週3で異なる目線の美容記事をお届け
美里康人
クリームタイプってどうなの?
今回は前回の話題と少し繋がりがある、クレンジングクリームについて。
内容のメインは、実はクリームタイプのクレンジング製品ってコスパが非常にいいというお話です。
なお、どこが前回の合成ポリマーのお話と関係があるのかは、この後読み進めて頂ければ理解頂けると思います。
この記事の目次
クレンジングクリームの位置づけ
クレンジングクリームって、クレンジングアイテムの中ではあまり人気がありません。
実際にOEM企業として携わっているとその傾向は明らかなのですが、念のため最近のアンケート調査の結果を見てみましょう。
■人気クレンジングのおすすめランキング!
出典:MATE(ビックマック社)
https://mate-app.jp/blog/beauty/1020/
こちらがアンケート結果。
11.1%と、かなり低い数字なのが分かります。
なぜなのかを分析すれば、ほぼ全ての製品がフタを開けて手指を入れて直接取らないといけないのは、要因のひとつかと思います。 濡れた手ではダメとなっているのが通例ですし。
ただ、ここは最近流行のバームも同じだと思いますし、不思議なところです。
(とはいえバームも8%台と、全体としてニーズは低迷していますが)
そういう意味では、クリームタイプはどこか古臭いイメージがあるのもマイナスポイントかもしれませんね。
とはいえ、実はクレンジングクリームって総合的にみて非常に優れたクレンジングアイテムなのだというところを、今回は解説していきたいと思います。
コスパも非常にいい製品が多いので、この辺りにも触れていきましょう。
クレンジングクリームの設計上の特長
まずクレンジングクリームって、どういった設計になっているのか、処方面の特長を解説していきます。
「クリーム」というくらいですから、オイルと水を界面活性剤を使って乳化(エマルジョンに)してあるのが原則です。
ただ、スキンケアの保湿クリームと大きく異なるのはオイルの比率(%)で、製品の全成分をみても分かるようにほぼ半分はオイルと考えてよいでしょう。
スキンケアクリームの場合は一般的に多くても20%までの設計ですので、オイルの量は倍以上含まれていると思えばよいですね。
そして気になる方も多い界面活性剤の量も、オイル量にともなって配合量はスキンケアクリームよりも多いと思って頂いて間違いありません。
それはただ単にクリームを設計する上で必要なだけでなく、メイクとなじませた後に水やぬるま湯で洗い流さないといけませんので、水に再乳化させるためにも配合量は多くなるのが原則です。
他にはBGといった保湿成分もかなりの配合量になるのが通例ですので、トータルの設計イメージはこんな感じです。
オイル:30~40%
界面活性剤:5~10%
保湿成分:10~20%
水:30~50%
このような構成になっています。
ここで、保湿成分(多価アルコール)がやけに多いことに気付かれた方がおられるかもしれません。
これは実は保湿を目的に配合されているのではありません。
皆さんがクレンジングクリームをお使いの時には、メイクとなじませていくとツルっとオイル状に変化してメイクが浮いてくるタイミングがあるかと思います。
これを業界用語で「転相」と呼んでいますが、これはいわば手でクルクルとマッサージしていくうちにクリームの設計が崩れ、オイルが分離する状態に変化しているという現象なんです。
これによって、メイクとオイルがなじんでメイクが落とせるという仕組みですね。
この現象を意図的に起こさせるのに、このBGを含め多価アルコール成分が非常に重要な役目を果たしているというわけです。
そのため、比較的たくさん配合されている製品が多いかと思います。
もしも技術者の方がご覧になっていて、この転相を早いタイミングで起こさせる設計にご苦労されておられましたら、この辺りに工夫をされてみて下さい。
優れているポイント
さて、こうした設計のクレンジングクリームはユーザーの皆さんにとってどのようなメリットと特長があるのでしょうか。
ここでユーザーの皆さんがどういう点が優れていると判断されているのか、アンケート結果を見てみましょう。
これを見れば何かが見えてくるかもしれません。
n数(アンケート回答者数)1,729人ですから、かなり信頼性の高い傾向が見られるのではないでしょうか。
■「メイク落とし」に関するアンケート
出典:DIMSDRIVE公開テーマ別調査『TimelyResearch』(インターワイヤード社)
https://www.dims.ne.jp/timelyresearch/2015/150428/
データはこちら。
