◆◆FILE No.062 / 2007年9月配信◆◆
はかなき界面活性剤の運命
もう皆さんの中には
界面活性剤に対してアレルギーをお持ちの方はおられないですよね?
その昔合成洗剤やシャンプーなどに使われていた
お肌に対してリスクのあるような界面活性剤とはどれなのか。
もうきちんと理解できているものと思います。
例えば今、外資のLUSHなんかに使われている
ラウリル硫酸ナトリウムなどが最たる例と
これまでにも書いてきましたね。
そして
国内の界面活性剤を研究し続けている原料メーカーは
今日も、より自然のものに近くて安全な界面活性剤をと
日々開発に力を注いでいます。
その進化には目を見張るものがあります。
そんな界面活性剤の業界ですが
企業としてはかない運命をたどる界面活性剤も
多く存在します。
今日はそんなお話を少ししたいと思います。
* * *
安全性がより高い最近の新しい界面活性剤と言えば
皆さんは真っ先にアミノ酸を出発とした素材を
思い浮かべる方も多いことでしょう。
この俗に言うアミノ酸系界面活性剤。
この1年ほどでようやく
美容業界の主たる洗浄材料として地位を築きはじめました。
最初に一般消費者の目にとまるところに大きく躍進したのが
ユニリーバの『ダヴ』ですね。
もともと単価のお安い商品なので
アミノ酸系という高価な界面活性剤をふんだんに使った洗顔料は
企業としては大きな勝負どころだったことでしょう。
この商品を市場に導入して約3年。
ようやく市場に定着してきた感がありますが
美容業界として影響が大きかったのは
この商品が売れた売れなかったという問題よりも
1. 石鹸に占拠されていた洗顔料の業界でアミノ酸系界面活性剤の使用感が、ようやく受け入れられた事
2. 大手企業が大量にアミノ酸系界面活性剤を市場に導入したことで原料価格のコストダウンが大きく躍進した事
この二つが大変大きなチカラになったと言えるでしょう。
特に2.の影響力は非常に大きく
今までは原料価格が高価なために
高価格帯ブランド以外の商品への導入を控えていたメーカーも腰をあげ
昨年から今年にかけては
カネボウ・コーセー・MAXFACTORと
大手の化粧品メーカーがどんどんこのアミノ酸系界面活性剤を
洗浄剤のメインとして導入してきています。
おそらくはここ数年の間に
石鹸と二分する洗浄素材となる事でしょう。
*
という事で
消費者へのなじみも深くなってきたこのアミノ酸系界面活性剤は
ようやく市場で地位を獲得することができたというわけです。
そんなアミノ酸系界面活性剤ですが
実はここまで来るのに
15年以上の歳月を必要とした事実は
意外と知られていないのかもしれませんね。
さてさて
実はここからが今回のお話のメインとなります。
*
こうした安全性のより高い天然素材を活用した界面活性剤は
実はこれだけではなく
こうした消費者の脚光を浴びて桧舞台に立てる事なく
数奇な運命をたどる素材もあるというお話です。
そのひとつが
『サーファクチンナトリウム』です。
アミノ酸を輪の形にたくさんつなぎ
そこに界面活性剤としての役目を与えるために
脂肪酸とナトリウムをくっつけたのがこの素材です。
製造をしているのは、皆さんも耳にした事のある大手企業
昭和電工株式会社です。
(2021年7月追記)※上記画像は、昭和電工さんの原料資料からお借りしたと記憶しています。
今も一部のスキンケアコスメに使われていますが
この素材
すでに生産の中止が確定しました・・・。
大変残念なことですが
1. 企業採算ベース回収のため、コストが大変高いこと
2. ポテンシャルが高いために、使用量がごく少量で済むこと
この二点の理由により
企業として成り立たなくなってしまったというわけです。
※2009年6月に昭和電工㈱より、㈱カネカがサーファクチンナトリウムの技術・ノウハウを譲り受け
2021年7月現在でも、販売されています。
https://www.kaneka.co.jp/business/qualityoflife/img/cat_nbd002_201902.pdf
こうしてより安全性が高く
そしてより自然の素材に近い素材をと多大な費用を投入して開発してきた原料が
結果的に市場で活用されることなく
企業として成り立たなくなる例はまだあります。
サプリで少し話題になっている『イヌリン』という
植物から採取した糖がありますが
これを原料とした『イヌリン誘導体』ともいうべき
新しい界面活性剤があります。
しかしながらこの素材も
大変高価な上に市場認知を得られず
またサーファクチンナトリウムと同様に
配合量が少なくて済むために
企業としては非常に厳しい現状に直面しています。
こうして消費者のため
そして環境のために新しく開発される素材も
一般消費者の理解が得られなければ
なかなか市場性を獲得できないのが現状です。
まずは消費者の皆さんが
界面活性剤に対する誤解をしっかりと認識することは
より安全で心地よいコスメが市場に投入される
大切なターニングポイントと関わってくるという一例でした。
単に、合成界面活性剤を使っているからダメ。
天然素材ばかりだから良い。
防腐剤フリーだから良い。
こうした端的なエセ理論に翻弄されないよう
賢い消費者を目指していきましょうね^^
それが、安全でコストの安いコスメを世に送り出せる
重要な原動力ともなるからです。
アミノ酸系界面活性剤のように
目に入ってもシミない洗浄剤も
市場実現化されるのですから。