美里康人
天然由来成分のみで日焼け止めは可能か?というお話
今回は紫外線が強くなるシーズンに合わせて、天然素材の日焼け止め効果についてお話しようと思います。
この記事の目次
日焼け止めの行方
実は以前にも、日焼け止め製品が置かれている、原料の世界情勢の話題を取り上げています。
■日焼け止めの禁止成分
https://cosmetic-web.jp/column/uv/
先日も朝のワイドショー番組で、長島一茂氏がハワイはオーガニックの日焼け止めしか使えないんだよねと発言していた通り、アメリカの一部の州ではすでに紫外線吸収剤が配合された日焼け止めは上陸時の持ち込みも禁止されています。
いや、オーガニックって“有機”って意味で、有機物の紫外線吸収剤フリーのノンケミは“無機”なんですけど?というツッコミはさておき(笑)
いわば、皆さんもよく耳にする「ノンケミ」と言われる、酸化チタンや酸化亜鉛といった紫外線散乱剤で紫外線を防止する設計の日焼け止めしか使えないという事です。
ただ、この酸化チタンや酸化亜鉛は物理的に紫外線を反射させる白い粉体の原料ですので、お肌に塗布すると歌舞伎役者さんのように白くなってしまいます。
分かりやすいのは白の水彩絵の具で、あれは酸化チタンの粉を分散させたものです。
さすがにいくら外出時に日焼け止めが必要とはいえ、真っ白なお顔で人前に出るわけにはいきませんので、基本的に市販されているノンケミの日焼け止めに使われている酸化チタン・酸化亜鉛は、お肌が白く見えないナノサイズの“微粒子”が使われています。
さすがにナノサイズにまで小さく粉砕されているとほとんど人の目では白さは分からず、昨今のノンケミの日焼け止めはソレと分からないレベルにまで微細化されていますね。
まずここまでは、ご存知のユーザーさんも多いかと思います。
ただこのナノ素材、以前の記事でも触れましたが、欧米ではこちらも色々と問題になっていることをご存知なユーザーさんは少ないようです。
それというのは、ナノ素材ということで皮膚の中に取り込まれてしまうのではないか?という懸念が問題になっています。
一時は日本でも皮膚解析試験で検出されなかったというエビデンスも公開されて、問題ないという方向性が示唆されていたのですが、再び海外の治験でそうとは言えないという論文もまたチラホラと出てきています。
また、皮膚内浸透うんぬんという問題以前に、こうしたナノ素材が環境に排出されていることを疑問視する声も大きく、実際に海水を分析すると酸化チタンの濃度が濃くなっている海水浴場が確認されたとの報告もあります。
そんな素材業界の背景から、こちらのノンケミ素材も将来の先行きが不安視されている材料です。
となると、いよいよ日焼け止めはその他の材料を使うしかないわけですが、実際にはそういった素材はいまだ世の中に出ておらず、今後日焼け止め製品がどうなっていくのか化粧品業界の先は見えない状態が続いています。
天然素材の紫外線防止効果
著作者:gpointstudio/出典:Freepik
で、ここから本題に入っていくのですが、こうなってくると自然由来の素材に紫外線を防ぐ効果を持つものはないのか?というお話になってきます。
答えを先に書いてしまいますと、実際にはないわけではありません。
というのも、自然界に存在する物質に紫外線を吸収してくれる素材はたくさん存在しています。
というのも、いわゆる紫外線吸収剤を含むオイルを代表とする有機物成分は、化学特性上どんな素材でも大なり小なり紫外線を吸収する能力を持っていて、それが単に強いか弱いか、そしてどの波長帯を吸収するのかというだけの事で、その能力を活かせる可能性はゼロではないということなのですね。
実際、成分の化学分析の世界では、個々の成分が持つ紫外線吸収の特徴をデータ化して分析に利用しています。
ですので、動植物に含まれているオイルも全て、紫外線を吸収する能力を必ず有していると考えて良いというわけです。
ただ単にそれが、日焼け止めとして使用できる性能を持っているか否かというだけのことです。
では、どのような成分がそういった能力が強いのでしょうか?
また、それらを用いることでナチュラルな日焼け止めを作ることは可能になるのでしょうか?
