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皮膚に水は浸透しない~その2~ 浸透する条件

温泉水

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美里康人

生体内浸透を果たす「生理食塩水」
ここにヒントがあるのか?

「生理食塩水」という言葉はご存知でしょうか。
いわゆる体内に薬剤を投与するための点滴液のことで、医療関係の方やバイオケミカルに明るい方はよくご承知と思います。

とはいえ、この言葉が初耳のユーザーさんでも「ポカリスエット」「アクエリアス」と言えば、誰でもご存知でしょう。
研究者の方が点滴液から発想を得られた、これつまり同じメカニズムなんですね。

そして、あの青と白のイメージカラーは海の色。
これもきちんと根拠があってのカラーで、海の水は塩水というのと繋がりがあるという意味です。

前回までのお話で、化粧水の保湿を求めるためには水の表面張力を物理的に下げる界面活性剤やエタノール・・・といったお話をしてきました。
ただし、さらに水への研究を進めていくと、全く異なるメカニズムを応用すればその可能性が見えてくる・・・そんな話題を今回は取り上げてみたいと思います。

生体親和性という考え方

ユーザーの皆さんも、化粧品を選ぶ時のポイントとして“成分の浸透性”というアプローチで想いを馳せたり情報を収集されたことがあると思います。
おそらくそうした情報の中で、ヒアルロン酸やコラーゲンといったポリマーは分子が大きくて皮膚内には浸透しないといったお話などを知られたことでしょう。
いわば、成分がきちんと皮膚の中に浸透するための条件、という意味ですね。
こちらのブログをご利用頂いてきたユーザーさんならば、実際はそんな単純なことではないのはもうご承知のことと思います。

こちらのブログでも、成分が浸透するための条件は単にこれだけでなく、油溶性成分なのか水溶性成分なのかといった課題など、その他の要素を解説してきています。

ご記憶が飛んでしまわれた方は、11年前になりますがこちらの過去ログを参考に。

ナノコスメを知る 秘話7
https://cosmetic-web.jp/column/nano-technology-7/

成分が浸透するか否かは、分子や粒子の大きさだけでなくいくつかの条件があるということなのですが。
この条件の中のひとつにも「生体親和性」という言葉で出てきます。
表面張力といった物理的な課題だけでなく、生物の生体が他の条件を超えて能動的に受け入れようとする機能と考えればよいですね。

リポソームの浸透技術DDS(ドラッグデリバリーシステム)機能も、その中のひとつであることも何度か取り上げてきています。

というわけで、もちろん今回のテーマの水だったところで同様で、上の記事でも記しているように水の分子なんてたかだか分子量は18ですし、仮に分子集合体と考えたとしたって18✕6で108ですから、分子の大きさだけで考えれば本来は完全に浸透していいはずですが、そうはいかない解説をここまでしてきました。

ですので、水も同様に生体親和性によって皮膚内に浸透しやすくなる条件がありますし、皮膚内までいかなくても「ヌレ性」が高まるレベルは容易に達成でき、それが冒頭で少し触れた「生理食塩水」の考え方です。

簡単にいえば、水にある程度の濃度のを加えてやるだけで、生体への浸透が破格的にアップするという理論です。
この理論を取り入れて臓器に水分が補えるように開発されたのが、ポカリスエットだったのですね。
つまり全くの水だけを飲んでもほとんどが汗や尿で排泄されてしまうことを解決した、理にかなった生体水分補給飲料というわけです。

ご存知なかった方は、こちらの動画が分かりやすいですよ。

ポカリスエット誕生のお話2020
https://www.youtube.com/watch?v=241BtNV7olU&t=60s
※youtube動画が再生されます

でも、なぜ食塩を配合しただけで生体への浸透が一気に高まるのでしょうか?

生体内浸透の理論

ここで、なぜポカリスエットや病院で使われている生理食塩水が生体への浸透に関与しているのか、解説していきましょう。

上で説明したように、この理論は食塩を水に配合したものなのですが、これは単に食塩と考えるのではなく正式には“塩化ナトリウム”と呼び、「電解質」と呼ばれる化学物質のひとつです。
食塩は化学式で以下です。

 NaCl(塩化ナトリウム)

で、言葉で解説するとナトリウム(Na)塩素(Cl)が反応して中和してできる塩(えん)成分で、こうした類の物質を電解質と呼んでいます。
電解質と呼ばれる物質には他にも色々とあり、食塩はそのひとつと考えれば良いですね。
でもなぜこの塩化ナトリウムが生体浸透を高めるかといえば、それは生物のルーツに理由があります。
さらにいえばそれは、ポカリスエットのイメージカラーとなっている海の水にルーツがあります。

