週3で異なる目線の美容記事をお届け
美里康人
悩ましい”いちご鼻“
毛穴改善は、女性にとっては美白と並んで永遠の課題で、例えば”いちご鼻“などと呼ばれて、目立つ肌質の方にとっては非常に悩ましいお悩みのひとつです。
なにより、これを即効で解決する手段やコスメもなかなか世に存在しないため、常に美容業界の課題として横たわっている問題でしょうか。
そんな中、10年ほど前まではAHAなどと呼ばれた酸を利用したピーリングアイテムが救世主として君臨し、市場を席巻したのは記憶に新しいところです。
今回は最新の事情も交え、そんなお話を進めてまいりましょう。
この記事の目次
酸ピーリングの歴史
さて、すでに皆様はよくご存じかと思いますが、ピーリングと言えばフルーツ酸、フルーツ酸といえばAHA。
そしてAHAと言えば、”グリコール酸“がイコールとされてきました。 略して”GA“と呼ばれます。
で、AHAとは”α-ヒドロキシ酸“の頭文字をとった略称で、ここでは難しいので割愛しますが化学構造の名称からきています。
もともとは海外から入ってきた施術ノウハウで、簡単にいえば酸によってターンオーバーを加速させて皮膚を一枚はがしてあげることで新しい皮膚の再生を促し、正常なお肌に戻してあげるという施術方法です。 ドクターが発表したエビデンスと論文がその根拠となっています。
中でもグリコール酸がもっともターンオーバーの促進作用に適しているとのことで、このグリコール酸配合コスメが市場に溢れたという経緯です。
ちなみにAHAには他の有機酸もあり、乳酸・リンゴ酸・酒石酸・クエン酸・サリチル酸などで、これらはフルーツによく含まれていることからフルーツ酸とも呼ばれています。
そしてトラブル多発
ただ一方でこうした有機酸は、人間のカラダそのものが有機物でできていることから皮膚に対して湿潤性が高い一面があり、その酸としての溶解効果は長く持続する(言い替えると、むしばむ)傾向を持っていて、トラブルに発展したケースが出てきました。
※ちなみに塩酸や硫酸といった無機物の酸は”火傷“といった損傷を与えるほどに強い酸である反面、洗い流せば皮膚から簡単に流れ落ちてくれるのですぐに治癒できる一面を持っています。
また、もともと皮膚の厚みの薄い方が使用するとはく離がひどくなり、ひどいケースになると時間とともに血がにじんできたり火傷のような症状に至ったケースも勃発しました。
洗い流すか何かのアルカリで中和しない限り皮膚上に残りますので、そのむしばみはどんどん深くなっていくためです。
結局、ユーザーさんもより即効性を求めるためにどんどん市販製品の酸濃度も高くなって被害も続出し、ついには行政の指導が介入したというのがこのグリコール酸ピーリングのいきさつですね。
今ではある程度の濃度以上のグリコール酸製剤はドクターしか施術に使えず、皮膚科での処方箋対応になっているのが現状です。
まぁ、ここで言う「使えない」という言葉は実は誤解があって、実際には使えないわけではありません。
厚労省の規制で実際には「劇物指定成分」となったというのが背景ですので、劇物としての取り扱いをすれば流通させられないわけではありません。
ユーザーの皆さんにはあまり関係ありませんが、一応こちらに告知文面の該当部分を貼っておきましょう。
■告知文リンク(pdf)
http://jerf.or.jp/pdf/about_glycolic_asid.pdf
グリコール酸原料の取り扱いだけでなく、グリコール酸濃度が3.6%以上の化粧品も劇物指定ということですね。
とはいえ、どこの世界に化粧品を劇物として取り扱えるメーカーさんや販売会社さん、もっといえば店舗さんがあるの?というお話で、そんな対応ができるわけがないので実際には流通はあり得ないというのが現状というわけです。
もしも何かの手違いでユーザーの皆様のお手元にありましたら、処分方法をアドバイス致しますのでメールにてお問合せ下さい。
ということで、現在市場にある化粧品としてのピーリングアイテムは、この規制の範囲で作られているということになります。 グリコール酸が配合されている場合は、3.6%未満に抑えられているということですね。
ただ先日twitterでつぶやきましたが、ここでほとんど表立って知られていない裏話があります。
ここでは公に晒しませんが、中にはこの濃度を超えた製品が市場に見受けられる事実です。
背景をご存じないユーザーさんの中には、高濃度だからと愛用されている方もおられるのではないでしょうか。
今回はこの謎のメカニズムを解説していきましょう。
違反ピーリングコスメ?
