきましょう。

リポソームは何でできている?

上で説明してきたこのカプセル、さてどんな成分を使ってどのようにできているのでしょうか?

この説明は、実はさほど難しくありません。
順を追って説明していきましょう。

実は身の回りでは、マヨネーズにそのヒントがあります。
リポソームの原料を開発されている原料メーカーさんで優しく解説されていますので、これをお借りしましょう。

リポソーム

ユーザーさんにも分かりやすく解説されていますので、参考にされて下さい。

日本精化株式会社
https://www.nipponseika.co.jp/phospholipid/role-mayonaise.html

上の絵を見て頂ければお分かりの通り、マヨネーズは「リン脂質」という成分が油と水との仲介役を果たしてくれて安定になった、いわば“乳化物”ということです。
“乳化”というと化粧品の世界では界面活性剤が同じ役目を果たして水と油を乳化してくれていますが、マヨネーズは自然に存在しているリン脂質という物質でできていると考えれば良いですね。

このリン脂質という成分、なんだかよく分からないと思いますが、言い換えて「レシチン」と書けばあ~♪と思い出された方も多いかと思います。
レシチンと言い直せば、大豆や卵黄に含まれている脂質成分でそれぞれ“大豆レシチン””卵黄レシチン”と呼ばれています。

ここで気付かれたでしょうか。
マヨネーズと言えばキューピーさん。
玉子から作っているというのは有名で、そういうことだったんですね。
玉子の卵黄(脂質)に含まれるリン脂質と油脂、そして酢から作っているんですね。

とはいえ、マヨネーズはリポソームでできているのではありません。
このリン脂質がリポソームとどう関係してくるのか、そしてなぜリポソームは浸透性が驚くほど高いのか、解説していきます。

リン脂質の性質

リン脂質が何者なのかお分かり頂いたところで、この界面活性剤にも似た機能をもつリン脂質がどういう特性を持っているのか説明します。
ここも、日本精化さんのHPで分かりやすく図入りで解説されています。

リポソーム02

 

この絵にあるように、実はリン脂質という成分は生物の体内にたくさん存在しており、もっとも分かりやすいのが細胞の膜がこれでできているんですね。
もう少し分かりやすく図で示すと、コレになります。

リン脂質

体内の全ての細胞の膜は、リン脂質がこのように並んで構成されているというわけですね。

ここで少し余談。
上の絵の細胞内側は水になじむ親水性部分。 こちらは細胞の中に満たされている水を中心とした細胞液に向かって並んでいます。
そして細胞外の側の部分は油となじむ“疎水性(親油性)”部分になっていますね。
こちらは、皆さんもよくご存知のセラミドや皮脂といった脂質成分が存在していて、つまり細胞間脂質が並んでいるということですね。

こうしてまるで火星人のようなカタチをしたリン脂質は、横にキレイに並ぶ性質を持っているわけです。
これは人工的に意図しなくても自然現象のように並び、勝手に構成してくれる生体の神秘です。

ここまでくると、もうまもなくリポソームのヒミツにたどり着けますよ。

そしてリポソームを作る

ここまでリン脂質の特異的な性質のお話をしてきました。
上でも書いたように、これはリン脂質の自然現象的な性質で、人工的に作っても同様の現象を辿ることになります。
ようは、リン脂質を使ってきちんと水の中に溶かしてあげれば、勝手に細胞膜のように並ぶことになります。
そしてさらに水の中に溶けたリン脂質は、ある一定の条件になると勝手に球状になって並び始めて、例のコーセーさんの図解のように自然に玉ねぎのような何層にもなった球状のカプセルを作ってくれるのですね。

--なぁんだ、簡単じゃん!

と言いたいところなのですが、残念ながらこの「水の中に溶かす」というのが、もっとも悩ましい最難題なのです。
ここまで述べたようにリン脂質は水にも油にもなじみやすい性質を持っているのですが、“脂質”という名前どおり、実はほとんど油の性質と言っても過言ではなく、水にはそう簡単には溶けてくれません。
しかもタチの悪いことにこの脂質部分は溶解温度が非常に高く、その高温になると今度はさらに水に溶けにくくなり、なんらかの創意工夫をしてやらないとキレイに並ばせることができません。

人工的に作ろうとするとこんなにも困難で・・・いやはや自然の摂理って不思議なものですね。

この辺りが医薬品の業界で長年研究され続け、特殊な製法を用いることでリン脂質によるこの球状カプセルのリポソームが完成したということなのです。
とはいえ、なんとか作ることができても、今度はそれをそのまま安定して維持しておかなければならず、簡単に壊れてしまっては元も子もありません。
なにぶんにももともとが溶けにくい成分だけに、作ることができてもいとも簡単に壊れてしまう性質もやっかいなところで、コーセーさんもこの辺りに大変な苦労をされてきたと伝えられています。

というわけで過去の記事でも解説していますが、大手さんはまだしも小さな化粧品会社の研究組織でこれを自社で開発するのは至難の技で、20年以上を経過した今でも自社で安定したこのリポソーム設計できることができるメーカーさんは、ごく限られていると言えます。
たまたま私達のように時流にもならないここに時間を費やしてきた一部の研究者を除き、ほとんどが原料メーカーさんから供給される既に作られたリポソームを使っているのが現状ということになります。

以上、リポソームがDDS技術に使われるほど体内への浸透性が高いのは、人間の皮膚が構成されているメカニズムをそのまま再現しているからであることが、お分かり頂けたかと思います。
最後にこのリポソームがDDSとして有効なことは説明しましたが、他にも化粧品として有効性があると触れました。
それを締めくくりに説明しましょう。

ここまでの解説をお読み頂ければ理解頂ける通り、リポソームそのものはリン脂質という生体内に多量に存在している成分で設計されていると解説してきました。
しかもこれは、自然に生体内で設計される、とも。

ということはご想像の通り、有効成分以外のこれが皮膚内に導入されることで皮膚にとって有意義な効果をもたらしてくれることに気付かれると思います。
なによりこのリン脂質の並ぶ構成は、皮膚のバリア層であるセラミドのミルフィーユに並んでいることも既にご存知と思います。

ということは、この部分にも少なくとも補われることは容易に察することができます

これがどう皮膚の設計にとって有意義な効果を示してくれるのかはまだ証明されていませんが、少なくても皮膚の水分バリア能などが明らかにアップしているエビデンスデータは最近の大手ブランドさん各社さんの研究成果で報告されており、リポソーム、いえリン脂質はお肌にとってまだ未開拓の効果に大きく期待されています。

以上、リポソームがなんとなく皆さんに理解頂ければ幸いです。
ではまた次週。

by.美里 康人

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