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化粧品回収事例のまとめ

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美里康人
化粧品の「回収」って何?

品質異常や皮膚トラブル事故など
違反化粧品情報データのまとめ

 

今回は、厚労省の下部組織「pdma」で公開されている化粧品・医薬部外品の回収情報をまとめましたので、記事にしてみたいと思います。

「pdma」とはなに?

その昔、医薬品をはじめとして医薬部外品・化粧品・医療機器など薬機法に関わる法律の監視や審査・許認可を担っていたのは厚労省でしたが、現在は「医薬品医療機器総合機構」、略して「pmda」という政府の下部組織が担っています。
営利目的の法人ではありませんので、非営利の国の直下組織になります。

医薬品を開発・製造している企業や、私たちのような化粧品・医薬部外品を製造している企業は、必ずここに許認可の申請をして審査を受けたりといった手続きをするところということですね。

HPには、国全体の国民にかかる健康被害情報といったことも発信されています。
今はコロナウイルス関連の情報なども、日々更新されて公開されています。

とはいえ、実務上では化粧品の場合は製造許可も含め都道府県自治体の薬務課で手続きをしますので、医薬部外品の審査など以外では私たちが直接アクセスすることは少ない国の組織です。

で、ここのHPには医薬品も含め医薬部外品・化粧品の市場トラブルで回収指示が出された製品の事案が、すべて公開されています。
ユーザーの皆さんはほとんど目にすることもないでしょうから、今回はその掲載内容についても記しておきましょう。

回収情報の内容

市場でトラブルを起こした製品の回収情報は、以下の内容が掲載されています。
こんな感じ。

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製品名や企業名は隠してありますが、ここで注目して欲しいのは一番下の担当者の部分です。
美容関係の企業さんやそこで職務に就かれている方はよく見ておいて頂きたいのですが、ここに記されている個人名は、トラブルを起こした製品を製造・販売していた企業さんの、薬事担当者の本名フルネームが公開されています。
薬事上で企業が厚労省に届け出ている責任者の方の名前ですね。

念をおしますが、経営者ではありません。
あくまで薬事の手続きを担っている現場の、責任者の方の個人名です。
つまりは、責任者といっても普通の従業員の方ですね。

ご本人は何か不祥事を起こしたわけでもない会社の不祥事なのに、一従業員レベルの人の個人名が公に晒されるというわけです。
今では私自身は関係ありませんが、企業の工場に勤務していた頃はこの立場の職務に就いていましたので、こうした立場の人間でした。
薬事上で正式には、「総括責任者」と言います。

いやはや、なんとも不本意なことと思いませんか?
小さな工場さんであれば、化粧品工場任務経験者の方は資格がありますので、一般従業員がこの責任者に任命されるのは普通のあるある話なんです。
薬事上、化粧品の製造業許可や販売業許可を得るには、この責任者が必ず必要になりますので。

ちょっとした表示間違いや広告で書いてはいけない言葉を表記していたというだけでも、こんな事態になるということです。

以前にtwitterでもつぶやいたことがありますが、実は化粧品会社で一番エラいのは経営者ではなく、この総括責任者なんですね。
化粧品を製造・販売する行為の中では、この人の指示は絶対でなければなりません。
だって、これだけの責務を担ってリスクも負っていますので、当然のことと言えます。

美容業界企業の皆様は、これをよく頭に入れておいて頂きたいところです。
ちなみに、こう思っておられる化粧品メーカーさんもおられるかと思います。

ーーpmdaのHPなんて一般消費者はほとんどみないし、大したことじゃないでしょ。

いえいえ、今は情報過多時代。
このような消費者向けのサイトもあるんですよ。

■リコールプラス
https://www.recall-plus.jp/info?page=4

さらにはこちらのサイト、エキサイトニュースにもリンクされていますので、あちらにも更新記事が飛んでいきます。
今や掲載の拡散は、情報掲載当日から始まると思って間違いありません。

回収事例

簡単な説明を終えたところで、この3年間の回収事例を拾ってまとめてみました。

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クラス分けがなされていますが、「クラスⅡ」というのは簡単にいえば皮膚被害といった消費者にとって大きな被害を及ぼすようなトラブルではない範囲の事案と考えればよいでしょう。
そして「クラスⅢ」はさらに軽微で、文字が間違っていたといった誤植などが対象で、それでも薬機法に抵触するような軽いトラブルという感じです。

この3年間では出ていませんが「クラスⅠ」というのもあり、これは皮膚トラブルといった消費者に健康被害を及ぼしてしまったような、重篤な製品トラブルの事案になります。
皆さんもご存じの数年前に起きた茶のしずく石けんや、カネボウのロドデノールによる白斑被害事故もここに入ります。

ということで見ていきますと、毎年結構な数の回収事案がありますね。
意外なことに、皆さんもよく知る大手ブランドさんの事案もチラホラと見受けます。
企業名は記しませんが、中には小さな企業さんにも関わらず数年の間に複数回登場されているのも見掛けます。
こんなところでの常連なんて、あまりありがたくない話ではありますが・・・。

で、その回収の内容についても項目分けをしてみました。
「表示」というのは、成分名の間違いなど、裏面の責任表示のところで記載間違いや印刷ミスがみつかった事案がほとんどになります。
これでも薬機法違反になりますので、回収ということになります。

