週3で異なる目線の美容記事をお届け
美里康人
ソルトブームを起こした
「バスソルト」とは
皆様、新年明けましておめでとうございます。
リアルで面識のございます方々、そしてネット上のみでも長くこちらをご愛顧頂いております皆様方、良いお年を迎えられましたでしょうか。
イギリスや隣国では新型コロナウイルスが再び猛威を振るっており、私達もこの状況をどうコントロールしていくか、ライフワークの変革の年になるかもしれませんが、頑張ってこれを乗り越えていきましょう。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
* * *
さて2022年スタートの新年の一回目は、この化石コスメ企画の9回目になる話題で始めようと思います。
ただこの企画ですが、とり急ぎ最終回となります。
またフと思い出したら取り上げようと思いますが、皆さんが懐かしく想う流行アイテムで、斬新な処方設計技術が開発された商品ってなかなかありませんので、よくここまで続いたものだと思います。
化粧品の流行アイテムって、美容成分のうたい文句か、もしくは斬新な容器というのがほとんどですので、こちらで化粧品技術の話題として取り上げてユーザーの皆さんに「そうだったのか!」と感じて頂けるものは、なかなかありません。
もちろん、化粧品の処方技術という意味だけならたくさんありますが、マニアックなお話になってしまうだけですので、それでは単なるマスターベーション。
ユーザーの皆さんに公開する意味もありませんしね。
というわけで、つまりはネタが失せたというのが本音です(笑)
そんな前置きはこれ位に、本題に入っていきましょう。
この企画の最後を飾るのは、「バスソルト」です。
この記事の目次
バスソルトとは
最初に誤解のないように念を押させて頂かないといけませんが、今回取り上げているバスソルトとは、アルプス岩塩などプレミアな塩が使われた入浴剤のことではありません。
いわゆる「塩マッサージ」と言われる、お風呂でボディマッサージに使用するセルフエステ製品で、塩がスクラブ剤として配合されたタイプのアイテムのことです。
さて、このアイテム名をみると、様々な過去を思い出す方も多いかもしれませんね。
もしも失礼がありましたらごめんなさい。
実はもともとの根拠は、お若い方はあまりご存じないかもしれませんが「塩揉み大根」からきているというのは、あまり知られていません。
大根=大根足???
本当に失礼ですよね・・・。
このアイテムが世に知れ渡ったのはこれが根拠ですので、つい書いてしまいました(笑)
つまりは、漬物を作っている農家さんたちが大根の漬物を作る過程で塩で揉むことを転用し、ソルトマッサージという考え方が広まったというわけなのです。
ならば自宅にある塩で、お風呂でゴシゴシやればいいんじゃないの?という意見も出てくるかもしれませんが、それではお肌が傷だらけになりますよね。
だから、この塩をたくさん配合したマッサージアイテムが開発され、それがダイエットブームと相まって大きなトレンドとなって一大ヒット商品が生まれたということだったんですね。
製剤に関してどこかのメーカーさんが特許をとったといったこともありませんので、それこそあちこちの化粧品会社さんから雨後の竹の子のように発売され、ドラッグストアの商品棚を賑わしました。
でも、考えてみればいくら大根と女性のおみ足が似ている(またもや失礼!)とはいえ、本当に大根をモミモミする方法で足のケア効果があるのか、疑問が湧きませんか?
一応、それにはそれなりの根拠があったことを、次で解説していきましょう。
ダイエットに効果的?
さて、まだ言うか!という感じではありますが、農家の方々がなぜお漬物を作るのに大根に塩をすり込んでモミモミしているのでしょうか?
まぁ、理由は簡単で塩をすり込むことである程度の水分が抜けていくからということなのです。
とはいえ、これも日本人のおばあちゃんの知恵袋みたいなところがあり、塩は水に溶けると浸透圧の関係で水分をどんどんと吸い出してくれる効果があることを利用しているんですね。
例えばお魚などもそうで、臭みを取るのに塩をすり込んであげてしばらく置いておくと、、水分がどんどんと表面に浮いてきて身が締まり、臭みも抜けるという前処理をよくやります。
ということは、皮膚に塗布すると同じような効果が得られて、皮膚内の余分な水分を吸い出してくれるだろうというのが、このソルトマッサージの理論というわけです。
水分を吸い出すというとスキンケアという意味ではあまりよくないと思われがちですので、皮膚や脂肪内に存在する毒素や余計な老廃物を吸い出してくれるという効果を謳っていたようです。
塩がなくなる!
