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久しぶりの、市販品評価「キュレルのセラミドミスト」~前編

美里康人

セラミドは「入っていれば良い」のでしょうか?
それをわかりやすく実証してくれた花王さん。
もっと大々的にアピールすべきポイントのお話。

 

ことのキッカケ

以前よりこちらのブログ記事スタンスは、市販コスメの評価や論評はしないことをポリシーにしています。

こういうお仕事ですので、ほとんどの製品は全成分を拝見すればなんらかの所感コメントはできますし、昔は@cosmeでもスキンケア相談だけでなくそんな活動もしていましたが、それがこの業界だけでなくユーザーさんのメリットにはならないことが分かってから、立ち位置を軌道修正させて頂いていることはご承知のことと思います。
もちろん、メール等でご質問頂ければそれには対応させて頂きますし、内容を選別して記事にアップすることもありますが。

また、厳密にいえば、この仕事が長い我々といえど全成分だけの解析では処方設計のキモとなる部分は掴めず、中途半端な情報をユーザーさんに垂れ流したくないというのが本音です。
私なんかも、同業者でも全成分からは読み解けないノウハウを必ず盛り込んで、差別化した製品をメーカーさんにご提供していますし。

とはいえ、私達業界の人間がみても素晴らしい、いわば業界の改革とも言える旗艦製品のようなアイテムも市場に投入されることがあります。

今回は表題のように、私が個人的に着目した花王さんの製品をご紹介するわけですが、それにはひとつの理由があって、私達は現在セラミドをどう配合し、またどれだけの配合量にすれば本当に効果が期待できるのか、もう1年にも及んで研究していた矢先に手にした商品でしたので、ことさら感動を覚えたという次第です。

また、処方設計の裏情報も入ってきましたので、皆さんにもご紹介したいと思います。

花王さんとセラミド

セラミドといえば、花王さんというイメージは皆さんにもあるかと思います。
実際その通りで、もう20年以上も前に花王さんは、アトピーといったトラブル肌の症状は細胞間脂質の欠損、つまりセラミドが減少していることに依存していることを発見し、ここをしっかりと改善してあげれば結果的にトラブル肌の好転に繋がることを証明してくれました。

ここから始まる花王さんのセラミドへのチャレンジを、少し前置きとしてお話しておきましょう。

上記の臨床による検証を踏まえて花王さんは、化成品原料を自社で開発・生産している利点を利用し、自社で合成のセラミドを開発しました。
全成分名称で、コレですね。

「セチルPGヒドロキシエチルパルミタミド」

今では私達OEM工場にも原料として供給され、各社さんで使用することが可能です。

ここで私達技術者には、疑問が残ります。
皆さんも真実をお知りになりたいと思うはずです。

「なぜあえて合成なのか?」

ユーザーの皆さんは
「花王さんは化学合成原料ばかり作ってるのだから、それだけのことじゃないの?」
そう思われるかもしれません。

いえいえ、花王さんは美白成分も「カモミラET」という、植物のカミツレエキスから美白有効性の高い成分だけを凝縮した成分を有効成分としてずっと使用してきていますので、そういうわけではありません。

とはいえ私達も
「生のセラミドはめちゃくちゃ高価なので、安いコストの疑似セラミドを開発したんだろう。」
程度にしか思っていませんでした。

確かに花王さんは、当初から低コストのキュレルブランドにこの疑似セラミドを高配合とすることで、いわば高い保湿効果が得られることを前面に押し出して他社ブランドさんと差別化していましたので、まんざら間違いではありません。
この頃だけでなく今でも、生セラミドを高配合なんて商品の価格的には実現不可能なのが現実ですから。

しかしながら、ほどなく私達の業界にも生のヒト型セラミド(表示名称:セラミド1~6Ⅱ)が容易に手に入るようになり、追い付け追い越せと色々と研究してみた結果、事の真実はそうではないところにあることが判明します。

生のセラミドは高配合が難しい

結論を述べてしまえば、実にシンプル。
生のセラミドは、普通の油よりもさらに水に溶けにくい性質を持っていたのです。
つまり、私達は界面活性剤を使うのはお手のモノですが、その程度の技術でセラミドはカンタンには溶けないことが分かったのです。

ちなみに、私の記事ではセラミドの効果や化学的な説明は省略しますが、twitterでも良い情報を発信して下さっている「なつなつ」さんがブログで実に丁寧にまとめて頂いていて、非常に勉強になります。
ぜひとも、ご参考にされて下さい。

【基礎から解説】 肌のセラミドの役割を皮膚科学の研究者が徹底解説!

