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ビタミンC誘導体は高いのだ!な、お話

ビタミンC誘導体

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美里康人

生ビタミンCと言われる「アスコルビン酸」
これを誘導体と一緒にされても困る・・・というお話

以前にtwitterで化粧品原料のお値段のヒントを少しつぶやきましたが、その後フォローさせて頂いたように、私自身はこうした化粧品の原価が想像できるような情報はあまり公開すべきではないと思っています。
化粧品だけでなく世の中のどんな製品でもそうですが、作られている素材の原価をユーザーさんが知ることになんのメリットもありませんし、むしろその製品や作っている企業さんに対して疑心暗鬼になるだけだからです。

例えば、寿司職人さんがお仕事で使用する優れた包丁などは1本数万円もしますが、その原料は言ってしまえば鍛造した“鉄”でしかありませんから、原材料原価を突き詰めれば身も蓋もないですね。
まぁ、これは少し極論じみた例を上げましたが、いずれにしても製品になった状態のお値段は人件費や生産経費・利益も含め様々なコストが加算されての価格設定ですので、訳も知らずここに触れるのはナンセンスと思っています。

とまぁ、ここまではこの業界企業のフォローですが、とはいえユーザーさんの立場でみた時に悪どいと言える製品が出回るのもこの業界の現実であり、事実。
そういう意味で、消費者が製品の付加価値を推し量るのに、もしも何かの対象となる比較材料があったとしたら、そこを議論するのはおおいに必要なことですし、それを公表することは大事なことと思います。

また例え話を持ち出しますが、身近なものではパソコンを例にすれば数万円の私達が使うパーソナルなパソコンとプロのクリエイターが使用するパソコンでは、見た目はさほど変わらずとも脳の部分のCPUや記憶する部分のメモリー、そして動画をドライブするビデオカードなどなど、それぞれの主要パーツのコストが全く異なり、数倍のお値段になるのが当然ということですね。
専門家ではなくても、それぞれにどこが違ってどの程度のお値段になり、そしてどういった部分に付加価値になっているかは、無知のまま使うべきではなく知っておく必要があるでしょう
これはパーツを販売されている専門のショップさんに行けば、消費者でも情報は入手も可能です。

というわけで今回の話題は、蒸し返すようですがブームが再燃している美白アイテムのビタミンCについて、その種類によってどの程度原料のコストが異なるのか、ヒントのようなものを公開したいと思います。
というのも、以前から取り上げている通り、ユーザーの皆さんに「生ビタミンC」などと妙な価値観を植えつけられている「アスコルビン酸」があまりにもお安く、きちんと皮膚への有効性を突き詰めて開発されたビタミンC誘導体を使ったコスメの価値観がひどく低い評価となることを懸念してのことです。
業界にとってもこれは決して良いこととは思えませんので、ここはユーザーさんの中でも認識を持って頂きたいためです。

では早速本題。

誘導体ビタミンCの意義

最初に、ビタミンCという素材になぜ誘導体などというややこしい成分があるのか、簡単に解説しておきましょう。
これまでも何度か取り上げてきましたが、お読みになられていない方もおられるでしょうし、最近こちらにお越しになった方にも説明をしておきます。

「誘導体」という化学的な言葉が使われる成分の場合、これが存在する意味はケースによって変わってきます。
その中のひとつには、純粋な成分を取り出すことが困難なために、不純物のように構造が少し異なる成分も混ざっているという、マイナスな意味合いを持った成分を称する場合があります。
この場合は皆さんが思い描く通り、「生◯◯◯」「純粋な◯◯◯」という言葉が使われる誘導体ではない素材の方が価値がありますし、良いということになるわけです。

「生ビタミンC」という言葉を用いて製品をPRしているコスメは、ここを狙っていると思います。

しかしながらビタミンCの場合はこういう意味ではなく、「付加価値のある素材にするためにあえて作られた、誘導体」という説明が適していると考えて下さい。
つまり生ビタミンCと言われる「アスコルビン酸」はお肌に使用する素材(化粧品への配合)としては課題を持っていて、皮膚に対する様々な効果を期待するならば、その課題をクリアしなければならなかった、ということなんです。

その課題を次で述べます。

アスコルビン酸の課題とは

その課題とは以下です。

1)酸化抑制
2)皮膚への浸透性
3)両方を満たし、さらに皮膚内部で”生”のアスコルビン酸の状態に戻すこと

1)は皆さんも耳にしたことのある、いわゆる「安定性」のことですね。
ビタミンCは非常に酸化されやすいので、酸化しないように化学構造の酸化する部分を潰してあげないといけないということです。
つまり、「アルコルビン酸」「酸」のままでは酸化されてしまうわけです。

