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クレンジングバーム裏話

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美里康人

一カテゴリーとなったクレンジングバーム

そのブームの裏には

実は隠された技術が

クレンジングバームとは

もう書くまでもありませんね。
この言葉は化粧品業界に定着するほど、一カテゴリーを築いたアイテムです。

とはいえ、コレって最近になって登場したアイテムでしょうか?

いえいえ。
実は業界的には、もう40年も昔から存在していました。

「ウソだー。 シアバターみたいなスキンケアものはあったけど、クレンジングなんて見たことないよ。」

いえいえ、このブログではガセネタ作りはしません。
私自身が当時生産にたずさわっていたのですから、ウソではありません。

ただ、こんなにも莫大に売れませんでしたし、このような言葉も生まれていませんでした。
ということは、ここ数年の間に流行となる、変革があったはずなんですね。

今回の記事は、皆さんのご存じないこの裏の謎についての話題です。
そればかりでなく、まだよく分かっていない化粧品研究者の方もおられますので、ユーザーの皆さんが読まれて胸を張って人に話せる、絶対に損はない内容ですよ。

十分な認知が得られた上でのネタばらし

これから書く技術情報はかなり前から分かっていたことですが、私達もこうした製剤ノウハウでご飯を食べている身ですので、オープンにしたくてもできない事情があってこのネタは温存してきました。
twitterなどSNSで色んな評論やガセネタが拡散していても、声をのみ込んでだんまりを決め込んでいました(笑)

それもまぁ、こうして外資系著名ブランドさんや国内大手ブランドさんもあちこちと出揃って一般化してきましたので、ようやくのネタばらしとなりました。

で、早速のその内容ですが、上で書いたようにクレンジングバームがこんなに広まったのには、ここ数年で製剤技術の大きな改革があったからなんですね。
つまり、昔からあったバームタイプのクレンジングとは異なる製品ということなのです。

ただし以前にもこちらで少し取り上げましたが、実はこの改革は数年前などではなく、もう15年にもなる以前に開発された製剤技術だったんです。
しかもそのメーカーさんは、なんと一躍有名になったかの「DUO」ではなく、大手ブランドの「COSME DECORTE」だったんです。

実はコーセーさんの「マイクロパフォーマンス」にあった

以前に書いたように、その製品はこのシリーズの「メルティタッチ」という製品でした。
まぁ、ユーザーの皆さんはほとんど聞いたことも見たこともないでしょうから、つまりはほとんど売れなかった商品でした。
そのため、数年で廃盤になってしまったため、ご存じの方はほとんどおられないことでしょう。

万を持してコーセーさんがこの製品に導入された新しい技術は、結局は消費者には価値が認めてもらえず、挙句の果てに廃盤になってしまったというわけです。

確かにそれはそうでしょう。
実際のところ今のクレンジングバームで皆さんも感じておられるように、製品の特性上、水が入るとNGなのでお風呂場でフタを開けて使うなんてのは不便だったり、濡れた手指はつっこめないだけでなく、手指で何度もほじくるとユルユルになって分離してくるためにいちいちスパチュラを使わないといけない・・・そしてフタを閉めないといけない、などなど。
使用にあたっては、意外と利便性がよろしくないですもんね。

液ダレだけが難点のオイルクレンジングを使う方が便利ですから、売れなかったのも仕方のないことでした。
また、普通ならば私達のような技術者も面白い技術なら製品から製剤技術を学ぶこともするのですが、商品が売れなかっただけにほとんどこの技術を知る人もいなかった・・・という次第。

それが10年を経てから、「DUO」という通販ブランドさんがその技術を利用して製品を販売したところ、形態と使用感の面白さから一気に話題となってブレイクしたというわけですね。

その技術とは?