で、生のセラミドはいくら頑張ってもだいたい0.3%程度しか溶かすことがでないと言われています。

その理由は簡単なことで、セラミドは液状のオイルと違って結晶性の脂質だからです。
分かりやすい例でいえば、他に皮膚の脂質として含まれる「コレステロール」も同様です。
常温では完全に白い結晶の粉で、液状に溶かすには120℃以上に加熱しなければ溶けませんし、冷えるとまた結晶化してしまうため、化粧品にはほどんと使われる事はありません。
生のセラミドはそういう性質の細胞間脂質だったのです。
よく皆さんも見掛ける細胞間脂質の模式図は、なにげなく見ていると思いますが、あれって化粧品製剤技術者からすると、皮膚の自然の生業でこそなし得る実に驚きの構造なんですね。

つまり花王さんはそれを熟知した上で、液状で水に溶けやすい性質を持つ似たような化学構造を持つ疑似セラミドを自社で開発し、高配合が可能になる素材を開発したというのが真実なんですね。
いわば、きちんと皮膚に実質的な保湿力を付加できるまで配合可能なセラミドを、自社で開発したというわけです。

まぁ、とはいえいくら生のセラミドよりは溶けやすいとはいっても完全にオイルですから、そのまま水に溶けるわけでもなく、界面活性剤を使用しなければ溶けにくい成分であることには変わりはありませんが。

満を持した一アイテム

ということで花王さんは、この成分をキュレルブランドを旗艦として、あらゆるブランドのアイテムに採用して高配合することで、独自の保湿性能を持たせた製品開発を行ってきました。
もちろん配合にあたっては界面活性剤が必要ですので、そこはオイル成分を配合するのと同じ考え方なのは言うまでもありません。

しかしながら、そうはいってもさすがにほとんど水がベースになった化粧水に高配合するのは難しく、まさか化粧水に大量の界面活性剤を配合するわけにもいかず、水ベースのアイテムにはごく少量しか配合できないジレンマはあったのだろう推測はできます。

そこであらたに開発されたのが、化粧水にも配合しやすく改良された新しい合成セラミド
そしてそれを「これなら、どうだ!!」と言わんばかりにアピールできる製品を市場に投入したのが、掲題の製品だったというわけです。

製品は、医薬部外品になっているこちら。
【CurelディープモイスチャースプレーA】

そして全成分がこちらです。

全成分)アラントイン*、水、グリセリン、DPG、ヘキサデシロキシPGヒドロキシエチルヘキサデカナミド、ユーカリエキス、BG、コレステロール、ステアロイルメチルタウリンNa、POE水添ヒマシ油、アジピン酸、アルギニン、エデト酸塩、フェノキシエタノール

医薬部外品ですので*印が有効成分で、それ以下のその他の成分は配合順に明記する義務はありませんが、見る限りユーザーさんに分かりやすいように、化粧品にならって配合順になっていると思います。

この中の、改良された疑似セラミドが「ヘキサデシロキシPGヒドロキシエチルヘキサデカナミド」です。
化学構造から推察するに、確かに以前のセラミドに比べてかなり溶けやすい構造に改良されていると感じます。

さて、私が驚いたのはその配合量です。
というのも、この製品はお肌に水分を補うための、いわゆる「ミスト」です。
ですので、製品の設計の考え方として、界面活性剤を大量に配合するわけにはいきません。
だって、多量に配合すればスプレーした時に泡立ちますので、それはさすがにあり得ませんから。

現実、このセラミドオイルを水に溶解するために、界面活性剤である「PEG水添ヒマシ油」「ステアロイルメチルタウリンNa」が配合されていますが、いずれも1%以下になっています。

