週3で異なる目線の美容記事をお届け
美里康人
すでに都市伝説というお話
この記事の目次
マイナス面のフォローは不要
最初に念を押させて頂きますが、今回の記事も石けんをダメ出しする内容で記したわけではありませんので、誤解なきようお願い致します。
自社でも石けん系洗顔フォームもラインナップしていますので、ニュートラルにお読み頂くことをお勧めします。
さて、洗顔料といえば、いまだにアルカリでないと落ちないといった発信を時々見掛けますね。
石けん洗顔はアルカリ性ですので、その天然素材感をPRする中でのストーリー付けに利用されている論理展開のようです。
お肌はpH調整能を持っているとかなんとか・・・。
今どきのユーザーさんは賢明ですから、そんなことは百も承知ですよね。
そんなことよりも、石けんの持つ魅力をきちんとお伝えした方がユーザーさんの指示を得られると感じます。
石けん系洗顔のマイナス要素を、強引にフォローする必要はないでしょう。
また、今どきは石けんカスを除去できる処方設計もありますし、グリコール酸ピーリングではない毛穴クリア効果も得られる特徴を持つ石けん系洗顔フォームもあります。
良いところに目を向けていきましょう。!
で、話題に戻りますが、こういったアルカリ性が洗浄に有利であるといったお話は、今やもう都市伝説と言ってよい時代に入っています。
もちろん、洗浄剤化学の理論では必ずしもそうではない部分もありますし、それはそれでまた後ほど述べていきますが、少なくても化粧品の洗浄剤分野でそこまで訴求する必要性はありませんので、ここは論点とすべきではないという話題になります。
酸性・中性・アルカリ性
最初に、なぜアルカリ性が洗浄力が高いと言われてきたかを、ごく簡単に解説しておきましょう。
洗浄とは、いわゆる汚れを除去するという行為を指しています。
ということは、除去したい汚れにも様々なモノがあるわけで、油汚れから水アカといった汚れ、そして動物性タンパクなどもその大きなひとつです。
ですので、それぞれにとって落としやすい洗浄性能があることになります。
分かりやすいのはポットやステンレスカランなどにこびりついている水アカで、これはクエン酸といった酸でないと除去できないですよね。
それに対して、やはり動物性タンパクなどアルカリ性の方が除去しやすい汚れもあります。
そして、油汚れは乳化力の強い中性の界面活性剤、といった具合です。
結局、アルカリ性にすることで多くの汚れが落としやすくなり、一部の界面活性剤はアルカリ側で性能を発揮するために、こういった原則に囚われていたというわけです。
ですので今や時代は変わり、落としたい洗浄対象によって使われる洗浄剤の性質を変えていくのが、現在の洗浄グッズの特徴になっています。
一般家庭ではそれほどガンコな汚れを落とす必要はありませんので、洗浄用途の素材開発はどんどん進化してきています。
また、昨今は使う方の手荒れの問題も大きく、ここへの配慮も大きな要因のひとつですね。
ということで、最近は私たちの身近な家庭用洗浄剤は、「中性洗剤」という言葉がよく使われるようになっているのが、その大きな現象の表れと言えます。
その身近な現象として後ほど触れていきますが、今や洗濯やキッチンでのクリーナーで泡切れが大変・・・なんていうのも、すでになくなっていることに気付かれると思います。
アルカリ系のアニオン活性剤は基本的に泡立ちが強いことから、昔はそうだったということです。
もちろん、ある意味でのセンサー的な意味合いであえて少し泡が立つようにされている製品もありますが、基本的にはもう泡立ちと洗浄力は比例しない時代に入っています。
もっとも分かりやすいのは食洗器です。
食洗器では一般的な食器洗剤は使えませんので、泡の出ない専用クリーナーが売られていますね。
洗顔は変わらないのか?
さて、こうした時代背景をみていくと、いまだにアルカリ性の洗浄剤に囚われている化粧品業界の洗浄アイテム市場は、少々違和感があるということになってきます。
なぜならボディやヘア、そしてお顔を洗浄するのに、洗浄業界最先端の強力な洗浄性能など必要ないからです。
アルカリ性でないと落とせない汚れが、カラダの表面にあるでしょうか?
