週3で異なる目線の美容記事をお届け
美里康人
いよいよアンチエイジング成分へと進化
後半はもう少し詳細な解説に加えて、昨今のアンチエイジング成分としてよく使われる成分との繋がりについても、解説していきます。
つまり、コラーゲンを出発点としたタンパク質成分の人体に対する効果は、今もまだ進化し続けているというお話です。
この記事の目次
コラーゲンとゼラチン
コラーゲンといえば、例えば食品の世界で魚や鶏肉を煮たものが冷えるとできる、いわゆる「煮こごり」といったものも、よくコラーゲンだから美容にいいんだよ!なんてことが言われます。 また、フグやクエといったお魚には、身にプルプルとしたゼラチン質のものも含まれ、これもお肌にいいとよく耳にされることでしょう。
他にも、えー、そうなんだ!と驚かれる方もおられるかもしれませんが、お料理やスイーツに使われる「ゼラチン」もコラーゲンと一緒なんだよといったことを聞かれたことがあるでしょう。
これは、ブタや牛、ニワトリといった動物の皮を煮詰めた煮こごりを利用したものですので、やはりコラーゲンと同じ成分だと言われるわけです。
確かにこれらも全てタンパク質のゲルで、間違いではありません。
ただしここで誤解してはならないのは、プルプルのジェルを作るスイーツの材料として、ゼラチンによく似た寒天やペクチンといったものもありますが、これは成分的には全く異なる成分です。
これらは多糖類といって、ヒアルロン酸のように糖の化学構造の大きなモノと考えればよく、栄養素としても異なります。
仮に皮膚にこれらを塗布するとした場合、考え方としてはコラーゲンは皮膚の栄養素分、一方の寒天は保湿成分ということになりますね。
そして話はコラーゲンに戻ります。
ここまで書いてきた、食品にもあるコラーゲン(のようなモノ)は、高価な化粧品に配合されている美容成分と同じものなのでしょうか。
もし同じなのであれば、キッチンコスメで簡単に高濃度なものが作れちゃいますし、お高い化粧品をわざわざ買い求める必要はなくなります。
これは残念ながら、別物と考えなければなりません。
それは前回説明した「3重らせん構造」にカギがあり、食品に含まれる、はたまたそこから作られたゼラチンは、このもともと皮膚に含まれている特有のタンパク構造とは異なってしまっているためです。 実は自然のカタチで存在しているコラーゲンは、簡単にこのらせん構造が切れて壊れてしまうのです。
例えばお魚に含まれているコラーゲンも、45℃を超えるとこの構造が切れて分解してしまい、再び冷えた時に異なったカタチに凝集してしまいます。
このようにぐちゃぐちゃになって固まりになってしまったタンパク質は元のらせん構造(つまりはアミノ酸の順列)には戻りませんし、この状態になってしまうと皮膚に存在していた状態とはまるで違ったものになってしまいます。
いい加減な絵を書きましたが、ゼラチンがゲル状になるのはこのようなカタチに変性してしまったために起きる現象ということです。
とはいえ、成分が変わってしまったわけではありませんので、もともとのアミノ酸が連結したものであることには変わりありません。
ということで、動物性タンパクに含まれているゼラチン質のものは、煮こごりになったり焼けてしまったものは別物になってしまうと覚えておくとよいですね。
摂取するのであれば、生で食べるべきというのが結論です。
さて、コラーゲンそのもののお話はここまでですが、上で書いた「もともとのアミノ酸が連結したものであることには変わりありません」の部分が、実は化粧品の美容成分としての進化に繋がっていきます。
ポリペプチドとペプチド
ここまでの説明で、コラーゲンは特異なカタチをしたタンパク質であることを述べてきました。
ここで一度、コラーゲンの「タンパク質」としてのお話に戻りましょう。
生体内のコラーゲンを発想として、これはタンパク質から成り立っていることが解明されてから、これを化粧品に活用する方法へと化粧品技術は発展していきます。
業界で使われてきた言葉が変わっているので分かりづらかったかもしれませんが、タンパク質は英語で「protein(プロテイン)」と呼びます。 スポーツ飲料などでよく耳にされると思います。 ここでもコラーゲンの発想は重要な摂取栄養素として活かされています。
そしてプロテインは、化学の世界では「ポリペプチド」と言います。
おや?
この「ペプチド」という言葉は、目耳にされたことはありませんか?
