週3で異なる目線の美容記事をお届け
美里康人
ヒアルロン酸も”糖”の仲間なのです。
お題を見てタトゥー(刺青)の情報を想像して来られた方には、申し訳ありません。
今回は化粧品の保湿成分としてよく使われている糖成分のお話をしようと、ヒアルロン酸などの”多糖類“に引っ掛けてシャレてみました。
面白くもなんともないですね…すいません。
ちなみに刺青のスペルは”Tattoo“ですので、お間違えなく。
この記事の目次
お砂糖は保湿成分
ずいぶんと以前の記事でも、保湿成分として代表的なヒアルロン酸は多糖類、つまり糖がたくさん並んだ化学構造なので保湿の能力が高いという解説をしています。
ヒアルロン酸については過去のこちらの記事を再読頂いてこの先に進んで頂くと、非常に理解がしやすくなります。
■保湿剤の有名人~その2:ヒアルロン酸(FILE No.012)
https://cosmetic-web.jp/column/mail-magazine-12/
■あらためてヒアルロン酸
https://cosmetic-web.jp/column/hyaluronicacid/
お砂糖はベタベタするイメージの通り、化粧品では砂糖に類する保湿成分がたくさんあります。
自然由来で様々な天然材料から得られますので、ユーザーさんのイメージも良いですね。
さて、今回は”糖“とはなんなのかを解説していこうと思いますが、化学のお話になってしまうので非常に身近な”お砂糖“の説明から進めていきます。
化学屋さんがみると厳密にはいい加減な説明もあるとは思いますが、化学の知識があまりおありではないユーザーさんが理解しやすいようおおまかな解説にしていますので、その点はご容赦下さい。
では、まず最初にお砂糖ってどんなものなのか、化学的なアプローチで分かりやすく説明していきましょう。
まず砂糖は、食品ではなく化粧品の成分として使われている成分として言葉を選ぶ場合は、「ショ糖」に言い替えていきましょう。
いいですか、お料理に使うお砂糖は「ショ糖」と理解するのが出発点です。
そしてこれが化学名として使われる場合は「スクロース」になり、これはそのまま全成分の名称として化粧品の裏側に表示名称として使われています。
はい、お砂糖は化粧品の成分では「スクロース」となります。
お砂糖は皆さんも普段からお料理に使う通り、密閉容器などに入れておいても固まりができ、しかもパラパラとどこかに落ちてしまうといつのまにか水を吸って濡れてしまうほど、湿気に弱いですよね。
“湿気に弱い“イコール”水分を集めやすい“、そしてさらにイコール”保湿力が高い“というわけです。 手や口の周りに付着したままだとベタベタするのも、保湿力が高い証しですね。
一応、なぜこのショ糖(スクロース)が水を集めやすいのか解説しておきますと、ここで面倒ですが化学構造をみて頂きましょう。
こんな図を見ると頭が痛くなる方もおられるでしょうし、こんなのを覚える必要などありません。 着目点は、赤丸で示した「OH」という化学記号がいくつもついているところだけ。
で、水の化学式は皆さんもよく知っている通り「H2O」。
これは水素(H)が2個と酸素(O)が1個くっついたものと学校で習ったと思いますが、実は本当はそう考えるのではなく水素(H)と水酸基(OH)とが1個ずつ結合したものなのです。 つまり「H-OH」という構造になっているというわけです。
ということは、上の糖の図の中にたくさん含まれているOHと水は密な関係になって非常にくっつきやすいことになります。
これがショ糖をはじめとして、この先で述べていく糖類成分がいずれも保湿性能を持っている理由になるということなのです。
ちなみにグリセリンやBGといった保湿成分も全て同じこの理由で、構造の中に複数のOH(水酸基)を持っていることによるものです。
最初はちょっと小難しいお話になりましたが、ここからは分かりやすい説明に入っていきます。
糖をもっと知ろう
まずは皆さんが普段料理にお使いのショ糖(砂糖=スクロース)のお話をして化学構造にまで深く入り込んできましたが、実はさらに身近なものと繋がりがあることを知っておくと、もっと分かりやすくなります。
それは食品の世界で皆さんもよく目にしています。
ジュースなどの飲料やお菓子などで、裏の成分名をみるとこうして”ブドウ糖“とか”果糖“という文字をみつけます。
ブドウの糖分??? 果物の糖分???