さてこのブーム、実はユーザーの皆様にはあまり知られていない事態が、各社化粧品工場に起きていました。
というのも皆様もご存じの通り、この手のソルトマッサージアイテムには、手足に塗り広げるとたくさんの塩粒が皮膚上に広がるくらい、大量の塩が配合されていました。
これがドラグストアやバラエティショップでも膨大な量で売れたものですから、皆さんのご家庭にもあるオーソドックスな塩が、化粧品工場では手に入らなくなる事態を招いてしまったのです。
もちろん、もともとは食品素材ですので食品工場関係には優先的に回されます。
なので、皆さんの家庭に影響するようなことは起きませんでした。
しかしながら、それまでほとんど使われていなかった化粧品工場から大量の注文があちこちから入ったものですから、ディーラー業者さんが非常に困ってしまいました。
いわば、化粧品工場同士で塩の取り合い・・・という事態ですね。
もうその頃には、塩を大量に仕入れることができた工場さんが勝ち組。
そして出遅れてディーラー業者さんから断られた工場さんが負け組・・・といった様相を呈してしまう事態にまで発展しました。
究極は、「塩をたくさん確保できたところは、塩で蔵が建った」とまで囁かれたものです。
この事態は、まさに昨年のアルコールとかなり似た業界激震でした。
ちなみにやはり昨年も、アルコールを大量に確保できた工場さんと、製品を販売されたメーカーさんは濡れ手で粟のウハウハ状態で、とっとと稼ぎまくって今はもう撤退しているそうです。
世の中、賢い人がおられるものですねぇ・・・しみじみ
その効果実態と、製剤技術
さて、今回のお題の締めくくりに入りますが、ここまでのお話なら単なるブーム話。
肝心のコレのどこが技術的な革新だったのか、大事なお話をしなくてはなりませんね。
この一大ブームを起こしたソルトマッサージアイテムですが、皆さんはどんな設計で作ればできあがると考えるでしょうか?
塩でお肌が傷つかず、スルスルとマッサージできそうなものをイメージしてみて下さいね。
塩を何かに混ぜることはお分かり頂けるでしょうから、どんな製剤が合うでしょうか?
塩はご家庭にたくさんあるでしょうから、手作りコスメをされているユーザーさんも、お考えになってみて下さい。
--ジェルに塩を混ぜ込んだのが、よさげ
--クリームに塩を混ぜればいいかも
この辺りを想像される方が多いのではないでしょうか。
手に取りやすく、塗り広げやすいので使いやすそうですよね。
化粧品開発者の方々でも、こう考えた方がたくさんおられます。
ところが、これ全てNGなんです。
なぜでしょう?
答えは簡単。
ジェルもクリームも水がたくさん存在する製剤だからムリ、というのが答えです。
というのも、皆さんもご承知の通り、塩は水に簡単に溶けてしまいます。
ですので、この製剤たちに塩を配合しても全て溶けてしまい、塩マッサージにはならないというわけです。
では技術者の方々がどういう設計を考えたかという答えは、ご同輩の方々の沽券にかかわるので、内緒にしておきましょう。
あれだけのブームになりましたが、いざ作るとなると意外と難題の多い製品だったんですね。
手作りコスメで簡単に作れる・・・というわけにはいきません。
少なくても水を使う製剤では設計できないということだけは、ご理解頂けたかと思います。
ちなみに今でもハウスオブローゼさんの「Oh! baby」シリーズは、スクラブ成分が塩から他の温泉成分に代わってはいますが、まだまだ人気アイテムのようです。
というわけで今回の話題はここまでですが、歴史は繰り返すと言います。
ひょっとしたら、またどこかでブームが起きるかもしれませんね。
なぜなら、今どきは有機物のスクラブ成分は”目に入る・環境への排出で汚染に繋がる・下水配管に詰まる”・・・といったことで大きな問題となりますので、そういう意味では塩はマッサージの後に洗い流せば水に溶けてしまう大きな利点を持っています。
スクラブ剤としては非常に優れていると言えるように感じますね。
ところで、当時謳われていたように、塩を使ったマッサージにスキンケアやダイエット効果はあるのでしょうか?
う~ん・・・これは微妙ですね。
塩によって水分が奪われるとお肌はカサカサしますし、ダイエット効果は脂肪にアプローチしないと効果は期待できませんので、塩そのものに効果は期待できないかと思います。
まぁ、だからその後衰退してしまったのだと思いますが。
ユーザーさんはやはりシビアで、効果が実感できなければしっかり去っていきますね。
ということで、この企画はこれで終わりになりました。
また面白そうな企画があれば特集にしようと思います。
では、一年のスタートです。
苦しい時こそ笑顔をたやさず、一年頑張りましょう。
また次週。
by.美里 康人