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ミネラルオイルを悪者にしないで!

ワセリン

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美里康人

鉱物油が悪者になる時代はもう終わり
ただ、頭に入れておいて頂きたいことも
きちんと解説します

前回に続いて、表示名称:ミネラルオイルへの誤解について述べていこうと思います。
画像のように数年前からハーバリウムが流行し、この液にも使われていますので、この手作りの趣味をお持ちも方はよくご存知かもしれませんね。

で、いまさらあらためてとりあげた理由は、合成オイル成分としてはこれと同列に並ぶワセリン“が、いまや皮膚疾病治療などの軟膏医薬品の基剤としても使われていて、肌荒れ対処や保湿目的に非常に良いということが広く認知されてきたことによります。
こうした今や安全性が高いと認知されたワセリンと、ミネラルオイルとの関連性について解説していきます。

鉱物油って何者?

ミネラルオイルというと、イコール「鉱物油」と説明されることがよくあります。
でも実は、この訳語は正しくありません。

Wikiを調べて頂いてもお分かりの通り、鉱物油とは原油といった燃料を含む地下資源由来のオイル成分のことを総じてつけられた名前で、正式には「鉱油」と言います
化学的には「地下資源由来の炭化水素」と説明するのがもっとも正確なのですが、まぁユーザーさんがここまで専門用語を頭に入れる必要はありません。
単純に、石油から採取されたオイルのことと覚えておけばよいでしょう。

念のために書いておくと、この石油から採取した原料を使って化学的に合成した化学物質は異なる成分になるため、この鉱物油には該当しなくなります。

例えば

・ミリスチン酸イソプロピル

ミリスチン酸は動植物油からグリセリンを除去(脱グリといいます)して作られますが、これに化学的にくっつけられた”イソプロピル(イソプロパノール)“は原油から得られた成分からさらに合成して作り、それをミリスチン酸にくっつけてありますので、これは鉱物油ではなく”石油由来の合成オイル“ということになります。

あっと、決して誤解されないで下さいね。
近年では、イソプロパノールも発酵法で作られている原料も多くなっていますので、化粧品に使われているこの成分がすべて石油由来とは限らないことを念押ししておきます。
もし気になるようであれば、化粧品メーカーさんに確認すればよいでしょう。

ということで、ようは原油から得られた成分に化学的には手を加えないオイルを、鉱物油と呼んでいると理解すればよいですね。

さてお話は戻り、となると鉱物油という言葉のくくりの中には、ミネラルオイルだけでなく化粧品に使われている他の成分もいくつか含まれていることになります。

ミネラルオイルとは何?

ここまで、ミネラルオイルは鉱物油の中のひとつに過ぎず、他にも鉱物油はあるというお話をしてきました。
では、それを整理しておきましょう。

 ・ミネラルオイル
 ・ワセリン
 ・パラフィン
etc

この3つです。
etcとしているのには理由がありまして、厳密にいえばイソパラフィンなどもあるのですが、これはあまり一般的ではありませんし、ちょっと炭素(C)の数が少なくて皮膚への安全性には私的に疑問もありますので、今回はとりあげません。

それはさておき、その他2つの成分もよく見掛けますよね。
なにより気付いて頂きたいのは、ここ数年で安心感がしっかりとユーザーさんの間で根付いた感のある「ワセリン」も入っている点です。
そしてパラフィンに関しては、ポリエチレンを使っていないクレンジングバームに使われているケースもよく見られます。
というか、昔のクレンジングバームはこれがメインでした。
(実は固形クレンジングって、昔からあったんです)

今回の記事では、これらも鉱物油だったということを覚えておいて頂きたいのです。
何が異なるのかユーザーさんに理解しやすいよう解説するのが難しく、“沸点・分子量(C炭素の数)”で形態が変わると説明するしかありません。

ミネラルオイル

この図を見て頂ければお分かり頂けるのですが、20℃の室温あたりのところでC(炭素)の数がふえていくごとに気体から液体、そして固体へとなっていることが分かります。
ワセリンはちょうど液体(オイル)と固体(ワックス)との中間のペースト状ですので、C(炭素の数)が15個から20個あたりでできていることが分かります。

ということは・・・。

ワセリンは安全と言われた理由

さて、ワセリンという成分の名前が出てきました。
もう今はワセリンがお肌によくないという説明や解説は見受けられなくなりましたね。
ごもっともで、医薬品の世界では皮膚の疾病の塗り薬のベースとして普通に使われているのですから、当然のお話。
いわば、これがお肌に悪いとなると、軟膏の医薬品を全て否定することになりますので、
むしろそれまで、鉱物油だと悪者扱いする化粧品メーカーさんがあったのが、少々異常だったというわけですから。

ただ、最近になってこういった評価になったのも、ひとつにワケはありました。
それは、”日本の精製技術の進歩“ということです。
つまり、昔と違って精製技術が進歩し、原油に含まれていた不純物を極限まで除去することが可能になった日本の技術がカタチになったのです。
ようはそれまでお肌によくないと言われていたワセリンに含まれていた不純物を、限りなくゼロにまで近づけることが可能になったということですね。
特に低分子でお肌に浸透しやすいガソリンのような揮発性成分がなくなったので、安心して医薬品に使えるようになったのです。

あまりユーザーの皆さんが目にすることありませんが、今やこうして原料会社さんも広報活動をされています。

ワセリン

日興リカ株式会社
http://www.nikko-rica.co.jp/business/petrolatum/

まぁ、とはいえこの技術が確立されてワセリンが作られ始めたのはすでにうんと昔のことですので、いまさらではあります。
その辺りにも、ちょっとした市場上のワケもあったのです。

他では語られない工業業界の事情

実はこうした高純度のワセリンが開発されたのも、もう10年ではきかないレベルの昔のお話
それがなぜ今こうしてユーザーの皆さんにまで知れ渡るようになったのでしょうか?

