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ヒトの五感はいい加減

化粧品の使用感検証

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美里康人

“使用感が◯◯◯”といった化粧品評価
実はヒトの五感はいい加減なもの・・・という実際のお話

掲題であげた言葉、ユーザーの皆さんでも過去を振り返って幾度が使われたことがあるかと思います。

 -この化粧水って、ちょっとベタつく・・・
 -この乳液、さっぱりしてて好き・・・

などなど。
いずれもご自分の中にものさしがあって、その感覚と比較して五感で感じたことを言葉にしていると思います。
で、この評価をもとにして商品選びにも活かした経験も、何度となくあったのではないでしょうか。

さてこの評価、本当に正しいのでしょうか?

今回は“プラセボ効果”という言葉の意味も含めて、そんな話題です。

使用感は五感

もうあらためて説明の必要もありませんが、化粧品を触ってみた時に感じる「使用感」は、いずれも人間の五感に頼って評価をしています。
そして化粧品という商品はここがもっとも重要な要素と言えますし、これは化粧品技術者としても重要な評価基準であると、お仕事の中でも伝えてきました。

しかも非常に興味深いことに、人間が化粧品を手にした時の行動は判で押したように同じで、意地の悪い私なんかは思わずプっと吹き出してしまうことすらあります。
もちろん、自分も仕事を外れるとついうっかりやってしまうのですが(笑)

その行動パターンは、だいたい以下です。

 1)化粧品を手か指にとる
 2)手の甲にそれを塗布する
 3)ササっと塗り拡げる
 4)鼻を近づけてクンクンする
 5)反対の手で塗布した部分をペタペタと叩く(触れる)
 6)しばらく、延々とペタペタと叩く

思い当たるフシがあると思いますが、不思議と言ってもいいくらい同じパターンで化粧品をテイストしますよね。
これ、ユーザーさんの行動としては特に指摘されることでもありませんし、人それぞれということで問題はないと言えます。
ただ、もしも指摘させて頂くとすれば、疑問に感じるところは以下です。

 1)手に取ったは、お顔に使うことを想定して、小さな手の甲の面積を考えて適切に取りましたか?
 2)手の甲は、清潔かつお顔より乾燥したりしていませんでしたか?
 3)塗布は乱暴にササっと塗り拡げませんでしたか?
 4)香りのない製品なのににおいを嗅いでいませんか?
   仮に少しの原料臭がしたとしても、お顔をにおったりすることなどないことに気付いていますか?
 5)浸透させるのに、乱暴にペタペタしませんでしたか?
 6)お顔と手の甲の皮膚では、浸透力が異なることを考慮していますか?

いずれも、実はお顔に塗布する目的に使用する製品をテイストするのに、不十分なやり方と気付かれたかと思います。
ざっくりと、こんな感じで課題があります。
とはいえ、ユーザーさんはこれがお仕事なのではありませんので何も指摘するようなことではないですが、私達技術者はこの評価をもって処方設計の判断をしていくのがお仕事
これは重要な課題ですよね。

なので、最低でもこの6点の部分で指摘したことは、しっかりと考慮した上でテスト法を考えないといけないということになります。
いわば、もしも仕事の中でこういったテストをしてしまう本職の方がいれば、指摘せざるを得ません。
もちろん、それが仕事柄私達と関係のない方でしたら、あぁ・・・デキる技術者とは言えないなと、心の中で評価することになりますが。
つまり

 デキる化粧品技術者は、コスメをテイストする時の所作が違う

というわけです。

とまぁ、まずはとりあえず、五感は化粧品を評価する上で非常に重要なので、しっかりと使用する部位を想定してテイストしないといけないというお話でした。

そして今回の話題に入りますが、ならばこの「人間の五感」ってどの程度アテになるのでしょうか?
製品を開発する際に、処方を決定する判断をする材料としてこれを安易に用いて大丈夫なのでしょうか?

