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コスメをナメてみたら?・・・な話

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美里康人

化粧品ってどんながするのでしょう?
ナメてみて成分を見極めた昔の技術者のお話

もう20年近くの昔、化粧品を口に入れて自社の商品が安全安心であることをアピールするTVCMを展開していたコスメブランドさんがありましたね。
その頃をご存知ないお若い方々はえ???と驚かれるかもしれませんが、実際にそんな化粧品メーカーさんがありました。

毒にならないの?とか、カラダ大丈夫なんだろうか?などとご心配される方もおられるかもしれませんが、今回はそんな話題を少し。

昔の化粧品研究者

化粧品を研究開発する上で、他社商品がどのような成分で設計して作られているのかを調べることは、技術者としての第一歩でもあることは誰でもお分かり頂けるでしょう。
今の時代は製品を手に入れて裏返し、全成分をみることである程度の推察ができますし、熟練になると配合順も参考にすることで設計のノウハウはある程度読み取ることが可能になります。

まぁ、これも技術者としてひとつのスキルですから、どこまで読み取れるかは個々人の技術力と経験の深さがなせるテクニックということになります。

とはいえ、今はこのようなヒントが手に入りますが、私達やその前の世代の技術者の方々は、そのような表示もありませんでしたので、他社製品を手にしてそこからヒントを得るのはさらに難解でしたし、ほとんど何も分からないというのが現実でした。

 --分析機器などを使って、成分分析をすればいいんじゃないの?

少し化学をご存知な方ならそんな声も出てくるかもしれませんが、残念ながらそれはきちんとした化学屋さんならば、それは現実的ではないことがすぐに分かるでしょう。

簡単に説明すれば、いくら高度な分析機器や技術を用いたとしても、成分分析というのはターゲットにする成分を決めてその成分の有無を確認することが第一歩だからなんですね。
つまり、「何が入っているか?」が推測できないと分析のしようもないということなのです。

もちろん、片っ端から“らしそうな成分”をターゲットにして分析を試みて有無を確認し、ひとつひとつ絞り込んでいく方法もなくはないですが、化粧品の成分なんてすごい種類の素材がありますし、その種類の中にもまた数多くのバリエーションがありますので、そんなスクリーニングをしていてはいくら時間があっても足りませんし、それだけでどえらいコストと人件費がかかってしまうことになります。
それで設計のノウハウをリサーチするのは、到底ムリがあるというわけです。

まして、大手ブランドさんレベルの分析データベースやノウハウがあればそれも現実味もありますが、中堅以下の化粧品会社では全く手が出ないのが現実です。

なにかヒントを

というわけで、では昔の化粧品研究者は、どんな方法を使ってヒントを得る努力をしたのでしょうか?

こうなると誰しもが考えることとして、五感を使って何かを掴もうとするのは人間の英知ですね。
五感を研ぎ澄まし、においを嗅いでみたり、はたまた使用感を懸命にみて成分の特徴的な部分を感じ取ろうと努力を重ねます。

例えるなら、当時は油成分なんかは原料の精製技術がまだ高度ではありませんのでしたので、動植物油なんかは特有の異臭を感じるとか。
他にも、ヒアルロン酸なんかが配合されていると、ヌルヌルっとした使用感が感じ取れる・・・だとか、あらゆる情報を手に入れようと方法を駆使したものです。

ポリマーなんかだと、乾燥させると被膜を作りますので強制的に水分を飛ばしてどうなるかをみるといった手段も用いたものです。
この時に水分量を測定するくらいの科学的な方法は用いたものですが。

燃やしてみる

こうして五感のお話を進めてくるとお題の「ナメてみる」という話題に入ることになりますが、その前にもうひとつ、私よりもまだ前の世代の技術者の方々が行っていた判別方法をご紹介したいと思います。

それは、クリームやクレンジングオイルに火をつけてみるという方法です。
化粧水や美容液なんかは水分が多すぎて燃えませんので適合しませんが、油分の多いこうしたアイテムを解析するのに用いたのだそうです。

これはどういう事かというと、上でも述べたようにこの頃はオイル成分の精製技術もまだ進んでいなかったため、石油由来の合成オイル成分を燃やすと低分子成分の不純物が燃えて、ススを含んだ黒い煙が出るたことを利用した方法です。
つまり、黒い煙が出ると合成の油成分を使って設計されたことが判明するというわけです。

なんとも精製技術が進んだ今では考えられない大胆な方法ですが。
実はこの方法、営業の方達もこれを利用していたそうで、お客様のところでライターで火をつけて自社の製品のPRをする手段に用いていたそうです。
つまり、自社の製品には合成のオイル成分を使っていないというPRのための営業ツールとして、いつもカバンにライターを忍ばせていたという逸話が残っています。

まぁ、実際は私達の世代になると、界面活性剤も燃えると黒い煙が出るため意味がないとわかっていましたので、そんな方法は使いませんでしたが。

そして味覚

いよいよ最後にお題の「ナメてみる」という暴挙ですが、ここまでの話の流れからお分かりの通り、その昔の研究者さんは化粧品をナメてみて味覚で成分推測のヒントを得ていました

そんなことをしたらカラダに悪そうなイメージがあるかもしれませんが、実際のところ化粧品に含まれている成分に体内に入って毒になるような成分はほとんどありませんので、口に入れたからといった体に影響するようなことはありません。
仮に添加剤の中にカラダにあまりよろしくない成分があっても、そのような成分の配合量なんてたかがしれていますので、影響するようなものでもありません。

まぁ、だからといって例のCMのように食べるなどという行為は決してオススメできることではありませんが・・・。

それはさておき、こうした味覚からどのような情報が得られるのでしょうか?

実は、成分の中には甘い成分や強い苦味を持つ成分がありますので、そういった成分がどの程度配合されているのか、情報が得られるのです。
例えば、抗炎症成分として有名なグリチルリチン酸2Kなどは甘味料としても昔は用いられていた通り、甘い味がします。
他にもグリセリンなども強い甘みを持っています。
ただし、グリセリンが多く配合されている化粧水なんかをあまりたくさん飲むと、お腹を壊しますので要注意。
そう、グリセリンは浣腸薬としても使われていますので、下痢をしますよ。
まぁ、飲む人などおられないと思いますが(笑)

他には、カルボマーなどは苦味がありますので、こんな情報も得られるというわけです。
保湿成分の中には糖類も多いので甘い成分は他にもたくさんあり、こんなことで何が分かったんだろう・・・と、私なんかは不可思議でしかありませんが。
まぁ、新人の技術者の方にこうやれば分かるんだぞなんていう先輩アピールの道具として使っていたんじゃないのかと思ってしまいますが(苦笑)

ちなみにこういった方法はユーザーさんでも簡単にできますが、成分それぞれの味をご存知ないと判定もできませんので、オススメできないことも付け加えておきます。

今回の話題は以上でつまらない昔話でしたが、そんな時代もあったんだと感じて頂ければ幸いでございます。
化粧品はお口に入っても特に毒になるようなことはありませんが、赤ちゃんや子供さんがうっかり口に入れることは避けないといけませんので、保管には十分に配慮されるようにお願いし、今週の記事を終えたいと思います。

ではまた次週。

by.美里 康人

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