週3で異なる目線の美容記事をお届け
2021年新春の第一回目は
「化石コスメ」企画の第二弾
洗顔クリームの化石コスメ
皆様、新年明けましておめでとうございます
2021年は激動の年明けとなってしまいましたが、地球上の最頂点に位置している人間が今何をすべきか、グローバルに思考すべしとの天の声を、真摯に受け止める一年という気がしています。
そういう意味では、あらたな年明けということになるのではないでしょうか。
と、お堅い話はこれぐらいにして、新春スタートの記事は「化石コスメ」企画の第二弾です。
この化粧品業界も大きく変われる可能性を秘めたキッカケにもなるかもしれませんので、皆さんも洗顔を見直す参考になればと思います。
大手ドラッグ系洗顔クリーム
さて、こちらを長くご利用の皆さんは既によくご承知のように、ドラッグストアでも販売されている200円から500円くらいのチューブ入り洗顔クリームは、ほぼ100%が石鹸ベース処方で設計されています。
疑問をお持ちになられた方は、お手持ちの洗顔クリームを裏返して全成分をご覧になってみて下さいね。
「水」の次にきている成分は、必ず以下のいずれかになっているはずです。
・石ケン素地
・カリ石ケン素地
・ミリスチン酸
・ステアリン酸
この成分で、石けんベースになっていることが確定します。
もちろん、各社さんで洗い上がり感や泡立ち、そして泡のクリーミー感など味付けは様々。
しかしながら、もう数十年の時を経ても石けんをベースにした処方設計は変わっていません。
これはかの資生堂さんのパーフェクトホイップを始めとして、大手ブランドだけでなく中小のメーカーさんにおいても全て同様です。
というのも、石鹸がベースなので使いごごちは間違いないですし、価格も比較的お安く抑えられるというわけです。
また、日本人は特に固形石鹸の歴史が長く、とりわけ石鹸ベースの洗浄剤が大好きなお国柄とされています。
そんな中にあって、実は過去にこれを打ち破らんとするチャレンジャーな商品が、大手ブランドさんから投入されています。
あの「ダヴ」が勝負を掛けた
外資を資本としたユニリーバさんは、今も日本で大手さんを中心としたトイレタリー市場に食い込んでいます。
とはいえ女性が毎日使う洗顔フォームは、やはり国内ブランドの製品が占めていたのも事実です。
それは上で説明した通り、日本特有の石鹸文化が影響しています。
そのため、ここに外資系企業が入り込むのは非常に難しいとされていたんですね。
この国内ブランドの牙城を崩すために、かのユニリーバさんはどういう手を打ったのでしょうか。
その手段とは?
もう先に答えを明かしてしまいましょう。
あの「ダヴ」は、石鹸ベースが占めていたこの業界の牙城を崩すため、まったく異なる洗浄剤を使ったベースを開発して切り込み隊長にしました。
それが、アミノ酸系の洗顔クリームだったんですね。
そうはいっても、その苦労は並大抵なものではなかったことでしょう。
その理由は、アミノ酸系界面活性剤(洗浄剤)には以下の大きな壁があったからです。
石鹸ベースに比較すると
①原料が非常に高価
②クリーム状にするのが困難
③洗浄力や起泡力が弱い
まずは①のコストの壁。
皆さんもご存じのように、なにせ大手ブランドさんの洗顔クリームは、大コインでお釣りがくる格安さ。
対してアミノ酸系洗浄剤は、全くもってお話にならないほど原料コストが高価なんですね。
これをクリアするために、原料メーカーさんとかなりの交渉をしたことでしょう。
大量に市場投入することでコストダウンを計ったことは、容易に推定できます。
そして②の課題については、処方設計の創意工夫でかなり苦労されています。
これまでの石鹸ベースの洗顔クリームと同じようなコクのある製品にするために、相当な研究を重ねています。
開発がラクな液体洗顔にしてしまえば、濃度が薄くて対抗はできませんからね。
③についてはアミノ酸系界面活性剤の本質的な問題なので、これはどうしようもありません。
こうした苦労を重ねたすえ、価格も他社と同程度の大コインでおつりがくる価格に設定し、大々的にTVCMに打って出てこの洗顔クリームの市場に参入しました。
もう既に市場からは消えていますが、その製品はこちら。
しかしながら、結果的に国内ブランドの牙城を崩せなかったことは、現在の市場勢力図をみての通りです。
パーソナル使用のボディソープなどは健闘していますが、女性ユーザー向けの洗顔クリームは市場を獲得できていません。
今も見た目はよく似たリニューアル後の洗顔クリーム「ビューティモイスチャーフォーム」は販売されていますが、中身は大きく変わっていますし、結局この商品そのものは10年を待たずに廃盤となってしまいました。
なぜ勝てなかったのか
ということで、外資の日本リーバさんは日本の石けん文化に切り込もうと一石を投じたわけですが、この結果をみると製品がよくなかったということになってしまうのでしょうか?
