◆◆FILE No.092 / パラベンが効かない / 2008年12月配信◆◆
この記事の目次
防腐剤パラベンの裏話!?
みなさんは、「防腐剤」と聞くとどういった印象を持つでしょうか?
まぁ、大抵のユーザーさんは
使って欲しくない・避けたい・怖い
こういった感想を持たれることと思います。
コスメ業界側もその消費者心理をたくみに利用し
アンチ防腐剤を謳って購買意欲をそそる戦略を展開しているものですから
さらにこの消費者の心理は加速されています。
今回のお話は、その是非はさておき
一般消費者の皆さんのお耳には全く届かないお話ですが
この皆さんの毛嫌いする防腐剤が
商品に効かなくなっているといったお題です。
「???」でしょうか!?
でも、なぜこれを取り上げたのか、よく意味が分かりませんね?
でも実は一般ユーザーにとっても非常に怖いこの現状は
きちんと知る必要があることだと思ったためです。
院内感染とウイルスの変異性
本題に入っていくその前に
皆さんは現在医療の業界で話題になっている
「院内感染」をご存知でしょうか?
院内感染とは
病院内で治療行為を受けている間、もしくは入院している間に
院内に存在している病理ウィルスが別の患者さんに感染することです。
確かにこれは怖いことなのですが
ただ実は、本当の問題点はここではありません。
現実で考えると
仮に一人の患者さんが保有していたウィルスが他の患者さんに感染したとしても
前の患者さんの治療に使用した薬剤を使えば
その感染した患者さんも治癒が可能ということになります。
となると、これは別に社会問題にまで発展するほどのことではなく
各医院において患者さんの扱いに注意すればよいだけのことです。
では問題点はどこ?
それは、このウィルスの「変異性」にあります。
ちょっと難しい言葉が出てきましたね。
ではこの「変異」の意味について分かりやすく説明しておきましょう。
以前にもこちらで少し書いたことがありましたが
ウィルスや細菌・カビなどを含む微生物というのは
単細胞生物にあたります。
つまり
人間や小動物・昆虫など、たくさんの細胞からできている多細胞生物と違って
細胞が一つしかない生物ということです。
その一つしかない細胞のため
その個々の種類による性質は非常に単純です。
例えばヨーグルトを作るための乳酸菌を例えてみると
最初にもらった乳酸菌を使ってどんどん培養して増やしていくと
ひたすら同じヨーグルトを作ってくれます。
他から違う菌が混入しない限り
基本的には永遠に同じヨーグルトを作ることができます。
こうした単一な性質を利用し
菌を使ってヒアルロン酸を作ったりという
バイオケミカル技術が発展しているというお話を
以前に致しましたね。
でも考えてみると人間は違いますよね?
私の息子は私と同じではありません(笑)
そうです。
複数の細胞で成り立っている生物は
♂と♀の掛け合わせによって何億通りもの組み合わせになり
生まれてきた新たな生命は
性質や性格が個々に微妙に異なるわけです。
ですから、私も子供と顔や形に類似した点があっても
性格はみんな違うんですね。
ましてや人間は、何億といったたくさんの細胞から成り立っています。
するとその組み合わせは天文学的な数値となりますので
世界中で同じ性格・性質・形を持った人間が生まれる可能性は
皆無に等しいということになります。
抗生物質の特性と変異
さて、本題の方に戻ることにしましょう。
こうした細菌やウィルスのような単細胞生物は
非常に単純明快な性質を持っているというお話をしました。
例えば病原菌にしても同じですが
死滅させることのできる、ある抗生物質がみつかると
その抗生物質さえ使えば必ず退治することができます。
人間のように
「あなたには効いたけど、私には効かない。」
といった事は絶対にありません。
つまり100%なのです。
ですから毎年おなじみになりましたが
その年のインフルエンザのウィルスがどの種類なのか
それを特定して効く抗生物質をみつけることが
非常に大切なこととされているわけです。
他の抗生物質を与えても全く効果がないからです。
さて、ここからが「変異」についての問題点のお話になります。
この、実は非常にある意味対処がラクチンな微生物ですが
その性質ゆえに大きな問題点があります。
それは、単細胞生物が細胞分裂を繰り返してどんどん増殖していく過程で
突如としてDNA因子の一部に変性を起こした場合です。
一つの細胞は非常にたくさんのDNA因子でなりたっていますが