しかも先ほどの食器洗剤の手荒れで触れたように、ただでさえ髪やお顔・ボディなどの皮膚は大切に守りたいというニーズですし、昨今よく見かけるのは「洗いすぎは良くない」とのスキンケア理論。
ならばことさら、アルカリ性である必要性はどこにもないということになります。
何も皮膚のpH調整能に頼らなくても、最初からアルカリ性でない洗浄剤が良いのでは?というのは、誰しもが考えるはずなのですが。
もちろん、食器洗剤や洗濯洗剤の界面活性剤技術が進化していますから、化粧品向けの中性洗浄剤もあります。
ざっとあげてもこれだけあります。
・ヤシ油アルキルグルコシド
・ポリオキシエチレンアルキルエーテル
・ポリオキシエチレンスルホコハク酸ラウリル二ナトリウム
・アルキルアミドプロピルベタイン
・アルキルジメチルアミンオキシド
完全に中性なものもありますし、pH8前後の微アルカリの洗浄剤もあります。
昨今は種類も豊富になり、ここにあげていない洗浄力の強くない洗浄剤も出ています。
さらには、pHを酸性~中性~アルカリ性とコントロールしてあげることで洗浄力が調整でき、脂性肌向け・敏感肌向けとバリエーションを揃えることも可能な界面活性剤まで存在します。
とはいえ一部には、中性洗浄剤は刺激がないけれど、食器洗剤のように脱脂力が強すぎてお肌に負担・・・といった評価も見受けますが、もうこの理屈に関しては論理的反論にも及びません。
洗浄力が濃度に比例するのは当たり前のことで、薄くしてあげればコスパもよくなりますし、さらには皮脂を取りすぎないように、はたまたお肌に保湿成分を残すように処方コントロールすることは化粧品処方設計者の18番ですから、洗浄剤自身の洗浄力など評価対象にもなりません。
コントロールできるのですから、余力があって強い方がいいに決まってます。
あとは石油由来か天然由来かといったところが気になる部分と思いますが、それも一部石油由来だったり天然由来のみで作られたものも選べます。
こうして、求める性能や使用感でこうした洗浄剤を使いこなすのは、化粧品技術者ならお手のモノでしょうから、訳ないことと言えます。
もちろん、市場にはこういった洗浄剤を使った特徴ある製品も存在していますね。
メーカーリンク:DUO
しかしながら、このような製品は例外として、基本的にはあまり売れていません。
大手ブランドさんの市場リサーチによれば、どうやらそれには以下の要因が存在しているようです。
①石けんのキシキシ感が落ちた時の感触と、誤解して身についた歴史
②泡立ちこそが洗浄の証という消費者文化は、簡単に変わらない
①は、こんな職業の私でも、子供の頃から培われたこの呪縛からはなかなか逃れられませんでした。
お顔やカラダがギシギシっとしなければ、洗った気がしないんですよね。
これは軟水器を導入して石けんを使った時の、石けんカスフリーを取り入れた時も同じ。いくら残るヌルヌルが、石けん由来の良い保湿オイル成分がお肌に残っていると分かってはいても、脳が受け取る気持ち悪さは拭いきれません(苦笑)
そして②。
これは確かに、シャンプーに関しては泡立ちがひとつの洗い方の目安になっている部分が残されています。
汚れがひどい時には、泡立たないと二度洗いの目印という経験もされていることでしょう。
それは女性の方は洗顔フォームでも同じで、クレンジングオイルなどが残っていると一度目は泡立ちが悪く、二度洗いの目安にされている方もおられることでしょう。
そしてなによりお肌をできるだけ摩擦せず、濃密な泡で包むように洗うスンキケア法も定着していますので、このスキンケアプロセスが大きく変わるのは非常に困難と言えますね。
泡立たない洗浄剤は、化粧品に関してはまだまだ受け入れられていないのが実情です。
↑であげたようなエアゾール型にすることで泡を濃密にし、こういった課題をフォローしなければなかなか市場認知を得られないのが現実です。
ということで、この二つの課題はいずれも、石けん系洗顔やアルカリ洗浄剤の大きな特徴なんですね。
でも、どこかで変わらないといけない日が来るかもしれません。
多くは書きませんが、この記事が10年後にどうなっているか、もしも覚えておられたら思い出して頂ければと思います。
by.美里 康人