美里康人
でも、なぜ透明感がなく白いのでしょう?
今回のお題、え?とお思いになったユーザーさんも多いことでしょう。
あまりにも当たり前過ぎて、意味が分からないというお声も?
でもここ、よ~く考えてみて頂けると、化粧水や美容液は透明感があるのに、乳液やクリームだけが全く透明感がなく、画用紙みたく白くなっていますよね。
お気付きの方は素晴らしい着眼点ですが、何か油分が配合された「乳化」という言葉と関係ありそうですね。
そう、代表的なのは牛乳!
今回はそんな謎を解いてみましょう。
実はTwitterでつぶやいた、ミルク状になる入浴剤のお話と関係してきますよ。
この記事の目次
牛乳が白い理由
プロローグで例を上げましたが、牛乳って真っ白ですよね。
あれ、なぜ白く濁っているのか疑問をお持ちになったことはありませんか?
まぁ、牛乳って水の中に油脂が含まれているからと、その理由の入口までご承知だとは思います。
はい、ここまで正解。
ただ、水に油分が入っている食材にはドレッシングもあり、こちらはなぜか2層に分離していて透明から半透明ですよね。
使う時に振っても白くなるまではいかず、せいぜい半透明がせいいっぱい。
となると、ここで“牛乳”という文字にも含まれているように、「乳化」という言葉が頭に浮かんできますね。
で、今さらながら透明感がなく白くなる乳化って何が起きているのでしょうか。
乳化とは
このように油が水に乳化した状態を専門的な言葉でエマルジョンと呼んでいますが、ではドレッシングのように透明感のある状態とは何が違うのでしょうか。
これは簡単な事で、ようはドレッシングには水と油の界面を繋いでくれる界面活性剤が含まれていないからです。
牛乳の場合は生体に存在しているタンパク質がその役目を果たして、脂肪分が乳化状態になっているというメカニズムです。
この繋ぎになる成分がないと油はボコボコと大きな粒の状態のままで浮遊し、やがて油同士が集まって分離してしまうんですね。
仮に機械を使ってめいっぱい油を細かくしても、すぐに油の粒同士が集まって大きくなってしまいます。
なのでドレッシングは油の粒が大きくて、向こうは少し透けた状態で半透明に見えるわけです。
つまり乳化とは、水と油を繋いでくれる界面活性剤のチカラによって、油の粒がうんと小さくなって水の中に保たれている状態という事です。
およそでいえば、ドレッシングをいくら頑張ってガシャガシャ振り混ぜても1mmの1/100くらいの50から10μm(ミクロン)あたりがせいいっぱい。
でも化粧品のエマルジョンは大きくでもさらに1/10の10から1μmまで小さく作られています。
これがまず、白くなっている理由の第一ステップです。
なぜ白いのか
さて、ここまで牛乳を例えに、クリームや乳液の状態を説明してきました。
でも、お題に提起した疑問、「白く見える」答えにはまだたどり着けていません。
ここからが本題。
ではなぜ乳化したモノは白いのでしょうか?
水も油も色はついてたとしても透明なので、白くなってしまうのはどうにも納得がいかないですよね。
いえ…ここからは言葉を変えましょう。
白く「見える」です。
つまり、見た目で白く見えているのはなぜか、解説していきます。
ここでこの画像をご覧下さい。
ベランダのガラス扉から外の景色を写した画像ですが、サッシの上側が普通のガラスで、下側がすりガラスです。
下のすりガラスも素材自体は透明なガラスですが、小さな凸凹をつけてあることで外のすだれと景色がほとんど見えていません。
下のすりガラスは少し白っぽく見えませんか? 随分と近づいて来ましたね。
これがエマルジョンと言われる、乳化したものが白く見えるメカニズムのヒントです。
これは、ガラスに小さな凸凹をつけてある部分によって直進で入ってきた光が曲げられて乱反射してしまい、ガラスのこっち側に真っ直ぐに届いてきた光がうんと減ってしまったという現象なんです。
これを「光の屈折」と呼んでいます。
凸凹をちょっとおおげさに描いていますが、絵で解説するとこういう感じです。
この例のように、水の中に油の粒がたくさん存在しているとそこで光が屈折して私達の目に届かなくなるんですね。
そしてこの光の屈折の仕方は、成分によって異なるというのが化学の面白いところ。
そう、油も水も透明ではあるのですが、水と油では全く成分の性質が異なるので光の屈折の仕方(屈折率と言います)が異なって、水の中に油が混ざっていると水を直進してきた光が屈折してしまい、私達の目に届かなくなってしまうというわけです。
これで答えが分かりましたね。
ようは乳化は油の粒が非常に細かくたっくさん存在しているため、何重にも何重にも光が屈折されてしまい、結果的に私達の目には全く光が届かなくなって真っ白に遮られたということだったのです。
ドレッシング程度の油の大きさであの数ならばまだまだ光は透過するレベルなため、ぼんやりとしていてもまだすりガラスのように向こうは透けている、と理解すれば良いですね。
最後に入浴剤のノウハウ
さて、最初に予告しましたが、市販の液体入浴剤には、数十mLを浴槽に入れただけで真っ白な乳液風呂のような状態になる製品がありますね。
でも、製品によっては少し濁るだけで説明に書いてあるような「乳液風呂」にはほど遠い製品もあって、がっかりされたユーザーさんもおられることでしょう。
この話題は以前にも少し取り上げましたが、この違いがなぜなのか、最後にお話して終わりにしましょう。
今回のお話をここまで読んで頂いた上であらためて考えてみると、界面活性剤が含まれたクレンジングオイルを数十mL入れたら同じようなことになりそうですが、ドバドバ入れない限りはあまりにもオイルの粒が少なすぎて、乳液やクリームのような濃い白さにはならないですよね。
実はこれが、処方設計に創意工夫が足りない未完成な入浴剤。
お風呂のお湯は200Lほどありますし、その中に数十mLほどのオイルですから、乳液みたいにはならずそうなって当たり前。
濁る程度で透けてしまうのは当然のことなのです。
でも市販品の中には自分の足などが見えないくらい、かなり真っ白になる製品があります。
これはどういうメカニズムなのでしょう?
これはここまでの解説の中に答えがありました。
それは「成分によって屈折率が異なる」という部分です。
つまり、水とは大きく屈折率に差があるオイルを配合して乳化してやると光を乱反射させ、一層目に見える白さが際立つというわけです。
例えば、水の屈折率は1.333でこれを基準にします。
それに対してスクワランは、1.452。
これではあまり差がなくて光は屈折しにくく、よほどたくさん水の中にいないと透明感は解消できません。
こうして屈折率を色々と調べて水との差が大きいオイル成分を探し、それで入浴剤を設計してあげれば乳液みたいな白さが演出できる製品が作れるということですね。
ここから先は、研究者の腕のみせどころになります。
他にも、入浴剤は香りが重要。
これも、完全に水の中に乳化してしまうと、香料の量など少量ですのでお風呂上がりのお肌に香りが残りません。
お肌に良い香りがほんのり残るようにするには、香料だけがお肌にまとわりつくように設計しなければなりませんね。
普通に乳化してしまっては香りは残らないし、かといってオイルが分離してしまうとお湯は白くなりませんし・・・と、実はここにも重要なノウハウが隠されています。
化粧品の設計って、見た目以上に様々なノウハウが隠されているのですね。
今日はここまでで、また次週。
by.美里 康人