ということで、「DUO」のクレンジングバームはうまく時流にも乗り、爆発的なヒットとなってその製剤技術も拡散し、一気に他社さんをはじめ大手ブランドにまで拡散しました。
そして、コーセーさんに至っては再度自社ブランド・アルビオンブランドにもこのクレンジングバームを再投入するという、なんともおかしな事態にまで及びました。

コーセーさんにとってはDUOに苦水を飲まされたわけですから、実に悔しい想いだったことでしょうね(苦笑)

さてさて、最後になったその技術とは?というお話です。

で、新しいクレンジングバームに採用されている技術ですが、皆さんでも全成分をみればすぐに判断ができます。

そのキーワードは「ポリエチレン」と表記されている成分です。
必ずこれが配合されていますので、すぐに分かります。

なんのために配合されているかというと、オイルをワックスのように硬く固める成分です。

ポリエチレンというとプラスチックのような固形物なので、それで固まるというわけでなく、ポリエチレンはオイルに溶解するとその中で目に見えない立体的なマトリックス構造を形成するため、オイルが固形化するというわけです。

それまでのバームというと、「ミツロウ」「シアバター」といった固形状のワックスを配合して、ベースとなっているオイルを固めていました。
最初に書いた40年以上も昔からあったクレンジングバームは、この手の固形クレンジングでした。

ところがこれだと、温度が溶解点以上になると溶けて軟らかくなってしまい、シアバターのように気温の高いところではドロドロになってしまう欠点があり、品質不良を招いてしまっていました。
当然ですが、逆に低温の環境では手や体温でなかなか溶けないため、不便さは拭えません。
結局、溶け出す温度は体温近くに設計されているため、ことさら不良のリスクは高かったんですね。
美容オイルとして使われるシアバターなんかは、皆さんも夏場に溶けてしまったものを見たことがあるかと思います。

こういった課題を解決してくれたのがポリエチレン。
これは物理的な骨組みを形成して固形にしてくれますので、温度とは無関係なワックス形状が再現できるんです。
にも関わらずこの骨組みは、手などの力を加えてやると簡単に壊れますので、手や皮膚の上で崩してやるとオイル状に変化してくれるというわけです。

あれ、皆さんは手の温度で溶けていると思っておられませんでしたか?
実はそうではなく、マトリックスが崩れてオイル状に変化している不思議なバームだったんですね。
使えなくなることを覚悟の上で試してみると分かりますが、あのバームはスパチュラでコネコネしてやるとマトリクスが壊れてドロドロになりますよ。
メカニズムの謎はここにあったというわけです。

その証拠にこれを見て頂ければ分かります。

文字が小さくスマホでご覧の方は見難いかもしれませんが、この「プラスチベース」と書かれた軟膏剤のスペックには、軟化点が110~115℃で表示されてますよね。
つまり100℃以上にならないと、温度では溶けないということです。

これでこのクレンジングバームの技術の全容が見えたかと思います。

実はあのクレンジングバームの技術は、医薬品の軟膏剤「プラスチベース」を活用したものなんです。
もう50年以上も前から、ワセリンといったベタベタした使用感の軟膏薬の変わりとして、医薬品の軟膏剤に使われていた技術だったわけです。

これだとワセリンのようにベタつかず、さらっとしたオイルの使用感のまま医薬品軟膏剤が作れるので開発された軟膏ベースです。
調剤薬局で病院からお薬として出してもらう処方箋薬も、これが使われています。

ちなみに、医薬品としては特許も取得されていた技術です。
※既に権利は切れています。

というわけで、この新しい応用技術のバームと昔ながらのワックス油で固めただけのバームは、全く異なる製剤ということがお分かり頂けたかと思います。
外資さんのクレンジングバームには昔ながらのワックス系のバームも存在していますので、全成分をみて見極めをしてみて下さいね。

この技術の利点は温度安定性だけでなく、ワックスで固めたオイルのようにベタついたり厚ぼったくならずにサッパリとした使用感になることから、今後は美容オイルとしてのバームやリップバームといったメイク系アイテムにも広がっていくかもしれません。

今回の話題はこれで終わり~。

しかしながら、リアルでお仕事で触れ合う方々には、「なんでそんなことまで知ってるの???」とよく聞かれますが・・・。
まー、いいじゃないですか、そこは謎で。
オープンに来歴を語る気もありませんし、じーさんは色々とエロいんだわな、ってことで。
ちゃんちゃん。

ではまた次週。

by.美里 康人

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