上でとりあげたコスメですが、AHAが上の規制をはるかに超えた濃度を表記している製品を見掛けることがあったり、実際にご利用のユーザーさんもおられるかもしれませんね。
アレって、どういうことなのでしょうか?
その答えは、以下のパターンです。
1)医療向け輸入コスメ
2)グリコール酸以外のAHAが高濃度で配合されている
3)中和されている
1)は読んで字のごとしですが、本来は海外でもAHAに関しては非常に規制が厳しいため、ほとんどは個人輸入ではないかと思います。
日本に入った時点で劇物扱いになるため、違法流通ということになると推察されます。
いずれにしても責任は負ってはくれませんので、肌被害にあわれないようくれぐれもご注意を。
2)は、グリコール酸の濃度は規制内ですが、代わりに規制対象外の乳酸をプラスして高濃度にされています。
しかしながら、グリコール酸よりも少し作用が弱いというだけで乳酸も同様に非常にはく離作用は強い酸ですので、10%などという表記になっている製品は本当に怖い製剤だと思います。
こちら、足用ケアの製品で被害が多発した年の、公的機関の調査報告資料が開示されています。
■国民生活センター(pdf)
https://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20190307_2.pdf
これ、含有量を見れば驚く結果です。
はく離効果がもっとも強いサリチル酸が0.2%程度配合されているのでイコールではありませんが、それでもAHAのトータル量は5%レベルでこのような被害が出ています。
グリコール酸の濃度は規制内ですが、乳酸も同程度配合されているので効果は強くなっています。
濃度にはご注意下さい。
そして3)。
驚かれるかもしれませんが、これは研究者の騙しのテクニックです。
いくらAHAの濃度が高濃度であっても、例えば水酸化Naで中和してあれば全く安全になります。 pHも4~5あたりになっていれば、これはもう確定です。
10%だろうが20%だろうが、皮膚に全く影響はありません。
恐ろしく怖い高濃度の塩酸も、水酸化Naで中和してやれば口に入れても大丈夫な食塩になるのと同じ化学の理。 当然ですが、ピーリング効果も全くありません。
おそらく販売会社さんはこのような化学のメカニズムはご存じないので、販売会社さんもOEM工場にダマされているケースもあるようです。
こちらは今度は肝心の効果が全く得られないムダな投資になりますので、念頭に置いておかれると良いかと思います。
ピーリングの行方は?
というわけでここまでAHAピーリングの現状の話題をとりあげてまいりましたが、最後に今後はどのように推移していくのだろうかといったお話で締めましょう。
足用ケア製品の例を取り上げたように、グリコール酸については行政の規制が施行されましたが、まだまだ隙間を縫える処方設計が考えられています。
乳酸などは規制の対象外ですので、この競争の激化状態ではさらに高濃度配合の商品が出てきても不思議ではありません。
ポジティブリストの範囲内で、サリチル酸も複合配合した製品が台頭することも考えられます。
どこまでいくのか推定はままなりませんが、今のところはOEM工場さんも事故が起きた時の責務が大きく警戒感を強めており、まっとうな工場さんは手を出さない選択肢をされていますが、それも市況によってどう推移するかは分かりません。
また、エステサロンなどの業務向けでは「グリーンピール」といった施術が流行し、粉砕ハーブをお肌にたっぷり乗せてパックするといったプログラムもありましたが、刺激成分(おそらく海綿ニードル)が多く含まれていたようで、効果が高い反面やはり刺激といったトラブルが多く発生した歴史もあります。
とはいえ原点に立ち返れば、今ユーザーの皆さんのお悩みは毛穴改善ではないでしょうか。
もちろんAHAは肌質改善効果もあるので、アンチエイジングの効果に期待されているユーザーさんもおられるかもしれません。
しかしながら毛穴改善効果ならば、他にも毛穴をクリアにして徐々に小さくしていく方法もあります。
前回の記事でも取り上げたように、毛穴の奥には石けんカスや他の汚れの核が溜まっており、これを溜めないケアが可能なアイテムが世にできてここをしっかり心がければ、安全な解決策はあるはずです。
それはまた今後、カタチになった時にこちらででも報告したいと思います。
あ、その時には市場にすでに出ている時になるとは思いますが。
メーカーさんの反応は非常に早いので(笑)
ではまた次週。
by.美里 康人