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クリームのミクロの世界

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美里康人

乳化の図ってよく見かけるけど
もうひとつイメージができない・・・
そんなミクロの世界のお話

今回の話題は、技術者の方々にはつまらない内容でまことに申し訳ありません。
主にユーザーの皆さん向けの内容になりますが、何卒ご容赦下さいませ。

さて、少し前にも牛乳の話題に触れ、水に油成分が含まれた乳化タイプのスキンケアアイテムのお話を書きました。
すでにユーザーの皆さんもご承知のように、乳液やクリームといったこのような製品は乳化製品といい、このように界面活性剤を使用してオイル成分を水の中に微細粒子にしたものを、専門用語で「エマルジョン」と言います。

ただし、この乳化技術にも様々なタイプがあって、オイル成分の中に水が微粒子されたものや、その中にさらにオイル成分が入った3相になったもの、もっといえばお肌の細胞間脂質のようにミルフィーユのようになったものもあったりと、ひと言では言い表せない奥の深い化粧品製剤技術です。
そのため、こちらのページで簡単に解説できるものでもないのですが、今回は代表的な乳液・保湿クリームを例にして分かりやすい解説にまとめたいと思います。

また、なんだか図では色々とみたことがあるけれど、模式図だからよく分からない・・・という方のために、実際にミクロの世界に入って頂いて、模式図と合わせてイメージを膨らませて頂きましょう。

油と水と界面活性剤

最初に当たり前のことをあらためて書きますが、油は水とは絶対に一緒になりませんし、つまり溶けて混ざらないという大原則があります。

こう書くとバカバカしいことを述べているようですが、でもいざ化粧品を選ぶシーンになると、クリームや乳液といったアイテムに“界面活性剤不使用”などと書かれている文句を信じてしまってはいないでしょうか。
もちろん、この界面活性剤に変わる天然由来のレシチンといった代替成分が使われていれば良いのですが、そういった確認もすることなく信じ込んでしまっているケースをよく見受けます。

あらためて記しておきますが、油と水はその接触面にある反発力を解消するなんらかの素材が介在しなければ、分離を防ぐことはできません
必ず、オイル系ドレッシングのように二層に分かれてしまいます。

それは皆さんもTVのニュースで、海で起きた事故の映像で観られる石油といった油などの流出事故が分かりやすいでしょう。
界面活性剤も使わずにあれが解消できるならば、あのような大きな社会問題になったりしませんね。

まずこの絶対に崩れない物理の鉄則を念押しし、次へと進んでいきましょう。

界面活性剤の役目

上で、油を水の中に分離しないように入れるには、乳化アイテムを例えて界面活性剤が必要だと述べました。
でも、乳化製品以外のシーンでもそういったケースがあることを、どこかで忘れて勘違いされてしまうことがよくあります。
もっともよく化粧品ブランドの企画の方が誤解されて私達にご依頼下さるのが、以下のケース。

 --化粧水に香りをつけたいので、精油(エッセンシャルオイル)を配合して欲しい

これ、言葉としては簡単なことですが、全くもってあり得ないめちゃくちゃなことをおっしゃっているのです。
“精油”
とおっしゃるからには、合成香料など使わず天然志向性をコンセプトにしたいコスメの企画であることは、皆さんもすぐに察せられることでしょう。
ということは、これを達成するために合成界面活性剤などを使うことなどあり得ないという方向性は、容易に理解できると思います。

大手ブランドさんの無色透明のキレイな化粧水にいい香りがついていると、これを植物由来の精油に変えて界面活性剤など使わずにナチュラル志向の化粧水ができるはずだと、短絡的に考えてしまうようです。

いえいえ、香料も精油も“油”という文字がついていますし、エッセンシャル“オイル”という言葉通り立派なオイルです。
化粧水にそのまんま配合できるはずがありません。

身の回りでは芳香剤がもっとも良い例です。
あれってキレイな色はついていますが、透明な液ですね。
で、どんどん水分が蒸発し、香りが飛んでいくにつれネバ~とした残留物が底に残っていきます。
あれはほとんどの成分が界面活性剤で、もともと香料がたくさん配合されていますのでかなりの量が使われています。
それが残って香料と混ざり、ネバネバした残留物になって残るんですね。

で、化粧水やこの芳香剤の例は、乳化製品と違って透明な状態ですので、これから解説する乳化(エマルジョン)とは少し状態が異なります。

可溶化

模式図にするとこういう感じですが、つまり圧倒的に界面活性剤の量が多く、オイル成分の量もうんと少ない状態だと、「可溶化」という、まるで「油が水に溶けた」ような状態になるというわけです。
これは界面活性剤の“量”と書きましたが、量だけでなく化学構造のうんと大きな界面活性剤でもオイルをくるんでしまうことができ、同じことが可能になります。
ここまでいくともう完全に透明で、乳化製品のように白くは見えません

