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分割販売ローソンの社会的是非

化粧品分割販売

美里康人ローソンのシャンプー・ハンドソープ

分割販売のなぞ

業界裏ではざわめき中

この問題、少し前にtwitterでリツイートコメを入れましたが、本来化粧品製造業の工場にとっては行ってはならない行為ですので、背景も分かった上で基本原則の「違法と考えるべき」との発信をしました。
とはいえ実際上は、法の隙間を縫ったグレーゾーン領域での商法ですし、母体企業が大きいので薬務課も大きなトラブルが起きない限りは目をつむることでしょう。

しかしながら表には出ていませんが、化粧品製造を担う工場さんの業界では、あちこちで苦情の声があがっています。
簡単にいえば

「ローソンが認められて、なぜきちんと薬事・GMPを遵守した工場を持つ我々が、ダメなのか?」

こういうことですね。

これはごもっともな言い分。
なぜこういう苦情が業界で起きるか、今日はそんな話題です。
薬機法を踏まえて、きちんと説明していくことにしましょう。

薬機法の原則について

まず最初に、なぜ業界があれで騒然としているかの説明を簡単にしておきましょう。

twitterでも発言した通り、『化粧品の製造』とは中身を作る行為だけではなく、その中身を容器に充填して内容量を計り、そしてラベルを貼ったり箱に梱包をして製品が出荷状態になるまでの全ての生産行為が、これに該当します

ですので、薬機法で定められた生産行為は、原料の仕入れから始まって最終の出荷検査・試験まで、きちんと項目ごとにまとめられています。

分かりやすい例をいえば、昨年にメディアでも大きく取り上げられた業務用シャンプーの転売で摘発されたケースがあります。
容器にラベルを貼ったり、ロット番号を勝手に印字したりするだけでも薬機法違反になり、摘発の対象となったんですね。

もっといえば、いくつかのアイテムをメーカーさんが販社で勝手に詰め合わせにしてセット販売することすらも、生産行為になってしまいます。
これは全て、化粧品製造の許可を持っている工場さんでやらなければなりません。

こうした大原則がありますので、工場さんの中には梱包やセットといった中身を扱わない生産行為だけ、つまり以下の生産行為のみが認められた化粧品工場さんもたくさん存在しています。

・包装
・表示
・保管

もちろんこれらの工場さんも、薬機法に従って都道府県の製造業の業許可を取得した、正式な化粧品製造業の工場さんです。
こうして、化粧品の製造許可工場も、中身を製造したり充填したりできる一貫製造の「一般区分」とに分けられています。

ですので、とにかく今回のローソンさんの、容器に中身を詰めたり計ったり、そしてロット印字を店頭で行う行為は、法的に全て完全に化粧品の製造行為にあたるのは誰がみても明白なのが原則なんですね。
しかも中身を扱いますので、「包装・表示・保管」の区分どころか、「一般区分」の一貫製造工場に該当してしまうというわけです

そしてグレーゾーン領域

そこでこれを大原則として踏まえた上で、グレーゾーンとして出てくるのが、今回の「分割販売」という販売手法ということです。
平成4年、厚労省から各都道府県に通達が出されています。

で、これはもともとヘアサロンなどで業務用のシャンプーやコンディショナーをお客様が使いたいと要望した時に、それを容器に小分けしてあげて販売することを特別に認めたというのが、ことの経緯です。
確かに、プロ向けの業務用シャンプーは、一般向けに小さな容器で製品化されたものがありませんので、お客様がどうしてもこれを自宅で使いたいと要望した時に、是正措置として認めることになったわけです。

ここには、ヘアサロンという美容業界の国家資格を持つ美容師さんがその知識をもって責任の元に行うことが背景にあったことから、認められたのです。
いわば、誰でも良いというわけではなかったのですね。

加えて厚労省では、最初に書いたようにエコの観点から海外ではこういった分割販売が許されているお国もあることから、以下の条件をつけることで緩和措置としています。

「環境保護及び資源の有効利用の観点から,化粧品の使用済み容器の再利用のために」

ですので、この条件に合致しない分割販売は違法行為になります。
(リサイクル容器など、厳密には曖昧ですが・・・)

過去にもLUSH

さて、実はこういったいわゆる化粧品の量り売り販売は、海外のいくつかの国では既にずいぶんと昔から行われていた販売手法です。
特にヨーロッパは環境問題に対する概念が先進的で、早くから化粧品の容器ゴミをどう軽減するか、様々な試みがなされてきています。