まず、有名な略語で「PPT」と言えば、年配の方やヘアケア業界の方はご存じの方も多いかもしれません。
1960年代に原料が開発され、ヘアケアの分野でトリートメントやシャンプーに髪の補修成分として美容業界に一気にムーブメントになった素材の呼び名です。
つまり、髪のケラチン(これもタンパク)にタンパク質を塗布して髪を修復しようという取り組みで業界に広まったのがこのポリペプチドです。
「プロテイン」の言葉を使われたブランドや製品もありましたね。
このトリートメント効果がまた昨今見直されて、再び着目されている傾向もあります。
『ビューティニュース』(@cosme)
記事リンク:https://www.cosme.net/news/detail/id/8950
こうしてコラーゲンから作られたポリペプチドは、「コラーゲンペプチド」とも呼ばれて、ヘアケアの業界でも大きく広まりました。
ちなみに、これももちろんゼラチンと同じではありません。
ただ単にコラーゲンを煮だして作られたぐちゃぐちゃな状態のポリペプチドではなく、様々な技術を用いてきれいにコラーゲンを分解し、髪に付着しやすいように開発された成分です。
このブーム終焉の方では、ポリペプチドは分子が大きく髪のダメージ部分に入っていかないという理論で、アミノ酸が10個程度まで小さく切り刻まれたオリゴPPTが開発されました。
「リキッドヘア」といったダイレクトな製品名で、市場やサロンで人気となりました。
今では到底、認められなさそうなネーミングですが・・・。
さて、いよいよこの記事も最終段階です。
ここまで述べてきたPPT(ポリペプチド)は、上でも触れたように“ポリ”マーペプチドであって、いくら発展してきたとはいえ、ようはコラーゲンと同様にアミノ酸が50個以上(分子量で数十万)連結したポリマー(高分子)であることには変わりありません。
しかしながらこの技術はさらに進化し、ポリマーではなくさらに小さくして皮膚のアンチエイジング成分として進化を遂げてきているのが、まさに”今”です。
化学用語では”ポリ”が外れて単に「ペプチド」となります。
そしてアンチエイジングへ
この「ペプチド」という言葉も、こちらのブログを長くご愛顧下さっているユーザーさんや、サロン業務に関わられている技術者の方々の中には、ピンと来られた方もおられることでしょう。
ここまで述べてきたように、コラーゲンやプロテインを含めたポリペプチドは大きな分子のポリマーであり、皮膚の中にまで入って生体内で効果を期待できると考えるのは少々ムリがあります。
そこで考えられたのが、さらにこれを小さくして皮膚の中に入る可能性を高めた技術です。 それがお肌のアンチエイジング成分として今や前線で活躍している、「ペプチド」というキーワードです。
現代の皮膚科学の世界では、ただ単にポリペプチドを小さく分断しただけではなく、皮膚と同様のアミノ酸構造を再現することに拘ったり、さらには成長因子を解析してそれをくっつけ、皮膚の中で再生を促してくれるよう手を加えられた成分と、進化を続けています。
それがユーザーの皆さんおなじみの、こういった成分です。
いわゆるEGFと呼ばれて有名になりました。
・ヒトオリゴペプチド-1(改正後名:ヒト遺伝子組換オリゴペプチド-1)
ペプチドに「オリゴ」と付いていますので、アミノ酸が10個程度のコンパクトに連なったペプチドとイメージして下さい。
他にも全成分名では、続々とこういったアンチエイジングに期待した名称の素材が開発されています。
もちろん、再生医療や美容整形の技術にも活用されています。
・アセチルテトラペプチド-〇〇
・カプリロイルジペプチド-〇〇
・トリペプチド-〇
・パルミチン酸ヘプタペプチド-〇〇
・・・etc
到底ここには書ききれず、なんと今では実に全成分名称で500種類ほどが登録されています。
こういった成分がどこまでお肌に効果があるのか、それぞれに特徴やメリット・デメリットもあるでしょうし、簡単に私が評価できることではありませんので、その手のコメントはこちらでは控えておこうと思います。
なにより、こういった成分をただ配合するだけなら化粧品技術者とはいえませんし、どういった製剤を設計して角質層の深部(本当は真皮層にまで・・・と言いたい)に届けるかがユーザーの皆さんにとってコストを割く重要なポイントでしょうし、私達の本来の役目と思う今日この頃でございました。
ではまた次週。
by.美里 康人