週3で異なる目線の美容記事をお届け
今回の話題はこちら
「効果の期待できないUVアイテム」
センセーショナルなお題ですが、これは私が煽っているわけではなく、実際に商品回収の処分が下された市販商品に起きた事実にもとづいた話題です。
先日もブログで、化粧品や医薬部外品製品の市場においては、年間で数十件におよぶブランドの製品が、中身の品質異常や表示違反といった異常が発見されて薬機法違反で市場の流通製品や在庫製品を回収しなければならないケースが起きている実情を、お伝えしています。
これらの事実関係は、厚労省の運用組織であるPMDAのサイトにも掲載されており、誰でも閲覧できます。
・PMDA(独立行政法人)→https://www.pmda.go.jp/
今回はこの中で、ユーザーの皆さんや化粧品の企画を担っておられる業界の方も知っておいて頂きたい一件について、詳細を取り上げたいと思います。
表示違反のUVローション
メーカーさんを晒すのが目的ではありませんので、事実関係をお知りになりたい方は上で記したPMDAのサイトを参照して頂くとして、このアイテムに起きた違反の要因を明確にしておこうと思います。
製品はいわゆる「UVローション」と言われる商品ですが、UVと名付けられた通り、SPF値やPAが明記されていた商品になります。
で、すでに皆さんご存じのように、こうして製品に紫外線の防止効果を表すSPFやPAの値が明記されている商品は、実際に業界が定めたヒトを用いた日焼け止め効果の試験を実施し、そのデータに基づく根拠があることを示しています。
いわば、試験をしてもいないのに適当な数値を記載することは、許されていないということですね。
こういった自主規制が設けられていなかったその昔は、あまり精度の高くないSPFアナライザーといった機械を使って採取したデータなどを用いて数値を決めていたこともありましたが、今ではきちんと統一されてユーザーさんが安心して使用できるように改善されています。(完全に解決しているかどうかは、まだまだ議論が必要ですが・・・)
で、話は戻りますが、このような自主規制を踏まえると、今回取り上げるUVローションはきちんとSPF・PAが測定されて明記されていたはずなのですね。
にもかかわらず今回の違反は、その数値が適正でないと指摘されて回収事案になったというわけです。
まぁ、普通に考えれば表示数値よりも効果が高いと指摘を受けるわけもなく、同然のことながら紫外線防止効果に乏しいと判断されて指摘を受けています。
適正なUV防止効果
あらためて触れますが、品質異常の違反の中でも「UV防止効果が適正ではない商品」というのは、結構な悪質商品といえます。
なぜなら、例えば美白や肌荒れ防止などといった一般的な美容効果が乏しい品質の化粧品なのであれば、その効果が期待ほどではなかったとあきらめもつく程度のことで済まされます。
しかしながら日焼け止め製品の場合は、その効果がなければしっかりと日焼けをしてしまい、お肌の真皮層にまで及んだ悪影響を元に戻すことなどできないからです。
「あ~ぁ、焼けちゃったぁ・・・」では済まされません。
ユーザーさんの立場になれば、ダマって見過ごすことはできない重大な問題です。
そんなユーザーさんにとっては重要な問題ですが、ではなぜこのような事態が起きたのでしょうか。
これはもうまさに、製造工場を含むメーカーさんに大きな問題があると言えます。
というのはこの製品、根本的な問題としてローションという言葉に表れている通り、「UV防止効果のある化粧水」だったことに大きな要因があります。
当然、消費者の皆さんは化粧水の使用感で日焼け止め効果が期待できると思い、この製品を購入された方もたくさんおられたことでしょう。
もちろん、これは市場ではほとんど見られない期待度の高いPRポイントですから、メーカーさんの思惑もそういうことだったのは、容易に察しがつきますよね。
そしてここで大きな欠陥は、「紫外線吸収剤」や「紫外線遮蔽剤」といったUV照射を阻止する効果をもつ一般的な成分が、配合されていないことが大きな問題だったのです。
これはユーザーの皆様もよ~く記憶にとどめておいて頂きたいのですが、2021年の現状において、紫外線吸収剤や紫外線遮蔽剤を配合せずにSPFやPAが表示できるほどの日焼け止め製品を設計することはできません。
しかも、それを化粧水で達成するのは大手ブランドさんでもあり得ないことですので、よく認識しておかれるとよいかと思います。
つまり根本的な問題として、紫外線吸収剤は油成分ですので水(化粧水)には溶けませんし、紫外線遮蔽剤は白いパウダー成分ですので、こちらも水には溶けません。(もしくは、絵の具のように真っ白になります)
なので今のところ、スプレータイプを除いて使用感のよい化粧水の日焼け止めは市場にはないということです。
ワールドワイドで新しい成分が開発でもされればまたお話は異なってきますが、仮にそうなったら大手ブランドさんを含めどこのメーカーさんもこぞってそれを採用し、市場にあふれかえるのは間違いありません。
その処方の特長と注意喚起
さて今回のこの製品、最後に念をおしておきますが、まったくのまがいモノ商品というわけではありません。
日焼け止め製品として市場に出されることになったのは、化粧水にも配合することが可能で、UV防止効果があると言われる(PRされる)成分に大きな問題があります。
つまり、その成分を供給する原料メーカーさんが、原料を売らんがために「UV防止効果がある」と工場さんに持ち込んだことに、大きな原因があります。
もちろん、それだけのPRをする限りは効果はゼロというわけではなく、多少なりともないとは言えないレベルでの期待は持てるでしょう。
しかしながら、数字に偽りあり・・・ということになってしまいます。
その成分名を皆さんも覚えておかれると良いかと思います。
「酸化セリウム、白金」
すでに今回取り上げました商品そのものは、結果的に自主回収されていますので市場には存在しませんが、私が調査したところでは同様の商品を市場で見かけています。
「日焼け止めローション」やミストといったカテゴリーの日焼け止め商品に出会いましたら、購入される前にこの成分名を確認して下さい。
数値化されている紫外線防止効果は得られないと、原料メーカーさんも認めています。
自分のお肌は自分で守るしかないですね。
まぁ、いずれにしましても今回のこの問題。
結果的にメーカーさんが悪者になっているのかもしれませんが、その実OEMを担った工場・研究室に大きな責任があると思いますね。
普通にそこそこの経験のある処方設計者ならば、この素材でSPF30やPAが+++など得られるはずもないことは、当たり前のこととして分かるはずですから。
確信犯と悪評を招いても、仕方ないと思います。
最後になりましたが、今回の話題はこの原料を否定するものではないことを念押ししておきましょう。
数値に表すほどの効果は期待できないというだけで、スキンケアの付帯要素として、デイケア化粧水に使われている程度ならば良い成分と思っています。
もともとそういった目的で開発された素材でしょうし。
化粧水から美容液・乳液・クリームまで一貫してシリーズで配合していけば、トータルのデイケア用スキンケアとしては、そこそこの期待は持たせられるように感じます。
ということで、天候は不順ですがまだまだ夏は真っ盛りです。
くれぐれもアンチエイジングを意識して、紫外線対策をしっかりとしましょうね。
ではまた次週。
by.美里 康人