週3で異なる目線の美容記事をお届け
美里康人
実は誰も「混ぜる行為」に言及していない事実
昨年末にネットでも話題になりましたが、花王さんの昔からあるクリーム「ニベア」に混ぜて使えばシミが消えるといった広告で大々的に宣伝していた製品のことが問題となり、花王さん自ら《ニベアクリームを、他の製品と混ぜて使わないでください》と公式コメントをお出しなったことは記憶に新しいかと思います。
大手メディアのニュースでも取り上げられ、事件と言っても過言ではないこの件について、薬機法に詳しいと自賛される方々が「薬機法違反です。解説。」といった記事をまたあちこちで見掛けましたが、この辺りの真実をさらに掘り進めていこうと思います。
この記事の目次
薬機法違反はソコ?
まず最初に、花王さんが出されたコメントは以下でした。
『ニベアクリームと●●を混ぜるとシミが消える』という類の広告にニベア花王は一切関与しておりません。ニベアクリームを、他の製品と混ぜて使わないでください。
花王さんは実に紳士的で、一年以上も前から当該の製品を特定もしていましたし、広告会社に通告を何度もされていたそうです。
さらにこのコメントでも、当該の製品を誹謗したり薬機法に抵触しているといった指摘もされておらず、自社の製品と混ぜて使わないよう警鐘を鳴らしただけに留められています。
これに対して、こぞって専門家を名乗る方々の薬機法に照らした解説記事が、雨後の筍のようにネットに充満しました。
いずれも書かれている内容は同じで、代表的な解説はこのようなもの。
『シミが消える』は、そもそも広告の表現として許されていないので、薬機法違反。
また、景品表示法が禁止する『優良誤認(実際の性能より良いものと勘違いさせる広告)』になるので、景表法違反。
確かにこの解説は間違いではありません。
ただ、もっともらしい今回の論点はソコじゃなく「ニベアと混ぜることを勧める広告」について花王さんは通告したのであって、この広告の違法性がどうなのかに全く触れていません。
しかも他のサイトでは、皮膚科医の先生が「他社商品同士で混ぜる行為を、オススメはできません」といった曖昧なコメントしか出されておらず、白黒はっきりできない(つまりは知らない)のならばコメントを避けて欲しいとすら感じます。
で、あらためて今回は、この”化粧品を混ぜる行為“への違法性について、解説していきたいと思います。
化粧品を混ぜる行為は違法か
ここからが本題ですが、この事件後にこの部分に対して明確に違法性を示したコメントは、今のところ見受けられません。
確かにその理由も分かるのですが、つまりは薬機法や景品表示法の中に“製品を混ぜる行為“に対して明確に示された法文がないので、誰もはっきりとした答えが出せないということなのです。
ただ、実際に化粧品を作る現場に身を置く(または、置かれた経験がある)人間、または薬機法を人様にアドバイスされるお立場ならば、ここは法文にはなくてもその答えは明確にご存じなはずなのですけれど。
なので答えは、メーカーさんの立場は「違法である」です。
もちろん、ユーザーさん自らが自己責任で行う行為は自由です。
私の周辺でも、中味のことを熟知した上で自己責任で”チョイ足し“をやられている方は存じ上げていますし。
ならばと、声がどこからか届きそうです。
--根拠を示せ
言われぬ先に明示しますと、コレです。
大阪市の薬務課から出ている広報ですが、薬機法に基づいて製品または包装資材にこうして”用法用量“の記載が義務付けられています。
簡単にいえば使用方法ですね。
例)使用方法:小豆大を手に取り、お顔になじませて下さい
もしも異例な使用を指示する場合は、ここに明記しなければなりません。
例えばクレンジングの場合などは、”水またはぬるま湯でよく洗い流して下さい“といった文言が加えられていますね。
ということは、製品を他の何かと混ぜる行為があるのならば、ここに必ず記載の必要があります。 つまり、書かれていないということは、他の行為をしてはいけないということになるわけです。
違法性の根拠を示すならばこういうことになるのですが、逆説的な法解釈の屁理屈だとおっしゃられる方のために、法文に示されていないところでの業界の常識を説明していきましょう。
用時調製は認められていない
ここで「用時調製」という言葉をお出ししました。
業界用語でもあるのですが、読んで字の如しで”ユーザーが使用時に、複数の中身を混ぜたりといった使用をさせる行為“のことです。
まさに花王さんが通告している通り、二つの製品を混ぜて使用する行為は日本では認められていないのです。
これは他社製品との混合どころか、同社ブランドの他の製品と混ぜる行為すらも認められていません。 法文の有無の問題ではなく、化粧品を製造・販売する上での常識の範疇と思って頂ければよいでしょう。
これであの販売広告が悪質であることが、お分かり頂けたでしょうか。
どこの法文にも書かれていませんが、製品の販売名を薬務課に届ける際にバレると、指摘を受けて受理されません。(認めてもらえない)
