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三毛猫とエピジェネティクス そして化粧品の可能性

エピジェネティクス

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美里康人

「エピジェネティクス」って何?
まだよく分かっていない美里と一緒に学びましょうか

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<11月1日の記事の内容について、お詫びと訂正>

前回の記事中に、カネボウのロドデノール問題について誤解を招く表現があり、ご愛顧頂いている読者様よりご指摘を頂きました。
お詫びとともに、以下の文章を訂正させて頂きます。

* * *
これをキッカケとして、企業としても花王さんと合併せざるを得なくなった事実は、まだ記憶に新しい事件。
* * *

花王株式会社がカネボウの化粧品事業部を買収されたのは2006年で、ロドデノールによる白斑の事故があかるみに出たのはその後の2013年ですので、この経営統合とは無関係です。

2018年に販社統合の決定がなされた事実と混同し、誤解を招く文章となってしまいました。
ここに改めて訂正致申し上げます。
事実誤認、まことに申し訳ございませんでした。
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さて、舌を噛みそうな「エピジェネティクス」という言葉は、ご存知でしょうか。
私自身も、言葉くらいは知っていてもなんのことかよく分かっていません(苦笑)

でも、資生堂さんが発表した学術報告や特許をみても、今後化粧品の業界でも新たなトレンドとなる可能性があるようです。
専門外の私もまだよく理解できていませんので、今回はユーザーの皆さんも理解できる次元で、この言葉を解読していきたいと思います。

資生堂さんのプレスリリース

まだネット上に落ちていますので、リンクをご紹介しましょう。
ちょうど1年前、資生堂さんのプレスリリースです。

エピジェネティクス

資生堂、最先端のエピジェネティクス研究で 光老化により肌がくすみやすくなる原因の一端を解明
リンク:https://corp.shiseido.com/jp/newsimg/3266_g6f24_jp.pdf

ちょっと難しい専門用語ですが、「後天遺伝学的」(Epigenetic)な理論という意味だそうです。
簡単に言えば、遺伝子が成長の過程で書き換わることがある遺伝学とのことです。

つまり、遺伝子というのは持って生まれたDNA因子で、細胞が成長の過程で書き換わることはない因子ということは皆さんも理解されていますよね。
例えば私なんかの場合ですと、背が高くないのは子供の頃からの悩みでして、これは遺伝なんだから仕方のないこと・・・と理解していましたから。
また、男性だと白髪や薄毛なども遺伝で決定されるというのは、一般的によく知られています。
なので、こうした負の要素は生涯において解決することはできないのが普通のこととされているのが、先天的なこの遺伝子の問題です。

ようはこれまで書き換わることがないとされていた先天的な遺伝子情報が、実は書き換わることがあるという理論が、この後天遺伝学ということだそうです。

ちょっとまだ「そんな事ってあり得るの?」という感じだと思いますが、実はこの事実は身近な身の周りで確認されていたことを、この後分かりやすく解説していきます。

三毛猫の「三毛」ってこういう意味

こんなお話を長年生きてきて知らなかった私が恥ずかしいと思うのですが、実は猫ちゃんにそのキーワードが隠されていたということを今回知った次第です。
なのでここからは“知ったか”な知識になりますが、お付き合い下さいませ。

私は猫好きなので、三毛猫の「三毛」という文字は、3色のまだら模様の毛色を持つ猫ちゃんのことという程度は理解していましたが、実はこの毛色は遺伝子によって決定されていることから、3色の三毛になるのは後天的に遺伝子情報が書き換わったことによって起きている現象ということなのだそうです。
そのため、原則的に三毛はメスにしかあり得なくて、オスの三毛がいたとしたらそれは異常遺伝子の異端児クンということだそうです。
(数万匹に1匹の発現レベルだそうです)

オスは少ないとは聞いていましたが、ほとんどあり得ないというのも初耳でした。

で、ではなぜメスにしかあり得ないかと言うと、それは最初に受精卵の段階における染色体の組み合わせに秘密があって、基本原則として哺乳動物のオスかメスかの性は、この染色体によって決定されるからということです。
なので哺乳類動物は基本的に、オスは受精卵に含まれる2種類の染色体XYの組み合わせ、そしてメスは染色体がXXの組み合わせで決定されます。
このメス側の染色体がXXという同じ染色体の組み合わせであることが、今回のこのお話と繋がりがあります

