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レアトンカツが危険な件~理由解説

レアトンカツ

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美里康人

「レアトンカツ」なるものがトレンドになりつつあるそうで
これは危ない!扱う飲食店に留意

「レアトンカツ」という言葉はご存知でしょうか。
SNSをよくご利用になる方々は、拡散し始めていますのでウワサをご存知と思います。
最初は“レアな”トンカツのことかと思ったのですが、そういう意味ではなく、ステーキの焼き方で内面がまだ赤い“レアな火の通し方”の言葉を用いた「レア揚げのトンカツ」なのだそうです。

これは危険と生活センターが警鐘を鳴らし始めているのですが、ただ単に“避けよう”だけでなく、なぜこれが危ないのか理由をきちんと解説しておこうと思います。
それは、自宅でもお手軽にやってしまわれるユーザーさんも出てくるためです。

もちろん、化粧品の防腐や菌汚染といったこととも繋がりがありますので、読み進めて損はないと思います。

菌がいる認識を

過去にもこちらでは幾度か化粧品の解説で菌、つまり「微生物」のことについて取り上げてきましたが、今回のこの件も大きくこの「菌汚染問題」が大きく関係しています。

以前から公的機関にも掲載されている通り、化粧品も毎年のように菌が生えて腐っている製品が存在して市場から回収されたり、はたまた防腐剤フリーを謳う製品もあったりと、化粧品の菌による汚染とも関係していますので、この時流の話題を取り上げてみたいと思います。

で、今回の話題のこのレアな火の通し方のトンカツ、つまりブタ肉を使ったカツは危ないという理由は、牛肉と異なって食肉に細菌が付着している可能性が高いためです。
ブタ肉が腐りやすいと言われるのも、そういう意味なんですね。
他にもジビエ(鹿肉やイノシシ肉など)も同様に菌が存在している可能性が高いと言われています。

早い話が、きちんと滅菌される状態で調理しないといけないということなんですね。

内閣府が公表している注意事項がコチラになります。
レアトンカツ食品安全委員会
https://www.fsc.go.jp/sonota/namabutaniku.html

また、厚労省から飲食店向けに掲示用としてこのようなポルターも配布されています。

レアトンカツ

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/innsyokutenn.pdf
*pdfファイル

さすがに食肉に防腐剤を入れるわけにもいきませんので、ブタ肉の場合は菌(微生物)が存在している前提で、しっかりと菌を殺傷して食べないといけないというのがその理由です。
他にも、ブタ肉は過去にはウイルスや寄生虫も確認されており、食中毒の危険性がありますので注意しなければならないというのが常識です。

ところがこのトレンドに便乗するために、低温滅菌で処理してあるといったことを謳っている飲食店もあり、知識のない消費者はあの店は大丈夫らしいよ!といった無責任なSNSやコメントが見られています。

大企業が滅菌方法と検査を駆使して確証が得られた食肉ならばまだしも、小規模飲食店レベルでそのような滅菌方法が保証できるわけもなく、その辺りの解説も進めていきましょう。

微生物の特質を知る

さて、私達化粧品技術者は、市場で化粧品が腐敗してしまうことのないように、防腐剤がしっかりと効力を発揮する試験を十分に行った設計をして、処方を決めます。
化粧品技術者は、美容効果がどうだとか機能性能の良し悪し以上に、この防腐剤の使い方を知識として身に付けないといけません。
化学の知識といった学問以上に、この微生物に対する専門知識は非常に重要なスキルなのですね。

なので、もちろんその過程で菌に対する殺傷能力の有無をきちんと試験します。
できるだけ防腐剤は少量にしたい消費者ニーズは理解していますので、時にはなかなか効力を発せずに腐ってしまうこともよくあり、化粧品の開発の過程では大いに頭を悩ませるステップと言えます。
薬機法ではいくつかの基準とされる決められた菌の種類があり、その指定された微生物をサンプルに植え付けてその菌が繁殖しないかどうか、試験をするわけです。

というわけで私達化粧品を開発している処方技術者は、このように菌(微生物)に対する知識やこれを殺傷するためのノウハウも熟知しているのが普通なんですね。
それだけに、この菌が存在していると仮定した上でブタ肉をどう扱うかは、よく理解できることなのです。

本来ならば滅菌してから売って欲しいとすら感じてしまうほど、実はリスクを負っているわけです。

にも関わらず、小規模飲食店レベルで低温滅菌などというのは、真意のほどを確認しなければ信用などできないと言わざるを得ません。
実際、私達が菌を生やした化粧品や工場内で繁殖した菌を、低温で殺傷するなどというのはあり得ませんので。

なぜそうなのか、さらにその理由を説明していきましょう。

簡単に死なない菌がたくさん存在する

上でも「低温滅菌」という言葉が出てきましたが、確かにこういった滅菌方法はないわけではありません。
滅菌手法として、実際にそういう方法はあります。

ただし重要なのが、この滅菌方法は殺傷の対象となる菌の種類や性質を明確に決定した上で、その菌にだけに対応した方法ということなのです。
つまり、菌の種類とその性質がきちんと分かってからでないとこの低温滅菌は意味がありませんし、綿密な方法も決めようがありません。
早い話が、その菌が何なのか特定してからでないと、効果が発揮できないということです。
例えばその菌の低温殺傷条件が“40℃で48時間”だとした場合、これが数時間でも足りないと意味がありませんし、40℃が38℃だったら効果がゼロだという、基本的な性質を知らないと無意味になります。
もちろんその菌以外には効果はありませんし、その菌だけに通用する方法です。

