美里康人
なぜなのか、2回に渡りきちんと解説してみたいと思います
「表面張力」という言葉は、皆さんも一度は耳にしたことがあるでしょう。
そして化粧品に非常によく使われる「界面活性剤」という成分は、油溶性成分と水溶性成分の界面を活性化させて、溶かしたり乳化したりする役目を果たしているということもご存知ですよね。
油汚れを落とすシャンプーや石鹸といった洗浄剤もこの界面活性剤ですし、台所洗剤や洗濯用洗剤も全てコレです。
つまり、水をはじく油を溶かして落とすという役目を果たしているのですね。
で、この表面張力は身の回りの様々なところで体験していて、お題にあるように皮膚に水が染み込まないのも、この表面張力によるものです。
お若い方なら、シャワーの水がパパっと玉のようにはじくのを経験しておられます。
とはいえ、この表面張力という物理用語を学術的に解説するとなると非常にややこしく、専門的になり過ぎますので、今回は分かりやすく端的に説明してみようと思います。
さらに、実は水というのは大変表面張力が強い液体で、なので皮膚の内面には入っていけないものだという話の、理論的背景をお話していきます。
こちらのブログをお読み頂くと、さすがにもう皮膚は水分が大切なのでお安い化粧水をジャブジャブ塗布してケアしましょうなんていう不条理なスキンケア理論は、おっしゃらなくなると思います。
この記事の目次
表面張力とは
最初に、表面張力とは何かを簡単に説明しておきましょう。
表面張力とは、“混ざることのない二つの物質間で起きる反発力”と覚えておけば良いですね。
例えばコップに水をゆっくり入れていき、溢れる一歩手前ではコップからはみ出て盛り上がるという現象を見て、これが表面張力だよと学校で習ったことを思い出されるかと思います。
この状態、確かに水の表面張力が強いという表れではあるのですが、この状態はコップの水が溢れる一歩手前で接触しているコップの縁、つまりはガラス。
そして、水の上に存在している大気(空気)との3つの物質との界面ということになるんですね。
水=液体
コップ(ガラス)=固体
大気(空気)=気体
この3つです。
最初に説明した通り、この3つはそれぞれいずれ同士も混ざり合わないですよね?
なので界面を形成して表面張力が生じるというわけです。
皮膚の上に水を塗布した時にはじくのも、皮膚はタンパク質でできた固体ですし、表面に付着している分泌物の油も水と溶けませんので、玉のようになってはじくというわけです。
これがまず今回のお話の第一歩です。
なぜ水は玉になるのか
まずは軽く表面張力の入り口が理解できたところで、次に説明の必要があるのは「水が玉になる現象」です。
水滴がお皿の上やテーブル、そして皮膚の上。
さらには水道の蛇口から一滴ずつ垂らすと玉になってポチポチと落ちる現象を体験していると思います。
これ、なぜ玉になるのでしょう?
上での解説で、これも周りにある大気(空気)と界面ができるために玉になるというのは理解できると思いますが、玉状のカタチになるのは不思議でしょう。
これはもう文字で説明するより、絵をみて頂くのが早いですね。
■出典:ケンチーブログ
https://kenchi-blog.com/surface_tension/
水滴を拡大した模式図をご覧頂ければお分かりの通り、まずは水滴の周りは大気(空気)があって“大気圧”という重力が周りに掛かっています。
下に落ちようとするのも重力で落下するチカラですね。
で、目には見えないですが水の分子はそれぞれが引き合って分子同士が集まろうとするチカラがあり、そのため水に満遍なく掛かる大気のチカラと水の分子が引き合うチカラが平衡となって、丸くなるというわけですね。
この混ざり合わない大気(気体)と水(液体)の界面に働くチカラを、「表面張力」と呼んでいます。
特に水の分子はこの集まろうとするチカラ(分子間引力と言います)が強く、他の物質よりも強いと言われています。
つまり、水は他の物質に比べて表面張力が強いということになります。
他に身近な液体では水銀が非常に表面張力が強く、水銀温度計が破損して漏れるとコロコロと玉になって転がるシーンを、ご覧になった方もおられるかもしれません。
■東京工科大学 応用化学科ブログより
http://blog.ac.eng.teu.ac.jp/blog/2019/05/post-22813d.html
※水銀は有毒ですので、絶対に真似をしないで下さい
表面張力の数字の意味
さて、ここまで水の表面張力についてお話してきましたが、上では水は表面張力が非常に強いというお話をしてきました。
--分かりやすく、他の物質と比較した数字で示してよ
こうおっしゃる方もおられるでしょうし、自分もできることならそうしたいです。
その方が、今回のテーマの理屈も分かりやすいですもんね。
また少し前のブログで、エタノールが非常に表面張力が低いことを説明するのに水は「エタノールのおよそ3.5倍」とも書いてきましたし。
ところが、これは残念ながら絶対的な数値で示すことがままなりません。
それはなぜでしょう?
