今回の化石コスメは
ジェルクレンジングの発祥
【キュレル】
そこにどんな技術が
隠されていたのでしょうか
今回の化石コスメ企画のブランドは、花王さん。
カネボウ・ファンケル・ユニリーバ、そして今回と、大手メーカーさんのアイテムが続いていますが、この先ではノーブランドものの面白い技術商品が登場しますので、まだ先をお楽しみに。
ジェルクレンジング時代の始まり
さて、今回の登場コスメも化石コスメですから、製品を記憶されている方は、すでに50代を越えた方がほとんどと思います。
しかしながら、逆にいえば市場では空前と言っても良いほどブームを起こした製品ですから、50代から私の世代の女性であれば、一度は使ったこと・見たことはあると思います。
もちろん、TVCMも話題となり、「ゲルがツルンとなったらメイクが落ちた合図」という、使用感における転相メカニズムの妙も大きなブームとなりましたね。
その製品は、キュレルブランドの、ジェルクレンジングです。
実はまだ当時の技術を引き継いだ製品が存在しています。
「キュレル ジェルメイク落とし」
一昨年の2019年にリニューアルを遂げています。
廃盤とは言わないまでも、一時は流通していない時期が長くあったのですが、今も当時のイメージのままのチューブ容器で、その歴史を思い起こさせます。
何が改革だったのか
ユーザーさんの間では、今のキュレルのジェルメイク落としもほとんど話題にもなりませんが、実は業界的には素晴らしい技術が隠されているんです。
今ではジェルタイプのクレンジングも市場に多数存在しますが、当時はクリアな透明ジェルのクレンジングはありませんでした。
そして何より改革だったのは、ジェルタイプの商品にも関わらず、カルボマーといったゲル化剤の合成ポリマーを一切使っていない製剤だったことです。
まぁ、ユーザーの皆さんにとっては「それがどうした」「だからなんなの?」ということなのかもしれませんが、業界的にはクレンジングどころか、今でも合成ポリマーを一切使わずに透明ゲルのコスメを達成しているメーカーはありません。
(もしも奇特なユーザーさんがおられましたら、合成ポリマーが配合されていないゲルコスメが存在するか、お探しになってみて下さいね)
それほど驚きの技術だったんですね。
ちなみに現在市場に存在しているゲルクレンジングの製剤は、カルボマーといったポリマーを使って作ったジェルに、メイクを落とすための界面活性剤を配合した剤型や、それにメイク落ちを増強するために少量のオイルやシリコンを添加した製品です。
いわば、リキッドクレンジングにゲル化剤を加えてゲルクレンジングにしたモノ、と考えれば分かりやすいですね。
ユーザーの皆さんでも、全成分をみればすぐに判別ができます。
製剤の妙
さてこのキュレルのクレンジングゲルは、なぜゲル化剤など使わずにゲルを完成できたのでしょう。
ゲル化剤なしでは水もオイルも増粘させることはできませんから、どうやってゲルができたのか?が、技術の焦点です。
それは、界面活性剤とある種の保湿成分、そしてそれにある一定量のオイルを混合することで特殊な現象が起きることを利用したものでした。
「ある種の保湿成分」という説明では曖昧で、ユーザーの皆さんには成分の名前が想像できないかと思いますが、ここは成分名をあげていくとちょっと解説が難しい理論になってしまいますので、一般的なBGやグリセリンなどが代表と思っておいて頂ければ結構です。
で、その特有のゲル現象は、今でもコスメだけでなく様々な技術に応用されていて、「液晶」という皆さんもよく耳にする技術です。
この3つの素材は全く性質の異なる素材ですが、ある特定の配合比率になった時に特殊なカタチを形成することを利用した技術ということになります。
そのキレイなゲルが達成されるバランス領域は実にシビアで、このような感じです。
出典:色材.70[7](1997) ㈱ノエビア 植田光一
これを「3成分系 相関図」と言いますが、界面活性剤・グリセリン・ミネラルオイルの3成分系バランスの、斜線になっているわずかな部分がゲル化領域になります。
