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知り尽くせない”保湿成分”の世界

保湿成分とは

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美里康人

“保湿成分”って言葉をよく見るけれど
何が基準?

今回はえらく焦点のぼやけた話題ですが、ユーザーさんにとっては実は大きな課題のお話。
でも、全成分の表示をユーザーさんが活用する上で、とっても大切な保湿成分はどれでどれ位効果があるのか、見極めたいと思うのが普通の心理でしょう。
実際に研究開発に携わる私達でも、製品の全成分から全てを理解するのは容易ではありませんが、少しでもユーザーさんの参考になることを期待し、今回はそんな話題を取り上げてみたいと思います。

文字でみる”保湿成分”の規定

昨今はメーカーさんによっては全成分の表記に加えて、消費者サービスの一環として配合目的も付記されている商品も増えました。
こんな感じ。

水(溶剤)、BG(保湿成分)、グリセリン(保湿成分)、〇〇〇エキス(保湿成分)・・・

そしてそれを見ると、なんだかどれもこれもが保湿成分になっています。
お肌がめちゃくちゃ潤ってくれそうな感じですね。

このいわばユーザーの皆さんが目にする製品の表示やカタログ、そして商品説明のHPなどで用いる言葉の規定として、薬機法をもとに定められている配合目的を基準としてますので、こうなっています。
つまり、防腐剤や酸化防止剤といった、製剤中の配合にはっきりとした目的がある成分以外は、「保湿成分」という言葉でくくられているのが現実です。

ユーザーさんにとって〇〇〇エキス〇〇〇発酵液などという名称の成分は、普通に考えて本来は保湿だけでなく肌荒れを防止したり、美白といった有効性を有していることに期待をしていると思います。
ですが、ここは薬務課の指針は非常に厳しく、化粧品の場合はこうした皮膚への有効性を有してはならないことが原則となっていますので、法律上「保湿」という表現しかできないことがその理由です。

実際の保湿成分とは

さて、こうなると商品に明記されている全成分をみてどれが本当にお肌の保湿成分と判断すれば良いのか、基準が分からなくなりますね。
もちろん、皆さんもよくご存じのこんな成分が入っていると保湿感が得られそうなことくらいは分かると思いますが。

 ・グリセリン
 ・BG
 ・DPG
 ・ベタイン
 ・ヒアルロン酸Na
 ・ソルビトール
…etc

他には、オイル成分が配合されたスキンケア製品の場合は、こういうオーソドックスな成分でしょうか。

 ・スクワラン
 ・植物オイル(シアバター、マカデミア種子油、アーモンド油など)
 ・ミネラルオイル
…etc

でも、このような一般認知度の高い保湿成分は、いわゆる”ワンコインコスメ”と呼ばれるプチプラコスメにも普通に配合されていますので、付加価値が高いのかコスパが良いのか判断材料に困りますよね。

例えば、こちらはプチプラコスメ化粧水の全成分。

水、DPG、グリセリン、PEG-32、ジグリセリン、グリコシルトレハロース、加水分解水添デンプン、ヒアルロン酸Na、アラントイン、グレープフルーツ種子エキス…<以下略>

まさに上で述べたように、DPG、グリセリン、ジグリセリンと、皆さんもよく知る保湿成分が並んでいますのでしっかり保湿化粧水としてコスパが良いと判断されます。
でも、これでは数千円もする付加価値の高い化粧水とどう違うのか、よく分からないということになってしまいます。

そこで、もうひとつのツールを活用してみましょう。

ネットの正しい成分情報を活用

今どきは、ネットに様々な情報を公開されており、ユーザーの皆さんもお勉強になりますし、なにより全成分をみて活用ができるサイトがたくさんあります。
ただし、ここは正しい情報を利用しなければなりません。
いくらユーザーさん向けで分かりやすくなっていても、偏った成分情報を鵜呑みにしてしまってはマイナスにしかなりません

かなり以前のブログ記事で、そういった偏った情報源を垂れ流しているサイトをご紹介しましたが、今回は非常に活用できる調べ方のご紹介。

結局もっとも間違いないのは、私達のような化粧品を作る・開発する人間が利用する技術情報を公開しているサービスのサイトがもっとも正確で、間違い・傾倒がありません
難しそうな言葉が並んでいたりで、とっつきにくいかもしれませんが、理解しやすい部分だけを取り入れればよいのです。

以前からこちらのブログでもよく利用させて頂いている、こちらはもう有名ですね。

Cosmetic-Info.jp
https://www.cosmetic-info.jp/

 

美容業界のことですから、今どきは動画やオシャレな画像が散りばめられた業界らしいサイトが多いので、サイトの設計は文字ばかりでユーザーさんにはとっつきにくいことでしょう。
運営者の方のイラストも小難しそうなお顔になっていますが、リアルでお会いすれば全くそんなことはありません(笑)
でも、正確さがサイトデザインによく表れていますし、何かを宣伝しようという意図が全く感じられないところに、ユーザーさんがご活用されて価値があるというのはお分かりになることでしょう。

さて、これをうまく利用しましょう。

上部に「化粧品表示名称」というタグがあります。
こちらに入ると、全成分の名称からその成分の詳しい情報が検索できるエンジン(ツール)が設置されています。
もちろん、ユーザーの皆さんは無料で活用できます。
ここに、皆さんがお持ちのコスメの調べたい全成分の名前を入力して検索すれば良いだけです。

試しに、上のプチプラに配合されている「グリコシルトレハロース」を入れてエンターを押してみました。

ドン!

