週3で異なる目線の美容記事をお届け
シートマスクの不織布に
サスティナブルな繊維があります
しかも実は高級な繊維
お題のように今回はシートマスクの話題ですが、いつものような中身についての記事ではなく、実はシートマスクというスキンケアアイテムにとってもっとも重要な価値の要となる「不織布」の話題です。
不織布の種類
ほとんどの女性が一度は購入した事のあるアイテムとして市場に君臨する、シートマスク。
でも、意外と使われている不織布について話題になることは少ないですね。
そこでまず最初に、市場にはどんな不織布の素材が存在しているのか、触れていきましょう。
まず、シートマスクに使われている不織布には、大きく2つのタイプに分かれます。
・繊維素材系
・プルプルゲル系
「プルプルゲル系」というのは、私が勝手につけた呼び名ですが(笑)
いわば、シート状に織り上げられた繊維から作られたシートのものと、高分子ポリマーを固めたゲル状のものとに分かれていると考えて頂ければよいでしょう。
では、それぞれに市場にどんなシートがあるのか、説明していきます。
<繊維素材系>
繊維素材系の不織布には、繊維の種類で大きく分けて4種類があります。
・コットン(綿)素材
・化学繊維素材
・レーヨン素材
・キュプラ素材
次いでプルプルゲル系。
<プルプルゲル系>
・ヒアルロン酸シート
・バイオセルロースシート
他にもあるかもしれませんが、ザっとこんなものだと思います。
また、後ほど詳細に説明していきますが、繊維素材系にはこれら複数の素材を層状に組み合わせたのものや混合繊維も何種類かがありますので、製品的には種類はもう少し豊富です。
今まで何種類かのシートマスクをお使いになられて、密着性や保持性能(乾燥しないか)・厚みなど、製品によって違いがあると感じてこられたユーザーさんは、こうした不織布の違いによる性能差で表れていたことも多いかと思います。
あとは、これらの不織布の違いによって繊維が異なりますので、繊維毛羽によるムズムズ感などにも影響をしているはずですね。
天然か合成か
さて、美容業界では「合成と天然」というくくりに大きな主流がありますので、この側面からこれらの素材を解説していきましょう。
まず<プルプルゲル系>素材に関しては、いずれもヒアルロン酸やヤシから採取したセルロースといった、天然のポリマーを溶かしてゲル状に固めたものですので、これはどちらも天然由来ということで良いでしょう。
で、皆さんも気になるのは、製品としてもっとも一般的な繊維素材系の方と思います。
この中で天然素材といえば、やはり一番最初のコットン(綿)素材と考えるのが一般的でしょう。
確かに、天然素材の綿花をシルクや麻と同様にそのまま繊維に織り上げているわけですから、これが天然素材であると考えるのが普通です。
もちろん、シートマスクを製造販売されている化粧品メーカーさんでも、そういった切り口で製品のアピールをされているのもよく目にします。
逆に、2番目の化学繊維素材というのはほとんどがポリエステルが利用されており、これは完全に石油由来ですので合成素材というのも間違いありません。
では、3番目・4番目のカタカナ名の素材はどうでしょう。
いかにも化学合成のような名称ですが、果たしてどうなのでしょうか?
まず3番目の「レーヨン」です。
これは服飾関係のお仕事の方はご存じと思いますが、衣服の生地にも活用されてきている繊維の名前です。
ちなみに皆さんもよくご存じの繊維メーカーで大手の「東レ株式会社」は、「東洋レーヨン株式会社」が略されて名称変更されたものです。
また意外と知られていないのが「株式会社クラレ」で、こちらももともとは「倉敷レイヨン」という企業名で、いずれもレーヨン繊維の工場として立ち上げられた企業さんです。
話は派生しましたが、こうして歴史をめくってみても「化学繊維」という言葉が頭に浮かぶことでしょうし、到底天然素材とは結び付きそうにもないですね。
しかも繊維業界の素材分類の決め事では、レーヨンはまさに「化学繊維」というカテゴリーに入ると取り決めされていますので、私も含めユーザーの皆さんは化学合成によって作られていると思い込んでしまうのもムリはありません。
いえいえ、この解釈は間違っています。
一部の不織布の説明サイトには掲載されていますが、レーヨンとは石油を原料として生成された繊維ではありません。
つまり、石油製品であるポリエステルなどとは全く異なる素材なんですね。
実はレーヨンは、木材から得られるパルプや、綿花のカスから得られる樹脂繊維を一度薬品で溶かし、それを再度繊維状に引き伸ばして一本の糸にして繊維に織り込んだ生地です。
ですので、原料の由来は木や綿花で、自然の材料から作られているというわけです。
ただ、一度化学薬品で溶解して再度固めることから、繊維分類上は天然素材をそのまま繊維にする素材は類別されてしまったという経緯です。
なので、正確には天然由来の繊維ということになりますね。
そしてキュプラとは
そして最後に、4番目の「キュプラ素材」です。
これもレーヨン同様に化学合成っぽい名称ですし、しかも繊維業界の分類では化学繊維になっているそうです。
なんとなく、ポリエステルなんかと同様の石油由来繊維じゃないかと認識してしまうかもしれません。
ところが、こちらも製法をよく調べてみると、なんと由来は「綿花」。
--え? コットン(綿)じゃなく?
