週3で異なる目線の美容記事をお届け
美里康人
殺菌・滅菌生活で崩れることはないのでしょうか
もう皆さんは、「美肌菌」という言葉はご存じですよね。
資生堂さんが使用している言葉ですが、皮膚に1,000種類以上も存在する菌の中のひとつで、いわばお肌を守ってくれる「表皮ブドウ球菌」という皮膚の常在菌のことです。
よく耳にする、皮膚の善玉菌ですね。
ところが、コロナウイルスが全世界で猛威をふるったことで、最近は手指といった部分からの感染を防ぐため、身の回りの殺菌を徹底するライフワークが定着しようとしています。
さて、こういった環境で生活を送ることが定着した時、お肌の常在菌フローラという意味で影響はないのでしょうか?
今回はそんな切り口の話題です。
この記事の目次
抗菌・抗ウイルス
日本は清潔な文化生活が身についているせいか、この新型コロナウイルスの猛威も、他国に比べて圧倒的に感染率が低いことが大きく報道されています。
それは膨大な量の目に見えるデータが示していますので、否定しようのない事実と言えます。
*いまだ、作られたデータだと主張する反論番長もいるようですが
そして、それが何に起因するものなのかまだ議論の真っただ中で、明確な答えは出ていません。
まぁ、それはそうです。
生活文化の違いだけでなく、飲料水インフラや食習慣の問題、さらにいえばDNA因子の根本的な違いなど、その可能性要素の因子は無限にありますので、検証することなど到底不可能と分かります。
ただ、もしも人種的なDNA因子の違いによって他の諸外国と感染率が異なるのだとすれば、日本と隣接する中国大陸圏の人種とはかなりDNA因子は酷似している事実があります。
となると同じような傾向となるはずですので、それは否定される可能性がうんと高いと言えます。
そうなると、衣食住環境の中に因子が隠されている可能性が高いと言えるかもしれませんね。
滅菌・殺菌の文化
そのような中、先日の日本化粧品技術者会の技術発表で、ライオンさんが面白い検証実験のデータを発表されていました。
それは、脂肪酸塩の手指の抗菌・抗ウイルス効果の検証実験です。
脂肪酸塩とは、平たく言えば「石けん」のことを指しています。
石けんは他の洗浄剤に比べて抗菌・抗ウイルス能が非常に高く、それだけでなく数時間にも及んでその効果が持続されているというデータでした。
現状、日本では手洗いは液体石けん、ボディソープは石けん系処方、そして洗顔フォームもほぼすべてが石けん系処方になっています。
ということは、早い話が髪の毛を除いては毎日全身を石けんで洗浄しているということになるわけです。
仮に全身ということでなかったにせよ、ほぼ100%の人が・・・といっても過言ではないでしょう。
諸外国では硬水のお国も多いので、これだけ全国民が石けんを使っている国は少ないかもしれませんね。
事実関係は分かり兼ねますが、これがコロナウイルス対策になっている可能性もないとは言えないのではないでしょうか。
これに加えて清潔感が他の諸外国に比べて異常なほど問われ、いち早く手指の殺菌・滅菌製品を使うことが一気に広まりましたので、こうした文化が複合して感染被害が少なく済んでいる背景なのかもしれません。
過ぎた清潔に弊害はない?