なんだか一見、果物の糖分と関係しているように感じがちですが、実はそういう意味ではありません。(全く無関係ではないのですが)
これは成分の化学名を日本名にしてあるだけで、糖類のもっとも基本的で単純な成分の化学名のことなのです。
・ブドウ糖→グルコース
・果糖→フルクトース
この2種類が実はほとんどの糖類の構造(カラダ)の基本になっていて、最初に述べたお砂糖(ショ糖)もこの2つが結合したものなんですね。
最初の図と見比べれば分かるように、2つを化学的にくっつけたものがショ糖というわけです。
ちなみにこうして2つがくっつく化学反応は自然界でも頻繁に起きていて、”グリコシド結合“と呼ばれています。 そして2つの糖でできているので、化学の世界では「二糖」と呼んでいます。
お!
ビタミンC誘導体のところで、この言葉が出てきましたね。
医薬部外品の美白アイテムにも使われているビタミンC誘導体「アスコルビルグルコシド」が、ビタミンCに上のブドウ糖(グルコース)がグリコシド結合したものだったのですね。
ちょっと賢くなった気がしませんか?
とまぁ、だからとこの構造式を覚えてもらいたいというわけではありません。
この後の、化粧品によく使われる保湿成分のヒアルロン酸といった”多糖類“がどういうものか理解しやすくなるための説明と思っておいて頂ければ良いと思います。
では、この基本的な2つの糖が骨格になっていて、化粧品の様々な保湿成分に繋がっているというお話に進んでいきます。
そして多糖類
ヒアルロン酸は多糖類のひとつとご存じの方も多いかと思いますが、以前に解説したようにこの糖がズラっとたくさん並んだものがヒアルロン酸です。
弟子のいろはねクンも以前にブログで解説してくれた通り、数個から10個程度までつながったものを”オリゴ糖“と呼び、それ以上たくさん繋がったものを多糖類と呼んでいます。
前回はあまり具体的に書きませんでしたが、きちんと解説すると上のブドウ糖(グルコース)の一部に他の2種類の物質(アセチル基とカルボキシ基)がくっついた(置換されたと言います)2糖の状態のものが、ズラりと連続して数千個連なったものがヒアルロン酸です。
確かに、そりゃ大量の水を抱えてくれるはずですね。
ちなみに少し話は逸れますが、「オリゴ糖」という言葉は耳にされたことがあるでしょう。
ダイエット向けの甘味料としてCMなどでも見掛けると思いますが、糖の数がいくつか繋がっているために内蔵に吸収されにくいことで、糖分控えめのダイエット向けの糖として利用されているんですね。
話は戻り、とはいえ化粧品によく使われている多糖類は、ヒアルロン酸だけではありません。
もっと皆さんの身近にある成分もあるんです。
まさに澱粉(デンプン)もコレです。
身近な名前では、とうもろこしから作られるコーンスターチ、じゃがいもから作るばれいしょ澱粉、そして数年前に流行ったタピオカのタピオカ澱粉も多糖類なのです。
化粧品の成分名では、デキストリンがここから作られています。
他にも食品によく使われるのは、お菓子作りで使用するペクチン、マンナンライフで有名なこんにゃくマンナンも同じく多糖類。 寒天も同じく多糖類で、化粧品成分でもそのまま”カンテン“と表記されています。
これが参考になります。
※多糖類.comより
リンク:https://www.tatourui.com/
ここで少し脱線しますが、ならばこうした特性を利用すれば、美容液やゲル・乳液・クリームにわざわざ合成ポリマーといった増粘剤を使わなくてもいいんじゃないの?と疑問が湧くかもしれません。
これは技術屋である私達も着目するのですが、残念ながら合成ポリマーの代わりにはなかなかなれません。
いくつか理由がありますが、簡単に羅列して解説しましょう。
