本来は「リンス」という言葉は残すべき
曖昧なカテゴリー名「コンディショナー」が
ユーザーの混乱を招く
「リンス」の語源と意味
前回、リンスという言葉は英語の「すすぐ」という意味の話題に触れ、これにはきちんと理由があるという予告をしましたね。
最後に少し書いたように、その理由は石鹸好きの方はご存じと思います。
その昔は固形石けんで髪も洗っていましたので、石けんのアルカリ性質によって髪がアルカリ性になり、キューティクルが開いて逆なですることになって指通りが悪くなるため、長い髪がさばけなくなることを改善するために、酸性に設計されたリンス剤を使う必要があったわけです。
ですので、必ずリンス剤には今でもクエン酸といった「酸が配合」されています。
そのため、製品のpHも3~4というのが一般的です。
さらにもうひとつ大きな理由があります。
石けんはすすぐ時にどうしても水道水に含まれるカルシウム・マグネシウムと結合して「金属石けん」、つまり石けんカスが生成されて髪に付着してしまいますので、ギシギシになって指が通らなくなります。
それを解決するために、酸で石けんカスを除去する必要があったというわけです。
それがリンスの由来です。
なので、その昔は今みたく原液をそのまま髪に塗布するのではなく、洗面器にお湯を入れて製品をキャップ一杯入れ、そこに髪を浸してなじませて指通りをよくするといった使い方の製品がほとんどでした。
髪を酸性にし、微量の金属石けんを除去するだけなら、ほんの少しの液だけで済むからです。
今でも石けん好きの方は、洗髪後に身近にある酸の食用酢を水に入れて髪をすすぐことで、対処されています。
ということで、もともとのリンスはここが出発点ですので、この名残りは油分が乳化されたクリーム状・乳液状になった今でも、まだ残っています。
なぜなら、生活習慣がシャンプーに変わったとしても、使われている洗浄剤がアニオン活性剤でアルカリ性であることに変わりはないからです。
つまり、洗髪後に髪がキシキシして指通りが悪いのは、単に髪に付着した油分がなくなっただけでなく、キューティクルがアルカリで毛羽だっている原因による要素が大きいためです。
ですので、リンスやコンディショナーは必ず酸性である必要性があるわけですね。
これがまず重要な原則の、第一点目。
さらにリンスの処方設計の鉄則「カチオン活性剤」
さて、今や髪を固形石けんで洗う方はほとんどおられなくなり、シャンプーを使う文化へと変遷してきました。
先の項では、それでも洗浄するための洗浄剤は石けんと同様にアルカリ性ですので、今も引き継がれた酸性性質であると説明しました。
そしてこれに加えて、洗髪文化がシャンプーに変わったことで、リンスには酸性であるだけでなくあらたな基本設計の原則が加わっています。
それが「カチオン界面活性剤」です。
イオン性がある物質ですので、ナチュラリストの方にはあまり好まれない成分ではありますが、残念ながらこの成分はリンスやコンディショナーには絶対的に必須の成分なんです。
その理由は明確。
理由のひとつ目は、「髪の帯電防止」です。
冬場になると分かりやすいですが、髪が静電気を帯びやすいのは皆さんもよくご存じで、特にドライヤーなどを使ってブラシで髪をとくと、おっ立ってしまって落ち着かなくなるのを体験されていると思います。
これは髪が電気、つまりイオンを帯びているためで、マイナスであろうがプラスであろうがイオンが帯びていると静電気が起きます。
既に皆さんもご承知のように、石けんもシャンプーも全て洗浄剤はアニオン活性剤ですので、マイナスのイオンを持っています。
そのため、髪を洗った後は髪がマイナスの電気を帯びることになります。
そうすると髪が乾かした時には静電気が起きますので、これを防止するにはプラスイオンを持ったカチオン活性剤が必要になるわけですね。
分かりやすい言い方をすれば、イオンを中和してあげるという感じです。
そしてさらにもうひとつの重要な意味は、このカチオン性を持った活性剤はマイナスになった髪とイオンで結合して残ってくれるという部分です。
このカチオン活性剤は当然のことながら油分を乳化していますので、この成分とともに油分も伴ったままで髪に残ってくれ、髪にすべりと指通りを与えてくれるというわけです。
イオンで髪と結合していますので、あらあら不思議なことにお湯ですすいでも滑りがきちんと残ってくれていますよね。
そう、これでようやく長い髪も絡まないように、手やブラシでさばけるようになるんですね。
これってサイエンスであって、へ理屈ではないですよ?(笑)
もしも
「え~、ほんとぉ? 油分の入ったクリームや乳液を代わりに使っても同じでしょ!」
と、お疑いになる方がおられましたら、おウチで試して頂ければすぐに体感で分かりますよ。
身の周りにあるスキンケア用のクリームや乳液をシャンプー後に塗布して洗い流してみて下さい。
油分の配合量も多く高級なクリームにも関わらず、ほとんど全部洗い流されてしまってスルスルとした指通りは残らないですから。
保湿クリームのほとんどは水性クリームで水に溶けますので、これは特性上仕方ありません。
そしてほとんどの市販スキンケアクリームや乳液は非イオン活性剤で設計されており、全てお湯に溶けて流れてしまいますので。
