美里康人
懐かしいあの商品はなぜなくなったのか?
お若いユーザーさんはご存知ないでしょうか。
パックといえばずいぶん以前に、お顔に塗布して15分もすれば薄いフィルム状になってペロ~ンと剥がれる“ピールオフパック”なるものがありました。
直近ではいちご鼻を解消するための角栓除去パックがありましたね。
こういうの、覚えてますか?
これはシート状の製品で異なるタイプですが、剥がすとこんな感じでツンツンの角栓がくっついてくるピールオフパックが、ずいぶんと流行ったものです。
このように昔は、お顔全体に塗布してパックし、乾いたらペトリと剥がすタイプのパックが市場にたくさんありました。
ただこの手の製品、市場ではほとんど見受けなくなりましたよね。
※一部ではまた流行っているようですが・・・。
なぜ消え失せてしまったのか、今回はそんな背景の解説をしていきましょう。
この記事の目次
ピールオフパックとは?
最初に、この手のパックをご存知ない方に、簡単にどのようなコスメだったか説明をしておきましょう。
製品の形態はトロンとしていますのでチューブ容器に入っているものが多く、手にとってお顔全体にまんべんなく塗布していくのが基本です。
中には粘性がゆるくて垂れてくるのもありましたが、だいたいは粘土まではいかないまでもトロミが強く、厚く塗布しても下にポトポト落ちてくることはありません。
ですので、キレイに剥がせるよう少し厚めに塗布していくのがコツでした。
もちろん、眉や目周りは避けて、剥がした時はシートマスクみたいな感じになるように均一に塗布していきます。
全体にまんべんなく塗布したらそのまま15~20分放置するのが一般的。
そうするとフィルム状に固まり、お肌から剥がれやすくなりますので、端っこから丁寧にピロ~ンと剥がしていくと終わり。
そのフィルムをポイっと捨てるだけで、美肌に変わっているという寸法です。
色がついたものや泥が少し入ったもの、さらには白く濁っている製品もあり、市場には様々なバリエーションが出て一世を風靡しました。
固まるメカニズム
さて、このパックがなぜこのようにフィルム状になるのかにも、触れておきましょう。
それは簡単。
ただ単に時間とともに乾いて固まり、被膜になるというだけのことなんです。
でもユーザーさんにとっては、それが今思い出しても面白いというかユニークというか
剥がしたフィルムがお顔のカタチになっているのも面白く、それが病みつきになったユーザーさんも多かったかもしれませんね。
では、あれだけ一大ブームを起こしたこのパックが、なぜ市場から一斉に消えてしまったのでしょうか。
その理由はいくつかありますが、列記すると
・めんどくさい
・ただ単にビニールを貼っていただけ?との疑問
・臭い
・石油由来成分が主成分で作られていた
ひとつずつ説明していきますと、こういうことです。
・めんどくさい
この後、市場にはシートマスクがどんどんと出てきます。
ただ貼るだけのそれに比べると、ずいぶんとめんどくさくなってしまったこと。
・ビニールを貼っているよう
まるでお顔をラッピングしているだけのような感じで、本当に効果があるのか分からなくなってきた
・臭い
フィルム状になる主原料だったポリマーが溶剤臭く、乾燥するまでずっと原料臭が強くてガマンならなかった
・合成成分でできているから
この頃からユーザーさんが石油由来の合成成分に着目され始め、「PVA」(ポリビニルアルコール)というポリマー成分が合成成分であることが広まってしまった
特に最後の成分への情報拡散は致命的で、名前の通り“ビニールを顔に貼っていたのか!”というイメージは最後まで拭うことができませんでした。
ましてその原料が合成臭が強いと、明らかにお肌によくないものを長時間お肌に塗布しているという印象を与えてしまい、これは大きな障害になってしまったことは明白でした。
それに加えてシートマスクがお安く一気に市場を占拠したことは、各社の製品を廃盤に追いやった大きな理由でもあります。
ただし、もっともこの商品が市場から抹消されてしまったのには、大きな理由がありました。
消え失せた大きな理由
最後になりましたが、この製品がほぼ完全に市場から消えてしまった理由は、もっと繊細な部分にありました。
それはこのフィルム状になるメカニズムと関係していたため、それを改善する方法が全くなかったことがこうなってしまった原因に繋がっています。
それはまさに「パック効果」です。
消費者は、バカではありません。
パックという製品である限りは、終わったあとにしっかりとパックをした効果が得られなければ、市場で売れ続けることはままなりません。
そう、このピールオフパックには、全くパックをした効果が実感できなかったのです。
その要因はこのフィルム状になるメカニズムにあったのですが、つまりはフィルム状になってしまった後のお肌には、保湿感が全く得られなかったというわけです。
それはこのポリマー原料がフィルム状になるメカニズムに原因があるのですが、被膜状になるためには乾燥して水分が完全に揮発してしまう必要性があり、結果的にお肌には水分が残らなくなってしまったことが、大きな問題だったのです。
つまり、フィルム状になる過程では水分が揮発するあまり、皮膚に存在していた水分までを奪って乾燥してしまい、むしろパックする前よりもカサカサになってしまって本末転倒の使用感だったわけですね。
これなら、まだラップでも巻いていた方が汗でもかいて水分が残るという・・・なんとも、やっかいなパックだったという次第。
まぁ、「感じ」だけでなく、乾いていく過程で本当に皮膚の水分もフィルムが吸い取ってしまっていましたので、こうなるのは当然のお話。
ただ単に面白いだけのことだった・・・という顛末でした。
こんな問題がユーザーさんの間に広まり、さらにはシートマスクがお安くお手軽に使える時代になったことから、この手の商品は完全に市場から消えてしまうことになりました。
では、こういったメカニズムではなく、きちんと水分をお肌に補いながら時間とともに皮膜を形成するパックは作れないものでしょうか?
実は、理論的には可能なのです。
私達も実は数年前に開発したユニークな「ジュレパック」なるものを展示会で公開したことがありますが、残念ながらこの消えてしまった“ビニールパック”みたくキレイにフィルム状になって剥がすことが難しく、どうしても取り除くのにめんどうな手間が掛かってしまうことから、実際の商品化には至りませんでした。
成分の全てが保湿成分で設計されており、固まったパックを剥がしたあとはまるでふやけてしまったかのように保湿性能が高く、実質的な効果は素晴らしかったのですけれど・・・。
まぁ、このゲル化メカニズムの応用はまだ完全には諦めてはいませんが、私の目が黒いうちの実現は難しそうです(苦笑)
シートマスクを超えるパックは出てこないものか、そんな業界の課題の記事でございました。
今回のお話はここまでで、また次回。
by.美里 康人