「効能表記」というのは、謳ってはならない医薬品的な表現や言葉を表記されていたりPRしていたという、ちょっと作為的な販売戦略も絡む違法性の摘発ということです。

そして「品質」というのは、まさに品質が劣化していたり液漏れを起こしてしまっていたりという、製品としての品質に問題があった事案がこれに該当します。

次の「汚染」は微生物による汚染を起こした製品のことで、いわば製品が腐敗してしまっていたという事案ですね。
消費者の手元に届いた時点で腐っていたなんて、もってのほかという感じでしょうか。

最後の「無許可」は、化粧品の製造の許可も受けてもいない工場さんで製造していたり、製品の届け出を薬務課にしていなかったという事案になります。
これは化粧品を普通に製造している工場ではちょっとあり得ない事案で、悪質と言えます。

こうしてみていくと、件数の多い表示違反については現場のケアレスミスといった事例も多く、いわばちょっとしたミスや確認漏れで起きた事故といった程度のことですので、まぁ仕方のないこととも思えます。
しかしながら、品質トラブルが多いというのはしっかりと考えていく必要を感じます。
さすがに大手ブランドさんは、大量の出荷数のわりにごくわずかな件数程度ですのでしっかり管理されていると思えますが、中小メーカーさんではこんな数のトラブルを起こしていることをよく反省する必要性を感じます。

特に、昨今は防腐剤フリーなどといった差別化をした製品も見受けますが、安易に防腐剤を抜いてしまうだけではこういった事態に発展するということを、しっかり念頭に置くべきと思いますね。

近年の傾向分析

最後になりましたが、トラブル内容をよくみていくと、近年に起こっている市場の傾向を反映している事案が多くみられています。
それを列記して終わりにしたいと思います。

・アンプル容器で違法
昨今は変わった容器の化粧品で差別化を図るメーカーさんも多くみられ、注射液に使用されるアンプル容器を美容液に採用して摘発を受けた事例があります。
消費者にさも医薬品のような誤解を与えるということで、摘発を受けたケースです。

・原料にホルムアルデヒド検出
ホルムアルデヒドというのは人体に与える影響の大きい化学物質で、建築資材に含まれていても厳しくチェックされるほど、皮膚に使用する化粧品には絶対に混入していてはならない成分です。
輸入コスメや海外原産国の国内コスメでみられていますが、中国といった海外の原料にまれに混入していることがあり、ここ数年で複数摘発を受けています。

・使用不可の色素使用
こちらも輸入関連が複数みられていますが、海外では使用が認めらていても日本では使用できない色素があり、これは違反コスメとして摘発されています。
主にメイク製品にみられます。
昨今はマニキュアなどはほとんどが輸入生産に頼っており、注意が必要です。

・香料未表示
ここ数年、ふたたび香りをつけて差別化をする化粧品が増えてきています。
その際、やはり合成香料を示す「香料」の表記を避けるため、天然に由来する精油を配合するケースが多くなっています。
また、合成香料の中でも個別に成分名が登録された成分も出てきており、こういった成分を選んで香りづけをすることで、合成香料を示す香料表記を避けるケースも多くなっています。
しかしながら、すべての合成香料成分が成分名登録されているわけではなく、混合された合成香料を間違って成分表記すると表示違反になってしまいます。

香料は、30年以上も前からやはりアレルギーといった皮膚トラブル原因の上位に常にいるリスク成分であることに、変わりはありません。
香料の表示をしなくて良いからと、この過去の経験のリスクがなくなったわけではないのは当然のことです。
消費者の立場に立ち、過去の経験を踏まえて配合や表示には留意することを決して忘れてはならないと感じます。

・無許可製造石けん
相変わらず、個人が自宅で作った手作り石鹸を販売して摘発されているケースが、あとを絶たないようです。
上で記したように、大手ブランドさんの化粧品ですら、アレルギーやアナフィラキシーといった重大な事故が起こっている事故を決して他人事とスルーしてはなりませんね。
皮膚に使用する製品はすべて法律に基づいて製造・販売をしなければならないと、全世界で取り決めされていることを忘れてはなりません。

・無添加〇〇フリーの誤表記
無添加コスメがかなりの市場性を獲得していますが、いまだ表記方法の知識が未熟な中小メーカーさんも多いようです。
必ず工場さんに、表記の是非と表記方法のアドバイスを受けて、適切な表記に心がけて頂きたいところです。

以上ですが、最後にこのコロナウイルス禍で特有に起きた事案を記して終わりたいと思います。
2020年度は、エタノールの含有量が不足しているにも関わらず除菌性能を謳っていたり、「エタノール」(エチルアルコール)ではなく「メタノール」(メチルアルコール)を使ってハンド除菌製品を製造販売したとして摘発されたといった事件が複数件起きた年でした。

すでに皆さんもご承知の通り、エタノールとメタノールは一文字違いで大違い
メタノールは燃料に使われる毒性の強いアルコールで、目に入った場合には失明の恐れもある、皮膚浸透の高い危険な成分です。
もう除菌製品は市場に潤沢になっていますので間違うことはないと思いますが、くれぐれもメタノールの表記のある製品を皮膚にお使いにならないようご注意下さいませ。

除菌製品がひっ迫し、猫も杓子もエタノールさえ手に入れば作って売れば儲かると、化粧品の許可もないのに除菌ハンド製品を製造して販売した業者が多数あったようです。
昨年は、化粧品業界にとってそんな特別な年でもありました。

ではまた次週。

by.美里 康人

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