これは、飲料や食品に酸化防止剤としてよく配合されていることがその証明です。
理解が難しいかもしれませんが、「酸化されやすい=他を還元しにいく」ことになりますので、自分が酸化されやすいことで他の成分の還元してくれて安定にしてくれるメカニズムということなんですね。
これは、酸化還元という化学反応の鉄則なのです。

で、“酸化”という化学反応は「空気」「水」の存在下で起きます。
逆に言えばこのふたつがなければ、酸化されずに安定ということです。
身近では、鉄が水分と空気に触れると錆びるのが、この酸化反応の典型例です。
amazonでアスコルビン酸そのままが袋に入って売られていて安定なのは、水にも空気にも触れないから、なんです。
つまり、水と空気に触れると一気に酸化が始まってしまうというわけです。

ここが大切。
生のビタミンCは、水と空気に触れると酸化されて全く還元力(美白)の意味がなくなってしまう、という事実を覚えておいて下さい。

水・空気

化粧品の製剤でこれを避けることができるかどうか?と考えれば、ユーザーの皆さんでもお答えは簡単ですね。
ちなみにアスコルビン酸はオイルには溶けませんので、水を避けた美容オイルには配合できません。

ついで、2)の課題。

これは、私も専門ではないのできちんとした皮膚生理学的なメカニズム解説はできません。
知る限りの結論だけ言えば、こうした有機酸は皮膚の生理として受け付けないそうで、クエン酸なんかも皮膚に塗布してもほとんど中には入っていきません。
どうやら、なんらかの皮膚の生理メカニズムによって、有機酸を内部に取り入れない異物排除システムの働きがあるのだそうです。
そして学者さんはこうした意味のない実験や発表をわざわざやっていませんが、皮膚内の浸透物質の試験を行った際に、アスコルビン酸を塗布しても皮膚内部でほとんど検出されなかったというエビデンスがありますので、ガセネタではありません。

この理由には、ひとつに分子量の問題も関係していると思います。

そして最後の3)の課題。
これは、皮膚内部できちんと還元の働きをしてくれるように、皮膚内部に入った際にもきちんと「アスコルビン酸」のカタチにしてあげないといけないという課題です。
でないと美白成分として機能してくれませんから。

解決法

というわけで、美白成分として皮膚に塗布するにはこれらの課題を解決しないといけないわけですが、方法としては1)については水のない製剤にしてあげるという方法もないわけではありません
でも残念ながら、お顔に塗布してしばらくすると空気に触れますし、皮膚にはたくさんの水分が存在しています。
ですので、いくら水のない製剤で作られたところで、塗布した時点で一気に皮膚の自由水と酸化反応が始まることを見失ってはいけません。

しかも2)の課題はクリアできていません。
当然ですが、もしも仮に皮膚内に浸透できたとしたところで、その時間の間に酸化されてしまって3)の課題の関門をクリアしていません。
いわゆる、酸化されることで「ビタミンC酸化物」になってしまっていますので、この時点でアスコルビン酸ではなくなっているためです。

ですので結論を言うとするならば、上記で述べたことは傾向分析であって100%がそうなるとは言えませんので、たくさんたくさんアスコルビン酸を塗布してあげれば少しの成分がこれらを突破して皮膚内に入り、機能を果たしてくれる可能性は否定できないと言えるでしょう。
高濃度をドバドバ使えば、少しは期待もできるかも?といったところでしょうか。
まぁただ、10年以上前の手作りコスメのブームの時に、amazonあたりでお安くアスコルビン酸を購入されて水に溶かして高濃度状態で毎日ドバドバ使われていた流行の方法が、今やすでに廃退して有効な美白手段として広まっていないことを考えると、ほとんどのユーザーさんが効果を感じなかったことを証明をしてくれていると感じますが。
そりゃそうです。
たった2千円程度で、毎日使っても一生で使い切れない程の生ビタミンC(しかも99%モノ)の原末が大量に購入できるのですから、効果があるのならバカバカしくて高価な美白化粧品なんて買えないですよね(苦笑)

ただし、ここでさらに注意が必要なことがあります。
それは、酸化されたアスコルビン酸はむしろシミの要因になり得る、というマイナス点です。
「デヒドロアスコルビン酸」と言いますが、私が述べるよりもご興味の方はネット検索されてみれば、信用に足る実験成果が出てくると思います。

