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美里康人

今回は久しぶりにリポソームの話題
よく質問頂くところを解説していきます

“リポソーム”
化粧品業界では、スキンケアコスメの基本製剤技術として、いまだ根強くこの言葉を目にしたり耳にすることがあるかと思います。
この技術でもっとも有名なコーセーさんは、コスメデコルテの最上位ブランド「AQ」シリーズの製剤全てに応用されており、その人気も衰えを知らないブランドとなっているようです。

最近でもコーセーさんは、このリポソーム製剤を高濃度で皮膚に適用することで、皮膚のバリア能が改善される臨床試験結果が得られた論文を公開しています。
それはただ単に美容成分や保湿成分を皮膚の角質層深部に浸透させるというデリバリー効果だけでなく、もともとのリポソームの設計が皮膚の構造を再現して応用されたものであることから、他のスキンケア設計とは異なる皮膚への有効性が得られているわけですね。
セラミドのラメラ機能を活かしたスキンケアと同様に、基本設計そのものが他のコスメと違って皮膚に有効性を与えてくれる、化粧品技術の中核になり得る技術と言えるでしょう。
真の意味で、皮膚に存在している成分、そして皮膚にとって有効な成分だけで化粧品を設計する、最終系の一技術と言えるかもしれません。

で、私達もこのリポソーム技術に関してはコーセーさんと同時期から取り組んできており、たくさんのお客様のメーカーさんにご提供させてきて頂いています。
そんな中で、よくメーカーさんからご質問を受ける課題について、今回は解説していきたいと思います。
ユーザーの皆さんも、疑問を抱かれていたことかもしれませんね。

リポソームとは?

こちらのブログで最初にリポソームの解説をしてきてから、はやちょうど10年になります。
“リポソーム”技術のことがよく分からない方にとっては、今回の記事はまことに申し訳ありません。
なにぶんにもこの技術の解説を再び一から記述していくといくらページがあっても足りませんので、お題の意味がもうひとつ分かりにくい方は過去の詳細解説の記事をご参考にされて下さい。
かなり詳しく掘り込んで説明をしてきていますし、裏側にある貴重な秘話も取り上げていますので、一読の価値はあると思います。
ご面倒を掛けますが、よろしくお願い致します。

ナノコスメを知る 2020年版 その1

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ナノコスメを知る 2020年版 その2

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リポソームの技術に期待されること

さて、早速本題に入りますが、冒頭に触れたコーセーさんの論文はユーザーの皆さんにとって非常に興味深い内容になっています。
簡単にいえば、リポソームはドラッグデリバリーシステムとしての技術利用ではなく、本来は皮膚の根本的な機能を補完して肌改善を目指す技術だということです。

これはあらためて述べるまでもなく、この皮膚内にある細胞間脂質や細胞膜の構造で理解は容易です。

リポソーム設計のメイン成分である「リン脂質」は、皮膚の根本的な構造の骨格となっている成分ですので、これが皮膚内の深部にデリバリーされいけば、どういった効果が得られるのかは想像できる通りです。
コラーゲンやエラスチンなども同様に、皮膚内に定着してくれれば皮膚が根本的に変わる非常に有効な成分ではあるのですが、いかんせん高分子であることから皮膚に浸透しない課題があります。
それに対してリポソームは医薬品の浸透技術の応用ですので、リン脂質はおのずと皮膚の深部にまでリリースされていくのが大きな特徴です。

ただここで大きな課題になるのは、その含有量です。
イコールそれは、リポソームがどれだけコスメ製品中に含まれているかが大きなキーとなるわけです。
有効成分薬剤と違って微量で効果が出るということではなく、セラミドと同様にリン脂質も高濃度であるほどに皮膚内に導入されて補填されていくことになりますので、どれだけ配合されているかは大きな問題なのです。

リポソームの濃度や数は数値化できるのか

さて、ここまでを踏まえて、コーセーさんを含め中小のブランドにも展開が増えたナノコスメと言われるリポソームのカプセル技術は、どれだけ製品に詰まっているのでしょうか。

ここで最初に述べた、最近よく化粧品の企画を担っておられるメーカーさんからこういった質問があります。

 --リポソームカプセルの数って、何個くらいですか?
 --「高濃度」って何%なのでしょうか?
 --配合量を教えてもらえますか?

