週3で異なる目線の美容記事をお届け
美里康人
解消できる乳液やクリームがなぜないのでしょう?
皆さんも一度は使ったことがあると思いますが、市場には美白効果に期待した高濃度ビタミンC誘導体の製品が数多くあります。
医薬部外品ではビタミンC濃度があまり高くないため、さらなる美白効果を期待して、あえて化粧品でこういった製品をお探しのユーザーさんも多いかと思います。
しかしながら、ビタミンC誘導体は乾燥肌になりがちで、お肌がパキパキするといった保湿に悩む方も多い傾向にあります。 製品としては化粧水や美容液といったタイプが多いために、さらにこういったデメリットがクローズアップされているのが現状です。
実はこの現状にはビタミンC誘導体特有の理由があり、今回はそんな背景についてお話していきましょう。
この記事の目次
保湿も補える製品がなぜないのか
さて、このような現状があることをもう少し詳しく解説しておきます。
最初に、市場にはたくさんの種類のビタミンC誘導体があることを皆さんもご存じと思います。
復習には、こちらの過去記事を参考にされて下さい。
全て網羅したわけではありませんが、国内で流通している製品はほとんどがこれらに該当していると思います。
<ビタミンC誘導体全体についての、解説過去記事>
■VC配合濃度と含有量
https://cosmetic-web.jp/column/vc120/
これだけの種類があるにも関わらず、ユーザーさんの声は「乾燥して困る・・・」という声が多いのが現状です。
とはいえ、この中にもあまり乾燥を誘発しないビタミンC誘導体もないわけではありません。
それでもこうした声が多い理由として、上の過去記事でも述べた濃度の問題と、そして美白の実質的な効果も関係しています。
その辺りから、もう少し深く切り込んでみましょう。
カサカサしないビタミンC誘導体
で、実はあまり乾燥を招かない誘導体成分も、あるにはあります。
ひとつは、油溶性ビタミンCと呼ばれる「テトラヘキシルデカン酸アスコルビル」という表示名称の成分です。
とはいえ、この誘導体は上の記事でも数値で示している通り、純粋にビタミンCの濃度としては生のビタミンCと比較すると1/7程度になりますので、100%原料でようやく他の誘導体と同じ程度になってしまうという実情があります。
また、効能的にもどちらかといえばニキビに優れたビタミンC誘導体で、美白に対する効果はあまり高くないとも言われています。 皮膚内の分解酵素エステラーゼ量や、その活性メカニズムなどに課題もあるのかもしれません。
そしてもうひとつは、最近出てきたグリセリン誘導体です。
こちらも誘導体の基盤がグリセリンになっていますので乾燥はしにくいビタミンCですが、こちらも他の誘導体に比較すると美白パフォーマンスはあまり高くないと言われています。 油溶性と同じく、皮膚に入ってからの分解効率と関係しているのでしょうか。
濃度の高いものを使えば効果は期待できると思うのですが、そうなるとユーザーさんのお財布事情との天秤ということになり、市場性としてはあまり有利ではないことになってしまう課題がありますね。
ということで、実際には保湿に有利な誘導体もないわけではないのですが、美白効果に期待するならばどうやら選択肢から外されてしまうようで、それはユーザーさん自身が実感として感じている市場性が、示しているのかもしれません。
ならばその他の実効性も高く、なおかつコストもさほどお高くない誘導体で保湿を補う製品があってもよさそうなものですが、それがなぜないのでしょう。
その理由をここから解説していきます。
乾燥しにくい高濃度VC製品がみつからない理由
あらためて今回の話題ですが、実はお客様から要望として出てきたリアルな課題でした
それは、「保湿をしっかりとできる乳液やクリームで、高濃度VC誘導体製品が欲しい」というものでした。
確かにビタミンCの感想感も、油分を補ってやれるアイテムなら保湿力があがり、かなり解消されます。 いわば、当然といえば当然の欲求ということ。
この課題、実はこのビタミンC誘導体アイテムのひとつとして各社がかなり取り組み、結果的に実現することなくここまでの歴史を重ねている大きな壁があるということなのです。