私達にそのもっとも身近な例が、皆さんもよく知るイギリスのブランド「LUSH」です。
固型石けんの切り売り販売をされて、もう10年以上になります。

実は15年ほど前には、フェイスパックをまるでアイスの量り売りのようにおたまですくい、簡易容器に入れて販売するということまでやっていました。
そのショップさんを目の当たりに拝見しましたが、まさにアイスかお惣菜の計り売りのように数種類のタイプが用意され、店頭に盛られていました。
しかもなんとあろうことか、フレッシュ感や美肌効果を演出するために、その表面にはきゅうりやレモンのスライスや、花びらまで散らして飾られていました。

どうやら横浜の許可をとった小さな工場で、手作りで作られたものを店頭で販売していたようですが、さすがに業界で大きなクレームの声があがり、中止を余儀なくされたようですが。

そりゃそうですね。
店頭のオープンなスペースで大勢の人が行き交い、菌はどんどん降り注いでますし、今ならウイルスが混入しないのか?といったクレームが、たくさん寄せられそうです。

まぁ、さすがにLUSHさんもこういった製品の量り売り販売は自粛され、今は固形石けんの切り売り販売が継続されていますが、この販売手法はまさにローソンさんのやり方と同じで既に前例があるということになります。

とはいえ、一時は化粧品工場さんからは「なぜアレが認められるのか?」と、各都道府県の薬務課に多くのクレームが殺到したそうです。
今のところ固形石けんだけですので、中身に菌が忍び込むリスクは非常に少ないことと、海外のブランドということから、特別に見逃されているということのようです。。

化粧品工場にとっての違和感

ここまで現状を説明してきましたが、こうなると多くの化粧品工場さんが大きな違和感を感じることになるのはお分かりでしょうか。
特に上で触れた「包装・表示・保管」の製造行為しか許可を持たない、化粧品工場さんですね。

なぜなら、これらの工場さんも本当は、中身を一から作る設備は持たないにしても、中身を入れ替えたり、業務用の中身を小分けして製品化といった行為をしたいのは、当然のことです。
しかしながら、化粧品工場の中身を扱う製造許可を取得するのは

ほん~~~~~~~っとに大変で
ひじょ~~~~~~に、めんどくさいのです。

何度も経験していますが、衛生管理(クリーン環境)や試験設備、工場の設計・レイアウトや扉の枚数や構造に至るまで、実にめんどくさくやかましく問われて、なかなか許可が下りません
工場内部のどこかに外部の空気が出入りする隙間が一か所あるだけでも、指摘されます
そして資格を持つ管理者まで必要になりますし。
しかもその設備や機械の設置のために、膨大な設備投資が必要です。

そんなことから、こういった包装や梱包といった生産行為しかできない工場さんは、中身を扱うことを涙をのんで諦めているわけですね。
もちろんそれが可能になるなら、もっともっと大きな利益があげられて、商売の領域も大きく拡大するのですから、その法律に対するガマンたるや、ローソンさんのフランチャイズ一店舗レベルのお話ではありません。

例えば、化粧水を工場さんから1トン仕入れて容器に小分けすれば、何万本という製品ができあがります。
すると、1本千円にしたって千万単位の製品を売ることが可能になるんです。

製造行為は、ローソンさんと同じく容器に詰めて計ってラベリングし、あとはこれまでのように包装するだけです。

そりゃ、困難な厚労省の許可を乗り越えられずにガマンしてきた工場さんが、カンカンに怒るのもムリもないお話ですね。

この法律の隙間狙い

さてさて、このような化粧品製造工場の業界や法律を、あの大企業さんが知らないわけもありませんね。
ここでは企業名は書きませんが、生産を担っておられる例の製造工場さんも。

そこでこういった現状を踏まえて、法の隙間と言いますか、もしくは言い訳とでも言いましょうか、そんながあったのです。
それが、この法律の緩和措置に設定されている「条件」です。

まずは環境保護の観点からの取り組みが条件と最初に書きましたので、これは良いですね。
良いというか、これは他の工場さんでも大義名分を掲げれば済むことです。

ところがもうひとつ、上で書いたような他の工場さんのビジネスビジョンにはあてはまらない条件があったのです。

通知の引用文です。

* * *
予め小容器に充てんしておく行為は小分け製造に該当し、薬事法(・・・略
* * *

つまり説明によれば、「お客様からの要望によって、その場で詰め替えること」が条件で、あらかじめ容器に詰め替えてたくさん作っておくことは許されないという意味です。

ここがローソンさんのやり方と、今もガマンを強いられている工場さんのやりたいこととの相違点で、うまく法の穴を突いたという点です。
いやいや、私であればちょっと頭をひねって、通信販売でも顧客からオーダーが入ってから詰めて販売するというシステムにすれば良いですよね。