ここまで解説してきましたが、結局はこれらを全て解決するには、アスコルビン酸の酸の部分を何かが埋めてあげる必要があり、それによって塩化物とすることで皮膚が持つ“塩”の生体親和性を利用して皮膚内に浸透を促すプラス要素を付け加え、さらに皮膚内に入った後に皮膚が持つ酵素によってアスコルビン酸に戻してあげるというメカニズムを達成したのが、「アスコルビン酸誘導体」というわけですね。
ちなみに「塩(えん)の生体親和性」とは、生体に水分を取り入れるアクエリアスのスポーツ飲料理論(食塩水)や点滴に使用する生理食塩水のメカニズムのことで、こののカタチにすることの生体親和性については、あえて私が説明するまでもありません。

ということで、結論はわざわざアスコルビン酸をこのように手を加えて改良してありますので、成分のお値段もうんとお高くなるのは当たり前というわけなんですね。

最後に注目のお値段

さて、すでにこれらの背景やメカニズムをご存知の方は、ここまで話題を引き伸ばしてしまったかもしれませんね。
本題はココでした。
あまりにサクっと書いてしまえますので、引き伸ばしました(笑)

ダイレクトに原料のお値段を公開してしまうわけにはいきませんので、アスコルビン酸のお値段のおよそ何倍ほどするのかを指針にして明かしましょう。

・リン酸タイプ誘導体
成分名:アスコルビルリン酸Na=約20倍~50倍
成分名:アスコルビルリン酸Mg=約50倍

・グルコシド誘導体
成分名:アスコルビルグルコシド=約30倍

・APPS
成分名:パルミチン酸アスコルビルリン酸3Na=約70倍

・エチル誘導体
成分名:3-O-エチルアスコルビン酸=約60倍

・グリセリル誘導体
成分名:ヘキシル3-グリセリルアスコルビン酸=50倍

・油溶性誘導体
成分名:テトラヘキシルデカン酸アスコルビル=約30倍

というわけで、もっともコストのお安い誘導体ですら軽く20倍以上しますので、数千円対数万円で全くもって比較にもなりません。
twitterでつぶやいた、配合されたコスメになった状態で並べて価格を比較するのも失礼なお話、というのはお分かり頂けたでしょうか。
ユーザーの皆さんは、この根拠を参考にされてみて下さいませ。

誘導体タイプのコスメで配合量がしっかり表記されている製品があれば、それはめっけモノというお話は理解頂けると思います。
あとはその誘導体そのものが他の誘導体とどう違ってどれだけ有効性に違いがあるのか、そこに着目されてみれば良いということになりますね。

それでも生ビタミンCを謳われている製品をお使いになるのはご自由ですし、効果もゼロとは言いませんので、何を選択するのかはお任せして今回の記事を終えましょう。
事実はコレというだけのことですので。
 ※業者の方によって仕入れ値に微妙な違いがあっても、そこはお許しを

ではまた次週。

by.美里 康人

2 COMMENTS

Noah The Cat

お久しぶりです。
どこの国とかどこのメーカーさんだとかを言うのは、美里さんのような化粧品開発・研究をされている方にとっては野暮でしょうから言いませんが、本当にこの頃は「ピュア/生/純ビタミン〇を△△%配合」と謳う商品が増えてきて、口コミがやたら持ち上げられてきていますね。ネット広告はもっとひどいのがありますが。
コロナで不景気なので消費者の財布のひもが固くなって、安くて効き目がありそうにうまいこと謳うメーカーの商品が売れ筋なんだろうなと感じています。
メーカーさんが成分の安定性や浸透性をよくするために開発している「誘導体」が、以前の記事で、成分の後ろにしっぽのように別の成分を付けることにより、有効成分濃度自体は(例えばL-Ascorbic Acid濃度)低くなる、ということで、なるほどなぁと思っていたのと逆を行きますね。
変なたとえかもしれませんが、「きゅうり」の生野菜そのままだと保存性に欠ける。塩などを使って「きゅうりの漬物」にするとぐっと商品の保存性が上がるけれど、手をかける分、値段も上がるのに似ているのかもしれないと思いました(笑)
おばかな例えば置いときまして。
安定性と浸透性を考慮した「誘導体」成分も、マスクで荒れたり、乾燥して角質層がスカスカ気味になった肌には、油溶性の誘導体の方が余り皮膚刺激を感じなくて使い心地は良いなと思う今日この頃です。

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美里 康人

>Noah The Cat様

いつもコメント頂き、ありがとうございます。
色々と言いたい事もありますが、SNSの世界では技術者の方々が正しい情報を拡散しようという動きもあり、少しずつ消費者さんも賢くなっていくように感じています。
とはいえ、商売を背景としたインフルエンサーの方々のチカラが膨大に強い一面もあり、なかなか進まないのでしょうけれど。
まぁ、もともと効果がドラマティックではないだけに、私が棺桶に入る時代になってもあいも変わらずかもしれませんね。
まぁ、微々たるチカラではありますが、私ももう少し頑張りますよ。
美里

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