テストしてみた

実はこの課題に対して過去に疑問を持ち、化粧品研究の中で実験を行ったことがあります。
今回はそんなお話をしようと思います。

すでに20年も前の実験ですので、その時のデータや評価の詳細は残っていなくてざっくりとしたお話になりますが、そこはご容赦頂ければと思います。

この実験は、私が当時勤めていたOEM工場の研究室で実施しました。
もちろんこのテストに参加したメンバーは全員が化粧品の研究開発メンバーで、処方設計者です。
当然、常日頃から使用感をみて処方に手を加えることを仕事としている、いわば本職の面々です。
その人数は10名。

実験方法はカンタン。
以下の処方で実験を行いました。

サンプルA)
グリセリン、0%・3%・5%・10%の水溶液

サンプルB)
ヒアルロン酸、0%・0.01%・0.05%・0.10%の水溶液

それぞれにグリセリンとヒアルロン酸を大きくバラつかせて、その違いを使用感で判別できるかの実験です。
数字を見れば少しの違いどころか、2倍も3倍も差をつけて配合していますね。
ヒアルロン酸は数字が小さくて意外に感じたユーザーさんもおられるかもしれませんが、ヒアルロン酸は純粋な原料ですので純分としてはこの数字でかなり使用感が変わると考えて頂ければ良いですね。
普通に考えれば、ユーザーの皆さんでもバカでも分かる・・・と言われても仕方のないレベルに設定しています。
もちろん、これを商品にあてはめると、価格もとんでもなく大きく影響するレベルです。
私達の研究の現場でこんなレベルで微調整することなどあり得ない大胆なテストサンプルですが、この実験は私達にとって非常に有意義な実験となりました。

その結果は?

生データがありませんので文章で結果をお伝えしますと、それは見事にバラバラな答えが得られたのです。
さすがに、グリセリンがゼロと10%では判別できない研究者はいなく、ここは間違うことはないことが確認されました。
また、ヒアルロン酸は0.10%がさすがにトロミがついてきますので、塗布する時のテイストが異なってこれは誰でも判別できてしまいました。

しかしながら驚いたことに、グリセリンの3%と10%を判別できなかった研究者は、1/3の3人に及びました。
さらに、3%と5%を正しく判別できた研究者は、わずか3人という結果が得られたのです。

この驚愕の実験結果は、数字以上に恐ろしい結果であることに気付かれるでしょうか?
なぜなら、0%と10%は誰でも分かるとなると、これを除くと3%と5%をアテられる確率はすでに50%なのですから。
つまり、勘で選んでも半分の人がアタるということですので。

さらに続いてヒアルロン酸の方は、これよりもさらに悪く0%のヒアルロン酸がどれかすらアテられなかった研究者もひとりいたほどの結果となりました。
結果的に正解者は1名という、散々な結果となったのです。
ちなみになんと、全部を正解した研究者はいませんでした

この結果から、グリセリンを数%レベルで増減したところでほとんど判別できないし、ヒアルロンに至っては、さすがにゼロは見極められたとしても配合%を使用感で判別はほぼ不可能という結果になりました。

この通り人間の五感というのは、非常に曖昧かついい加減というのがよく分かる実験となった次第です。

この実験、実は後輩の新人女性が入社した一昨年にも、研修のひとつとして数名で再度実施してみました。
この時も、こういう現状があることも伝えて真剣にテストしたにも関わらず、私を含めあまり変わらない結果となったことを、付け加えておきましょう。

考察

というわけで、こうして実際に実験してみると人間が皮膚で感じる感覚は実にいい加減なもので、パパっと化粧品を塗布してこれは保湿力がねぇ・・・なんて言葉は安易に言えないのが現実ということが、お分かり頂けたかと思います。
時には、中身を知る人間からみれば恥ずかしいことを言ってしまっているかもしれませんね。