いや・・・誰もその小分けの場を監視しているわけでもないので、「そういうことにしておいて・・・」なんて、もっとズル賢いことは言いませんよ(笑)

いずれにしても、ローソンさんが誇大解釈して許されるのならば、たくさんのOEM工場さんは隙間を狙ってあらゆるビジネススタイルを考えることでしょう。
そんな声も、すでに多方面から耳にしていますし。
そりゃ誰だって、儲かる商売したいんですよ。

問題点

ここまではOEM工場さん達の立場を中心に話をまとめてきましたが、最後に私の立場で大きな問題と思って止まないお話に触れて、終わりにしようと思います。

それはやはり、まずは技術屋としてこの販売スタイルはあり得ないと感じることです。
まだ上で書いたように、LUSHさんは固形石けんだけですので、中身の中の方まで菌に汚染されることなどはほぼあり得ないでしょう。

しかしながらローソンさんのは、液体のシャンプーだったりハンドソープです。
化粧品のことについて全く知識もないアルバイトの店員さんが、この中身を容器に詰めることのリスクが、ないわけはありません。
プロがいるヘアサロンさんとは、全く条件が異なります。
店内には菌がたくさん浮遊していますし、プロではないので手を衛生にする方法すらも怪しいと思わざるを得ません。

そして何より、一度使った持ち込み容器の洗浄はどうやっているのでしょう?
きちんと滅菌する方法は確立されているのでしょうか?
また、その確認はどうやるのでしょう?

ここはどうやら、「ユーザーさんが自宅で詰め替え容器に自己責任で詰め替えたのと同じ」という逃げ道のようです。
つまり中身が腐っても、消費者の自己責任ということです。

技術者として、リスクを考えるとあり得ないですね。
今のこのご時世なら、ウイルスが入る・入っている可能性もあるわけですし。

こちらに、厚労省の通知文を転載しましょう。

2 分割販売に際しての遵守事項
 (1)分割充てんした小容器は,法第61条及び第62条で準用する第52条各号に掲げる事項を表示し,かつ,分割販売を行った者の責任を明確にするため,該者の氏名及び住所を併せて表示すること. (特に,消費者が持ち込んだ小容器を再使用するときは,製造番号が分割販売を受けるたびに代わる場合があるので,その都度シール等で表示すること.)
 (2) 分割販売の適切な衛生状態を確保するため,次の事項を遵守すること.
    ア 製品の保管は, 衛生的に行うこと
    イ 分割充填する場所は,清掃に努め衛生管理を適切に行うこと
    ウ 分割に使用した器具類はその都度洗浄し,衛生的に保管すること
    エ 消費者が持参した小容器に分割充てんするときは,その小容器を十分洗浄する等衛生の保持に留意すること
    オ 製造番号が異なるものは,充てんしてはならないこと

※平成4年9月10日 厚生省薬務局監視指導課から各都道府県衛生主管部(局)への事務連絡から主要部を抜粋

そしてさらに異なる観点から、店舗さんにアドバイスして差し上げたいことがあります。
おそらく現実を理解されておられないと思います。

今回のこのシステムは、この法律の緩和措置にもきちんと明記されている通り、充填行為(製造行為)の責任は店舗さんにあり、さらには充填を行った担当者まで明記して記録・印字おかねばならないことになっていて、つまりは薬機法で製造責任が店舗さん(担当者にも)に帰属することになっています。

ということは、もしもこの製品で消費者さんがなんらかの皮膚やカラダに健康被害などが生じた場合、店舗さんに責任が掛かる可能性が十分にあるということになります。

つまり、もしも製造工場さんが「ウチはきちんと作っていた。 それは店舗で充填した時に何か混入したんだろう。」と逃げれば、薬機法で店舗さんが摘発を受けることになるわけですね。
まして、その時の被害者に対する損害賠償は、膨大なものになります。

さて、こうしたコンビニ店舗はどなたが経営者でしょう?
そう、ローソンではなく個人経営のフランチャイズなのです。

大きなリスクを覚悟した上で、実験販売に至ったのでしょうか?

業界裏で様々な動きが出てきていますので、また何かあればこちらで報告させて頂こうと思います。

ではまた次週。

by.美里 康人

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