この結果はなかなか参考になるデータで、設計上の特性をかなり示唆しています。
保湿力があり、刺激も少ないと感じているユーザーさんが多いことが見てとれます。
そこで処方設計上から言える特長をまとめてみます。
メリット)
・オイルが多い設計であるため、洗浄後にパキパキせず保湿感が残る
・クレンジングオイルよりもオイル量が少ないため、オイルの刺激が緩和されている
・転相後はオイルが遊離してくるため、メイク落ちもオイルなみに優れている
・保湿成分が多いため、乾燥感はクレンジングオイルより緩和されている
一方で、デメリット点もあります。
デメリット)
・洗浄後のオイルのヌルつきが、完全に解消されているわけではない
・オイルが体質的に合わない(ニキビ体質の方など)は、完全解決にならない
・濡れた手では使えない
こうしてあらためてみていくと、クレンジングオイルでは気になる点も解決されていて、クレンジングアイテムとしては意外と優れていると言えますね。
そしてコスパ
最後にコスパの特長について取りあげますが、クレンジングクリームはクレンジングオイルよりも歴史が古く、この歴史ゆえに派生してきたコスト面での大きな特長があるのです。
それは、コスパの非常に良い製品が多く市場に存在するという点です。
もっとも身近で分かりやすいのが、「ポンズ」(P&G社)ですね。
私が生まれた頃から日本でも発売されましたので、化粧品業界でも有数の歴史ある製品のひとつです。
他にも日本の大手ブランドさんからも、こういった製品がラインナップされています。
・ウテナ モイスチャー コールドクリーム(ウテナ)
・ビオレ こくリッチメイクオフクリーム(花王)
・ドルックス クレンジングクリームN(資生堂)
・モイスタージュ Wコールドクリーム(カネボウクラシエ)
・ソフティモ コールドクリーム (コーセーコスメポート
いずれも200g以上といった大容量で、お値段も1,000円以下で手に入ります。
リニューアルされても長く愛用されている製品も多いですね。
お財布に優しいだけでなく、パフォーマンスもなかなかのものです。(よく利益が出ているものです・・・)
ポンズがその昔に業界を席巻して大流行したことから、追随するジャパンブランドも同価格帯で勝負せざるを得なかった背景が、ここにあります。
-こんなプチプラで、お肌が心配・・・
-年齢を重ねると、これを家に置いておくのも恥ずかしいかも
こんな声も聞こえてきそうですが、クレンジングアイテムはメイクを落とすのがお仕事。
私達は機能性コスメと位置付けますが、つまりは機能さえ果たせればそれで良いわけですし、なによりクレンジングクリームはこの後に洗顔を使用してお肌から完全にオフしてしまいますので、他に求められるものは「お肌に合うか」だけのことです。
もちろん、洗顔をせずに保湿要素を残したいというムキはオイル成分に拘ったり、はたまたお肌に合わないオイルがあるという方は特長あるオイルが選ばれた高付加価値な製品もあります。
また、昨今は上の一般的な設計からさらに進化させ、界面活性剤が天然系であったり、配合量も2~3%で設計された優秀な高付加価値製品もありますので、ここは拘った製品を選ぶのも多いにアリです。
とはいえ消費者には厳しい時代が続く昨今ですので、落とし系アイテムはコストを落とし、スキンケアアイテムの方にその分のコストを上乗せするスキンケアの見直しも、よいかもしれません。
そして最後になりましたが、前回の合成ポリマーの話題との繋がりのお話です。
上でも触れたように、ポンズをはじめとしてクレンジングクリームは非常に歴史の古い製品が多く、画像の製品やブランド名をみて懐かしく感じるご年配の方も多いかと思います。
ですので、特に古くから存在する製品はその昔の乳化設計ままのアイテムも多く、合成ポリマーを使った昨今の主流とは異なる設計のクリームが多くあります。
上で取り上げた製品の中にも、いくつかありますね。
「安・近・短」な合成ポリマー技術が隅々まで広がってしまった昨今の業界では、こういった設計ができない若い技術者が多くて困っているとよく耳にします。
品質安定性がよく、使用感が優れた設計にはかなり面倒な研究を要しますので。
古い技術だからと吐き捨てるのではなく、こういった昔からの技術に何が潜んでいるか、お若い技術者の方々も今一度見直してみる時期に来ているように感じる美里です。
差別化がより進む時代に突入していますので、ここに新しいコスメ技術を切り開くキーが隠されているはずと感じて頂ければ、今回の記事も少し価値があるでしょうか。
ユーザーの皆様も、一度こうしたコスメを手にとってじっくりと触れて頂ければ、今風のクリームとは異なる技術に気付くかもしれません。
では、また次週。
by.美里 康人