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“皮膚刺激性テスト済み”は、低刺激製品の保証?

刺激性試験済み

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美里康人

よくみる「皮膚刺激性テスト済み」表記
これは低刺激化粧品の証なのでしょうか?

低刺激な化粧品を選びたいと思った時に、皆さんはどんな基準で市場商品をお探しになるでしょうか?

まぁ、もうお題に書いてしまっていますので、製品を手にとった時にまず裏面に書いてある「皮膚刺激性テスト済み」の文言を頼りにすることでしょう。
確かにこれは、消費者が化粧品を選ぶ時のひとつの指針として、全く無意味な表記ではありません。
少なくても刺激が出ないかの試験を実施したという事実はその通りですので、これは間違いないこととして信じて構いません。

ただし、これは言葉の通り以上でもなければ以下でもありませんので、その辺りを今回は解説していきましょう。

刺激性試験とスティンギングテスト

刺激性試験の説明をしていく前に最初に念を押しておきますが、刺激性の試験とアレルギー性の試験とは全く異なることをお伝えしておきます。
その違いについては以前の記事でも説明していますので、こちらを参照下さい。

「シミる」と「痒み」 どちらのコスメを選ぶ?
https://cosmetic-web.jp/column/stinging/

で、今回の解説はこの皮膚刺激の試験のことになりますが、当然アレルギー試験とは方法が異なることもご承知おき下さい。

で、実は皮膚刺激の試験にはふたつのやり方があり、皆さんももうひとつの表記の製品をご覧になったことがあるかと思います。
それは「スティギングテスト済み」という表記です。

以前の上のブログ記事でも、皮膚刺激とスティンギングは同じ言葉と説明していますので、ならばこのふたつの試験は同じ内容ということになってしまいますね。
でも実は、このふたつの言葉は微妙に表現が異なるのです。

それは試験方法の違いを知って頂くと、その微妙な違いが見えてきます。
今回の記事の主題は「皮膚刺激性試験」ですので、スティンギングテストのやり方をまず簡単に説明しておきましょう。

スティンギングテストはいわば“オープンテスト”と呼ばれるもので、皆さんが日常的に化粧品を塗布しているそのままの条件に近い状態で、ヒリつきやピリ感といった感覚が出ないかとテスターの方に感じ取ってもらうテストです。
一応そのテスターの方は条件が設定されており、“乳酸”といった物質である程度刺激を感じる方を被験者の対象とする場合が多いです。
確かに、お肌が強くて何を塗布しても刺激を感じない方を被験者にしてしまってはあまり意味がありませんので。

この方法はこの説明をみてもお分かりの通り、きちんとものさしがあるわけではない感覚的なテストですので、絶対性に乏しくそのために皮膚刺激性試験とは分けて設定されています。
例えば、傷口といった皮膚に損傷部分があった時に塗布したら、ピリピリとシミることもあるでしょうから、それはこのテストで陽性にならないのだろうか?といた疑問も出てくるでしょうから、少し曖昧な要素が含まれてきますね。

とはいえ、まさに消費者が化粧品を使用する状態を再現したテストですので、実質的な試験ということもできます。
というのも、この後解説していく正しい皮膚刺激性試験は条件が厳しいため、時に製品によっては陽性になってしまうことも多いためです。
例えばシャンプーといった洗浄製品や、ヘアカラーといったヘアケア製品は洗い流して使用するのが原則ですので、成分としてはそこそこの刺激を持つ製品も多いことから、パッチテストなどでは結構な割合で陽性となることはお分かり頂けるかと思います。

ということで、まずはスティンギングテスト済みと書かれた製品の意味はこういうことと理解して頂ければ良いでしょう。

皮膚刺激性試験とは

さて、お題にも記した「皮膚刺激性試験」とはどういうものかの解説に入りますが、方法としては皆さんもよくご存知の「パッチテスト」という方法で実施されています。
ヘアカラー製品などは、“パッチテストを行ってからご使用下さい。”といった注意書きがなされている、このテストのことです。
ただ、皆さんがご自宅で実施するこのパッチテストはただ塗布して放置するだけですので、試験方法としてはかなり異なります。

日本ヘアカラー工業会からテストの方法が示されていますので、こちらをご参考に。

パッチテスト
皮膚アレルギー試験(パッチテスト)を実施しましょう<日本ヘアカラー工業会>
https://www.jhcia.org/haircoloring-salon/4_patchtest.html

で、この試験はあくまで簡易的なもので、皮膚刺激性試験のパッチテストはパッチを用いて表面を密閉して行い、時間も24時間以上を設定してドクターが観察して判定を行う、もっと厳密な試験になります。

細かな方法はさておき、画像をご覧頂ければ感じは分かるかと思います。
東京医科大学さんからお借りしてきました。

皮膚刺激性試験
出典:東京医科大学HPより

このような感じで複数の被験者を使って試験を行い、皮膚に対して反応するかどうかの試験を行うのが、皮膚刺激性試験と言われるテストのことです。
テスターの方の人数は様々なですが、普通は10名以上の方に実施するのが通例となっています。

試験したから良い製品?

