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“ラメラ”という言葉

美里康人

いくつか大手ブランドさんの技術開発トピックをtwitterでつぶやきましたが、この1・2年で「ラメラ」という言葉がクローズアップされています。
今回はまさに私達も取り組んでいたこの技術について、わかりやすく少し詳細に解説してみたいと思います。

ラメラってなんだろう

最初に、この言葉の意味を説明しておきましょう。

ラメラとは正確にはラメラ ストラクチャー」のことで、直訳すると「液晶構造」という意味になります。

なので最近よく使われる「液晶ラメラ」という言葉は直訳なら「液晶液晶」になってしまい、厳密には正しくありません。
ただ、ラメラ構造という言葉自体は液晶だけのことを指すのではなく、もっと広義な意味も含んでいますので、液晶構造のことを説明する時には液晶ラメラと特定していると解釈されています。

で、ならば液晶とはなんでしょう?

ユーザーの皆さんはテレビやスマホのモニターに使われている液晶パネルのことをすぐに思い浮かべると思います。
言葉の意味に繋がりはありますが、化粧品技術の世界で使われる場合はもっと限定的な意味合いを持っています。

それは、皮膚のバリア機能を担う細胞間脂質部分のように、層状になって油層・水層が連続したミルフィーユのように折り重なった状態のことを指しています。

さらにこの油層部分がロウのような固形の結晶性油分であるにも関わらず、液状状態を維持できる不思議な構造になっていることから、液状の「」と結晶の「」をとって「液晶構造」と名付けられました。

でもこの液晶と呼ばれる特殊なメカニズム、化粧品技術の世界では随分と昔から活用されてきていました。

参考 化粧品の「液晶」技術チガウがワカル!?

実は不思議な「リンス」

リンス。
今はコンディショナーと呼ばれていますが、随分と昔から利用されていた技術なので、あえて「リンス」と書きました。

そう、この非常に身近なリンスが、まさにこのラメラ構造の特性を応用した技術で作られていたんです。

というのも、今のコンディショナーでも皆さんが見て分かる通り、クリームのように「乳化」になっていますよね。
髪に残す油分が必要ですから、言われてみれば当然と分かるでしょう。

そして、ダラダラと垂れてこない、手にうまく取れるように粘度がドロっとしているはずです。

コレ、まさにスキンケアの保湿クリームと同じように、界面活性剤を使ってオイルを乳化させる設計にしなくてはならないのが、本来のセオリー。
まぁ、クリームとは言わないまでも、乳液レベルというのは見てもお分かり頂ける通りです。

でも、お値段を省みて下さい。
400mLの大容量であのお値段!

これはもう、普通のスキンケアのような乳化(エマルジョン)では到底価格が合うはずがありません。

そこで自然発生的に考えられたのが、この液晶構造を応用した技術。

全成分をみれば答えにたどり着きますが、リンスやコンディショナーには必ずといっていい程以下の成分が前の方に入っているはずです。

 ・セタノール
 ・ステアリルアルコール
 ・セテアリルアルコール

そして、カチオン活性剤がセットで組み立てられています。

この3つの成分は、いずれも固形のワックスのような油分です。
もちろん普通は水には溶けませんし、室温ではロウのようにカチカチのワックスです。

ところが、これをグリセリンやBGといった水溶性成分と、カチオン活性剤とを絶妙な黄金比率で組み合わせてやると、水の中で液晶ラメラを形成して乳化状態が設計できちゃうんですね。

上の固形ワックスを使って液晶を設計してあげれば、コンディショナーのようにドロっとした液状に安定させたエマルジョンになりますので、まさに「液晶」という言葉通りとお分かり頂けるでしょう。
リンスやコンディショナーは、顕微鏡で見るとスキンケアの乳液やクリームと異なり、液晶になっていることが確認できます。
つまり、上の3成分をうまく使いこなして液晶構造を組み立てれば、お安いコストで簡単にオイルをエマルジョンにできる技術だったというわけです。

とはいえ、これを液晶ラメラの技術だと意識し、エマルジョンの理論としてきちんと理解できている研究者がどれだけおられるか、これはまた別の問題。
もう当たり前のように上の成分を使ってやればコンディショナーがラクにできちゃいますし、その裏にある液晶理論を考えながら処方を組み立てる人は、大手ブランドさんのヘアケア開発専門部隊の方でもない限り、今ではほとんどおられません。