私も知った時は驚きました。
綿花から作られているのに「コットン(綿)」素材ではなく、化学繊維???
シートマスクの不織布素材の知識までは持ち合わせていませんでしたので、それまでてっきり合成繊維とばかり思っていた自分も目からウロコです。
これまでシートマスクの開発をいくつも手掛けてきましたが、ただ非常に使用感が良いというだけで、勝手に脳内で合成繊維と決め込んでしまっていました・・・旭化成さん、ごめんなさい。
なら、同じ綿花から採取するのに、「コットン(綿)」素材とはどう違うのでしょう。
実は綿花から綿繊維を取り出した後に残る残留部分からは油が採れ、これがサラダオイルとしてもよく使われる「綿実油」。
そしてこの油を絞った後のカスは「コットンリンター」と呼ばれ、それまで捨てられていたのを、一度薬品で溶かして再生して糸状に成形する技術が開発されたのが、「キュプラ」という繊維なのだそうです。
*出典:旭化成社HPより
成分名でいえば、セルロースということになるでしょうか。
これはレーヨンなどとは違い、他の合成繊維を組み合わせたり複合して編み込んだりといったことは一切せず、旭化成さん独自のオリジナル一枚もの不織布なのだそうです。
いわば、独占不織布ということです。
これは年配の方なら、繊維の製品名でご存じの方もおられるかもしれません。
服飾生地の「ベンベルグ」という商標登録名は、耳にされた方もおられることでしょう。その昔、TVCMでもよく流れていました。
この衣服用の生地に使われていた繊維を、シートマスクとして性能が高まるように加工し直された不織布が、この名前から「ベン」の文字をとって名付けられた「ベンリーゼ」という繊維製品名で、旭化成さんが開発された独自の不織布です。
ということでこちらも、繊維業界では化学繊維と分類分けされているようですが、美容の業界では天然由来の不織布と認定して良いでしょう。
とはいえ、そもそもユーザーの皆さんは「ベンリーゼ」なんていう名前は聞いたこともないかもしれません。
製品になったシートマスクにはそのような記述はありませんので、それも当然のこと。
でもこれを機会に、こちらの詳しいサイトを訪れてみて下さい。
◇「ベンリーゼ」専用サイト
https://www.asahi-kasei.co.jp/bemliese/what-bemliese/
先月、他の不織布にない特長として生分解性が高く、そのサスティナブル性が認められたということで、今やちょっとした話題となっています。
もう40年を超える歴史がありますが、あらためてその性能と環境対応が見直されており、注目を浴びているようです。
また、実はこの繊維は医療関係や生理用品にも使われており、その未知なる様々な性能にまだまだ大きな可能性を秘めている話題の繊維なのだそうです。
そして今回も私たち技術者が考え直さないといけないこととしては、公開されている以下の資料。
中身の処方設計によっては、コットン(綿)を含む他の素材の不織布だと、製品として漬け込まれている間に不織布から液に不純物が溶けだしてくる可能性がある示唆です。
私たち開発者は、このあたりも安定性試験にしっかりと取り入れて、製品の品質を確認しておかないといけないですね。
ということで、化粧品市場では結構お安いシートマスクにも使われていますが、「お! これ、密着性いいじゃん!」と感じた製品は、この不織布が使われているかもしれませんね。
上のサイトを訪れることでその使用感もさらに増幅されて、ファンになるかもしれませんよ。
では、また次週。
by.美里 康人