美里康人
なぜなのでしょう?という閑話休題
唐突ですが、今年は例年よりもOEM会社の工場・研究室さんに伺い、技術の方と色んなお話をさせて頂く機会が多くあります。
私が運営しております会社のことをこちらでほとんど書くこともないのですが、弊社が自社で開発した処方での製造をOEM工場さんにお願いすることや、技術アドバイザーとして研究室の技術陣のお世話するケース、はたまた技術者の方々を対象とした化粧品技術セミナーもご依頼頂くことが多いことが、その理由です。
で、その中で最近感じることがあり、そのお話を今日は書きたいと思います。
あ、決して上から目線なお話ではありませんので、誤解なく読み進めて頂ければと思います。
この記事の目次
化粧品研究者とは
こうして私などがお会いする機会がある化粧品の研究者を含む技術者の方々は、全国規模で言うとほんの一部なのですが、化粧品の研究者さんといっても様々な職務の方々がおられますので、最初にその職務内容の分類について少しお話しておきましょう。
私自身も本職でもあることから、一般的に分類分けされておられる方とは切り口が異なり、ちょっと変わった見方で分けているかもしれません。
<大手ブランドメーカー研究者さん>
ブランドを持つ化粧品メーカーさんは大きく2つに分かれ、自社で研究開発を行って自社工場で化粧品を生産されているメーカーさんの研究者さん。
その中でも、百貨店のコスメカウンターと言われる店舗を持つ、代表的な大企業の大手ブランドの研究者さんのことです。
こうしたメーカーの研究者さんは開発商品も圧倒的多数で、ほぼ毎月のように何らかの新製品が発売されますので、研究者の方々も何十人から百人以上にも及びます。
ですので、研究内容もアイテム毎の専門に分かれていますし、さらには実際の商品の処方設計に関わるのではなく、製剤開発や成分・原料の開発、他には臨床試験や機能性試験の専門の方もおられたりで、必ずしも色んなアイテムの処方設計に精通しているわけではないことが多いものです。
いわば、専門的になにかのカテゴリーの研究を担っておられると考えれば良いですね。
私の知り合いの中には、リサーチの専門の方もおられました。
<中堅以下ブランドメーカーの研究者さん>
次に、自社で工場を持って研究・製造をされている中堅ブランドさんの研究者さんです。
中堅ブランドさんと言ってもイメージしにくいかもしれませんが、具体例でいうとノエビアさん辺りから以下がこのボーダーラインレベルと考えれば良いでしょうか。
基本的にブランドラインも多数あるわけでなく、新製品と言っても年に数えるほどのアイテム数、もしくは数年に一度の新製品発売ですので、研究課題もあまり多くなくたくさんの数のアイテムを開発しているわけではありません。
その分、それぞれは専門的に深く突っ込んだ研究をされておられるケースが多いのが、こういったブランドの研究者さんの特長です。
<OEM工場研究者さん>
最後は工場を自社でお持ちでないメーカーさんの製品を研究・製造されている、いわゆるOEMと言われる工場の研究者さんです。
私なんかもスキンケア研究はここに含まれます。
企業さんの規模にもよりますが、専門的なアイテムの研究に携わる研究者さんは比較的少なく、様々なカテゴリーの化粧品開発に携わる経験を持つ研究者さんが多いのが特長です。
中には研究室は数名で担っておられて、スキンケアだけでなくヘアケアやメイクまでご経験を持たれる研究者さんもおられます。
一方で、たくさんの種類の製品を手掛ける関係上、それぞれにはあまり深く研究内容を掘り込むことが少ないとも言えます。
私もこうした企業経験があります。
経験則と知識の深度
さて、上での説明ではあまり詳細には触れませんでしたが、皆さんもご想像頂ければそれぞれに携わっている企業の業態によって、以下に違いがあることがお分かりになるかと思います。
・アイテムの守備範囲
・知識の深度や専門性
・経験則の数
もちろん、何が良いとか優れているとか、そのようなことを述べるわけではありません。
それぞれの分野で、それぞれの経験則は非常に化粧品技術として素晴らしいと思いますので、皆さんご活躍です。
ただ一方で、世の中は色んなところで企業努力が進んで便利になってきたことから、日本の化粧品技術に暗雲が垂れ込めていると言われ始めています。
そんなところが今回の話題になります。
安近短な世の中
さて、上記で私達と同様のOEMを専門とする工場の研究者さんに、ちょっとした異変が起きていると言われだして久しくなっています。