オイル成分
上でも触れたように、オイル成分は必ず紫外線を吸収する能力を有していますので、私達のお肌に害を及ぼす吸収帯部分に強い吸収性能を持つ素材を探せば良いわけです。
この性能に優れていると言われる成分には、このようなものがあります。
・ラズベリー種子油
・シアバター
・ヘンプシード油
・ゴマ油
・ホホバ油
・コメヌカ油
などなど
他にも、香りを有する精油も複雑な化学構造の成分が多く含まれていますので、紫外線を吸収しやすい成分が多く存在しています。
ただこれに関しては、そのままお肌に塗布などしようものなら臭くてたまらないのが当然ですので、現実的でないのは言うまでもありません。
ということで、実際それぞれにSPF値で表した文献や論文なども出ていてご興味のユーザーさんも多いと思いますが、ここでこれらの詳細には触れません。
というのも、現状ではこれらの成分が持つ紫外線吸収能は大して強くなく、こうしたオイル成分を仮にそのまま皮膚に塗布したとしても、SPF値としては10にも満たないためです。
とはいえ、中には少々使用感が悪くても、お肌に良くないと取りざたされやすい紫外線吸収剤を塗布するよりかは良いと考える方もおられるかもしれませんが、そこは残念ながらそういうわけにいかない問題を持っていることを知っておいて下さい。
というのも、世の中には“エネルギー不変の法則”なる物理の法則がありまして、紫外線吸収剤も散乱剤もそうなのですが、紫外線を吸収するということはエネルギーを使っていることになるのですね。
まぁ、簡単に言えば“無から有は得られない”ということなのですが、自動車ですとガソリンを入れないと動きませんし、自転車でしたら人のチカラで押すかペダルを漕がないと走りませんので、これ全てなんらかのエネルギーを消費しないと物理的に移動させることはできないという自然理論です。
ということは、紫外線を吸収すると化学反応的にどこかでエネルギーが使われていまして、実際にそれは「酸化」というカタチで化学的にエネルギーが消費されています。
つまり、これらの成分は紫外線を吸収するとともに必ず酸化されて、過酸化脂質に変化してしまうというわけです。
はい、賢明な皆さんはもうお分かりですね。
皮膚にとってもっとも害がある物質は過酸化脂質と言われるように、シミ・シワの大きな要因になってしまいます。
紫外線は吸収するのに酸化されにくいオイルがあれば良いのですけれど・・・残念ながらまだそういう都合の良い成分はみつかっていません。
オイル以外ではないのだろうか
ここまで、今回の記事に期待されてきたユーザーさんには、ちょっと残念なお話になっちゃいましたね。
いえいえ、まだ悲観的になってはいけません。
ここまでは、化学構造の面から紫外線を吸収できるオイル成分のお話をしたきたわけですが、このメカニズムとはまた異なる側面から期待される物質にも可能性があるのです。
それは皆さんもよくご存知のこの言葉、「光合成」というキーワードに可能性が秘められています。
はい、植物が成長する上で生体が行う生殖活動ですね。 太陽の光を受けて成長する、緑色の植物のアレです。
クロロフィルと呼ばれる葉緑素が有名ですね。
早い話が、植物は太陽からの紫外線エネルギーを受けて成長していきますので、ここに大いに可能性があると言われています。
このメカニズムのひとつで著名なのはコメヌカ由来のフェルラ酸で、比較的強いことが知られています。 上の一覧にコメヌカ油があったのも、これによるものです。
■株式会社マツモト交商「フェルラ酸」
リンク先:https://matsumoto-trd.co.jp/material/product/pdf/concept/a03.pdf
*pdfファイル
これらは、紫外線吸収のエネルギーを他に使用してくれる可能性を秘めていて、お肌に害を及ぼさずに紫外線を吸収してくれる可能性があるというわけです。
この可能性は、陸上に存在する植物だけではないですね。
海や川・池に存在する藻類、つまり藻や海苔・ワカメ・モズクなどなど、水中生物にも大いに可能性があります。
まだまだどの程度の性能を有しているか研究が進んでいなかったり、その性能をいかに引き出して成分を抽出するかなど課題は山のようにありますが、決して可能性はゼロではないと言えます。
近い将来、上で述べてきたオイルの酸化を防ぎながらうまく用い、さらにこうした光合成のチカラをうまく引き出して性能をアップさせることが可能になれば、ひょっとしたらそれぞれの素材を寄せ集めて、ナチュラル成分のパワーを借りた日焼け止めが作れるかもしれませんね。
少なくてもスキンケアにこれらを応用することができれば、化粧水・美容液・乳化製品とオン・アンド・オンで、トータル的で日焼け止め効果を発揮してくれるかもしれません。
大いに業界の未来に期待して、今回の記事を終わりましょう。
ではまた次週。
by.美里 康人