パっと考えるとオスは2種類の染色体を持っているので3色ができそうに思いますが、そうではないのだそうです。
というのも、X染色体というのが毛の色を決定し、黒にする遺伝子か茶色にする遺伝子かどちらか一方が必ず選ばれるそうで、茶色と黒色の遺伝子が混同されることはないということです。
つまりオスの場合はXがひとつなので必ず黒か茶色の一色にしかならず、それが単色なのかトラ模様になるかの選択肢しかないということなのですね。

一方のメスはXXですので、色を決定する遺伝子がふたつあることになります
ということは、受精して毛色が決定される時点で、黒と茶色がケンカをするケースが起きるということなのです。
この「ケンカをする」という現象は遺伝子にとって大きな問題で、細胞が正常に作られない事態にまで影響を及ぼしますので、なんらかの対応をしなければ正常な生き物として生まれることができないわけです。
そこで出てくるのが、この受精卵から成長していく段階で起きる「不活化」という遺伝子の現象で、ケンカする部分に印がつけられて一方の色を不活化させていくということが起きるのだそうです。
なので、ケンカした部分部分で一方の色に不活化が起き、結果的に様々な色が選ばれて茶色と黒色があちこちに混ざった個体になっていくという仕組みということです。
この不活化が、つまり受精した後に後天的に遺伝子が書き換わるエピジェネティクスな現象ということなんですね。

まとめると、本来は受精卵の時点で受け継がれた遺伝子情報が、その後に成長過程で不活化といった現象によって書き換えられていくあらわれということなのだそうです。
つまり、後天的に書き換えられていくということですね。

ちなみにこの現象は実験で検証されており、DNA因子を使ったクローン猫実験で同じ毛色にならなかったことから証明されたのだそうです。
ネットにはこの猫ちゃんの画像が落ちていますね。

本来は複雑な遺伝子のお話なので分かりやすい説明の仕方をしましたが、私もしっかり理解が及んでいないので間違っている部分がありましたら申し訳ありません。
ご指摘も賜りますので、お詳しい方は遠慮なくご教示下さればありがたいです。

皮膚の老化とエピジェネティクス

ここまで解説を進めてきましたが、ここから皮膚のお話をしていきます。
さて、実は細胞の老化もすでに遺伝子によってプログラミングされていますので、後天的にこれを書き換えるか、コントロールすることによって老化が防げる可能性があるというのが、エピジェネティクスの考え方です。
よく、「遺伝子のリプログラミング」という言葉が用いられて解説されています。

つまり、皮膚のシワやたるみといった現象が起きる老化の遺伝子プログラムを、なんらかの方法で書き換えたり失活化することが可能になれば、皮膚の若さが維持できる糸口が見えてくるという理論が、コスメの世界のエピジェネティクスな考え方ですね。

まだまだここは解明されていないメカニズムが多くあって未来はまだ見えませんが、少なくても大きな可能性が残られていて、あちこちの生物研究機関の研究課題となっているのだそうです。

そして資生堂さんのあらたな切り口

こうして解説していくと、最初にあげた資生堂さんの考え方が見えてきますね。
ようはこういうことのようです。

この皮膚の遺伝子の中には、肌の色をコントロールするくすみを抑制する遺伝子「TIPARP」があり、これが紫外線による光老化で情報が正常に伝達されなくなることを明らかにしたということだそうです。
いわば、紫外線の影響によって部分的なシミができるだけでなく、遺伝子レベルで肌のくすみの要因になっていたということでしょうか。

そしてこの遺伝子「TIPARP」の生成を促進する微生物由来の生成物を発見したというのが、今回のこのプレスリリースの記事の内容です。
光老化によって起きようとしている遺伝子のリプログラミングを、正常に戻そうという試みということでしょうか。
まさにエピジェネティックなアプローチというのが、これでご理解頂けたかと思います。

老化というのは、正常な皮膚細胞遺伝子のプログラムのひとつと言えます。
これを後天的に書き換えることによって、整形手術や細胞移植といった施術を必要とせずに老化をコントロールできれば、まさに夢のような化粧品が実現することになりますね。
資生堂さんが考えている「起きようとしている遺伝子リプログラミングを抑制して正常に戻す」というアプローチとは意味が異なりますが、この記事を読むとこんな未来を描いてしまう美里でございました。

まぁ、私の目の黒いうちはなさそうですが。

ではまた次週。

by.美里 康人

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