あまりここのお話を詳細にしていくと難しくなっていきますので端的に説明すると、人類も含めすべての生物は海から創生したためです。
それは地球という星が生まれたところに遡り、海ができたところから生物が生まれたメカニズムに理論の根源があるのですね。
つまり、すべての生き物にとって海の水の食塩水は重要な役割を果たしているというわけです。
ですので、生物の細胞の設計と大きく繋がりがあり、細胞内に満たされている成分と大きく関係していて、その中のひとつがナトリウムであり、海水であり、食塩水ということになります。
なので、いわば「生体水が食塩水」と考えれば理解しやすいですね。

そしてもう少し深く分かりやすいお話をすると、ナトリウムと書いてしまうとあまり身近に感じないと思いますが、「ミネラル」と書くとよく聞く言葉でおぉ!と感じませんか。
ミネラルと聞くとなんだかよく分からないけど人間にとって必須な食材成分ということはご存知でしょうし、すぐに思い浮かべるのが“ミネラルオイル”と思いますが、これつまり全て繋がりがあって、ようは日本語にすれば分かりやすく「鉱物」のことで、イコール火山からできた鉱物で金属物質なのですね。
ただし、ミネラル成分とミネラルオイルはイコールではありません。

はい、ピンときた方は素晴らしいです。
Ca(カルシウム)Mg(マグネシウム)も全てこのミネラルに含まれ、すべて生物にとって根源となる、生物細胞に含まれる重要な成分ということなのです。
骨がCa(カルシウム)でできていて大切と言われるのも、ここに生物のルーツがあります。

冒頭では“海の水”と説明しましたが、もっと元をたぐっていくと火山から生まれた鉱物から長~~い年月の雨によって溶け出して流れた成分がナトリウムであり、それが海水となったというのが地球から生物が生まれた歴史だったのですね。

念のため書いておきますと、火山の鉱石は石ですしミネラル(鉱物)は金属と書きましたので、本来は水には溶けずに雨で流れることはありません。
その、水には溶けないナトリウムやカルシウムなどが溶け出して海水となったのには訳があり、火山という高温であったことがひとつ。 そしてもうひとつは、その頃の地球は酸素などはなく火山ガスである塩化水素や亜硫酸ガスが大量に存在していたために、水蒸気にこれらのガスが溶け込んで強い酸になった「酸性雨」だったことから、アルカリであるナトリウムやカルシウムなどの金属物質が水に抽出されたと言われています。

生命の神秘と歴史って、本当に面白いですね。

というわけで簡単にまとめると、こうして全ての生物の細胞にはミネラル成分であるナトリウムやカルシウム・マグネシウムなどがたくさん存在していて、非常に重要な構成成分であるために生体が取り入れようとしてくれるのが食塩水(塩化ナトリウム)だったということです。
なので同様の電解質であれば、カルシウムやマグネシウムを含んだ成分でも同様に効果が見込めるということになりますね。

とはいえ、ここで否定的なお話も致しますが、以上の生体に水分を取り込むメカニズムはあくまで臓器への浸透ですので、皮膚の場合は少し事情は変わってきます。
なぜなら、皮膚は皆さんもよくご存知の臓器とは異なる防御機能“バリア層”があるからです。
ここは別の要塞が待ち受けていますので、ここを突破することはまだままなりません。

そうはいっても、この生理食塩水の理論を化粧水に取り入れることができたなら、まずはステップとして角質層の入り口のところまで“ヌレていく”条件が満たされることになりますね。
化粧品の処方設計は単純なものではありませんので、さらに複合的な要素を加えればよいだけです。
まずはとにかく、なんの処方設計に工夫がなされていない水に美容成分を配合しただけよりははるかに浸透効果と保湿効果に期待が高まると理解すればよいでしょう。

もちろん私達化粧品設計の技術者は、単純に塩を配合するのではなく他の美容効果も期待できる塩類(えんるい)を選択することでさらに効果アップを計ることができることでしょう。

温泉水に可能性

さて、ここまでの解説はまだ皆さんにもあまり難しくないお話でした。
でもまだこれだけでは、私達化粧品技術の研究者としては物足りないですよね。

せっかくの化粧品技術のブログですから、ここからさらにプロとして追求していくため、そしてユーザーさんからお金を頂いて保湿を真剣に考えるのであれば、もう少し考えを及ぼす必要があります。
その触りのキーワーワードだけ解明して、まとめていきましょう。

