◆◆FILE No.074 / 2008年3月配信◆◆
目に見えない化粧品の技術
私事で恐縮ですが
私はお風呂に入る時には軟水はもちろんの事ですが
よく市販の入浴剤を入れます。
二酸化炭素による温浴効果のバブもさる事ながら
香りや保湿効果を楽しむために
さまざまな入浴剤を試します。
先日も友人からいただいた
資生堂製の入浴剤で香りを楽しみました。
今日は、その時にふと思い出した技術について
書く事にしましょう。
* * *
化粧品には目に見えないところで
実にさまざまな技術が導入されています。
そこには、全成分には出てこない隠された技術も多々あります。
例えばその1つのいい例が、資生堂のこの入浴剤。
どういったタイプのものかと言いますと
まぁ、いわゆるお風呂に入れると白く濁る液体入浴剤です。
浴槽のお湯が牛乳を入れたかのように油分が乳化し
お肌にしっとり感が残るといったもの。
一見はフツーの乳化タイプの入浴剤に見えますが
実はここに隠された技術が存在しています。
*
この入浴剤が他のメーカーの商品と明らかに違うのは
入浴後のお肌に残る「香りと保湿感」です。
これは、マイナーなメーカーの商品と使い比べてみると
歴然に違いが分かります。
お風呂から出た後でも
ほんのりと香りが楽しめるという趣向。
ではなぜそうも違うのでしょうか?
これは浴槽に体を沈め
お湯の表面をよ~く観察してみると見えてきます。
表面にはうっすらと油膜が張っているはずです。
通常、界面活性剤を使って油分を乳化した状態というのは
乳液やクリームも含めて
油分は完全に水に乳化します。
ですから例えば手持ちの乳液を浴槽に入れたとすると
表面に油膜が浮くような事はありません。
完全に浴槽のお湯に溶けて薄められてしまいます。
香料も油の一種ですから
もしも完全にお湯に乳化してしまうと
香りは100L以上ものお湯に薄められてしまうという事。
ですから
入浴剤に少々大量の香料を配合しておいても
完全にお湯に乳化してしまうと
油分である香料や保湿オイルはお湯に薄められて
ほとんどその目的を果たせません。
入浴時にはお湯からその香りが漂っても
入浴後にお肌から残り香がかおる事はありません。
もちろん油分もお肌に残っていませんから
しっとり感もほとんど期待できないことになります。
*
もうお分かりいただけたかと思いますが
資生堂のこの技術は
お湯が白く乳化していても
香料やお肌に残す油分の一部は乳化せず
お湯の表面に分離して浮き上がるように考えられています。
ですから、お湯から出る時には
体にこの油膜がまとうように付着してくるというわけです。
そうすることで、香料や保湿成分である油分が
お肌に残るという仕組み。
一見なんてことのない技術のように感じますが
「油分の一部を乳化して一部を分離させる」
これはなかなか難しいテクニックです。
全く乳化しないと
お湯に油が全部浮いてしまって気持ち悪いですし
牛乳を入れたようなセレブ気分も得られませんよね。
かといってフツーに乳化したのでは
見た目だけの満足感で
実質の保湿感や香りは得られない。
私も過去に同様の商品にかなりチャレンジし
創意工夫して試作してみましたが
これは非常に難問でした(苦笑)
・乳化しにくい香料と油分
・乳化しやすい油分
・そしてそれに対応する中間的な性能の界面活性剤
これらがきちんと選び抜かれてこそ初めて
こうした性能が発揮できる入浴剤ができるということです。
今回は、全成分からは見えてこない
そしてわれわれ熟練の技術者でさえも見逃してしまう
そんな隠れた優れた処方技術のお話をしてみました。
なかなか全成分から化粧品会社の技術を見極めるのは
難しいですね(苦笑)