皆さんでも分かりやすい最近の時流の例で言えば、“コロナウイルス対策にはアルコール滅菌が必要”というお話を、何度も耳にされたでしょう。
ウイルスと菌とは全く別物なのですが、事例としては理解しやすいと思います。
そのウイルスに効果がある薬剤や殺菌方法でないと効果がないという、身の回りの経験例ですね。

ですので、取り扱うブタ肉にどんな菌が存在しているかが分からないと、滅菌の方法も分かるわけがないのです。
当然のことながら手に入れた肉によって存在する菌も違うでしょうし、どこでどの菌が入ったのか目に見えないので誰も知るよしもありません。
もしもそういう主張をされる飲食店さんが目の前に現れたとしたら、私ならば信用する前にその方に伺います。

なんという菌が付着していて、どういった方法で滅菌したのですか?と。

まず間違いなく、小規模店舗レベルで菌の種類を特定する知識もなく試験など実施しているわけもありませんので、きちんと答えが返ってくることはないでしょう。
なぜなら、菌の種類を特定する試験は非常にやっかいな方法を用いないといけなく、その費用は専門機関での一度の試験だけでも、数十万円はくだらないからです。
それでも全て特定できるかどうかすら、実は分からない試験なんですね。

では、どんなやっかいな菌がいたりするのか、そんな話に入っていきます。

例えば枯草菌という存在

レアトンカツ

実は私達化粧品を作る工場でも、非常に頭を悩まされるやっかいな菌があります。
代表的なのは、「カビ」「枯草菌」です。

カビは大腸菌などの“細菌”と違って“真菌”という種類の中の菌の一種で、宿主と言えば良いのか根を絶やしてしまえばなんとかなりますが、もうひとつの枯草菌の方は簡単には駆逐することができないシロモノです。
しかも私達の身の回りの土壌や手指にも普通にたくさん存在していますので、ことさらやっかいです。

ではこの菌、なぜやっかいなのでしょうか?

それは、普通は菌も生物ですので、私達動物と同様に「水・酸素・栄養」の3要素がないと生きられない(一部の嫌気性菌は除く)のですが、この枯草菌は乾燥した土の中にたくさん存在しているだけあって、この3要素が全くなくても休眠状態で生きていられるためです。

よく技術者さんの講義で例え話をするのですが、動物の“亀”を想像して頂ければ理解しやすいですね。
つまり、外的から身を守る状態に陥ると、甲羅のような殻を作ってその中に潜んでしまい、いわゆる休眠状態になって存在し続けるためです。
もうこの状態になってしまうとどうにもならず、方法はないわけではありませんが、例えば温度であれば120℃以上という極端な高温にさらすといった手法を用いないと、殻を破って引きずり出すことができません。

そして好物の水や酸素を与えてやると、それこそエサをもらった亀のようにムクムクと殻から出て起き上がり、一気に凄まじい勢いで繁殖し始めるという、やっかいな性質を持っています。

つまり一般的な滅菌方法は、この繁殖状態になった時にしか効果がないというわけです。
当然、低温滅菌など全く効果がないのは、技術者なら誰でも知っています。

これは一例に過ぎませんが、世の中には数え切れないほどの種類の微生物が存在しており、簡単にどんな方法を用いれば菌が殺傷できるのか、安易に決めることなどできないというお話でした。

そして最後に、なぜレアなステーキといった焼く肉は良くて、トンカツはダメなのか解説して記事の〆めにしましょう。

“焼き殺す”は、万能手段

いよいよ結論ですが、トンカツといった熱の入れ方のどこに問題があるかは、その温度域に決め手があるためです。

上で説明した枯草菌でも、120℃ならば死滅させられると解説しました。
これはおそらく、地球上のすべての微生物を凌駕できると言っても過言ではない温度条件です。
ということは、トンカツを揚げる180℃とかの温度が中まで通れば問題ないことになるわけです。

これでもうお分かり頂けましたね。
中まで油の温度が行き渡り、ブタ肉の色が茶色くならないと死滅の保証ができないということなのですね。

そして油で揚げるのではなく「焼く」という行為は、直の火があたるわけですのでこの油の温度をはるかに超える、数百度という温度です。
いわば焦げるほどですからね。
これはもう地球上のどのような生き物も耐えられるはずもなく、火をもってすればすべての生物を枯渇させられますので、焼肉などの火で炙る行為はもっとも完璧な殺菌術ということになるのですね。
もちろん鉄板焼きでもそうで、鉄板の表面も数百度にも及びますので、この鉄板に触れた瞬間に全ての菌は死滅してしまう安全な調理ということになります。

というわけで長々と解説してきましたが、よほど信頼の置ける企業さんが食肉加工したブタ肉でもなければ、小規模飲食店レベルでこのようなリクスを回避できるわけもなく、安易に信用してしまってはいけないというお話でした。

公的機関が警鐘を鳴らしている通り、ブームに便乗して安易にレアトンカツに手を出さないことですし、もちろんご自宅でチャレンジなど絶対になさらないで下さいね。

次回は化粧品のお話に戻ります。
ではまた次週。

by.美里 康人

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