美里康人
もっと広がって良いというお話
ユーザーの皆さんにとって、特許を持つだとか特許成分が配合されているといった製品のPRは、多少なりともご興味を持たれるかと思います。
他の製品にはないなんらかの技術が盛り込まれたコスメである可能性が高いわけですから、原則的にこれはもっともなことでしょう。
化粧品の特許については、随分と以前にも解説致しましたが、昔のように「標榜してはならない」という規制はさほど厳しくなくなり、表記条件の範囲で明示して良いようになっています。
では、ユーザーの皆さんにはどういった特許を持つコスメに優位性があるのか、そして業界の方には表記するための留意ポイントなどを解説していきたいと思います、
この記事の目次
化粧品の特許とは
化粧品を販売されているHPや広告をみると、時に「特許取得済み」などといった表記を見掛けることがあることでしょう。
でも、特許といったって様々な特許があり、ユーザーの皆さんにとってコスメとしての付加価値があるのかどうかは分かりにくいかと思います。
そこで、どのような特許のケースがあるのか、ある程度見極めができるよう学んでおきましょう。
なお、特許と似たような言葉で「登録商標」というのがあり、以下のようなマークがついていることがありますが、登録商標は製品名やブランド名・ロゴなどネーミングに類する権利を取得しているという意味ですので、全く異なることを覚えておいて下さいね。
1.美容成分の特許
これは、お肌に有効性のある美容成分を固有の企業さんが独自開発し、他社と差別化するために特許を取得しているケースです。
例えば大手ブランドさんでいえば、もう20年近く昔になりますが、資生堂さんの毛穴改善成分「グリシルグリシン」が有名ですね。
イオン導入との相乗効果で、エビデンスがとられています。
この場合、資生堂さんのようにブランドさんが独自で特許を取得されているケースと、原料を開発している原料メーカーさんが取られているケースがあります。
前者の場合は資生堂さんの商品だけしか使えず、いわゆるこの成分の配合については独占権を有していることになりますが、後者の場合はOEM企業さんが自由に使えますので、ブランドとしてはあちこちの製品に使われていることが多くあります。
ちなみにグリシルグリシンも、数年経って後に特許は開放されましたので、今では様々なブランドさんに活用されています。
で、後者の場合ですが、ユーザーさんはほとんど知ることはありませんが、化粧品業界で有名な国産の原料メーカーとしては、こういった企業さんがあります。
■一丸ファルコス社
https://www.ichimaru.co.jp/
今年も毛穴改善成分として、イネの種子から得られるセラミドの特許を出願されています。
(*ただし、まだ審査請求は未提出)
これらは、特許を取得している美容成分への効果に期待できるということになりますね。
2.製剤の特許
こちらは、化粧品の中身の設計そのものに特許が取られているケースです。
例えば、マナラさんのクレンジングジェルなんかがこれに該当し、独自の処方設計技術が用いられて作られています。
この場合も、大手ブランドさんのように自社ブランド独自で開発、権利を取得されていて、他社ブランドは真似ができないようになっている場合と、私達のようなOEM企業が独自で開発・取得し、あちこちのお客様のブランドさんに提供しているケースの両方があります。
この場合は、市場でいくつか同じ特許技術を用いた製品があるわけですね。
弊社も以前に記事で公開した通り、クレンジングなどでいくつかの製剤の独自特許を取得しています。
■新年のご挨拶と、特許出願クレンジングゲル その1
https://cosmetic-web.jp/column/cleansing-8/
■新春スペシャル 特許出願クレンジングゲル その2
https://cosmetic-web.jp/column/cleansing-9/
こちらも処方設計そのものの特許ですから、他の製品とはなんらかの差別化がなされているはずで、とこかにコスメとしての優位性が必ずあると判断して良いでしょう。
ただし、この製剤の特許のケースの場合、成分同士の複合効果によって美容効果に独自性を主張している特許も多く、これらはいわば他社メーカーへの牽制的な意味合いが濃いため、ユーザーさんにとっての優位性は少ないケースもあります。
3.製法の特許
これは化粧品の製造方法に独自の技術を用いて開発された特許技術で、いわば作り方に特殊性があるということですね。
例えば昔であれば、超音波によって成分を微細分散する・・・などといった特許技術がありました。
特に化粧品の場合は、いかに界面活性剤を少量、もしくは配合せずに油と水を微細乳化するか?といった課題への特殊技術が多いと言えます。
あとは特殊な独自機械を用いて特別な製法を確立している場合も、ここに入ります。
特許の解説を詳細に見てみないことには、ユーザーさんに利点があるかどうか難しいケースが多いかもしれません。
4.中身とは関係しないその他の特許
特許を有する化粧品といっても、必ずしも中身が差別化されているとは限りません。
例えば、容器といった包材に新たな技術が投じられているケースもあります。
例えばポンプフォームの洗顔フォームの容器なども、多くの特許が出願されています。
後で述べますが、これは今は特許の内容を明示しなければならなくなりましたので、特許の内容をみればそれと判断できます。
では、昔はこうした特許を化粧品の謳い文句にすることに対しての監視が厳しかったのですが、今はどうなのかといったところのお話に進みましょう。
特許をPRしても良いのか?
