週3で異なる目線の美容記事をお届け
【化石コスメ】
新しいブログ記事の企画として
こんなキーワードをつけた特集をスタート。
時代を作ったコスメの裏側
すでに廃盤になっているのを良いことに、当時は言えなかったノウハウと中身について解剖してしまうというこの企画。
主旨としては、何も悪者として取り上げて叩こうという企画ではありません。
この美容業界で大ヒットした特徴ある製品や、流行の影に隠れた影武者的存在など、必ず今もその名残りが引き継がれている、裏にあるノウハウを技術者独自の目線で取り上げてみようという企画です。
きっと皆さんも、「おぉー!懐かしい…。」とか「えーっ! そうだったんだ!」といった面白い内容を盛り込むつもりですので、ご期待下さいね。
あ・・・ただしこの企画、通常のルーティン記事の合間に折り込んでまいりますので、唐突にアップしますがご了承下さいませ。
で、今回はその企画の第一回弾。
「マジカルチェンジEX」(カネボウ)
女性の心の動揺が見え隠れする「シワ隠し」という言葉。
いわばお肌の加齢の合図ですが、ちょっとやんちゃをした若い頃の黒歴史と同じく、消すに消せない大人女性の勲章でもあります。
なんてキレイ事を連ねてみましたが、ぶっちゃけ大金を投じてでもリセットしたいお顔の遺物とも言えることでしょう。
そんなお顔の一大悩みをものの見事に解決してくれるという触れ込みで、10年以上も前に大ブレイクを果たしたこのインパクトのある商品名「マジカルチェンジEX」でした。
そのブランドは、カネボウさん。
発売年は明確ではありませんが、2000年前後で7年ほどで廃盤になっています。
この商品名が表しているように、「手品のように印象年齢を変える」という意味をイメージさせるシロモノでした。
何がどうなってて、シワを目立たなくしてたのでしょうか?
いや、当時はまだ広告表現もさほど厳しくなかったので、「シワを消す」なんて衝撃的な言葉も世に広まったものです。
では早速、このシワを消すメカニズムについて解説していきましょう。
実は技術革新だった
この製品、いきなりの裏話になりますが、実はとある成分が原料メーカーで新規開発されたことによって生まれた新製品と言えます。
それは、皆さんにとっては到底想像も及ばない、新しい「シリコン」です。
どういうシリコンか簡単に説明すると、それまでの液状が中心であったサラサラのシリコンとは全く事なって、大きな分子量に高分子化されたもので、それをこれまでのサラサラシリコン油に分散させるとゲルのようになることを利用した製品でした。
その成分名称は【(ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマー】
実はこれまでにも、非常に高分子なシリコンはありましたが、、ネッチョリな接着剤みたいなものしかなく、使用感の特性をいかせる化粧品などないようなモノしかありませんでした。
どこが違うのかはこの後の説明で触れていきますが、このシリコンゲルがなぜシワ隠しと関係あるのでしょうか?
これはもう分かりやすいメカニズムで、早い話がこのシリコンゲルを「シワの中の埋め込んでしまう」と想像すれば良いでしょう。
しかしながら、この素材にはさらに驚きの特長があり、上で書いたようなそれまでの高分子シリコンと異なって、新しい使い方ができることをカネボウさんが見出したというわけです。
その特長ある特性が、以下です。
①艶感が全くなくマットであること
②低分子シリコンのままの、サラサラ使用感
①に関しては、皆さんもよくご存じのカーワックスを代表として、シリコンはツヤツヤになることが素材のメインの特長であったのが、このシリコンポリマーは非常にマットであることは大きな改革でした。
②はもともと低分子シリコンはサラサラのテクスチュアでしたのでそのままですが、これがゲル状のポリマーになってもベタつかないサラサラであることは、大きな革新でした。
なぜシワが隠れるのか
さて、実は今もこの製品の当時のユーザーレビューが残っています。
これをみるとこの製品の特長が見えてきますので、製品評価の的を射たコメントをちょっとピックアップしてみましょう。
【高評価】
・評価わかれてますね。私にとってはまずまずな一品。塗った感じはロウソクのロウみたいな感じ。
毛穴は余計つまった感じになるけど、つるさらっとなるので、パウダーつけるには良い感じ。
目の下のしわに使用すると余計汚くなる気がするので、もっぱら鼻専用です。
・笑いジワが気になるので使い始めて、効果もそれなりに感じていました。
ただ、雑に塗ったりするとあまり効果を発揮してくれないような気はしていたのですが・・。
【低評価】
・期待して買ったのに一体この子は何を隠してくれているのやら・・・?
