週3で異なる目線の美容記事をお届け
美里康人
いよいよ処方開発に着手
前回からの続きで、まさに機能性コスメの処方設計実習の本番。
この記事の目次
設計する機能の理論を理解する
化粧品には機能性コスメという製品群があり、それぞれに必要とされる機能を有していなければ商品として意味をなしません。
例えば、いくら良い香りで見た目もオシャレな製品であっても、汚れが落ちない洗顔は存在する意味がありませんね。
ということは、処方設計に入る前には、油汚れ・垢汚れを落とすための洗浄理論を知らなければなりません。
ですので、日焼け止め製品は紫外線をブロックする大切な機能がないといけませんので、当然のことながら紫外線を防ぐメカニズムを知らなければ設計には入れません。
もちろん、お肌によくない紫外線(UV)にも波長がありますので、どの波長の帯域をターゲッティングして防止する成分を選ぶのか、さらには紫外線だけでなく他の光に対してブロックの必要はないのかなどなど、学ぶべき知識はたくさんあります。
SPFアナライザーといった簡単にブロック性能を測定できる機器がありますので、おそらく実際の設計には実測して処方検討をされたことでしょう。
リンク)絶対見逃せない大前提は『SPFとPA』
https://cosmetic.mukogawa-u.info/visiting_professor/post-1183/#Main
市場ではまれに、紫外線吸収剤どころか酸化チタン・酸化亜鉛といったあまり使用感の良くない紫外線遮蔽剤も使われていない、天然由来成分だけで作られた日焼け止め・・・なんていうのも見掛けますが、こうした機能をしっかりと研究されたとは思えない製品はもってのほかと分かります。
ユーザーさんの中には、<植物オイルの〇〇〇油には紫外線を吸収する能力があり、自然の成分で紫外線からお肌を守る>などとPRされた製品を見掛けると、つい信じ込んでしまわれる方もおられるのかもしれません。
もちろん、この理屈は全くのウソではありません。 それを見込んでのことなのでしょうが。
化学の常識的に、オイルだけでなく全ての成分は紫外線を吸収する特性があり、単にそれが弱いのか強いのか、そして紫外線の吸収周波数帯域が成分によって異なるだけのことなのですね。
その化学特性を利用して成分の分析・特定を行う機器があり、これも機器分析の時間で生徒さんは学ばれたことでしょう。
なのでこの理屈はウソではありませんが、それはお肌を守る目的に使用されるほど吸収する能力は強くなく、ごく微微たるものというだけのことです。
この特性を強く、そしてお肌に害を及ぼす周波数帯の紫外線を吸収するよう化学的に合成されたのが、紫外線吸収剤という成分ですので。
それは化学構造にその特長があります。
撥水性の追求
実際の処方設計に入ると、他にも処方のベースに盛り込まないといけない機能があり、それが耐水性能。 ここもしっかりと設計のノウハウを学び、ベース作りを繰り返していく必要がありますね。
日焼け止めは、お肌から流れる汗や、プールや海に入った水で流れ落ちてしまうと効果がなくなってしまいますので、耐水性は非常に重要な課題です。
しかも単に水に強い設計にすればよいだけでなく、お肌からは皮脂も分泌されますので、ここもきちんと踏まえて設計しておかないといけません。 ただ単に油性クリームにすればよい・・・という単純なことでは解決しないというわけです。
例えば花王さんのビオレUVのウォータリージェルでも、水に溶けるようなジェル製剤で、耐水性はないようなイメージを持たれるかもしれませんが、塗布後になじんだ後は撥水性が発揮されるように設計されています。 ここは大手さんならではの設計ノウハウ。
彼女たちもここをどう訴求して設計するか、試験と研究を繰り返してきたようです。
水にも油にも溶けない様々な種類のシリコンで、耐水性を持たせる工夫を模索したのではないでしょうか。
リンク)撥水テスト
https://cosmetic.mukogawa-u.info/visiting_professor/post-1257/#Main
石けんでも落とせる工夫
そしてこの課題は、上で書いた機能とは全く正反対のことを考えなくてはなりません。
耐水性能を高く設計したからといって、それがクレンジングや洗顔で落ちなくては困ってしまいます。
例えば3世代ほど前の旧アネッサ(資生堂)は、耐水性が非常に高い反面、専用のクレンジングでなければ落とせないほど強力でした。
そこを、油にも水にも溶けないのに石けんでは落とせるという、市場の他の製品との差別化に取り組んだようですね。
石けんは油汚れも落とせますので、耐水性を持たせたシリコンが油に溶けた製剤にしてしまっては本末転倒。
相当、悩み苦しんだことは想像できます。
このブログ記事の最後には、「実験あるのみ!」と苦労のひと言を残されています。