もちろん、医薬部外品レベルの配合濃度なら市場にも存在しています。
例えば、資生堂さんが最初に手掛けて市場に広がっていったグルコシドタイプ「アスコルビルグルコシド」などは、今では他社ブランドから2%配合のクリームなどが存在しています。 他にも、VCエチルあたりも1%のクリームが出回っています。
でも、ユーザーさんのニーズとしてはもっと高濃度のVCアイテムが求められているのが現実です。 実際、高濃度アイテムの化粧水や美容液がさほどお高くない価格で市販もされていますし。
これを踏まえた上で各社開発を手掛けてきましたが、いまだ実現できていないということなのです。
では、結論的になぜそれが達成されないのでしょうか。
その答えは単純で、ビタミンC誘導体は安定化させるために『塩(えん)』のカタチにされているからです。 化学の世界で「えん」と読みますが、いわゆる皆さんもよくご存じの「しお」も代表的な成分で、同じメカニズムと考えて頂ければよいですね。
つまり、この塩(えん)の構造を持った成分は非常にやっかいで、化粧品の製剤に大きく影響を及ぼしてしまうために、高濃度では非常につかいにくい成分と言えます。
つまり、ビタミンCの誘導体はどれもが化学的にこの塩(えん)のカタチにして安定化されているため、高濃度で配合するにはこの課題が立ちふさがるという次第です。
どういった影響があるのか簡単に解説すれば、例えばゲルや美容液を設計するのに必要とされる合成ポリマー(例えばカルボマー)は、この塩(えん)があれば水みたいにシャバシャバになってしまいます。 水の中でポリマーが手を広げてトロミや粘性があったのに、それが塩(えん)のせいでクシュクシュ・・・と縮こまってしまい、トロミ機能が完全に失われていくという仕組みです。
興味を持たれた方は、お手元に美容ゲルがありましたらそれに塩(しお)を少し入れてみれば、「あ~ら、不思議!」な体験ができます。
ただし、ゲルがみるみるうちに化粧水になっちゃっても、私は責任持てませんのでそこは覚悟の上でよろしくです(笑)
え?
--ゲルアイテムって、実は単なる化粧水だったの?
えっと、そんな疑問にはお答えでき兼ねます・・・。
スキンケアアイテムのどこに付加価値を見出すべきかを学ぶのがこちらのブログの目的ですので、それはユーザーさん自らの知能で見極めて頂ければと思います。
で、話は戻ります・・・。
上記のような理由で、高濃度VC誘導体の乳液やクリームを設計するには、合成ポリマーは全く使い物にならないというわけです。
先日の記事にも記したように、合成ポリマーを使わずに乳液やクリームを設計できる化粧品技術者はかなり希少になっていますので、おのずとこうなってしまいます。
実はこういったところで、以前の記事で取り上げた「差別化できるエマルジョン技術」なるものに活用されるということなんですね。
とはいえ、合成ポリマーを使わずにクリームを設計できる技術者さんも、おられないわけではありません。
ところが、それでもまだこの課題の解決には至りません。
界面活性剤を使った乳化も、高濃度の塩(えん)には弱いんです。
なぜそうなのかの解説は割愛しますが、分離したりVC誘導体の結晶が析出してしまい、製品として設計するのはかなり困難と言われています。
化粧品研究者にとっては、もうほとんど四面楚歌の課題・・・というわけです。
ということで今回の話題はここまでですが、長々と説明しておいていまさらなことを言えば、美白への効果に期待して高濃度のビタミンC誘導体アイテムを使うのであれば、化粧水や美容液アイテムを使った上で、その後に乳液やクリームを使えばこの問題は解消されるわけでして、あえてムリして困難な課題に取り組むほどのことではないというのが結論という、顛末でした。
ビタミンCアイテムは乾燥しやすくて使えないと感じておられたユーザーさんも、あきらめずに一度試されてみて下さい。
ではまた次週。
by.美里 康人
[…] 今週の美里所長さんの「高濃度ビタミンCの乳液・クリームは、なぜないの?」という記事はなかなかに興味深かったです。 […]