ただし、この領域の中でも、クレンジング剤としてのメイク落ち機能を果たせるかどうかや、水でキレイに洗い流せるかどうか、さらにはスルスルとテクスチュアがよく滑りが演出できるかといった、使用感面で良好な領域はさらにわずかです。
もっといえば、それぞれの3つの成分にもたくさんの種類がありますので、製品として使用に耐えられる種類もごく限られた素材を見つけ出さないといけませんし、その種類によって中にはゲル化領域が得られないものもあります。
淘汰されてしまったそのワケ
さて、ここまでこのゲル化技術のメカニズムと理論をごくサラっと説明しましたが、こうした優れた技術の製品が一度は市場から姿を消してしまったのはなぜか、不思議に感じることでしょう。
現に、それだけ優れているのならば、中小のメーカーさんからもどんどん発売されていたはずです。
上で書いたように、市場には全く存在していませんし。
つまりここが、「化石コスメ」認定のゆえんということになります。
ここをさらに説明していきます。
実はこのキュレルのクレンジングジェルは、TVコマーシャルの効果もあって、業界で大ヒット商品となりました。
その影響を受けて、大手ブランドの筆頭である資生堂さんも、同様の製剤の製品を市場に投入しました。
しかもそれぞれに製剤の特許を取得され、中小の他社メーカーに追随を許さない市場独占を試みています。
つまり、それ位クレンジングのカテゴリーを改革してしまった大ヒットだったということですね。
いわば、現在のクレンジングバームのような感じです。
でも資生堂さんにしても、すでに商品はありません。
それは、この技術に大きな問題があったためです。
その問題というのが化石コスメとなってしまった大きな要因です。
・品質安定性が悪く、温度によって分離したりと、市場トラブルが絶えなかった
・水が少しでも入ると性能が発揮できなかった
特に一番目の品質に関しての課題は、大手ブランドさんだけに大きな壁となり、安定性を高めると使用性が悪くなったりと、容易に微調整ができるようなフレキシビリティさがないことが、アダとなってしまいました。
大手さんの技術をもってしてもこれだけの困難な技術ですから、特許の縛りをさておいても、中小のメーカーさんは真似することすら及ばずに、やがて市場から一度は姿を消してしまいました。
あらたに再販!
さて、ここまで説明をしてきましたが、最初に書いたようにあのキュレルが帰ってきています。
全成分をみても、使われていた成分は大きく変わっていますが、同時と同様の基本設計技術が使われていますので、性能も当時をほうふつとさせる品質です。
私も試してみましたが、当時よりも転相が早くていきなり「つるん」となるところなど、進化していると感じました。
ただ、品質安定性を高めるためなのか、メイク落ちは少し悪くなっているように感じましたが、まぁそこはご愛敬。
市場にあるどの透明なジェルクレンジングよりもメイク落ちはとび抜けていますし、なによりお財布にとことん優しいのは、他の追随を許さないと感じました。
ちなみに、公式サイトの掲示板「美容レスQ」でもご質問がありましたので、ほんのちょびっとだけ私達の宣伝もさせて頂くと。
私達はこのゲル化技術のノウハウをさらに研究を重ねて進化させ、オイルを配合しないで達成した新しいゲルクレンジングの開発に成功しています。
今やオイルコスメでトラブルを生じる方はかなりの比率になっており、機能性コスメにオイルフリーを揃えるのは当たり前の時代になってきましたので。
で、この技術で特許を取得しました。
いやー、とはいえ、最後にこんな花王さんの悪口をひとことだけ書くとすれば・・・花王さんの悪いところは、昔から機能性コスメの価格帯がこうなんですよね(苦笑)
私達、中小の企業にとっては、優れた開発技術やノウハウをいきなりドラッグコスメの価格帯に投入されてしまうと、いい技術を私達が学ぼうとしても、価格競争で勝てるわけがないですよね。
もちろん、ユーザーの皆さんにとってはありがたいことに間違いないのですが、中小のブランドさんが生き残れなくなるという、業界としては衰退に繋がることを意識して頂ければ、もっと花王さんを尊敬できるのですけれど・・・。
ねたみといいますか(笑)、愚痴を最後に今回の記事の終わりとさせて頂きましょう。
ではまた次週。
by.美里 康人