ピンと来られた方もおられるかもしれませんが、ここまでの解説で表面張力とは何かを説明してきましたので、その理由は簡単なことなんですね。
界面とは、混ざり合わない物質同士が接触している境界線のこと
そう、気体と液体や固体と液体、はたまた気体と固体といったことで、お互いが溶けない物体同士にできる表面のチカラの強さですから、そこで発生するチカラはそれぞれの物質同士で全く違うということですよね。
例えば油と水だったとしたら、水に比較的混ざりやすい油もあれば、シリコンのように全くもって溶けることのない油もありますので、当然のことながらその間に働くチカラは違ってくるということになります。
つまり、物体同士を比較したチカラですので、絶対的な数字は決められないというわけです。
もちろん、一般的な数字として「空気に対して」と相手を決めて数字を得ることも不可能ではないのですが、これも空気のない宇宙、つまり大気がない環境だったら全く変わってきますし、私達が今いる場所も天候で気圧も変動しますので、絶対的な数字にはなりません。
なので、例えばガラス面だとか何か相手の物体を決めて、それに対してこの大気の状態でどの程度表面張力を示すのか(盛り上がるのか)といった指針を示すしか方法がないんですね。
ちなみに、月などに向かう空気のない宇宙船の内部の映像をご覧になったことがあるかと思いますが、空気がないと水滴は下に落ちずにまん丸の玉になってフワフワと浮いていますね。
あの大気がない境遇の映像が、水が非常に表面張力が強いと言われる所以です。
なので、水が表面張力が強いという言葉の意味は、あらゆる固体表面に置いた時の表面のチカラが他の液体に比較して強いという感じで理解をして頂ければ良いかと思います。
例えば、金属の上に水滴を置くと玉のようになって盛り上がりますが、エタノールや油などはペターンと平たくなりがちと想像して頂ければ良いでしょう。
水をきちんと角質層に届けるには
というわけで今回は、そう簡単には水が皮膚の角質層には届かないというお話を、さらにツッコんで解説してきました。
もう何度もお伝えしたように、皮膚の構造は水には溶けない硬いタンパク質(しかも固体)でできていますし、さらに油成分である皮脂が分泌しているのに加えて、バリア層そのものがセラミドという脂肪(細胞間脂質)でできていますので、皮膚表面に水を乗せて塗布しただけでは全くもって角質層の深部になど届かないことがお分かり頂けたかと思います。
お肌の上に水を乗せてもコロコロと玉のようになってはじくのは、不変の物理の原則なのですね。
ということで、角質層の深部に化粧水を届けようとするのならば、界面活性剤やエタノールのような水の表面張力を下げてやる成分を配合しなければ、決して達成されることがないとお分かり頂けたと思います。
さて、今回のこのお話は“その1”として、この水の浸透のテーマを2回に分けています。
ということは、せっかくなのでもう少しお話を深くして、この「水の表面張力を下げる」のに界面活性剤やエタノールといったものを使わなくても達成できるという、物理面のお話だけでなく次回はヒトの生体・・・そんな化粧品の設計にかかわるお話をしていきたいと思います。
ではまた次週。
by.美里 康人