この質問のおっしゃりたいことは、大変よく分かります。
先日の展示会でも、何人かの方に質問を受けました。
特に販売を担っておられる販社さんは、ここを数字であらわして差別化したいのは当然のことと言えます。

しかしながら残念なことに、リポソームのカプセルを数えることは誰にもできませんし、カプセルを%といった濃度で表すことも不適切なんです。
その理由とメカニズムを説明していきましょう。

化粧品に利用されているリポソームを作るプロセスは、以下です。

1)美容成分が含まれた水を高温にした上で、リン脂質を溶解する

この時の状態を模式図にすると、こんな感じです。
カプセルの膜になるリン脂質はまるで火星人のようなカタチをしていて、足同士をくっつけ合い二重の層になってぐちゃぐちゃに水の中に分散しています。

リポソーム図

2)この水溶液にある条件を与え、冷却する

するとある温度域になった瞬間に、こんな感じで一気にリン脂質が球状になってカプセルが自然に生成されていきます。

リポソーム

その時の大きさが、ナノサイズのレベルということですね。
このプロセスはリン脂質の性質からくる自然発生的な現象で、リン脂質のカプセル膜が球状になって中に水を中に抱えこんで勝手に作られていきますので、大きさや個数をコントロールして作るわけではありません。
また、絵にあるようにカプセル膜になるリン脂質はたまねぎのように何重にもなっているのがほとんどで、この層の数をコントロールすることはできません。
これはコーセーさんのHPでも説明されています。

この工程は、ほんの数分の間に一気に数億個のカプセルが生成されますので、ひとつひとつカプセルを作っていく疑似イクラのようなイメージとは全く異なります。
設計の手法やノウハウによって変わりますが、このカプセルはナノサイズと言われる通りに数十ナノから数百ナノといった大きさですので、何千万・何億といった数になって作られていきます。
当然のことながら大きさが倍になれば数は半分になり、千万・億単位で個数は変わりますので、数を推定することも難しいことがお分かり頂けるかと思います。
というわけで、まず個数をカウントすることは、よほどなんらかのカウントを可能にする測定機器などが開発されない限りは、ほぼ不可能です。
参考までに、このリポソームの大きさを測定する際に、電子顕微鏡の画像と合わせて1cm3あたりの数を推定して計算してみたことがありますが、およそ100gの原液には数億~数十臆個が存在していると推測されます。

ちなみに医薬品の薬剤の設計の場合は製法がまた異なり、膜の数が1層になるようにひとつひとつ作成していきますので、非常に膨大なコストが掛かります。

次に%といった濃度の問題です。

上のメカニズムを思い返して頂ければお分かり頂けるかと思いますが、リポソームのカプセルは水の中で自然に生成されますので、カプセルの中は美容成分が含まれた水です。
それが水中でできあがります。

ということは、どれだけの水がカプセルの中に封じ込められたかは、誰にも分かりません。
もともと周りにあった水を任意に抱え込んで球状になりますので、何%の水を抱え込んだかは誰にも分からないというわけです。
大きさは測定できますので、数さえ分かればおよその体積%は計算できるのですが・・・。

というわけで、こうして数多くのカプセルが水中に浮遊した状態の作成液が、原料メーカーさんから原液として販売されています。
ビタミンCやコラーゲンをナノカプセル化したといったコンセプトの化粧品は、こういったリポソーム調製原料が配合されています。
これを化粧水に配合すれば「リポソーム化粧水」になりますし、これを美容液に配合すれば「リポソーム美容液」、クリームに配合すれば「リポソームクリーム」になるというわけです。

結果的に業界内では少しでもリポソームの濃度を分かりやすく表現するために、この作成液を「原液」と名付けて配合量のものさしにしていますが、実際はリポソームカプセルそのものの濃度とは程遠いと考えて良いでしょう。
また、この作成された原液は大変コストが掛かっていますので、お値段的にたくさん配合するのは難しいと言えます。

いずれにしても、この原液も周りの水を大量にして作成すれば結果として薄い原液ができますし、逆に周りの水をカプセルが生成するギリギリまで切り詰めて作れば、数字で%は不明としてもカプセル濃度が濃い原液が作成できます。
なのでこの原液の配合%も、全く意味がありません

ならば何を指針にするか

ここまでの背景、ご理解頂けたでしょうか。
とはいえ、これではコーセーさんが論文でも示している「高濃度」という言葉に、ものさしがないいい加減なことになってしまいますね。

そこで、もっとも適切な表現になっているのが、「リン脂質の配合量」です。

カプセルの個数は分かりませんが、リポソームのカプセル膜はリン脂質からできていることを説明してきましたので、この皮膜となるリン脂質の量がカプセルの数の多さやリポソームの濃度と比例関係にあるのはご理解頂けるかと思います。

