週3で異なる目線の美容記事をお届け
美里康人
果たしてコレを避けてスキンケア製品選びが可能でしょうか?
今回の記事は、合成アンチ派の方々の成分に取り上げられやすいひとつの成分の話題です。
合成界面活性剤とともに、今でも時々目にする「合成ポリマー」という言葉。
少なくともお肌にとって良い方の成分として取り上げられることはなく、どちらかといえば避けたい成分の中のひとつによくピックアップされます。
最初に、合成ポリマーという言葉はどういう成分のことを指しているのか解説しておきます。
まずは「合成」という言葉から。
この記事の目次
合成とは
ユーザーさんの間で語られる「合成」という言葉は、おもに「石油由来」のことを指していると考えるのが現状の主流と言えるでしょうか。
ユーザーさんが避けたいと考える根底にある心理から考えても、この認識は妥当と言えます。
ただ一応念を押しておきますと、本来の化学分野で使う正しい用語としての「化学合成」とはかなりかけ離れています。
Wikipediaから一部引用します。
「Wikipedia」リンク先:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8
* * *
化学反応を駆使して目的の化合物を作ること。
市販されている単純な化合物のみから、生理活性物質などの天然物や理論的に興味深い有機化合物を作るための多段階の化学合成を、全合成という。全合成は純粋に合成化学的な過程であるが、一方で、植物や動物、菌類等から抽出された天然物を原料とした場合には半合成と呼ばれる。
* * *
「石油(原油)を原料として」などという言葉はどこにも出てきませんね。
理解が難しいかもしれませんし、「難しくてよく分かんない・・・」とおっしゃる方も見受けますが、理解できないのならばこの用語をお使いになるのは止めましょうね。
意味も分からない用語を汎用してはいけません。
例えば、スクワランも天然から採取されるのは「スクワレン」で、これに化学反応を利用して水素を添加して「スクワラン」にしますので、実は半合成ということになります。
ですので、化学の世界では石けんも半合成です。
それはさておき。
化粧品ユーザーさんの間における合成は“=石油由来”であることと条件を絞り込んでいくとして、次のポリマーの説明です。
ポリマーとは
ポリマーという言葉も、実はユーザーさんの理解と化学の世界の用語の意味とは、かなりかけ離れてひとり歩きしていると言えます。
本来の意味のポリマーとは、ひとつの分子構造がいくつも連なっている化学構造を持つものを指し、特に最低でも10以上の複数が連なっている分子構造のものをポリマー=高分子と呼びます。
ちなみにだいたい10個程度までのものは「オリゴマー」と呼び、身近な物質では糖体が数個レベルで連なった「オリゴ糖」という言葉が、よく知られています。
ですので、実はポリマーも化粧品成分の中ではユーザーさんがソレと認識されていない成分もたくさんあり、もっとも著名な成分では“ヒアルロン酸”が最たる成分でしょうか。
普通に「ヒアルロン酸Na」と表記されているのは最低でも100万個レベルの高分子で、まさに典型的なポリマー成分になります。
ひとつひとつの分子に水がくっついて保持してくれるので、保湿成分として1gで6Lもの水を抱えると言われるのも、こうした分子構造によるものです。
実際、ヒアルロン酸Naの濃厚液を調製しておき、シャーレ(ガラス板のようなもの)にたっぷりと塗り広げておいて数日たつと、乾燥して薄いビニールのような皮膜ができあがります。
他には、お肌の有効成分としてよく取り上げられる“ペプチド”もたんぱく質ですので、アミノ酸がたくさん連なっているポリマーです。
これはコラーゲンも同様です。
で、合成ポリマー
ここまでの説明を合わせて、化粧品成分の中でユーザーさんの間で取り上げられる合成ポリマーが何なのかを説明すると、ようはこういうことになります。
・石油由来のポリマー成分
簡単でしたね。
とはいえ、意外とこれが成分名でどれかとなると、なかなか認知されていないようです。 ソレと知らずに無添加と信じてお使いになっているケースもあったり、中小メーカーさんの中には「カルボマー」が入っていないだけで、自社の商品を間違ってフリーと謳っている・・・なんてこともあったりします。
では、成分名としてはどのようなものがあるのかといったところに踏み込んでいきましょう。
ただし、該当する成分を全てあげるとなると膨大な数になってしまいますので、ユーザーさんでもカンタンに覚えておいて頂ける、成分名の中に含まれるキーワードを列記していきましょう。
カンタンに覚えられますが、さすがに全ての成分を100%網羅するのは難しいので、ツッコミを避けるためにも条件を3つだけ記しておきます。
・スキンケア製品をメインにし、メイク・ヘアケア製品向けポリマーは除外
・使用頻度が極端に少ない、レアな成分は除外
・医薬部外品の表示名称に例外あり
いわば、ユーザーの皆さんが市場で手にしたスキンケア製品に使われている化粧品の合成ポリマー成分、と考えて頂ければよいかと思います。
では、あげていきます。
・カルボマー
・アクリル
・アクリロイル
・セルロース
意外と難しくないのでは?