成分情報

赤で囲った部分に化粧品の設計に使われる目的や機能が掲載されています。
成分って様々な機能に活用されていますのでたくさん書かれていると思いますが、知りたい機能だけ取り入れればよいだけですね。 この成分には「保水剤、皮膚保護剤」の機能があることが分かります。
ということは、保水=保湿の機能があることが、これから読み取れるという寸法ですね。
もちろん、この成分がどの程度保湿性能が高いのかは、さすがにこれをみるだけでは判断できませんが、それでも十分に参考になる情報が得られます。

せっかくなのでもうひとつ、この中の情報から得られること。

「市販化粧品」の欄のところに、”2223件“とあります。
これも実は参考になる数字。

こちらのサイトに登録されている製品の中の件数ですので、この数字はかなり多くの製品に配合されていることが分かりますし、付加価値が非常に高く、オリジナリティのある成分の場合はうんと採用件数が少ないと言えます。
この辺りも、このエンジンを使っていくつも検索してみると、だんだんと傾向が読めてきます。
つまり、噛めば噛むほどに味が出る、たくあんのようなヤツです(笑)

そして慣れてくると、この”2223件“をクリックすれば、収載されている製品がズラズラと並んで表示されます。

おぉ!…ということもあったり、あちゃぁ…ということもあったり。
ある意味、化粧品業界の裏側を垣間見たような、不思議な世界に突入していくと思います。

これで評価できる!…のか?

保湿成分2

今回の記事で、こうしてユーザーの皆さんでも簡単に保湿機能の評価が可能な方法を取り上げてみました。
そしてこういったサイトは化粧品業界でも有名ですので、まさにこのような簡単な方法を用いて、コスメの評価をする人たちも大勢おられるようです。
さて、果たしてこのような手段で化粧品の中身のどこまでを知ることができるでしょう。 そして、保湿性能の有無やその高さを知ることができるでしょうか。

twitterなどのSNSで、私達のような技術者仲間の間では、よく全成分をみただけでは何も分からないよといったコメントなどがよく見受けられます。

そうですね。
以前よりこちらのブログでも書いていますが、ここまで解説してきたように、あくまでこれは「ユーザーさんが参考になるレベル」という基準のお話です。

例えが正確ではありませんが、理解しやすい表現をすればtwitterでも話題になっていたように、お料理の違い。

仮に、一流のシェフが作るパスタと私達が家庭で作るパスタを比較するとします。
これを、もしも全成分に分解したとしたら、おそらくはほとんど変わりはないことでしょう。
でも、チーズひとつをとっても、製法と素材の違いでうんと香りや味わいに違いが出てきます。
そして麺そのものにしたところで、同じ小麦粉を使っていても打ち方ひとつでテイストは全く変わります。

化粧品の本質についても同じようなことが言え、同じ保湿成分を使っても角質層の深部に届くのと皮膚表面に留まるのとでは、皮膚への効果は全く異なります。
そして、ここまで伝授してきたような誰でもが分かる保湿成分以外の素材を用いて、本質的に皮膚に保湿を与えるノウハウもたくさんあります。

処方設計の妙

さて、今回の記事はユーザーの皆さんにとって見極め術のひとつをご紹介してきましたが、最後にはちょっとそれでも見極められないノウハウの一端を、覗いて頂こうと思います。
例えば、こういった成分があったとします。

 ・イソステアリン酸ポリグリセリル-10

おおかたの化粧品を題材にして評価コメントをする方々は、これを普通に「乳化剤(=界面活性剤)」として使用されている目的と解読することでしょう。
上のサイトで検索しても、そう記載されています。
確かにこれはその通り、乳液やクリーム、そしてクレンジングなどに使われる乳化剤としての機能をもつ成分で間違いはありません。
時には、数字がついているだけでこれは合成界面活性剤だと語る人もおられるかもしれません。

が。

まず、この数字は合成であることを意味するのではなく、グリセリンがくっついている数を表していますので、天然由来の乳化剤です。
さらに。

 ・イソステアリン酸ポリグリセリル-6

これは数字が異なるだけですが、乳化剤としての機能だけでなく、皮膚にあえてオイル感を残すために使用されていることも多くあります。 つまり、油感を残すことで皮膚にうるおいを与える使い方。 いわば、“保湿成分”としても機能させているわけですね。 数字が異なるだけで、隠れた機能を持たせる使い方をしているというわけです。
昨今のクレンジングバームで潤い感を謳っている製品なんかも、こうしたテクニックを使って洗い流した後の保湿性能をコントロールしています。

また一方で、こういうケース。

 ・ラウリン酸ポリグリセリル-10

今度は前のカタカナの部分が異なります。 ところが今度はこちらはうんと洗浄力が高くて、非常にさっぱりとしたクレンジングとして使われることがよくあります。 似たような成分ですが、方や「残すモノ」、一方は「残さないモノ」
全く反対の目的で使われるということなのです。

こうした処方設計のテクニックは、他社メーカーさんや化粧品研究者にもバレないように差別化をする、技術ノウハウの一端ということになります。
クレンジングひとつとっても、全成分では分からないちょっとした素材の使い方ひとつで、全く性質の異なる性能を発揮してくれる、そんな処方設計の妙を取り上げてみました。
特に大手ブランドさんでは、こういったテクニックで他社と競争しているという、あるあるな技術ノウハウのお話でした。

ではまた次週。

by.美里 康人

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