まして、この後で説明していく細胞間脂質、つまりはセラミドの特性と繋がりがあると気付いた研究者は、ほんの一部の人だけだったという解説に進んでいきます。

セラミドはまだ35年

液晶ラメラの説明は核心に入りますが、今では当たり前のように解説されている細胞間脂質の存在が確認されたのは、まだ40年ほどの歴史です。
そしてこの細胞間脂質に存在しているセラミドが確認されて命名されたのも、まだ35年前。

当然、先に説明したリンスの技術なんかよりもうんと最近のことですね。
もちろん、私が研究者になった当時は存在すら確認されていませんでした(笑)

ですので、この細胞間脂質=セラミドが皮膚の中で液晶ラメラを形成してミルフィーユ状になっているという理論が解明されたのもまだ最近のことですし、ましてやそれがヒトの自然の営みの中で液晶ラメラを構築しているなんていう理論を熟知している方はわずかということになります。

つまり先に書いた液晶技術は、ロウのような固形オイルがキーワードになっていて、それがヒトの皮膚細胞の中ではセラミドに該当していると理解している技術者も、ひと握りだったということになります。

ですので、セラミドも先に書いたセタノールといったワックス成分のように、水には全く溶けませんし、固形のままになっているのが当たり前の姿です。
つまり、そのままのカタチで無理やりスキンケアアイテムに配合したところで、セラミド本来の機能は発揮できないことになるわけです。

結論として、皮膚の中では液晶ラメラを自然に構築しているために、セラミドは固形でない状態になっていられるということですね。
これはセラミドだけでなく、皮膚内の油分として知られている脂肪酸も同じで、これらも本当の姿は固形ワックスなんです。

動物の生体って、本当に不思議ですね。

再現することは可能か?

ここまで解説してきて、いよいよお題の本丸のお話になります。

以上のここまでの理論をきちんと整理していくと、これを人の手で作り上げることができたなら、お肌のスキンケアとしてサイコーのアイテムになることは誰しもが思い馳せますよね。
大手ブランドさんがここに着目し、このお肌の生体を活用した製剤技術に取り組んだのが、twitterでも取り上げた論文や特許技術です。
花王さんはすでに30年も前からこの課題に取り組み、このような論文も発表しています。

 ・合成セラミドを主成分とする生体脂質類似皮膚化粧料の開発

内容は専門的ですし転載できませんが、最終的に結論をこのようにまとめています。

そして最近になって他の大手ブランドさんや原料メーカーさんもここに注目し、次々に課題に取り組んでいることが発表されています。

 ・ノエビアグループ、「セラミド含有ラメラ製剤」が角層のバリア機能を向上させることを解明

日経産業新聞記事:リンクURL

ノエビアさんの場合も学会で論文を発表、すでに製剤の特許も提出されています。

 

そしてこちらはコーセーさんで、つい最近の学会論文です。

 ・細胞間脂質の構造に着想を得たセラミド高配合化粧水の開発

乳液・クリームの時代が代わる

ここまでラメラ構造という特殊な設計技術について解説してきましたが、大手さんもこうした論文を発表する通り、これを人の手で再現するのはそう簡単なことではなく、実際の化粧品のカタチにするには難解な問題がいくつも立ちはだかっています。

現時点では皮膚に存在している成分、セラミド・油脂・水分だけで化粧品を作るのは困難で、いずれのメーカーさんも界面活性剤やポリマーといった補助成分を添加しないことには、乳液やクリームといった製品に展開ができていないのが現状です。

とはいえ、皮膚の細胞間脂質には他にも存在している天然成分がまだあります。
そしてそこに解決のヒントが隠されているはずです。
私たちの取り組みでもようやくその解決策が見出され、近い将来において界面活性剤やポリマーといった補助的な素材を使わずに、まさにお肌の細胞間脂質を再現した化粧品の開発が可能になると考えています。

この技術が確立されれば、化粧品業界の乳液やクリームといった製品の設計が大きく変革するかもしれません。
新時代のエマルジョン化粧品に、界面活性剤やポリマーといった素材は必要なくなる、と。

そしてこういった技術には、さらに大きな夢がのせられています。

私たち化粧品業界の企業は医薬品的な効果・効能を一切言えないため、花王さんも化粧品業界では論文の発表を控えていますが、メディカルの分野ではこういった論文を発表しています。

アトピーで悩まされている多くのユーザーさんが、日々のスキンケアによって症状が改善されていくことに大きな期待を寄せています。
すでに私たちも、エビデンスでいい結果を得ています。

スキンケアの未来に大きく期待しましょう。
ではまた次週。

by.美里 康人

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