この問題は、この10年ほどで様相が変わっています。
2019年の記事で詳細を記事にしていますので、ご存知ない方はこちらを参照されて下さい。
■化粧品で特許は謳えないのか?
https://cosmetic-web.jp/column/patent-3/
こちらの記事でも記しているように、昔は特許を謳い文句にして化粧品をPRする道具にしてはならないといった主旨の規制がありましたが、今はその規制は少し緩和されています。
特に告知がなされているわけではありませんが、昔のように摘発が厳しかった頃に比べると、監視は甘くなっています。
とはいえ、もちろん今でも特許を武器にしてPRをして良いというわけではなく、理路整然と特許技術であることを示しなさいというレベルで、表現が可能になったという範囲です。
例えば、以前であればHPや広告・パンフレットの類はPRのためのツールということで、そこに明記することは厳しく監視されていましたが、今は条件さえきちんとクリアすれば摘発となることはなくなりました。
結局、特許というのは他の企業が真似をした場合には企業間で訴訟にまで発展する独自技術ですので、広く公開しておかないと知らずに同じ技術を使ってしまうこともあり得るわけです。
そう考えると、しっかりと特許を明示しておかないと他の企業さんが気付けないことにもなり兼ねませんので、明示することにきちんと意味があるというのが経済産業省(特許庁)のスタンスです。
薬機法で厳しく対応したい管轄である厚労省や、景品表示法など販売の手法を監視したい内閣府(消費者庁)とは立ち位置が異なるため、なかなか難しい課題だったということですね。
では、どういった条件のもとに表記をして良いのか、解説をしておきましょう。
特許の明示の仕方
特許を有する化粧品でその特許を明示する場合、以下のように明記することが義務付けられています。
・発明の名称
・特許番号
・取得年月日
この3点を正確に記載しなければなりません。
例えば、弊社のクレンジングジェルの場合は、このようになります。
・ゲル状クレンジング化粧料
・特願2019-199654
・登録日:令和3年2月3日
また、取得している事実の文言を記すことしか認められておらず、「すごい」だとか「優れた」「認められた技術」などと、余計な言葉を用いてPRに結びつけることは認められていません。
他にも、フォントを異常に大きくして目立つようにすることも規制の対象となります。
つまり理路整然と特許技術が用いられた製品であることを明記するだけに留めなさいということですね。
化粧品の企画をなさっておられる方や、販売されている販社さんなど業界の方は、参考にされて下さい。
注意して!
最後になりましたが、この特許の問題については、ユーザーの皆さんに注意して頂きたいことがあります。
それは以前もお伝えしましたが、「特許取得」と「特許出願」は全く異なり、ユーザーさんにとっては天と地ほど意味合いが異なる点です。
それぞれの意味は以下になります。
・特許出願
発明技術の内容を出願書の書式に従ってまとめて作成し、特許庁に提出すること
・特許取得
提出した出願内容が公的に公開された後、「審査請求」を特許庁に提出して審査官に審査をしてもらい、発明の内容に新規性が認められて権利が取得されたこと
出願の方は、実は書式さえ守っていれば誰でも提出できますし、内容がどんなものであろうが提出は自由です。(特許出願の自由)
しかもこれにかかる費用もおこづかい程度でできますので、言ってみれば誰にでもできるのが特許出願なのですね。
皆さんもどこかで耳にしたことがある通り、これは変な話、書式を弁理士さんに教えて頂いて指導を仰げば小学生でもできます。
私自身も書式と出願ノウハウは学んでいますので、自分で作成できますし。
つまり、特許の出願だけに関して言えば誰でもできますし、どんな内容であろうがとりあえずは受理されるのが原則というわけです。(書式に問題さえなければ全て受理される)
ところが、審査請求を提出して審査してもらい、それが発明として認められるかどうかは全く別の話なんですね。 また、この審査のところで多大な費用が掛かります。
というか、ほとんどの場合は新規性は認められず、取得は断念せざるを得ないのが通例です。
ここは非常に難易度も高いので、ほとんどの特許は審査にまで至っていないのが現実です。
ですので、ユーザーの皆さんは特許「取得」となっているかどうかを、きちんと見極めないといけません。
というわけで、こういった背景があるために、昔はとりあえず費用も掛からないから出願だけしておいて、「特許出願中」などといった文言が製品PRによく使われていたのですね。
それが巷に溢れたことによって厚労省の規制が厳しくなったというのが、化粧品業界の黒歴史だったというわけです。
再びそうならないためにも、メーカーの皆さんはきちんと規制を守って製品のアピールに活用しましょうね。
本来は新たな発明の盛り込まれた化粧品には、ユーザーさんにとって素晴らしい利点があるはずですので、企業としてはしっかりアピールすれば良いことですから。
では今週はここまでで、また次週。
by.美里 康人