カチオン活性剤で設計された油分配合のリンスは、水に溶けるにも関わらず油分が髪に残ってくれるんですね。
「コンディショナー」には色々な製品がある
ということでここまで解説を進めてきましたが、これで「リンス」に求められる絶対原則の必須な設計が理解できたかと思います。
そしてここでいよいよ「コンディショナーと同じ?」かどうかの最後の話題に入ります。
前回の一般的な解説例の中に、大手ブランドさんが規定する「リンスとコンディショナーは同じ」というのがあったかと思います。
実はこれ、原則的に正しい説明なんです。
なぜなら、今では大手ブランドさんは統一してリンスの呼び名はやめて「シャンプー&コンディショナー」という製品体系にしており、それ以外の使い方のヘアケア製品にコンディショナーという名称をできるだけ使わなくしているためです。
ですので、大手ブランドさんのヘアケア製品を使っている限りは、その昔のリンスがコンディショナーという呼び名に変わっただけと考えて間違いはありません。
ところが、皆さんもどこかで、市販のケアケア製品で気付いたことがあるかと思います。
大手ブランドさん以外に目を向けると、「コンディショナー」と名付けられた市販製品には、このリンスの機能とは異なる使い方の製品が多数存在しているはずです。
一例をあげれば、シャンプー後に髪を乾かす際や、その後に使用するアフターケア用の「ヘアオイル」。
あとは、ブラッシングをする時にくし通りをよくして静電気が起きないようにするための、スプレータイプのミスト状コンディショナー。
これは、髪のスタイリングもしやすくするため、セッティング剤的な要素も盛り込まれた製品もありますね。
他にも、毛先が傷みやすい方のための、毛先に塗布するコンディショナーなどもあります。
これらは、傷んだ髪を修復するための美容液的なスペシャルケア「トリートメント」とも、明確に異なるカテゴリーになります。
ところが、これらの製品にはここまで述べてきたリンスの必須要素は全く盛り込まれていません。
いわば、「リンスの機能は持っていない」ということになります。
つまり、他社との差別化のために市販製品のバリエーションがあまりに多くなり、これが混乱の元になっているんですね。
もちろん、メーカーさんの考え方も分からなくはないです。
なぜなら、ヘアコンディショナーという言葉は「髪のコンディションを整える」という広義な処理剤の意味ですので、これらの製品名を表すにはこの言葉がもっとも適切ですし、他にユーザーさんに分かりやすい呼び名も見当たらず仕方ない事とも言えます。
特に髪を乾かしたりセッティングをする際に使用するセット剤は、風になびく「ふわ髪」が主流な現代ではバチっと固めたセット髪はもう流行らず、髪が落ち着くようなライトなミスト状のスタイリング剤が主流になったため、こうした製品はセットローションという呼び名よりもヘアコンディショナーとして位置づけられることになった歴史も、ここに関係しています。
昨今ではドライヤーの熱から髪の損傷を保護したり、さらにはその熱を逆利用して髪のバリア機能を高める保護剤増強機能を持つ成分も広まっていますので、いよいよこのコンディショナーという呼び名は用途が複雑化しているのが現状です。
結論
ということで結論をまとめますと、「コンディショナー」の中には色んな形態が市場に存在していますので、リンスとは異なる機能の製品も存在して必ずしも同じとは言えないし、そう決めつけてしまうと失敗することがあるというのが結論です。
なので本来は、「リンス」という言葉は語源通りにすすぐ使用法が確定していますので、シャンプーの後に濡れ髪に使用して指どおり・くしどおりをよくする用法の製品は、「リンス」という製品名を復活させて統一してしまうべきと感じます。
ここを間違う方はまずおられませんので。
対して、アフターや髪のセッティングの前処理に使用するコンディショナーの類いはリンスの機能を持ちませんので、リンス以外の製品が全てコンディショナーでありトリートメントとすれば、混乱しないように思います。
とはいえ、現時点でユーザーさんが混乱を招かないように識別する方法としては、以下の考え方で良いと思います。
「洗い流さずアフターで使用するコンディショナーは、リンスではない(その機能はない)」
ということでいかがでしょうか。
おまけ
そして、おまけ。
実は、もっと厳密にいえばそうも言えない部分がありまして、悩ましいのです実際は。
というのも、トリートメントの中には「洗い流すモノ」も存在し、これらはリンスの機能も持ち合わせた製品が存在しているためです。
もちろん、プロであるヘアサロンの先生方はこの辺りの背景はよくご存じですが、サロン専売品をユーザーさんが購入すると、コンディショナーは要らずにトリートメントだけで良い製品が存在しています。
もしかしたら、メーカーさんの販売戦略にのせられて両方購入されているユーザーさんもおられるかも?
ここは翻弄されず皆さんでご判断されて下さい。
「洗い流すタイプの製品は、まずリンス(コンディショナー)の機能を持っている」と。
とにかく他社ブランドさんと差別化するためにこの業界では、様々なタイプのニッチな製品が世に出てきます。
それが混乱の根源になっているというのが、事の結論でありました。
ではまた次週。
by.美里 康人