しかもコレを塗った後の部分はファンデーションのノリが悪くなります。
・つけた時はいいのですが、お化粧が崩れてくると、よれてきます。
もうお分かりですね。
シワを根本的に改善するのではなく、埋めて目立たなくするメカニズムです。
しかもマットなので、埋めると光の陰陽が消えることでシワの影が見えにくくなって、目立ちにくいということです。
つまりは、昨今のファンデーションでいう「光コントロール」のテクニックですね。
こういうことです。
手元に共重合シリコンゲルがなかったため、マット側はこの素材を使った色付きのファンデを塗布したので色の陰陽が少し出てしまいましたが、色がなければもっと目立たないですね。
廃盤になったそのワケ
一方で、悪評価をみると崩れるとか、笑うとさらにシワが目立つというコメントにもあるように、埋めた部分を触ったり動いたりすると埋めたシリコンゲルが一か所に集まって、余計に目立つことになってしまう裏腹なデメリットを持っていました。
なので、そのままヨレないように動きが少ない箇所や、シワの溝の浅い箇所、そしてうまく薄付きになるよう工夫をすれば使いこなせますが、雑に埋めてしまうと反対の結果になってしまうというわけです。
なので、目尻のシワなどは完全にNG。
さらにサラサラのシリコンですから、滑りが非常にいいことが裏目に出てこの後のファンデーションが滑って乗りにくく、うまく乗せていくようにファンデで仕上げていかないといけないシロモノでした。
あのサラっとしたテクスチュアは、ベタつきがなくなって非常に気持ちよかったのですが、それが裏目に出るとはカネボウさんも想像もしなかったのでしょう。
いわば、メイクの達人であればそこそこ使える、という感じでしょうか。
もともとファンデーションはシリコン製剤がほとんどですので、水性のスキンケアなんかよりもはるかに相性は悪くないですし、ファンデとのなじみ性は良かったのですが、物理的に滑ってしまうと元も子もないですよね。
というわけで、まさに評価は天と地とに分かれ、むしろ悪評の方が多くなって結果的に廃盤になってしまいました。
実は優れた技術の一石だった
さて、いよいよこの話題のまとめです。
ここまで読まれると、この商品は
「なんだ。 やっぱりメイク効果のまやかしじゃんか!」
という声が多く聞かれそうですね。
しかし、この商品は空前の大ヒットでしたし、なによりこぞって大手ブランドさんは同様のシワ隠しアイテムを次々に市場に投入したのです。
この製品ほどの有名にはなりませんでしたが、資生堂さん・DHCさんと、この手のシワ隠し美容液は一大市場を形成しました。
「ベルベット〇〇〇」なんて製品名を、目にしませんでしたか?
しかもそれだけではありません。
この商品に使われた新素材のシリコンゲルのこうした光コントロール技術は、ファンデーションに活用されて一気にメイク業界の革新となり、今ではこの技術が当たり前といっても過言ではないほど、この素材の技術はメイク業界に広まったのです。
上で書いた成分名称は、今もよく見かけると思います。
そういう意味で私達技術者にとっては、そのキッカケを作った素晴らしい商品だったと思っています。
とはいえ、以前にも記事の中で取り上げましたが、この美容液をそのままコピったようなジャンクな「シワ隠し美容液」が、まだネットショップやTVショッピングで高価なお値段をつけて売られていますね。
(マジカルチェンジは市価2千円代でした)
ダマされてはいけないなどと晒すつもりはありませんが、こういうメカニズムの製品だと思って頂ければ良いですし、メリットとデメリットを持った製品であることは覚えておいて頂ければよいかと思います。
なにより、今ではこの技術は普通にファンデに活用されていますので、質の良いファンデを選べばこの美容液程度のシワは、目立たなくしてくれますね。
というわけで、次回は洗顔クリームの一アイテムを取り上げます。
「洗顔クリームに、そんな飛びぬけて面白いモノがあったの?」
あるんですねー、皆さんもよく知るアイテムだったんですよ。
では第二弾、また近々に。
by.美里 康人