美里康人
この記事の目次
ニベアクリームが話題になったきっかけは?
最初の「ニベアクリーム缶」が発売されたのは、1911年なので、なんと100年以上も歴史のある商品です。
そんなニベアクリームですが、近年、あることが理由で、ユーザーさんの間で、ちょっとしたブームになりました。
それは、海外の高級クリームで有名な「ドゥ・ラ・メール」のクリームと全成分が非常に似ていると話題になったことがきっかけです。
関係者は、予想もしていなかったであろう、そんな妙なきっかけからブームとなったニベアクリームは
いわば、ドラッグコスメ系に分類される商品で、入手のしやすさからもユーザーさんの注目を集めたのかもしれませんね。
そうそう、このブームで、一部のユーザーさんの間では、ニベアに何かを混ぜるという行為も流行ったようですが、
メーカーさんの見解は下記のとおりです。
ニベアクリームを、他の製品と混ぜて使わないでください。
他の製品を混ぜると、ニベアクリーム本来の特長や成分の働きなどがそこなわれてしまう可能性があります。
ニベアクリームの特徴
さて、一時期、ユーザーさんをザワつかせた!?ニベアクリームですが、
化粧品としては、実は、とりたててブームになるほどスゴイ性能を持っているわけではありません。
ボディケア用ですから、油性感も強く
お顔に塗るとギラつく
ミネラルオイルとワセリンをベースとしたW/Oタイプのクリームです。
特に「合成がー・・・」と騒ぎ立てがちな
ナチュラル嗜好のユーザーさんにとっては
典型的な「石油系処方」ということになりますね。
あ、いえいえ。
だからと、このニベアを叩く記事ではないので誤解なく(苦笑)
変なブームに便乗して取り上げるのを好まないので
事実をまず明らかにしただけのことで
目に見えない花王さん(厳密にはドイツのバイヤスドルフ社)の技術のみどころを
きちんとご紹介したいという記事と思って頂ければ良いでしょう。
いわば、私達技術屋が学ばなければならない製剤ポイントということですね。
ニベアクリームの成分分類をもう一度
前置きが長くなりましたが、やっと本題・・・の前に、
前回も書きましたが、化粧品技術のヒミツを紐解くカギとなる成分分類をもう一度記載します。
化粧品の製剤解析のために「成分の分類」は大事な手掛かりですね。
水と水性成分
- 水
- グリセリン
オイル成分
- ミネラルオイル
- ワセリン
- 水添ポリイソブテン
- シクロメチコン
- マイクロクリスタリンワックス
- ラノリンアルコール
- パラフィン
- スクワラン
- ホホバ油
- オレイン酸デシル
- オクチルドデカノール
感触調整剤・色成分
- ジステアリン酸Al
- ステアリン酸Mg
- 硫酸Mg
ニベアクリームのヒミツは界面活性剤
「おやおや???」
もう一部の方は気付かれたかもしれませんね!
お気づきになった方は
コスメの見極め力が高いと自負頂いてよいでしょう。
あ・・・花王さんのHPをみられて
その技術をご存じだった方は、ダメですよ(笑)
正解は
「界面活性剤が全く配合されていないこと」
でした。
これだけのオイル成分をクリームにするには
普通はかなりの量の界面活性剤が必要になりますね。
まぁ、日本の高い技術力で設計されたクリームでも
市場の90%以上の商品は
全成分の上位(最低でも5~6番目以内)に
必ず界面活性剤が配置されているはずです。
もっと正確にいえば
「植物エキスといった美容成分によりも必ず前に」
ということになります。
※美容成分は、1%以上にはほほぼぼなり得ないため
だから、ニベアクリームは、エマルジョン(乳化)製剤の基本設計として
非常にユニークな処方ということができます。
とはいえ、実はそのようなエマルジョン技術は
他にないわけではありません。
ここはユーザーさんには分かりづらいのですが
ある種のゲルネットワーク構築をすることで
達成は可能です。
昔からある頭髪用の「リンス」がこれにあたります。
しかしながら、この処方には
その技術の根幹となる特長の成分が
配合されていません。
※「セタノール」などの高級アルコールが代表的
つまりプロの技術者がみても
非常にテクニカルかつ
ユニークな商品であるということができるわけですね。
ニベアクリームの処方設計はオイセリット
“テクニカルかつユニーク”なニベアクリームは
どのような技術で設計されているのでしょうか?
そのメカニズムのノウハウは
以下の2点にあります。
1)ラノリンアルコール
2)ジステアリン酸Al、ステアリン酸Mg
このふたつの成分で
オイル相を中心にしたゲルネットワークを構成し
水を安定化させて乳化を達成しています。
このメカニズムを発見した薬学者のオスカー博士は
これを「オイセリット」と名付けたのは
有名なお話ですね。
ゆっきー
オイセリット処方の特徴
そしてこの成分を<感触調整剤・色成分>のところに入れたのにも
ちゃんと理由があります。
この「オイセリット」の特長は
界面活性剤を使わずに乳化を達成したメカニズムにありますが
さらにはステアリン酸Alの結晶性により
真っ白な牛乳のような色のクリームができることも
大きな特性です。
※余談ですが、白いクリームの見た目からNIVEAは命名され、ラテン語で「白い雪」という意味があるそうです。
加えて硫酸Mgとの調整で
ベタつきのない油性クリームが設計できることも
隠れたノウハウです。
とまぁ、なにより
あの価格でこれを実現していることが
なによりのスゴさということでしょうか。
ちなみにこのクリームを白く見せる設計テクニックには
紫外線遮蔽剤として有名な酸化チタン(TiO2)もよく使われ
時にスキンケアクリームの全成分をみて
「なぜ酸化チタンが?」と
感じることがあるかもしれません。
お湯に入れると白く乳白になる入浴剤にも
この技術が活用されていることがあります。
もともと絵の具の白に使われているのが酸化チタンですので
その意味はよく理解できると思います。
もしみつけられたら
「おぉ、そういう事か!」
と、小さな感動を感じ取ってください(笑)
一年の締めくくりにはつまらない記事だったかもしれませんが
化粧品設計者の苦労の一断片をお伝えして
新年を迎えたいと思います。
また来年も、こうした裏話を随所に散りばめてまいります。
この業界もまだまだ捨てたものじゃないなと
感じて頂ける一年になりますように。
美容成分個々についての
原料メーカーさん資料のパクりコメントや批判が人気のようですが
基本製剤の裏話の方に興味をお持ち頂けるよう
また一年頑張ってまいりますので
令和2年もよろしくお願い申し上げます。
by.美里 康人