カルボマーはそのままの名称ですが、ほかの3つの言葉についてはいくら長~い成分名であっても、その中に含まれているだけでソレと思って頂いて間違いありません。
他にはケイ酸系のポリマーもないわけではありませんが、ケイ酸は石油由来ではありませんので外しています。
さて、こうして合成ポリマーと呼ばれる成分が特定できたところで、お題にもあげたこういった合成ポリマーと呼ばれる成分を外し、果たしてスキンケア製品を市場でみつけることが可能なのか?という話題に入っていきます。
該当製品はどれくらいあるのか
私達は職業柄、どの程度のスキンケア製品にこういった成分が使われているかは、もちろん把握しています。
でもそれを言葉にすることはさすがにはばかられますし、ユーザーさんご自身が自分で判断されることだと思いますので、ここでは現状が分かる材料を提供することにしておきたいと思います。
いわば、味の素をアミノ酸由来の天然うまみ成分の凝縮調味料のひとつと考えるのか、それとも合成の調味料と考えるのかは、ユーザー自身の判断というのと同じということと思います。
さて、今回の材料提供にあたっては、業界人なら誰でもが活用する「cosmetic-info」さんを最大限活用させて頂きました。
画像も、こちらから引用させて頂いています。
出典:cosmetic-info
https://www.cosmetic-info.jp/
どれ位の市販製品にこうした成分が使われているか、情報をピックアップしてみました。
化粧品の設計で頻繁に使われる、つまりは市場製品に多いものを抜き出してみます。
・カルボマー
・(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー
・ヒドロキシエチルセルロース
・ヒドロキシメチルプロピルセルロース
・ポリアクリル酸Na
・(アクリル酸Na/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー
・(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa
他にも、以前よく使われていたコレもまだ多いですね。
・ポリアクリルアミド→499件
結論は、避けるのは難しいということ
ここまでのピックアップ件数をどう判断するかは個々人ですが、冒頭の画像にある通り、このリストにあがっている製品数は9万件弱の市販コスメがピックアップされたものです。
そして、上で記したメイクアップ・ヘアケア製品などもこの中にかなり含まれていますので、スキンケア製品に絞り込むと総数はうんと少なくなり、1/3や1/4になります。
また、大手ブランドさんの有名な製品はこちらのサイトさんにはあまり登録されていませんので、カウンターコスメで見る製品は本当にごく一部しか含まれていません。
外資系の著名ブランドも、ほとんど収載されていません。
件数の数字をどう見るかのものさしとして、これが分かりやすいかもしれません。
スキンケアアイテムには、ほとんどの製品に使われる成分です。
加えて大事なことは、合成ポリマーが使われる製品は「トロミが必要な製品」に限定される点です。
もっとも分かりやすいのは、化粧水にはほとんどトロミは必要ありませんので、合成ポリマーが使われていない化粧水はかなり多いと考えてよいでしょう。
ですので、この総数から化粧水を外すとかなり数は少なくなります。
ということで、その中の%と考えて頂ければよいでしょう。
特に驚くのは、長~~い名称の最後の2つの成分。 これはポリマー系界面活性剤で、乳化製品にしか使わない成分ですので、乳液やクリームといったアイテムに限定されます。
となると、登録アイテム数そのものがかなり少ないことから、かなりの比率で使われていることを示しています。
ひとつ海外の例であげてみると、オーガニックで有名なブランド「AVEDA」があります。
こちらのブランドは、販売時に全成分を公開するなとかん口令でも敷かれているのかという位、事前に成分が調べられませんが、その美容液をピックアップ。
水、グリセリン、ベニバナオレオソーム、プロパンジオール、オレイン酸ポリグリセリル-10、ダイズ種子エキス、BG、スクワラン、カギイバラノリエキス、アルゲエキス、ベタイン、(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー・・・以下略
早い話が結論をいえば、美容液や乳液・クリーム・水性系クレンジングといったトロミを持つスキンケアアイテムでは、むしろ避けるのが困難ということになります。