今回これをとりあげた課題は、この点です。
つまり、もう何十年も続く石けん文化がやはり良くて、こうした他の洗浄剤はよくないということなのでしょうか?
ここから先は私見も含まれますが、実際はそうではないと感じてなりません。
なぜならこの「ダヴ」のチャレンジの失敗は、外資系企業さん特有の販売戦略のミスと感じてやまないのです。
詳細を解説すると、こういうことです。
15年前の全成分を残していましたので、見てみて下さい。
<DOVE モイスチャーフォームN>
グリセリン、水、ココイルグリシンNa、ジステアリン酸グリコール、ラウラミドプロピルベタイン、ステアリン酸、ラウラミノジ酢酸Na、ココイルメチルタウリンNa、加水分解コンキオリン、ポリクオタニウム-39、ステアリルジメチコン、グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド、クエン酸、カルボマー、メチルパラベン、香料
これを見て驚かれた方もおられるかと思いますが、なんと一番最初にきているのは「グリセリン」です。
グリセリンが水よりも多いとは、驚きですね。
で、日本リーバさんはここを販売のアピールポイントにしようと、グリセリンの「保湿成分が30%」を販売戦略のキーポイントにしてしまったのです。
当時のTVCMを覚えておられる方もおられるかもしれませんね。
グリセリンが30%台で、アミノ酸系洗浄剤のココイルグリシンNaが20%台。
そしてその他もろもろの成分を合わせて10%ちょいになるため残りの水が30%以下となり、結果的にグリセリンが一番に表記されることになっています。
確かにこの謳い文句は、ユーザーさんには分かりやすいですが、これではダメと私でも分かります。
洗顔クリームの根本的な性能である洗浄力はあまり強くありませんし、なにより泡立ちと泡のクリーミィ感は、圧倒的に石けんには勝てません。
結局、本当にPRすべきは3番目に位置している「ココイルグリシンNa」のアミノ酸系洗浄剤であって、石けんを使っていない新しい洗浄剤であることがキーポイントのはずだったんですね。
なぜなら、アミノ酸系洗浄剤のとにかく良いところは、目に入っても痛くないほどの低刺激性。
つまり、敏感肌の方でも使えることや洗浄力が強すぎないこと、そして低pHである点を大きくアピールすべきだったんですね。
また、石けんカスを作らないことも大きなポイントのはずです。
今でもアミノ酸系の洗浄剤は、有名どころのブランドでベビー用のボディソープなどに使われています。
うっかり赤ちゃんの目に入ってしまっても痛くないほどの、低刺激だからです。
あのお値段でこの低刺激な洗顔クリームが販売されていたのは、業界的にも驚愕な異端児と言えます。
しかも、昔のアミノ酸系洗浄剤のようにいつまでもすすぎでヌルヌルすることもなくサッパリ洗いあがりますし、石けんベースの洗顔フォームに明らかに劣るとは思えませんでしたから。
というわけで、私はひどいアトピー体質ですので、この洗浄剤を使って開発した洗顔フォームを自分でも使っています。
そして、実はこの昔の「ダヴ」の処方をベースに手を加え、付加価値をつけた低刺激の洗顔クリームを販売されている中小のメーカーさんがいくつか存在しています。
リーバさんが頑張ってくれたおかげで、このアミノ酸系洗浄剤の価格がお安くなったからです。
いわばこの昔のダヴは、業界的にも大きな一石を投じてくれた逸品というわけだったんですね。
なにより私自身は、色々と課題の多い石けん文化がいい加減変わる時代に来ていると思っています。
低刺激な洗顔フォームをお探しのユーザーさん。
お時間があれば、探されてみみて下さいね。
と、こんな感じで今年もこのブログを続けてまいります。
お手間でなければ、引き続きよろしくお願い申し上げ、新年のご挨拶とさせて頂きます。
ではまた次週。
by.美里 康人