週3で異なる目線の美容記事をお届け
美容オイルのメカニズムについて
ユーザーさんからの質問を取り上げます
先日、こちらのブログをご利用頂いているユーザーさんから、ご質問のメールを頂戴いたしました。
とある市販商品への意見と、掲題にあげました美容オイルの是非についてのご質問でした。
以前からこちらには宣言させて頂いております通り、基本的にこちらのブログや掲示板では市販製品の解析といった評価をさせて頂かないことを表明しています。
(大手ブランドさんは例外として)
実はその昔より@cosmeや掲示板などをご利用頂いておられたユーザーさんからすれば、この決断は物足りなさを感じられるかもしれませんが、私自身が多数のメーカー様の化粧品開発に携わらせて頂くことなりました今ではそれも難しくなってきており、こういった結論に至っています。
ただ一方で、ひとつには大手ブランドさんは私などが何かを発信しても微動だにしないことと、ユーザーさんから問い合わせ頂いた件に関しては例外とさせて頂こうと思っております。
また、内容的にもユーザーの皆さんが学びとなるような内容の場合も、例外的に取り上げていきたいと思っております。
そういう意味で掲題のご質問は、「果たしてオイルは皮膚内に浸透しやすいのか?」という、消費者にとってスキンケアの大きな疑問となっていると考えられますので、今回とりあげさせて頂こうと思います。
ご質問を頂きましたユーザーさんからも、きっと疑問を抱かれているユーザーさんが多いと思うので、とのことでしたので。
この記事の目次
ご質問の内容
まずは、ご質問頂いた内容の一部が以下です。
そのままコピペで抜粋しています。
* * *
<部分割愛>
~ハーバルオイルは、水分をより多く肌へ浸透させる効果が科学的にあるのでしょうか?
実はオイルとは別の科学成分が浸透の手助けしているのでしょうか?(私は実感出来ませんでしたが)
また、オイルのみでも水分浸透力を上げられるのであれば、オイルの種類によって浸透力の差はあるのでしょうか?アルガンオイルだけ優れた構造だったりするのでしょうか?
基本的には、オイルを先に塗れば水分の浸透を邪魔するのでしょうか?~
<部分割愛>
* * *
割愛していますが、ハーバルオイルとはアルビオン社の美容オイルのことを指しています。
全成分もコピペしませんので、皆さんでブランドサイトさんから検索頂ければと思います。
また、「オイルのみでも」のくだりは、某社の生詰めアルガンオイルのことを指しています。
内容的には、ようは美容オイルやオイル成分は皮膚に浸透しやすいと言われていることについて、本当かどうか疑問をお感じになって真実がお知りになりたいということです。
早速、支障のない範囲で所見を述べていきたいと思います。
ダイレクトな表現が難しい部分は、文章の「間(マ)」も読んで解釈頂ければ幸いです。
成分的な工夫は?
最初に、こちらのアイテムにはゴールドという商品もありましたが、中身はほぼ同じで特に変わりないと判断して頂ければよいと思います。
で、全成分を拝見する限りは、処方設計上で浸透を促進させるための科(化)学成分を盛り込んでいるといったことは、見当たりませんでした。
ベースはホホバ種子油を中心に、合成オイル(ミリスチン酸イソプロピル、ミネラルオイル、トリエチルヘキサノイン)とで設計されています。
他には美容効果成分として、他の植物オイルが少しずつ添加されているといった成分構成になっています。
植物オイルはそのままでは繊細なテクスチュアコントロールが難しいため、合成オイルとで綿密に使用感を追求していると見受けられます。
その他には微量成分としてBHTやトコフェロールが使われていますが、これは酸化防止剤としての機能成分になります。
オイル製剤は、どんなオイルを選択して設計してもとにかく酸化されやすいのが鉄則ですので、ここは大手さんらしく品質を維持するためのベストな設計と言えます。
ちなみにBHTと言えば、昔はリスク成分として旧表示指定成分に規定されていましたが、オイル成分が酸化してしまってお肌に影響してしまうことを避けるためには、良心的かつ、大手ブランドさんらしい判断と感じますね。(私ならばこの手段を選択するかどうかは別として)
ということで、こちらの製品に関して「浸透力が高い」と評価されるための処方の工夫は、特にみられませんでした。
あとはご質問にあるように、こちらの製品に限らず全体的なスキンケアの疑問として、果たしてオイル製品は水よりも皮膚内浸透しやすいのか?