それはTwitterでも呟きましたが、お若い技術者さんが育たたないと言われる問題です。
もちろん、OEM工場と一口で言っても企業規模は様々で、工場や研究室をいくつも保有するほどの工場さんの規模になると、より専門性や競争力も高くなって技術力の向上の礎になるのですが。
とはいえ、数名の研究者で商品開発を担っておられる中堅以下の工場さんになると、この傾向は一気に強くなっていると言わざるを得ません。
そのひとつが、「考えることが面倒になった現象」です。
これは若い人たちにまん延してきている社会現象のひとつで、脳科学者の方々の研究で明らかになってきているそうです。
このように今の若い人たちがそうなっているという論説も一部で見受けますが、とはいえこれは社会が作ってしまった社会現象の影響という気がしてなりません。
化粧品技術者の世界の闇
お題で断罪してしまいましたが、まさにどうなってしまったのかOEM業界の研究者さん達・・・という印象です。
それを作り上げてしまったのは、OEM企業さんそのものであるところも大きいと感じます。
というのも、今どきは様々な原料素材が開発されて、“安近短”で簡単にそれらしい化粧品が作れてしまう時代になったことが、要因のひとつと言えます。
これは企業さんにとっても、もっとも楽で儲かるという企業成長の一端と言えるからです。
分かりやすいのが乳化系コスメと言われる、乳液やクリームといったエマルジョン製剤です。
油と水と美容成分を配合して混ぜるだけで乳液やクリームが簡単に作れてしまう素材が開発され、それさえ使えばどんな新人研究者でも安定で簡単なエマルジョン製品が設計できてしまうのですね。
しかもユーザーさんのニーズに合わせて、いかようにでも調整可能という便利かつ横着な素材というわけです。
企業にとっては人件費がもっとも大きな経費ですので、これは非常に大きい企業メリットですね。
まして、消費者にとっては中身は分からないのが化粧品ですので、こうした流れが浸透するのに時間を必要としませんでした。
こうなると当の化粧品技術者さんはどうなるか、ユーザーさんでも容易に察しがつくことと思います。
早いお話、考える必要性がなくなったのですから。
これは私達の業界の言葉で言うところの、「試作屋」という現象です。
つまり、得意先である依頼主のメーカーさんに、どんどん“安近短”処方で試作品を作って出す作業者・・・というわけです。
しかも悪いことに、今どきは売り方さえうまくやれば容易に商品が売れるノウハウがあるという、技術者にとっての悪循環です。
技術力が、イコール売れる商品にはならないのが世の常と化していますので。
こうなってしまうと、例えば転職をしてきちんとした技術力・開発力のある研究室に入って考えることを要求されても、もうできなくなってしまうというのがこの現象です。
これは当の本人が取り組もうと思っても面倒くさくなってできないのですから、もうどうにもなりません。
考えるという行動が辛くて耐えられませんので、上司や先輩たちから答えをもらうことを待つことしかできなくなります。
進歩を目指す技術屋はどこに
こうして最初のお話に繋がるのですが、今年に入って色んな研究室の技術者さんとお話をすることが多いのですが、「安近短コスメ」の設計以上の経験則や提案を受けることがほとんど皆無となってしまったことが、まことに情けないというお話でした。
じいさんの戯言かもしれませんね。
韓国のOEM大企業が上陸しようとしている最中にあって、メイドインジャパンな技術力が失せていく寂しさを感じる、今日この頃というお話でした。
ユーザーの皆様にあっても、商品を見抜くためのノウハウもこれまでこちらでは明かしてきましたが、私達のような発信者から簡単に答えを得ようとするのではなく、記事にさせて頂いているヒントとツールを用いて自分で考えて探すということをされるように努めて頂くキッカケになればと思います。
皆様も、考えることが億劫になってしまわないことを願ってこの記事の終わりとしたいと思います。
ちなみに、技術力のあるメーカーさんは、HPなどをじっくりと拝見すると見極めることが可能になりますよ。
成分のことばかりをPRするのではなく、製剤に関わる技術を公開しているようなブランドさんは、期待して良いブランドさんかもしれませんね。
以前からこちらでは述べてきていますが、特に落とし系アイテムは技術力がモノを言いますので、見極めポイントのひとつです。
ユーザーの皆様にもヒントになればと思います。
ではまた次週。
by.美里 康人