つまりは、そのごく一箇所でも変性してしまったケースです。
例えば分かりやすい図で書くとこんな感じです。
これを「変異」と呼んでいます。
こうした変性が起こるキッカケは
どこにあるか全く予想ができません。
他の微生物と接触したことによって起こる場合もあるでしょうし
もっとも問題なのは
常に同じ環境にいることで
何代も増殖している過程で学習能力を身に着ける点です。
つまり、「進化」です。
多細胞生物である動植物が
何万年の歴史において環境に順応するためにDNA因子が変化し
進化してきたのと同じことです。
考えてみると多細胞生物も
人類や生物が生まれる最初の段階においては
単細胞生物であったはずです。
ですので
このウィルスなどの微生物が継代増殖の過程で進化するのは
しごく当たり前のことなのです。
しかもよくよく考えてみて下さい。
人間などの生物は、代が変わる寿命は数十年にもわたります。
それに対して微生物は
数十分という、分単位で細胞分裂を行って増殖します。
ようするに、私達が考えられないほど継代が早いため
当然進化も想像を絶する早さなわけです。
もうお分かりですね。
病院内に存在するあらゆる微生物は
常に抗生物質に接触してさらされているために
いつか突然DNA因子の一部に変化を起こしてしまったり
進化を遂げて耐性を持つことがあるというわけです。
こうなると、単細胞生物は反対にやっかいです。
なぜなら、単純な性質なだけに応用がきかないからです。
つまり、耐性を持ってしまったために
今までの抗生物質では全く効果がなくなるのです。
しかも、単純なだけに100%です。
この第三の生物とも言える進化を遂げた微生物は
全く世の中ではじめて生まれた生物ということになりますし
第三の新しい性質を持っていることになります。
ゆえに
このウィルスや微生物を退治するには
新たな抗生物質を見つけ出さなくてはいけません。
これが現在問題となっている院内感染の問題点で
こうして生まれた新たなウィルスは
過去に使われた抗生物質では効果がないというわけです。
つまり、治療法がみつからないということ。
病原菌が多量に存在する病院内においては
常にこうした危険性を抱えているということなのです。
しかも多数の種類の微生物が存在するだけに
その変異の種類の可能性は
天文学的な数値ということになります。
化粧品の防腐剤配合の意味
ということで話が大きく飛躍してしまいましたが
もう皆さんにはお分かりいただけたかと思います。
化粧品でよく使われている防腐剤としてのパラベンも
菌を駆除するものとして化粧品工場内に常に存在していますので
化粧品会社に存在する全ての微生物は
常にパラベンに接触していることになります。
なので当然突然進化を遂げたり変異を起こすことがあり
当然パラベンに対して耐性を持って効かなくなるんですね。
大手化粧品メーカーではこうしたことに対処するために
複数の種類の防腐剤を使って対策しているのを最近よくみかけます。
例えば、「パラベン・フェノキシエタノール」といった具合です。
こうして常に防腐剤の種類を変動させることで
微生物の学習を邪魔しようという魂胆です。
微生物というのは単細胞生物ゆえに
たとえほんの少しでも違う環境を与えることで
戸惑って全く学習できなくなるからです。
例えば、パラベンとフェノキシエタノールの比率
これをほんの少し変えてやるだけで
微生物の学習を止めることができます。
商品の裏側の成分をご覧になって
「なんでこんなにたくさんの防腐剤が入ってるのぉ??」
と疑わしい思いを抱かれたこともあるかと思いますが
そういう理由があったんですね。
某大手化粧品メーカーではさらに
数ヶ月に一度この防腐剤のバランスを微妙に変え
環境微生物の変異に対処しています。
長くなりましたが
業界の裏側ではこのような問題まで起きていますので
真の意味でユーザーにおいての安全性を考えた場合
防腐剤フリー・無添加といったコスメが
いかに無謀であるかということが分かります。
そしてお題にもあげたように
これは目に見えない貴女の身の回りでも
日常的に起きていることなのです。
貴女の身の回りに存在しているたくさんの微生物は
貴女が日常使っているコスメに常に接触しています。
ある日突然そのコスメの防腐剤が効かなくなり
微生物が増殖して腐ってしまうことがあっても
当然のことなのです。
そう。
日々パラベンが効かなくなってきているのです。
なんだかSF小説のようになってしまいましたね(笑)