ここまでの解説で、ユーザーの皆さんもひとつ引っ掛かったことがありませんでしたか?
そう、温泉

火山の申し子であり、そこで培われて溶け出してきた成分の宝庫であるのが温泉ですよね。
これが生物の生体にとって無用のモノであるはずがないと考えるのが、セオリー中のセオリー。
もちろん、化学的に分析された成分にもそれは明確に示されています。
“ナトリウム泉”という言葉をご存知ない方はおられないですし、温泉地に明記されている成分分析値をみてもナトリウム・カルシウム・マグネシウムが豊富に含まれているのはまやかしでもなんでもない事実。

 --温泉化粧水、サイコーなんじゃん!!

まぁ、そういうことになりますし、否定はしません。
間違いなくお肌に良いですし、よく“美肌の湯”と称されたり、温泉に入るとお肌がツルツルになるのはこの効果である理屈も、ウソやはったりではないと思います。
ただの精製水に成分を入れただけの化粧水よりかは、きっとプラス要素は大きいと想像します。

でも、それ以下でもなければ以上でもないですし、それではお金を頂く化粧品としては芸がなさ過ぎると感じます。
やはりこれだけではバリア層には湿潤しませんし、高度な技術を駆使したコスメと言えるかといえば・・・。

ならば、この温泉と生体のメカニズムをもっとしっかりと解明し、より高度に進化した理論にすることができるはずと、おそらくユーザーの皆さんでもなんとなく見えてきますよね。
材料のキーワードは、既に転がっています。

さらに見えてくること

ここまで書いてきたように、ポカリスエットのHPにも「電解質」と書かれていますし、さらに「イオンウォーター」と説明されています。
化学の世界で、電解質とは水の中でイオン化する物質のことを指していますので、水の中に溶けた塩化ナトリウムのナトリウム(+)がイオンとして存在(乖離と言います)していることから、“イオンウォーター”と称されています。

「イオン」と書くと怪しい理論を唱える方が多いので懐疑的に感じる方もおられるかもしれませんが、ここまでは化学の常識ですので化学解説です。
食塩のイオン式は、中3の理科で習いましたね。

 Na+Cl→NaCl

この水の中に存在するミネラルイオンをさらに深く追求していくと、いわば温泉水の理論をもっと高度に進化させることができるのではないでしょうか。
カルシウムは?マグネシウムは?・・・と。

 海水~生理食塩水~ミネラル~イオン

技術者なら分かる通りこれらは完全にリンクしているのは事実ですし、大きなヒントが隠されています。

さらに、水のイオンとしての挙動はまだまだ未解明な部分が多いと言われています。
水はイオン式で書くと

 +OH→H

です。
でも純粋な水は電気を通しません。
だからと、電離に関係しないかといえばそういうわけではありません。
例えば水素結合もイオンと関係していて、その距離間もはっきりとは解明されていません。
前回の記事でも画像で示したように、水の分子は1個でいるのではなく6個の集合体になっていることや、それが常に維持されているのではなく様々な条件によって大きく挙動することなど、まだまだ解明されていないことがたくさんあり、未だ未知の物質と言われています。

まぁ、だからと水に電気や磁場を通して特殊な水・・・などと。
いやいや、これこそはまやかしの怪しい水の世界に入っていってしまいます。
化粧品の歴史は水の歴史と言われて、怪しい水を売っては暴利を貪った黒歴史がありますので、簡単にダマされていはいけません。
未解明なことがあるために、証明できないから怪しいエセ科学が生まれます。

これを「水商売」といい、この手の商売を自分はもっとも好みませんので、この先は置いておきましょう。

資生堂さんも真面目に特殊な水を用いてメイクや油汚れを落とす高度な研究を進めています。
完成形に至るかどうかはまだ分かりませんが、少なくても普通の精製水とは異なる性質を持つ水を設計する研究に、余念がないようです。

塗布するだけできちんと角質層深部にまで届く水、そして保湿。
可能性はゼロではありません。
私達も温泉水をヒントに表面張力が異例に下げられるところには届いていますが、まだ完全には到達はしていませんし、ユーザーの皆様も簡単に答えは見いだせないとしても、化粧品を選ぶ上で色々とキッカケになればと思います。

ではまた次週。

by.美里 康人

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