コーセーさんのあの論文では、このリン脂質の量を1%に既定してエビデンスを採取されています。

これは実際に作成したことがある技術者なら理解できるのですが、リポソームに用いられる大変高価なリン脂質は正確には「フォスファチジルコリン(PC)」という成分で、ヒト型セラミドと同様にこれを水の中に1%溶解する事は非常に難解なことなんです。
作成方法によっては、リポソームのサイズが小さくてなってカプセル濃度が高すぎ、いわゆる濃密な状態でゲル状になることもあります。
つまり周りの水がうんと少なくなるということです。

なので、本来はこのリン脂質の配合量をものさしにすれば、製品に配合されたリポソームの濃度はある程度の指針にできるということになりますね。

とはいえ、さすがにこれはこのカプセルを作成している企業さんのノウハウですし、コーセーさんも実際にそれぞれの製品にどれ位配合しているのかは、機密事項として隠されています。
これは自社で一からカプセルを作成している私達も同様で、ここを製品をご提供しているメーカーさんに公開するわけにはまいりません。
申し訳ありません。

とはいえ、先にも触れたように私達も最初の原液はギリギリの高濃度で作成してこれをリポソーム液としていますので、この原液を各製品に配合した濃度をある程度の指針としてお伝えしています。
例えば化粧水であれば、この原液を10%も配合してあげればリン脂質濃度は0.1%となり、使用感だけでなく明らかに皮膚の中に入って皮膚コンデションが変化していくことが体感できます。
この先は今後もメーカーさんとの製品企画のことになってしまいますので、この辺りで留めておきたいと思います。

原液を作る技術が広まり、高濃度を達成したい美容業界

今回はリポソームの濃度についてのご質問が多く、それが難しい問題であることと、ものさしとなるような背景をお話してきました。

ここまで書いてきたことを実践すれば、スキンケアコスメの基本設計がお肌にとって非常に喜ばしい製剤が確立され、余計な成分はいよいよ防腐剤や原料の酸化防止剤といった最小限必要な成分だけに留めた設計に拘ることが可能になります。
これによって全てのスキンケアアイテムが完成すれば、お肌を本来の姿に戻してあげるスキンケアが達成できるのかもしれません。

とはいえ、この技術はもともとが医薬品のDDS技術が基本になっていることは何度も触れてきました。
ですので、これを一から自社で設計できるノウハウを持っている研究者は、化粧品業界ではごく限られていると言っても過言ではありません。
かといって医薬品のリポソームは化粧品には使えない溶剤を使って綿密な設計をしますので、そのコストは膨大なものとなってとても商業ベースに乗るような技術ではありません。

まして化粧品OEM企業では、この技術の開発に時間と労力を大きく割いても、多大な利益をもたらしてくれるわけでもありません。
なぜなら「リポソーム」は医薬品用語であり、この言葉を化粧品の製品名や効果の表記などに一切使用できませんので、商品の訴求ポイントとして表記がままなりません。
 *コーセーさんだけが厚労省の認可を得て製品名に付与されています
成分の配合でいえば所詮はリン脂質でしかないと言ってしまえばそれまでですし、フォスファチジルコリンをあまり含まないリン脂質はたくさんあり、ユーザーさんが目にする成分名からは分かりません。
このような背景があることから、実際にはこれを一から自社で設計してスキンケアコスメに活かしている製品は皆無に近く、ユーザーの皆さんが探すのは困難を極めるかもしれません。
使ってみれば分かる実感は、なかなか製品の訴求性としては伝わりにくい課題というところでしょうか。
コーセーさんのモイスチュアリポソームがなかなか売れなかったもの、その辺りの課題でしょう。

私達とて、これをフルに活用して全てのメーカーさんのスキンケアコスメに投入するというわけにはまいりません。
なによりリン脂質はヒト型セラミドなみに高価な素材ですし、コスメデコルテなみに付加価値の高いコスメでしか達成が難しいことも背景にあります。
他にもこのカプセルは非常に繊細な子たちで、壊れないような設計も非常に難題で条件が限られてきます。
広くこの技術が化粧品業界に広がり、活用が広まって原料も安価になっていけば、様々なコスメへと展開が進んでいくかもしれませんね。

今回の話題はここまでにしておきましょう。
ご質問などございましたら、遠慮なくメールなどでお願いできればと思います。

ではまた次週。

by.美里 康人

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