ということで、とにかく油を水の中に安定して留めるためにはこうして界面活性剤のチカラを借りなければ実現は不可能で、水と油との界面(接触反発面)を繋ぐという意味で「界面活性剤」という言葉がつけられています。

そして乳化とは

さて、化粧品における界面活性剤の様々な性質は、他にもクレンジングや洗顔といった洗浄アイテムにも利用されていますが、広範囲なお話になってしまうのでそれはさておき、今回は乳化(エマルジョン)アイテムの話題を深く理解して頂きましょう。

皆さんも一度はネットやご本で目にされたことがあるかもしれません。
クリームや乳液の状態は、模式図でよくこのように示されていますね。

乳化化粧品

身の回りの乳化食品の代表、マヨネーズの状態を模式図にして解説したものですが、こちらからお借りしました。

化学だいすきクラブ
https://kdc.csj.jp/learning/item_2122.html
※非常に面白いサイトですので、ぜひご覧になって下さい

これは、乳化の状態を顕微鏡で観察したようなミクロ状態を、模式図化して解説されてあることはお分かりになると思います。
化粧品の界面活性剤に相当するのが、天然由来(卵黄)のレシチンでになります。
でも、いざ顕微鏡で観察すると界面活性剤が目で見えるわけではなく、これはあくまでも状態の推察図です。

では実際にどうなっているか、顕微鏡で観察した画像がこちらになります。

乳化化粧品

ドレッシングを思い切りシャカシャカ振り混ぜて油の粒が水の中に分散しているようになっていますね。 いわばそれがう~んと小さくなって目では見えないレベルと思ってもらえば良いです。
油の粒が岩のようにいびつなカタチになっていますが、これはオイル成分の方に結晶性の成分が含まれているためにこんな感じですが、普通はもっとキレイなまぁるい粒になります。
端っこに記してあるように400倍の拡大率ですから、もう菌の生体が観察できるレベルで、人間の目では全く認識できません。
ドレッシングをシャカシャカやるように、化粧品を作る特別な機械でめいっぱいシャカシャカと混ぜて油の粒を小さくしてやると、このようになります。
そして前々回のブログ記事で解説したように、こうしたたくさんのうんと小さな油の粒で光が乱反射されて、人間の目には透明ではなく液が白く見えるというわけです。

この画像が上の模式図と一致するのですが、拡大して合体させるとこういうことになって分かりやすくなると思います。

乳化化粧品02

つまりそれぞれの油の粒の周り(界面)に界面活性剤が並んで、ジっと維持してくれているということですね。
界面活性剤の化学構造の、油となじみやすい方の「親油部分」(親油基や疎水基と呼びます)が油の粒と接触していて、水となじみやすい方の「親水部分」(親水基と呼びます)が水側に並んでいるという状態です。

よくこういったカタチの絵を見掛けると思いますが、こんなこけしみたいなカタチをしているわけではなく、界面活性剤という成分はこんな感じで性質の違う物質が合体しているモノなんだと思ってもらえれば良いですね。

というわけで今回のお話はここまでで、なんとなくクリームや乳液がどのように作られているのかイメージして頂けたかと思いますが、せっかくお時間を使ってまでこのブログにお越し頂いたのですし、最後にめったに見れない牛乳のリアルな乳化状態をお見せして終わりにしましょう。
※内部レンズが劣化しており、変な模様があって見づらくて申し訳ありません

牛乳

牛の体内でできあがった牛乳もこのような感じになっているのですが、非常に粒子が小さくて400倍にした顕微鏡をもってしてもこのような小さな油(乳脂肪)の粒にしか見えません。
上のクリームの乳化画像と比べると、さらに数十倍も細かくなっていますね。
上の画像でもおよそ1~5ミクロンレベルで結構粒子径の小さなエマルジョンのクリームなのですが、それを遥かに超える超微粒子のエマルジョンであることが分かります。
なので、牛乳ってあのようにシャバシャバなエマルジョンなのに分離など起きない、実に安定な乳化なんですね。

私達が苦労を重ねて作ったクリームでも上の画像のようなレベルなのに、自然に作られたエマルジョンがこんなに精密とは、全くもって自然の驚異と言うしかない・・・というお話でした。

今回はここまでにしておきましょう。
ではまた次週。

by.美里 康人

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