週3で異なる目線の美容記事をお届け
美里康人
それで死なない菌もいますよ・・・というお話
その1回目
今回のお話は、年末に掛けて2回に渡ってお送りする菌の話題。
ご存じない方にとっては、非常に面白い話題ではないでしょうか。
中には私達化粧品技術者も知らなかった興味深いお話も含まれているかもしれませんので、最後までお読み頂ければと思います。
この記事の目次
カビは細菌ではないの?
今回の話題に入る前に、最初に軽く説明しておかないといけないことがあります。
ご存じな方は読み飛ばして頂いて良いかと思いますが、いわゆる「菌」のことをお話するにはきちんと分けて考えて頂かないといけないことですので、ご了承下さいね。
まず最初に以前にも記事にしましたように、今世界的にパンデミックを引き起こしている病原性の「ウイルス」と、身の回りや前回お話したような体に生息している「雑菌」は、全く別の生き物であることを思い出して下さいね。
ウイルス対策に日本語では「手指の滅菌・殺菌」なんて言葉を使うので、ついウイルスも菌なのかと思い込んでしまいがちですが、厳密にはこの言葉は間違っていますので、誤解のないようにして下さい。
雑菌は死滅させられる殺菌剤でも、ウイルスには効果ないなんてことは日常茶飯事ですので、まずここは念を押しておきましょう。
そして今回のお話で大切なことですが、皆さんが頭に思い浮かべる「菌」というと、食べ物に生える「カビ」も雑菌の一部と思い込みがちでしょうか。
もちろん、広い意味での雑菌の一部で間違いではありませんが、これは「細菌」とはまた別の生き物なんです。
ここを少し深堀りしておきましょう。
細菌と真菌
さて、カビは菌の中でも皆さんが特に身の回りで触れることの多い菌の一種でしょう。
それは、実際に私達の目に見えるカタチで繁殖する菌だからなんですね。
例えばお餅に生える青カビもそうですし、ブルーチーズの菌もその一種ですね。
あとは、お風呂場の目地などが黄色や茶色になってこびりつくのも、カビの仲間です。
こうしてカビは私達人間の目にも見えるカタチで繁殖するため認識しやすく、それはつまり菌そのものの大きさがうんと大きい微生物だからなんですね。
こうした目にも見えるほどのサイズの細胞組織を持つ菌は、雑菌の中でも「真菌」と呼ばれて区別されています。
他には日本酒の醸造や、パンの発酵に用いられる酵母菌も、フワフワとした白い粉を振りかけるところを見たことがある通り、やはり真菌の部類に入ります。
でも、「細菌」という言葉を目にすることはあっても、「真菌」という言葉は馴染みがないかと思います。
ここで大切なのは、これらの真菌は実はウイルスと同様に私達の生活に非常になじみ深い「細菌」とは全く別の生き物で、異なる生物であることを覚えておいて下さい。
例えるならば、動物で言う哺乳類と爬虫類くらい違うと考えれば良いですね。
この違いは、英語にすれば明確になります。
細菌→Bacteria
真菌→Fungi
細菌の方は皆さんもよく耳にする一般的な言葉で、「バクテリア」ですね。
そう、人の目には見えないだけで、実は身の回りに大量に生息していてなじみ深い雑菌のほとんどは「細菌(バクテリア)」であって、カビや酵母とは全く別の生き物だということなんです。
例えば、ヨーグルトやヤクルトの菌は乳酸菌、食品に繁殖して腐らせてお腹を壊す大腸菌(O-157など)、先日の記事に書いた皮膚に常在している美肌菌は表皮ブドウ球菌で、ニキビの元になる黄色ブドウ球菌などなど・・・。
細菌と真菌の違いについて専門的な説明は長くなるのでここでは触れませんが、生活環境の中に無数に存在している雑菌のほとんどは、この「細菌」ということを覚えておいて下さいね。
前置きが長くなりましたが、今回の話題は身の回りについて回る雑菌の代表である「細菌」ついての、不思議なお話になります。
この先で出てくるお話は「真菌」や「ウイルス」とは頭の中で分けて考えて頂くことを念押しし、早速本題に入っていきたいと思います。
つまり、カビといった真菌やウイルスとも接点はありますが、同じに考えてはならないことを覚えておいて読み進めて下さいね。
菌は高温に弱いはず?
皆さんはこの風景をご存じでしょうか。
世界初の世界遺産、いわば世界遺産第一号の自然の光景ですが、アメリカのイエローストーンという火山地域にある有名な景色の画像です。
日本で言えばつまりは温泉が噴き出しているところですが、規模が全く違いますね。
直径は100mほどあり、中央部で深さは50m以上あるそうです。
この周辺には何十mもの高さに噴き出ている噴出温泉も数多くありますが、その中で「グランド・プリズマティック・スプリング」と呼ばれて大変珍しいのが、虹色に発色しているこの自然源泉の光景です。
さてこの温泉、なぜ虹色なのでしょうか?
私もテレビで観るまで知らなかったのですが、これはなんとバクテリアが作り出した光景なのだそうです。
まず驚いたのが、なぜ虹色になっているのかの不思議。
これは、細菌が生成物として作り出す色素が織りなす色の変化で、中央から周辺部へと浅くなっていくにつれて温度が異なるため、存在している細菌(バクテリア)の種類の違いによるものなのだそうです。
つまり、細菌の種類によって生成する色素が異なるため、こうして色が変化して発色するということなのだそうです。
簡単に説明すると、ど真ん中のもっとも高温の部分はさすがに菌がいないため、普通の水の色に太陽光が偏向して見える、青みがかったグリーン。
そして、およそ72℃ほどまで生存可能なシアノバクテリア(シネココッカス)は黄色の色彩を作っていて、オレンジから赤の色彩を作っているのはフォルミディウムでおよそ50℃。
さらに外側の茶色の色彩を作るのはカロトリクスで、約45℃の帯域で生存しているのが分かっています。
当然、色素は混じり合っている部分がありますので、グラデーションになって虹色になるというわけですね。
それにしてももっと驚いたのは、やはり生息温度。
ここまでの70℃以上というのも菌の概念を覆す驚愕ですが、なんと調査によればほぼ中央に近いところの85℃でも生息しているのが確認されているということです。
クロロフレクサスという、皆さんもご存じ緑色のクロロフィルを光合成で作り出すバクテリアなのだそうです。
面白いことに、当然のことながら冬と夏では温度が変わるため、全体の色彩も変化するのだそうです。
まさに自然の驚異を垣間見た映像でした。
こうして事実背景を知ると、一度は行ってみたい衝動に駆られるのは私だけでしょうか。
皆さんも興味を持たれた・・・わけもないか(苦笑)
私達の化粧品製造業業界でも、生産機器の洗浄で85℃といった熱湯で滅菌をするといったことがよく言われてきましたが、厳密にはまだまだそれでは死滅させられない細菌が存在していることを知った、ひとつの話題でした。
この業界で工場に従事されている方も、頭の隅っこにでも置いておかれて下さいね。
次回はいよいよ2021年の最後の記事になりますが、今回の話題の続きで、皆さんの身の回りでなじみ深いよく知られたバクテリアのお話で一年の締めくくりにしたいと思います。
ではまた次週。
by.美里 康人
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