はたまた、この後に使う製品の水分の浸透は邪魔しないのだろうかといった点に、触れていきたいと思います。
この疑問に対する解説が、この製品をどう評価するのかのヒントにもなりますね。
ただこの解釈は、単一な側面からみて簡単にひと言で言い切ってしまえる課題ではなく、いくつかのアプローチから考えて判断していかねばなりませんので、2回に渡って詳細に切り込んで、ひとつひとつ理解を進めて頂きたいと思います。
オイルは浸透しやすいは、正しいか
最初に、容易に断言できることから先にお答えしておこうと思います。
この疑問に対しては、まずは単純に「正しい」とお答えする必要があります。
確かに、ホホバ油や馬油・スクワランなどを美容オイルとして販売されているメーカーさんは、「皮膚にしっかり浸透し~」といった効果を訴求したうたい文句が並んでいます。
それは、最初の切り口としては、正しいと考えて間違いはありません。
簡単に検証した画像がコレ。
左側の「SQ」がスクワランで、右側の「Aqua」は精製水になります。
塗布前には脱脂力の強い食器洗剤で皮膚表面を洗浄し、乾燥の後にそれぞれを滴下した直後の画像です。
一目瞭然の通り、スクワランの方は皮膚表面に広がり、一方の精製水の方は表面張力を受けて盛り上がってしまい、全く浸透する気配がないことが分かります。
これは皮膚表面そのものが非常に疎水的、つまり水を寄せ付けない油性的な構造であるために、表面張力が発生して浸透を妨げているんですね。
この液体が接触面に広がってなじんでいく様を、専門的な言葉では「拡散」といい、オイルのような油性成分は水よりもはるかに皮膚表面に広がる、つまり拡散しやすいということが分かります。
ですので、まずは原則的に油性成分は水性成分よりも拡散しやすいという説明になります。
このことから、天然オイルや精油、そしてオイル美容液といった化粧品も、メーカーさんが述べている理屈に間違いはありません。
これは皮膚科学や医薬品の世界でも常識とされており、この原則はまず頭に入れておいて頂ければ参考になるでしょう。
とはいえ、話はまだまだ結論ではなく急いではいけません。
まだこれは、浸透メカニズムの第一ステップと言えば良いでしょうか。
上ではあくまで「拡散」と記しただけで、「浸透」には至っていません。
それはご覧の通りで、まだ皮膚表面に拡散しただけのことで、テラテラとお肌がテカっていますので、まだ皮膚内への浸透には至っていないことは見ての通りです。
さすがに両方が目でみて浸透が分かるまで何時間も手を放置しておくわけにはいきませんので、この後は専門機関による実験論文なども引用しながら、検証してお話を進めていきます。
化学的側面からの検討
次いで第二ステップとして、化学的なアプローチで考察していきましょう。
難しそうな言葉を使いましたが、これも今では皆さんもよくご存じで、「分子が大きいとお肌には浸透しない」といった言葉は、ユーザーさんからでも耳にするようになりました。
例えばコラーゲンやプラセンタ・ヒアルロン酸といった成分が、こう言われていますね。
この理屈の根拠はもう少し具体的に言えば成分の分子量が基準となっていまして、こちらのブログでも以前に浸透理論の記事で説明している通り、皮膚科学の世界ではおよそ分子量500前後が皮膚内浸透を果たすためのボーダーラインと言われています。
では、こうした植物オイルを含む一般的なオイル成分はどうなのでしょう?
以下に一例をあげてみます。
<天然油脂>
・オリーブ油
250前後
・スクワラン
約400
・ホホバ油
500前後
<合成油脂>
・トリエチルヘキサノイン
約470
・ミリスチン酸イソプロピル
約270
「前後」としているのは、天然油脂の場合は不純物も含め多種類の成分から成り立っていて単一成分ではありませんので、だいたいの平均分子量ということです。
いずれにしても、およそ浸透を果たせる大きさ以下のものが多いことが分かります。
ですので、この課題については浸透条件をクリアしています。
上記のように皮膚表面に拡散しやすいのも、これによるところが大きいですね。
ただし、これでもまだ結論を急いではなりません。
分子量という意味では水は1分子が18ですから、圧倒的に小さいですね。
自由水に関しては単一分子が六員環を形成(氷の結晶の例)して水素結合していると言われていますので、それでも100程度。
それでも画像のように拡散しませんので、この分子量だけではまだ判断することはできません。
まるでロールプレイングゲームをしているかのようですが、まずはここまでクリアしてきましたので、あと二つのステップで総合的に結論を導き出します。
解明のヒント
で、この後の解説は次回に持ち越したいと思いますが、その前に次回の解明へのヒントを落としておこうと思います。
実際に皆さんが目の当たりにしている身の回りの事実を、ピックアップしておきましょう。
それがこの先の解説を理解していく、ヒントになると思うのです。
・医薬品の軟膏剤は、なぜワセリンといった油性成分でできているのだろう?
・毎日のようにクレンジングオイルを使ってマッサージングしていたら、皮膚内にどんどん浸透していく危険性があるのだろうか?
・ドレッシングのように、油は水をはじくのが常識ではないのだろうか?
いずれも、オイルをダイレクトに塗布する美容法の浸透理論が正しいとするならば、これらの事実は怖いことと考える必要はないか?というのが提起です。
細胞や血中にまでこうしたオイルが浸透するとするのならば、ただごとではないですよね。
あとは次回で、結論に近付いてまいります。
by.美里 康人