これは物理の摂理として当たり前のことなのですが、絶対に混ざらない水と油とを乳化するのに必ず界面活性剤が必要であるのと同様に、トロミを出すにはなんらかのポリマーを使わないとできませんので、仕方のないことと言えます。
もちろん、もともとがドロっとしているグリセリンのような成分のみで作れば可能ではありますが、使用感が気持ち悪くて誰も使ってはくれませんね。
というわけで、気になる方は上のキーワードをご活用頂いてご自身で確認頂ければと思います。
総論
最後にまとめになります。
ユーザーさんからは、「合成ポリマーってお肌に悪くないのか、本当のところを教えて」とよく聞かれます。
私自身はもう引退も視野に入れた年代で、学校を卒業してからすぐの研究者ですので、合成ポリマーがこの業界に出てからいかに処方に浸透してきたか、よく知る立場の人間ということになります。
特にカルボマーは使用感が悪くならずに、製品に見た目も存在感も含めて大きな付加価値をつけてくれるということで、ほとんど全てのブランドに使われてきたといっても過言ではない素晴らしい成分です。
そこから派生して様々な合成ポリマーが開発され、美容液だけでなく乳化が必要な乳液・クリームへと使用が広がり、さらには界面活性剤を必要としないユニークなポリマー系界面活性剤が業界に拡散していきました。
上の画像にもあるように、今やほとんどの乳化製品に必ずといってよいほど、使われているのが当然の時代です。
特に外資系企業については、化粧品に求めるものは皮膚への有効性といった傾向が強いために、製剤開発に労力を割くことは避けるためにも、こうした汎用性の高いポリマーは広く使用されるようになっています。
それは日本においても同じで、既に上で調査した通りなのが現状です。
そして使用感も非常によくできていて、その中で工夫を凝らした製品は秀逸さを感じさせてくれます。
その昔、私が業界に入った頃はこういった技術材料は世になかったため、乳化系製品を開発するためには界面活性剤の技術を駆使して、乳液やクリームの開発にせいを出したものでした。
ポリマー成分がないためエマルジョンが維持できず、分離してしまった乳液やクリームが市場に多く苦労させられたものでした。
しかしながら、今やそういった部分に研究の時間を使うことはナンセンスといった状態にまで、世の中は進んできています。
このような業界背景のもと、確かにその昔は「ポリビニルアルコール」(PVA)といった刺激をもつ合成ポリマーがスキンケアに使われている時代もあり、あながち否定できない頃があったのも事実です。
とはいえ現在スキンケアによく使用されるポリマー成分は、私達化学屋目線で考えてもお肌への悪影響はないといえるものばかりですし、皮膚が悪くなるようなものではないという考え方に相違はありません。
むしろ浸透しないことがお肌にとってマイナスになり得ないというスキンケア理論にも、異論は全くありません。
ですので、これまでのブログ記事にも書いてきたように、悪いとは思っていないというのが持論のスタンスです。
ただ、スキンケアという言葉の真の意味を追求した時、果たしてこうしたポリマー成分が皮膚にとって喜ぶべき存在なのかは、永遠の論点だと考えてしまいます。
これは、仲の良いメーカーさんの方や美容専門家などの方ともよくお話をします。
なによりこうした市販製品を広く長く使い続けてくると、その使用感がどれも同じに見えてくることに違和感を覚えます。
どこが違うのだろう・・・と。
皮膚を酷使する諸条件が多いこの時代に、皮膚の元来の姿を維持するために必要な成分だけを選び抜いて市販スキンケア製品を設計することが難解であることは確かですが、ここに努力を割くことを止めてしまっては、化粧品の未来はないように感じるのが私達であることを、最後に記しておきたいと思います。
皮膚の構造は、もともとが外へ外へ排出しようとする生理から成り立っているのが元来の基本機能です。
これに対して、喜んで皮膚が受け入れてくれるような化粧品を設計することが、実は私達の最終的な使命ではないかと常に考えるべきと感じて止みません。
それは難解な課題ではありますが、皮膚の構造にしっかりと向き合えばどこかに活路は見いだせると信じたいですね。
まぁ、この思いだけを胸に抱いたままに、引退してしまいそうではありますが・・・。
そんな私達の開発活動にも注目をして頂ければと一石を投じ、今回の記事を〆たいと思います。
ではまた次週。
by.美里 康人