リンク)石鹸で落ちるかテスト
https://cosmetic.mukogawa-u.info/visiting_professor/post-1259/#Main
さらに差別化を目指して毛穴解決
この学習の中では、まさに化粧品企業に就職してからのイメージトレーニングがよくなされていて、売れる商品作りのための差別化をどう具現化するかも、実践的に学ばせているようです。
これだけでは物足りないと、さらに実利的な追加機能の検討に取り組み、結果としてお肌の毛穴をカバーする機能を盛り込む方向性で開発が進んだようです。
これは私なんかもスキンケア畑の技術屋ですが、かなりの難題に取り組んだことが予測されます。
どういった設計を用いてこれを達成するのか、連日苦労を強いられたのではないでしょうか。
塗布することで白浮きするとクレームになりますので、色をつけるのではなく光をコントロールすることで毛穴を目立たないようにする創意工夫などがあります。
リンク)全顔システムNeoVoirⅠで肌を見る
https://cosmetic.mukogawa-u.info/visiting_professor/post-1250/#Main
テクスチュアは化粧品のキモ
さぁ、こうして基本設計が進んでくるといよいよカタチになってきたと思いますが、そうなると次にブチ当たる課題が、テクスチュアと呼ばれる実際の使用感。
基本設計が構築できていざ実際にお肌に使ってみると、市場に存在している製品のなんと使用感の良いことか、あらためて現実に唖然としたことでしょう。
そう、完成された処方のなんと使用感の良いことかと、現実に直面します。
となると、自分達が求める使用感を追求するにあたっては、今の設計の位置関係を評価して方向性を見極めなければなりません。 そのためには、自分の好みで決めるのではなく、正しく評価してものさしを決めて進める必要性が出てきますね。
例えば何か保湿成分を追加すると、どれだけ保湿性能がアガったのか・・・。
これは趣味ではなく仕事ですから、こんなのを自分の第六感で評価してよいわけもありません。
これをなんらかの指針で計測し、解析する手段がきちんとあります。
リンク)べたつきテスト
https://cosmetic.mukogawa-u.info/visiting_professor/post-1239/#Main
日焼け止めとはいえ保湿性能も大切にしたいと、ここに開発の時間を多数割いたことが垣間見えます。 お顔だけでなく全身にも使うだけに、ベタつき過ぎると気持ち悪いと、ユーザーは選んでくれません。
どこを落としどころとするか、生徒さんが集まって議論を重ねたでしょうね。
お肌悩みを改善する成分を盛り込め
数年にわたって香粧品学を学んできた知識をすべて導入し、苦労を重ねカタチもできあがってきて、いよいよ処方設計も最終段階。
最後はお肌の悩みを改善する、いわば美容成分を盛り込んで製品としての仕上げ。
もともとが薬学部ですから、皮膚に対して効果的に効能が期待できる薬剤に関しては、18番。 漢方由来成分を色々と模索し、お肌の悩みにも効果が期待できる製品の設計に取り組んだ模様です。
どういった成分にどのような効果があるのか、はたまた配合量はどの程度が適切なのか、選択にはエビデンスをもとに検討をされたことでしょう。
リンク)薬学部らしく 漢方由来成分も配合したい・・・
https://cosmetic.mukogawa-u.info/visiting_professor/post-1156/#Main
まとめ
ということで、2回に渡って香粧品学を学ぶ学校の実際を、HPや公開記事から読み取って追ってきました。
今回のこの記事をお読み頂いて彼女らが研究している内容をみると、以前に香粧品化学を身に付けるのに必要な学問分野を網羅した一覧の中に、全て入っていたことがお分かり頂けたと思います。
楽しそうでもあり、女子らしくちょっとチャラけた風景もあるブログ記事でしたが、学んでいる学問の内容は専門的で、非常に高度なことが盛り込まれています。
人材を求める企業側としても、即実践的に従事してもらえる新人さんは非常にたのもしく感じますね。
こうして学生さんが日々頑張っているリポートを拝見すると、この業界が少しずつ変わっていく足音も聞こえてきた気がした、今回の記事でした。
最後に、最近は高校からこうした香粧品を学べる学科を設ける私立高校の検討も進んでいるようです。
なにぶんにも学ぶべき科目数が多いので、これは非常に良い傾向と感じます。
興味を持たれた方は、色々とネットで調べてみられると良いかと思います。
大人になってからでも十分に間に合いますので、今からでは到底ムリ・・・などと思わず、チャレンジされてみられてはいかがでしょうか。
ではまた次週。
by.美里 康人