もちろん私達は本職ですので、この結果をそうなんだと安直にスルーするわけにもいかず、当時はこれをより正確にテイストできるテスト方法を試行錯誤し、取り入れることにしました。
長くなりますのでここでは解説しませんが、最初に指摘点としてあげた6点の注意項目も、当然この中で考慮されたことは言うまでもありません。

例えば皆さんも参考になるポイントを少しあげるとすれば

 ・塗布箇所は内腕部で、全体に塗布すること
 ・使用量は、顔の面積を想定して塗布すること
 ・気温はエアコン下25℃を基準とすること
 ・一切の言葉を発せず、一点集中してテイストすること
 ・差をみる場合は、左右の内腕部を時間差なく塗布して比較すること

ごく一部ですが、このような感じで参考にされてみて下さい。
こうして様々な条件を設定して綿密に実施すればかなり精度はあがってきますし、逆に言うとテキトーな使い方で評価などしてはいけないということですね。
ちなみに大手ブランドさんの研究室では、開発過程で以下のようにテストの条件を設定して実施されています。

 ・定温、規格湿度に設定した専用テストルーム内で実施
 ・テスターは前夜からその部屋に入室して泊まり込み、テスト当日は精神を安定させた状態でテストを行う
 ・女性は生理日を避ける
 ・テスト日は、一切の会話は禁止
 ・前夜入室後は、読書・テレビなどの娯楽は一切排除
 ・テストルームには、テスター以外は一切の入室禁止

どうでしょうか。
非常に緻密な条件の設定のもとにテストされていることが分かりますね。
私達には到底こんな設備は叶いませんが、これ位きちんと実施しなければ正確な評価はできないという表れと、理解して頂けましたでしょうか。

そしてプラセボ

最後になりましたが、上の大手ブランドさんのテスト方法で、ユーザーの皆さんが意外に感じた条件がありましたね。

 ・テスト日は、一切の会話は禁止
 ・前夜入室後は、読書・テレビなどの娯楽は一切排除
 ・テストルームには、テスター以外は一切の入室禁止

この3つの、普通は考えられない厳しい条件はなぜでしょうか?
それは、一切のプラセボ(プラシーボ)効果を排除する目的なのです。
プラセボとは、簡単に言えば「人間は脳が先入観で左右され、五感に影響を及ぼす現象」と言えば分かりやすいでしょうか。
ただのラムネを「頭痛薬です」とドクターに言われて服用すると、見事に頭痛が収まる検証実験が有名ですね。

上のテストでは、例えばテレビで面白いバラエティ番組を視聴してテイストに臨むとテンションがあがり、非常に楽しい気分になって良い評価の方にスライドしてしまう危険を伴うことになるというわけです。 もちろん、反対もあるでしょう。
人との会話ももちろん人間の感情が左右されますので、それが評価に影響を及ぼすことはきちんとプラセボ効果として医療業界で証明されていますので、それをしっかり排除するのが目的です。

これ、実は私達も検証をしたことがあります。
過去に新人研修の際にこのテストを行い、私はあえて新人ふたりを前にちょっとした仕掛けをしたのです。

 -これ、結構ベタベタするなぁ・・・

と、わざとゼロ配合の検体の際に、ひと言だけつぶやいてみました。
すると、ものの見事にその検体がゼロ配合、つまり水だけであることを二人共アテられなかったのです。
彼女たちは、少なくても私が「ベタつく」とつぶやいた検体に何も配合されていないとは思えず、先入観が構築されて評価に影響したのでした。
10%のグリセリンと水とを見極められないこのプラセボ効果は、頭で考えても到底理解できない、人間の脳に影響を及ぼすというお話でした。

皆さんがお使いになっているコスメ、実は誤解して使用感を評価していることはないでしょうか?
これを機会に、一度他の製品と今の製品を厳密に比較してみるテストをされてみて下さい。
以前感じたことと全く異なる感覚に、驚くかもしれませんね。

本日はここまで。
ではまた次週。

by.美里 康人

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