上で書いてきたことは、こういった疾病に関わる環境の観点から、良い一面を取り上げてきました。
一方で日本の化粧文化の中に、日本人は敏感肌体質だとよく言われてきています。
確かに、成分に対してやたらめったらと過敏なのもの、日本の化粧品文化特有とされています。
ユーザーの皆さんはあまり触れることはないと思いますが、私達化粧品技術者の面からみればそれは一目瞭然で、海外の化粧品処方設計で防腐剤に対してこれだけうるさく言うお国はありません。
それは海外からの輸入原料をみれば明白で、日本ではほとんど使われることのない防腐剤が普通に海外原料には含まれていることからも分かります。
それが良い文化なのか悪しき慣習なのかは、検証しようもありませんので誰にも答は出せません。
で、ここで最初に取り上げた、皮膚の常在菌フローラの話題となるわけです。
もしも、石けん文化や殺菌・滅菌に対する意識が高いことが今回のウイルス対策に大きく起因しているとしたら、皮膚の常在菌フローラに影響を及ぼしてはいないのだろうか?という疑問が湧いてきます。
おりしも資生堂さんは、50年以上もこの皮膚常在菌についての研究に取り組んでこられていて、皮膚のバリア機能に大きくこの微生物が関与していることを明らかにしてきています。
最近でも、この常在菌フローラによって皮膚のバリア機能が維持されていることも、明らかにされています。
そして背景に、日本は諸外国に比べて圧倒的にアトピー患者が多いことが分かっています。
海外にはアトピー対策の化粧品などほとんど存在しないことからも、これは明白です。
これらの実情を偏りなく理路整然とまとめていくと、こういった日本人特有のライフワークとは無関係だと言い切れないように思えてなりません。
ここにさらに菌やウイルスから身を守る滅菌・殺菌文化が根付いた時に、皮膚に何が起こるのだろうか?という疑問が湧きおこります。
石けんは善玉菌を死滅させない?
こんな疑問を抱いているところに、あるひとつの論説が目に飛び込んできました。
石けんは、アクネ菌などの悪玉である菌は死滅させるけれど、善玉菌は減らさないという説です。
大手洗浄剤メーカーさんが記しておられますが、(当社データによる)と但し書きがされています。
また、ソースを探しましたが明確な論文は見当たりませんでした。
しかしながら、私達処方設計者は微生物の死滅メカニズムについても全くシロウトではありませんので、そのように偏った傾向になる理屈が理解できません。
いくらヒトの生理は複雑で不思議だらけとはいえ、本当にそんな都合の良いことがあり得るのだろうか?・・・と。
確かに資生堂さんの研究でも、悪玉菌は酸性に弱いとされています。
なので、皮膚は弱酸性に保とうとする機能が備わっているのだという理屈も、理にかなってきます。
だからといって、アルカリ性の石けんでは死ななないという理屈は、あまりに短絡過ぎると思えてなりません。
グリセリンの存在によって常在菌フローラは成り立っていますので、バランスが大切なのだというのが常在菌フローラのメカニズムですから。
まぁ、以前にも取り上げた、こうして常在菌フローラのために自分が産出しているのに、グリセリンがアクネ菌のエサになってよくない成分だという論説ほどはひどくないですが・・・。
ということで今回の記事は以上で、疑問だけを投げた結論のない提言となってしまいましたが、今のところ検証するすべがないため、どうかお許し頂ければと思います。
ひょっとしたら、マスクでの影響だけでなく、この数年でなんらかの傾向が表面化してくるのかもしれませんね。
最後にもっとも気になったこと
さて、私は化粧品技術者ですから、ここで最初に取り上げたライオンさんの発表で非常に気になったことがあります。
それは、石けん成分が皮膚に吸着し、半日以上にも及んで残存しているというデータです。
面白いことに、他のAES(アルキル硫酸エーテル塩)といった洗浄剤よりもうんと高濃度で皮膚に残っているという事実です。
私自身はイオン度の強さによりそうなるだろう予測をしていましたので、この検証実験の結果は「やっぱり」と感じた次第です。
この検証では、抗菌・抗ウイルスに対する石けんの性能面で優れた部分をとりあげておられましたが、皮膚に残存するということはお肌にとって良いことなのだろうか?という疑問が、一気に噴出してきました。
純粋に
-洗浄剤が皮膚に残っているのか!
です。
まぁ、ここから先は私見になりますので、結論は避けておきましょうかね。
他のメーカーさんからは、アミノ酸系界面活性剤の皮膚に対する利点についてとりあげた発表もありましたので、業界全体の動向に偏ることなく考えていきたいと思います。
とり急ぎ今回は、皮膚常在菌フローラという面からのお話だけで留めておきましょう。
ではまた次週。
by.美里 康人