いよいよここからが、今回の記事の本題です。
ここまでお読み頂いた通り、確かに皮膚科の先生に協力を仰ぎ、実にきちんとした試験を行っていることは間違いありません。
ただし、今一度思い返して頂きたいことは、製品に表記されているのは「試験済み」との表現です。
つまり、刺激があったのかなかったのか、その結果は示されていません。
いわば、試験を実施したという事実を明記してあるだけなのですね。
そのため、誤解を招かないように以下の文言が必ず付与されています。

全ての方に皮膚刺激が発生しないということではありません

ただこの言葉も非常に曖昧で、まだ不誠実な一面があるように感じます。
というのも、消費者がこの言葉を読まれたとしても、その結果の背景には「試験の結果は誰も刺激が出なかったのだけれど・・・」といった注釈のニュアンスをきっと感じておられると思うからです。
ましてそれが低刺激を謳っている化粧品であれば、それはことさらと言えます。

しかしながら、実はそれは否定しておかないといけません。
もちろん、明らかに異常とも思える刺激症状が発生した場合は、その製品は商品化にならないという判定がなされると思いますが、少なくても全く何も反応がなかった保証ではないということを知っておいて頂きたいのです。
なぜかというと、そこには公的機関なりが定めた基準や規格があるわけではないからです。

ならば一切の判定基準はないのか?と問われると、さすがにそのようないい加減な試験ではないのですが、ヒトを使ったテストであるだけに、どういった被験者の方が何人おられたかといった部分までは、基準を決められないからです。

実際にある程度権威を持つ機関によって定められている基準は、このようなものです。

皮膚刺激性試験

こちら、日本アレルギー学会が公開している基準で、オーストラリアに拠点を置く「ICDRG(国際接触皮膚炎研究グループ)」というグローバルな機関が定めた基準です。
ここに示されている症状名は、ドクターが見て判定できるように症状に応じた状態の画像も示されていて、それをもとに医師が判定することになります。

こうしてひとつひとつの試験結果の基準は、ここにあるように+判定が陽性ということになるのですが、この判定がひとつでも出たらその製品は商品化できないという判定になるわけではないのです。
上でも説明したように、ヒトを対象としてテストを行いますので、中には非常に過敏な方がおられたりと個人差が非常に激しい曖昧な試験になりますので、複数の被験者を用いて実施しないといけません。
となると、その人数が何人で実施しなけばならないのか、絶対数が決められているわけではありません。
それこそ大手ブランドさんのように大人数で実施するケースもあれば、小規模試験機関であれば10~20名がせいぜいということもあるわけです。
もちろん、塗布時間によっても大きく結果は変わってきます。

結果的にその判定基準は、何人の方が陽性となればその商品は製品化できないのか、試験機関が決定権を持っているわけでもありませんので、ここは完全にメーカーの自主的な判断で決めるしかないということになっています。
ほとんどは試験機関が自主的に定めた規格で、よほどひどい症状でも出ない限りはメーカーさんへのアドバイスといった範囲に留めるしかありません。

実際のところ、上でもとりあげたように洗浄製品など洗い流し製品は、皮膚にずっと塗布したままにするわけではありませんので、ある程度の陽性反応が出る方は多いのです。
スキンケアでも、クレンジングや洗顔料などは汚れを除去する製品ですので、全く無刺激ということはほとんどあり得ないのが実状ですし。

試験結果の実状

では、実際現場の試験期間で基準として決めているのは、どのような感じなのでしょうか?
例えば、論文で公表された権威ある皮膚科専門医の先生が定めた独自基準は、このような感じです。

20名で試験を行います。
皮膚刺激性試験基準
ひとりひとりの評点を足し算し、20人分の総合指数で判断するという方法です。

15点までは許容範囲ということですから、+判定で評点1.0の陽性反応が15人だったとしても製品化には支障がないと判断して良いということになります。
水ぶくれが発生する++判定で評点2.0の方が7名おられても14点ですから、問題なしと判断できますね。
つまり簡単にいえば、重度++++の症状の方が何名も出ない限りは“普通に使えます”といったレベルで判定されますし、製品化には無問題という判断をして良いということになるわけですね。

ご存知なかったユーザーさんは、驚かれたかもしれません。
しかしながら、仮にクレンジングといった洗浄アイテムならば、完全に密閉した状態で24時間以上もお肌に塗布された状態ならば、結構な方が赤くなる程度のことになるとお分かり頂けると思います。
それくらい、過酷な試験ですので。

もちろん、これはあくまでメーカーさんが最終的に自社で判断すべき判断ですので、評点数が悪くなくても商品化できないと判断する企業さんもあるでしょうし、少々悪くてもいまさら処方設計を変えることなどままらないと、GO判断をされるメーカーさんもおありでしょう。
そこまでを含めて、実は曖昧な表現の仕方をされているのだと認識しておいて頂ければと思います。

とはいえ、もう少しユーザーさんが信頼を置ける表記を義務つける方向に、改革されて欲しいですね。
今日はここまでにして、また次週。

by.美里 康人

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