とはいえ、今や化粧品の製品個々の許可制度は、この販売名称(製品の名称)の届け出だけで済みますので、そこに用法用量を記載するわけではなくほとんどバレないのですが・・・。(A剤・B剤や一剤・二剤といった品名を付与しているとバレる)
この事案が摘発を受けるケースは、市場に出てその使用方法の説明が書かれた内容が表に出た際にみつかり、摘発を受けるというわけです。
薬務課だけでなく消費生活センター(国民生活センター)も監視していますので、評判になるとすぐにバレます。
薬務課への届け出の際に指摘されたのなら撤回すれば良いですが、製品を作って市場に出してからだと商品回収の指令が下されますので、事はさらにおおごとになります。
さて、ここまで読まれて頭の回転のお早いユーザーさんならば、疑問に感じたことがあるかもしれませんね。
その疑問を次で解説していきましょう。
例外がある事例
ユーザーの皆さんも、世の中にある化粧品の中の一部に、二つの中身を混ぜて使用する用法の製品が存在することを思い出されたかもしれません。
もっとも身近で分かりやすいのは、ヘアカラー剤でしょう。
こちらは医薬部外品なので化粧品とは少し許可の取り方が異なりますが、まぁ事例の考え方としては同じ扱いで良いでしょう。
この製品は、二つの中身を混ぜて化学反応をさせないと使えないですね。(エアゾール式で混ざるようになっている製品も存在)
他には、ビタミンC誘導体のパウダーと化粧水液がひとつの製品に梱包されていて、使用する時に溶かして使う製品もあります。
あとは炭酸ガスパックも、二つの中身をよく混ぜて炭酸ガスを発生させてから使用するパック剤があります。
しかしながら気付かれた方もおられると思いますが、いずれの製品も「混ぜてから使わないと問題がある」ために、使用時に混合して使う指示になっています。
これを用時調製と言いますが、結論としてこれが認められるケースは以下が条件という意味です。
・使用時に混ぜなければならない、必然性がある製品に限る
ですので、ビタミンC誘導体製品の場合は常識的に酸化されやすい性質が公知であることから、厚労省の用法の中にも特異的な例として認める旨が示されています。
ただし、この必然性の理由についてあらたなケースは、なかなか認めてはもらえません。一応、その理由書を提出すれば認められる原則になってはいますが、あらたなケースはほとんど認められていません。
また、都道府県によって見解も微妙に異なり、厚労省も出しているビタミンC以外のケースは全く認めない判断をされている都道府県も、かなり多いとされています。
というわけで、例の摘発広告の件はこういう背景があってのことですので、どう転んで精査しても使用法として違法になるというお話でした。
自己責任で混ぜる行為はどう?
さて最後に、まず間違いなくPC・スマホの向こう側でツブやいている声が聞こえてきます。
--原則論はいいのよ。 あなたに聞きたいのは、自己責任と分かっていて混ぜることが良くないのかどうか?だよ。
実際上のことを言えば、もちろん混ぜて使っても問題ない製品同士の組み合わせもありますし、その方が使いやすいケースもないわけではありません。
ただし、これはきちんと中身のことを理解できている人間にしか判断はできない繊細な問題で、ユーザーさんでの判断は間違いなくムリと言わざるを得ません。
また、それによってとんでもないことが起きるケースもかなりあります。
例えば一例をあげてみましょう。
・ビタミンC
これはピュアビタミンCだろうが誘導体であろうが、ほとんどの製品が混ぜると問題が発生します。
なぜなら化粧品の中身のほとんどが、pHによって大きく品質に影響をおよぼすためです。
例えばお手元のジェルアイテムに混ぜると、100%どのジェルも水のようになってしまいます。
あとは美容液も乳液も、ほとんどの保湿クリームもシャバシャバの液状に変化してしまいますね。 オールインワンジェルも同じ。
そして乳液やクリームは、みるみる分離してしまいます。
他にもコラーゲン原液なんかも同様に、酸性側にコントロールされていたり塩分が含まれている原料が多いために、混ぜる相手の製品に影響をもたらす確率が非常に高い成分です。
場合によってはコラーゲン側に影響を及ぼして繊維質になってしまい、無意味な成分に変化してしまうことも十分あり得ます。
結局は製品同士で化学反応を起こすケースもありますし、中味の知識なく混ぜる行為は無謀という結論になってしまいますね。
という感じで、がっかりなアドバイスになってしまったかもしれませんが、ここは理解して頂くべき問題と考えて頂ければ幸いです。
今回の記事はここまでですが、まぁしかし例の違法広告のメーカーさんは、アレで企業として相当においしい利益をお出しになられたそうで、拝見する限り甘い蜜を吸ってしまうと止められないのでしょうね・・・。
いや、まぁ、この程度にしておきましょう。
ひきずりながらも、また次週。
by.美里 康人