1)化粧品らしいテイストにはならない
2)ゲルにまですると固形分が多過ぎて、ぬり込んで乾燥するとむカスが出る
1)は上の画像を見て想像して頂ければお分かりの通り、ゼリーはスプーンで崩せば分かる通りポロポロと塊を壊して崩れるだけですので、いつまでたっても液状になってお肌になじむことはできません。 他にも軟らかいジャムを見ての通り、食品だから許せますが、軟らかくしてもモロモロしていてとてもじゃないですがリッチなスキンケア化粧品の品質ではないですよね。
また、オクラや納豆のように化粧品がツツーっと糸を引くと腐っているかのように感じますので、これもNG…と。
どうしても市販の美容液や乳液のように、キレイできちんとお肌になじんでいくテイストにはなりません。
そしてなんとか創意工夫を凝らして化粧品らしい状態にまで持っていけても、今度は2)の壁に突き当たり、あまりに高分子なためにお肌になじんでいかずに乾燥するとカスが出てしまって、やはり合成ポリマーのように微量でトロミが出せて、使用感に影響のない使い方はできない結果となってしまうのですね。
こういった挑戦は大手ブランドの資生堂さんなども研究を行っており、過去に寒天のゲル性能を利用した化粧品開発に苦労を重ねられましたが、結果的に使用感もあまりよくないのかスキンケアアイテムの成分としては尻すぼみとなっています。
まとめ
というわけで糖のお話はここまでですが、こうして自然界にはブドウ糖(グルコース)を骨格とした多糖類は、2つがくっついた砂糖(ショ糖)に始まり数個レベルのオリゴ糖、そしてたくさん連なった多糖類と、自然界に非常にたくさん存在していて、いまだどんどんと化粧品成分としても研究と開発が進められています。
トロミをつけたりゲルにするために使う目的には問題がありますが、皮膚に付与する保湿成分としてならば非常に優れた性能を発揮してくれるのです。
・海藻から採られるカラギーナン
・海藻から精製されるアルギン酸Na
・でんぷんから得られるキサンタンガム
・ワカメから得られる褐藻エキス
・メカブから採取されるフコイダン
・大麦から精製されるβグルカン
・チューベロースから得られる多糖体
・キクラゲから採取されるシロキクラゲ多糖体
こういったオーソドックス多糖類に始まり、最近では例えばこんなものも新しく開発されています。
・オクラから採取されるオクラ種子エキス
・淡水ノリから採取されたスイゼンジノリ多糖体(原料名:サクラン)
・ナメコから得られたフォリオタミクロスポラ多糖体(原料名:フォリテクト)
・そして汚泥のメカニズムを根源とした、微生物が作るアルカリゲネス産出多糖体(原料名:アルカシーラン)
いずれもまだまだ希少なので非常に高価な成分ですが、今までにない皮膚への効果や保湿性能が見出されていて、ヒアルロン酸に負けない成分として有名になっていく可能性を持っています。
テクスチュアも、高分子だけにベタベタせずに非常にさっぱりとしてお砂糖のようにベタベタしないリッチな使用感の素材もあります。
あまりに分子が大きすぎて水にも溶けない成分もあったりしますが、これもまた少し分解してあげることで調整できるかもしれませんし、原料メーカーさんもまだまだユニークかつ機能的な多糖類成分の開発の挑戦は続いています。
ということでまとめましたが、皆さんも上のリストをみて気付かれた通り、多糖類はいずれもトローンとしてたり糸を引くような素材に含まれているということですね。
身の回りにあるドロリとしたモノは、これからあらたに見つけ出される多糖類かもしれず、化粧品に活用される可能性を秘めているかもしれませんよ。
皆さんも、身近なものに着目してみて下さい。
ではまた次週。
by.美里 康人