となると、この疑似セラミドは全成分の並び順からは「ユーカリエキス」のすぐ前ですから、1%以下しか配合されていないと解析されても仕方ありません。
まぁいえば、「そんなモノだろうな」という感じでスルーされるのも、定石と言えるでしょう。

ところが驚き

ところが、この製品の裏話を耳にする機会に恵まれたのです。
実はこのミスト、この新開発の疑似セラミドが数%レベルで高配合されているというのです。

まさか・・・とは思いましたが、実際に製品を使ってみると

「あっ!!!」

確かに、ウソではないことは、はっきりと分かりました。
ミストなのに、ベタ褒めしてしまうほどの浸透性と保湿性能です。
にもかかわらず、ほとんどベタつきがありません。
つまり、しっかり浸透を果たしてインナーが潤う感じがよく分かります。

市販ブランドの化粧水を触ってみてこの感触を得たのは、ぶっちゃけまだ3回目です。
初めてが、20年以上前に触ったコーセーさんのリポソーム化粧水
次が、5年ほど前に触った資生堂さんのクレドポーの化粧水です。

しかしこの製品のお値段は、これらの数分の一ですから、これは驚きです。
しかもミストですから、これは言葉が出ません。
研究者の方の談話によると、この開発に7年で1,000回以上もの試作を重ねて研究期間を費やしたそうです。
私が耳にした高配合であれば、これもよく理解できます。

ちなみにこのミスト、多めに塗布してお肌になじませようとすると、その過程で一瞬乳液を使ったかのように白くなります。
これは疑似セラミドを含むセラミド脂質を高配合すると表れる現象で、皮膚の上で再乳化して角質層に浸透していくプロセス特有の現象なんです。
つまり、きちんとセラミド脂質を高配合で処方設計した人間にしか分からない、微量配合ではない証明ということです。

これぞ、「きちんとセラミドが生きて設計された化粧水」と言えます。
どこかでテスターに触れられる機会がありましたら、一度お試し下さい。
ミストのくせに生意気な保湿性能が得られますよ。

久しぶりの、オススメ製品と感じた一日でありました。

そして、今取り組んでいること

ということで、今回は市販コスメを久しぶりに取り上げましたが、今回こうなった経緯には私達が現在取り組んでいることと関係していると、最初に書きました。
それは花王さんも目指されているとおり、セラミド脂質は高配合でなければ本質的な性能を発揮できないんですね。

これはよく業界の市場でみられる、単なる美容成分の配合量競争とは意味が違います。
別に花王さんの肩を持つわけではありませんが、なぜならそれには根拠があるからです。

皮膚のバリア層は非常に重要だというのは、すでに皆さんもよくご存じのことでしょう。そして当然その部分を構成しているモルタルに相当する部分「細胞間脂質」は、最重要の機能を担っていることも。
あらためてこの細胞間脂質の構成成分をみてもらえば、おのずと理解できます。

・脂肪酸 20%
・コレステリルエステル 10%
・コレステロール 15%

そして
・セラミド 50%
・糖セラミド 5%

これでお分かり頂けたかと思います。
ですのでヒト型セラミドの高配合は、分子会合体を作りやすい結晶性成分だからといって諦めてはいけない、スキンケアにとってかなり重要な課題なんですね。

そうはいっても、花王さんのようにオイル状の疑似セラミドを使うならなんとかなりますが、本来は皮膚の生業を考えれば生のセラミドを配合するのが王道であるはず。
それが当然、皮膚の本当の保湿を達成するのにベストなスキンケアであるのは言うまでもありません。
そんな裏の業界背景の中で、私達はあるきっかけからこの課題を大きく打破する可能性を導き出し、化粧品として生のセラミドを数%レベルで配合を可能する製剤技術に取り組んできました。

これはすでに展示会でも大々的に業界発表しましたので、そんな話題を次回に取り上げてみます。
「え? 既に市場に4%配合といった高配合の製品を見ましたけど?」
この謎についても解明しつつ、次回に進みます。

ではまた次週。

by.美里 康人

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