前回に続いてソープレスソープ
つまりは石鹸ではない固形石けんの話題の続編です。
■ソープレスソープの利点
前回、この石鹸ではない固形石けんの利点について
「pHがアルカリではないこと」
という点をあげました。
まぁ、もちろん結果論的な部分もあるとは思いますが
いずれにしてもどのタイプも中性域であることは間違いありません。
果たしてその通りになっているのか
ユーザーさんでは確認が難しいのでまずは検証してみました。
以下がその実際のデータです。
「え? 石けんを直接計ったんじゃないの?」
この画像を見られて一部の方は
そう感じられたかもしれませんね。
ずいぶんと以前にメルマガの記事でも書きましたが
今回は意外と知られていないこうしたpHのメカニズムについても
説明をしておきましょう。
■希釈液でpHを測定する
さて、上の画像のpH測定は
石けんを適当に1gほど削り取り
50mLほどの純水に溶かしたものを作り
それを精密なpHメーターで測定しています。
ちなみにこの「正確なpHメーター」という部分は意外と重要で
一般の消費者の方が入手可能なpHを計る道具としては
液を塗布して色を見るpH試験紙や
数千円から1・2万円クラスの簡易なpHメーターがありますが
いずれも、「酸性か? アルカリ性か?」程度のレベルを知るなら良いですが
イオン量の少ない精製水に近い水や
微妙な数値の差をみる測定には適しません。
使った事がある方ならお分かりと思いますが
試験紙は塗布して数十秒足らずで色が変色しますし
お安いpHメーターは電極が精密さに欠けますので
0.5や1の数値は普通に誤差として出てしまいます。
いわば、あくまで目安でしかないと考える必要があります。
そういう意味では今回の測定は
石けん濃度が薄いので誤差が出やすく
試験用の精密なpHメーターを使用しています。
で、話は「なぜ水で薄めたのか?」という点に戻ります。
この答えは
「水で希釈してもpHはそれほど変化しないため」です。
■「乗数」である意味
なぜ変化しないのか不思議に思われたかもしれませんが
それは以前にも説明した通り
このpHの数字にその意味が隠されています。
例えば中性の「pH7」を例にとりましょう。
この数値の意味は
「107(10の7乗)」を意味しています。
※画面では乗数が中付け表示になっていますが、ご了承下さい
つまり、分かりやすい表現をすれば
10,000,000個のイオンが存在すると
理解すれば良いでしょう。
ということは
この液を水で10倍に希釈したらpHはどの程度になるでしょう?
まさか、数字が1/10の0.7にはならないですね。
(おそろしい強い酸か!)
私もあまり数学は得意ではないのですが
乗数ですので1/10になれば
106(10の6乗)になるだけですね。
ということは、答えは「およそpH6になる」というわけです。
ということで今回の測定目的は
「ソープレスソープは石鹸と違ってアルカリ性ではない」証明をしたく
中性域であることさえ分かればよかったので
そのまま測定してもpHは1も変わらないということです。
さて、せっかくなのここで身の回りに関係する余談をひとつ。
例えば皆さんがご自宅で使われている「酢」ですが
あれでも酸の濃度はたったの5%。
なのにpHは2.5とか非常に強い酸なんですよね。
今まさに食事中で吐き出された方がおられたら
ごめんなさい・・・。
でも皆さん、普通に料理にドバドバ使われていますし
最近では飲む人もいる位です。
それこそ酢の物にしたって
薄められるのはせいぜい10倍くらいで
pHは十分に3くらいですから
このpHの数値だけみれば「怖~~い・・・」ってなっちゃいますね。
「pH3の酸を飲んでいる」
私達化学屋は別に驚きませんが
ユーザーの皆さんはあらためてこんな数字を示されると
「えぇぇぇ・・・pHの数字っていったいなんなの?」
「ある意味、危険指数みたいに思ってたんだけど・・・」
まー、学校で学んだ青や赤に色が変わる実験レベルまでの
理科知識だとごもっともなこと。
こんなpHの数字だけをとらえてブログやSNSで
昔から危険信号を発信される方も時々見受けてきてますが
pHの論理はイオンのやりとりなので実は非常に難しく
少なくても、酸やアルカリだから怖い!
中性や弱酸性だったら安全!
実はそんな単純なものではないことだけでも覚えておかれると
少し賢くなっちゃったかも?
これ以上のイオンの理論は難しく
さらに学術的な解説になってしまいますので
今回はここまでにしておきましょう。
■なぜ売れない?
さて、今回の話題のまとめになります。
ここまで市場に存在するソープレスソープを
ご紹介してきましたが
皆さんがあまり手にとったことがない・・・という現実どおり
ぶっちゃけ、売れていません。
それは、上記で書いたそれぞれのメリットを帳消しにしてしまう
固形石鹸に劣る難点があるからです。
それを列記して今回の記事のまとめにしましょう。
<イセチオン酸系ソープ>
・水に溶けやすく、置いておくと表面がやわらかくなりやすい
・泡立ちが石けんのようにクリーミィにならない
・刺激は石けんより少しマシだが、ないとは言えない
・すすぎに少し時間が掛かる
・合成系であるため、お値段ほどの付加価値感がない
<ラウリル硫酸塩ソープ>
・水に少し溶けやすい
・石けんと同程度か、人によっては少し強い刺激
・泡立ちにコクがない
・原料臭が強い
・有名な合成界面活性剤の塊であること
<アミノ酸系界面活性剤ソープ>
・溶けやすさがひどく、水に濡れた手で触っても表面がドロドロしてくる
・洗浄力がマイルドで、二度洗いしないと泡が立たない
・泡に濃密感がなく、荒い
・ヌルつきが残りやすく、すすぎに時間が掛かる
ということで
様々な面で固形石けんの壁を超えられないことが
いまだ不動の地位を保っているというわけですね。
まぁ、なにより
格安で長持ちするところは大きなメリットですよね。
これに勝るものはありません。
で、さて果たして私は
これを超えるソープレスソープを開発できるのでしょうか?
ごめんなさい・・・やはり今の現状では
頭を下げるしかなさそうです(苦笑)
以上、悔しくも早々に幕引きのワンシーンでありました。
今宵は塩辛い涙をつまみに
酒を食らって寝ます(笑)
では、また。
by.美里 康人