週3で異なる目線の美容記事をお届け
正しく認識しておきたいウイルス対策
ウイルスを「菌」という人がいます
実は似て非なるもの、というお話
ウイルスって何だろう
まだまだ新型コロナウイルスは終息しませんね。
というか、最終的にはインフルエンザと同様に、毎年のように流行で全世界を悩ます疾病のウイルスとして、長くお付き合いしていくべき存在になるのかもしれません。
そういう意味でも、私達はウイルスという存在に対して正しく理解しておく必要があります。
私達、化粧品を製造する業界の技術者は、微生物対策として商品の腐敗対策や防腐剤の選定設計、他にはバイオ技術によって作られた美容成分のノウハウなど、菌といった微生物についてある程度の知識が必要とされます。
また、ニキビ対応などの抗菌成分にもノウハウが必要になりますので、生物学的知識をある程度は必要とされる業界です。
手指の除菌製品なども製造しますし。
バイオテクノロジーの専門分野ではありませんので、専門的知識までは持ち合わせていませんが、今回はウイルスと菌のことについて、ちょっとした一般常識話を取り上げようと思います。
* * *
実は今回こんな話題にしようと思ったのには理由があり、ちまたで良く新型コロナウイルスのことを「菌」と呼ぶ言葉を耳にするためです。
そもそも、菌とウイルスって同じモノなのだろうか?
この素朴な疑問について、お話してみたいと思います。
生き物ではないウイルス
この新型コロナウイルスの対策で重要な問題として、飛沫感染と言われる、鼻や口から吐き出される飛沫を介して感染することを防ぐマスクが定着しています。
そしてもうひとつの課題は、手指の滅菌ですね。
つまりは接触感染への対策です。
ここで「殺菌」や「滅菌」という言葉が使われ、対策商品にも殺菌剤といった名称も使われます。
こうしたことから、どうしてもウイルスを「菌」と同じものとして理解してしまっている方も多いようです。
また、大腸菌など菌の中には病原性を持つものも多いため、混乱してしまうのも止む得ません。
社会問題となった「大腸菌O-157」などは、ご記憶の方も多いことでしょう。
あれは菌であって、ウイルスではありません。
実は、ウイルスと菌は全く異なる生物なんです。
いえ、もっといえば、ウイルスは生物ではないといえば驚かれるかもしれませんね。
菌は、私達のような非常に多くの多彩な細胞から成り立っている多細胞動物とも同じ生物の分類に入り、ただ単に細胞がひとつしかない「単細胞生物」や、菌といった「微生物」も仲間としては同じです。
ところがウイルスは、根本的にこうした細胞を持っていません。
学術的なお話をすればもっと複雑な説明が必要なのですが、大雑把に説明すればそういうことになります。
ですので生存するための条件が大きく異なり、ここを私達は理解しておく必要があるわけです。
生物の生存条件
では、まず細胞を持つ生物の生存条件とはなんでしょう?
これを知ることで、どうすれば死滅させられるかが分かってくるので、ここは重要なことです。
私達も生物ですから、菌といった微生物も同じです。
すると見えてくるのは、私達人間が生きるために必要な条件を考えればよいわけですね。
・空気
・水
・栄養素
この3つが生物が生きていける条件で、いずれかひとつでもなくなってしまえば死んでしまうのは分かって頂けると思います。
ですので菌も同じで、微生物もこの3つのうちのどれかをなくしてしまえば死滅してしまいます。
例えばヨーグルト(乳酸菌)や納豆(なっとう菌)・お酒(コウジ菌)といった菌を培養する(増やす)際には、これらを必ず絶やさないようにするのは必須の条件です。
ただし、アクネ菌のような嫌気性菌といった空気がなくても生きていける菌もありますので、ここは例外としてご理解下さいね。
ウイルスと異なるところ
そして一方のウイルスは生物ではないと書きましたので、これらが通用しないことになります。
空気がなくても水がなくても、どんどん増殖し続けられます。
で、根本的に異なる物体ですので、全く違う生態と考えないといけません。
まず、大きさが全く異なります。
菌といった微生物は、種類によって差異はあるにしてもだいたい1μm(マイクロ)を中心として前後の大きさですが、ウイルスはさらに1/10も小さくて100nm(ナノ)程度とされています。
「あれ? なら菌から守るマスクで防げないんじゃないの?」
ここに気付かれた方は素晴らしいです。
不織布マスクなどに書かれていますね。
「1μm粒子を99%除菌」だとか。
そうなんです。
実は不織布マスクでも、ウイルスそのものは通過してしまって防げないんですね。
でもご安心あれ。
上で書いたようにウイルスは生体にとりついていますので、なんらかの媒体を通じて感染をします。
それが「飛沫」と言われる唾などで、この水分の粒子にとりついています。
この状態でいる時は粒子としては大きくなり、結果的におよそ1μm程度になりますので、除菌マスクでも繊維に引っ掛かって侵入を防げるというわけですね。
次に、増殖するメカニズムが全く違います。
細胞を持つ生物は、細胞分裂を繰り返して増殖していきます。
ウイルスには細胞がないためこうした増殖過程を経るのではなく、生体にとりついてDNAを増殖させていきます。
そのため、増殖する場所が全く異なります。
まぁ、とりつく媒体として生体が必要ですので、全く違う環境にいるとは言えませんが、それでも何もないところでもかなり長く死滅せずに存在し続けられます。
例えば台所でも、乾いているステンレスの表面では菌などの微生物は全く生存することはありませんが、ウイルスは数日程度ならば存在しています。
なので、電車の吊革などに感染者が触れたとしたら、除菌して死滅させなければ数日はそこは感染源になり得るということなんです。
これが雑菌といった微生物ならば、乾燥してしまって水分がなくなれば生存できませんので、ここが異なるところですね。
気をつけないといけないのは、食器類でしょうか。
菌ならば洗って乾燥させてしまえばまず残っていないと考えればよく、アルコール滅菌などする必要はありませんが、ウイルスは感染した人が使った食器は除菌しない限り残りますので、必ず死滅させられる高温にさらすか、除菌剤で死滅させなければなりません。
洗浄工程が確かかどうか、きちんと洗浄ノウハウのしっかりした飲食店を選ぶ必要があるようです。
全滅可能なウイルス
最後に、こうして書くとウイルスは菌よりも怖いかのように感じるかもしれませんが、一方で長いスパンで考えると対処しやすい一面もあります。
なぜなら、細胞を持つ生物は世の中から完全に消し去ってしまわないと消滅させられません。
例えば小さなアリであっても、地球上から全滅させることは絶対にムリですよね。
その一方で、ウイルスはDNAだけでできていますので、DNA因子の例え一部でも変異してしまえば違う物体になりますので、完全に世の中から消し去ってしまうことが可能なんですね。
つまり、感染しないように変異してしまえば全く別のウイルスになるため、そこで危険性を失わせてしまうことができるわけです。
それが「メッセンジャーRNAワクチン」への期待です。
簡単にいえば、ワクチンによってウイルスのDNAを変異させて感染力を失わせてしまおうという目論見です。
完全に地球上から全滅させられるかどうかは分かりませんが、生物と違って可能性は十分にある対策ということですね。
今回は化粧品とは全く関係のない話題でしたが、また次週お会いできればと思います。
by.美里 康人