それはひとつには、上のようにいまだワセリンを鉱物油と悪者にする中小の化粧品メーカーさんが溢れていることから、安全性をきちんと知ってもらいたいという原料メーカーさんの地道な広報努力によるものがあります。

ただそれよりも大きな事情は、工業原料としてどれだけ使われるか?という大きな難関をクリアできたことが大きな要因です。
ここまで書いてきた通り、質があまりよくなかったワセリンは他の工場さんでもたくさん生産されており、それはもちろん海外にも及びます。
もちろん価格もお安いことから、この品質の高いワセリンが日本で開発されたところで価格もお高く、なかなかコストダウンできるほど採用が進まずに一般化しにくかったわけです。

それは化粧品会社でも同様で、当時はこのサンホワイトに切り替えることを決断する工場さんはなかなか少なく、工業事業として成り立つには年数を要したというのが現実だったのです。
そこでこの企業さんは、先に先行して価格を抑えた上で、量を採用してもらおうと医薬品グレードのワセリンのみを生産することに方向転換をしました。
つまり、化粧品も全て医薬品グレードのワセリンにしますという決断をしたというわけです。

これは化粧品も含めて業界の賛同を得られ、国内の医薬品も化粧品も全てこれに切り替えていく動きが出てきて、達成されたという経緯なのです。
しかもこの動向は海外にも広がり、日本のワセリンは品質が良い上にそれほどコストも高くないし、加えて我々も採用すればコストはさらに安くなるはずとの商談が次々と決まり、今ではほぼ昔の質の悪かったワセリンと変わらない価格で入手が可能となり、むしろ質のあまりよろしくないワセリンが姿を消してしまったという成り行きということなのです。

つまり、こうした企業努力によってユーザーさんが安心してワセリンを使うことができる世界になったという背景です。

そしてミネラルオイル

さぁ、ここまでお話を進めてきてもう書きたかったことはお分かりかと思いますが、他の鉱物油のミネラルオイルだったところで、同じような背景があることはご理解頂けると思うのです。

まずは担保をお出ししておきましょう。
ミネラルオイルはワセリンよりもはるかにあらゆる用途に使用されていますので、工業改革の規模が違います。
そのうちの一社さん。

ミネラルオイル

コスモ石油ルブリカンツ株式会社
https://www.cosmo-lube.co.jp/business/base-oils.html

製品名からもお分かりの通り、あの石油会社大手のコスモ石油ですね。
他にも大手石油会社が同じような精製技術を駆使した、高品質のミネラルオイルを生産されています
いずれもそれまでの質がよろしくなかったミネラルオイルを差別化し、この原料製品名のように「ホワイト」といった品質を表す言葉が使われています。

こちらのHPから、その品質を表す広報文を転載しておきましょう。

* * *
コスモホワイトPシリーズは厳選されたベース油を高度に精製した高純度の流動パラフィンで、日本薬局方流動パラフィン純度試験、食品添加物規格試験等に合格し、その優れた品質は数多くの産業分野で使用され、高く評価されております。
* * *

こうして医薬品にも使われていますし、実は防腐力試験や同定試験に用いられる菌といった微生物の保存液としても、一般的な試験法に使われています
微生物なんかは非常に弱い単細胞生物ですので、何か不純物が少しでも含まれていればすぐに死滅したり変異を起こしたりしますので、いかに純度が高く人間にも影響を及ぼさないかよく分かる品質のものさしですね。

ならば完全無欠か?

いよいよ記事の最後になりますが、ここまでならば他の方がお書きになっておられる一般論となんら変わりませんね。
最後には私なりの所感と言いますか、化粧品業界としての裏事情にも少し触れておこうと思います。

実は前回のセタノールの記事とさほど変わり映えしないのですが、果たして全国各地の化粧品工場さんが、この高品質のミネラルオイルを採用しているかどうかは、なんとも言えません。
実際には上の記述にもあるように、医薬品グレードではなく「食品添加物規格」のミネラルオイルも市場に流通していて、こちらはやはり価格もお安いですし。
さすがに国内全社の工場さんがどんな原料を採用しているかまでは私にも分かりませんし。
まぁ、一般論としては大手さんをはじめとして名だたる工場さんは今や医薬品グレードの原料を使うのは一般化していますので、品質の劣るミネラルオイルを使われていることはほぼないとは思いますが。

とはいえ、“もうないですよ“という根拠はありません。
というのも、そう断言できない理由や心当たりがあるのです。

前回のセタノールのお話でも触れたように、そういった輸入原料を提案されたことが原料ディーラーさんから実際にありますし、その見本品を加熱するとやはり低分子成分特有の鼻をつく刺激臭を感じた経験があるからです。

なによりミネラルオイルは、ワセリンと違って化粧品にはクレンジングオイルといったほぼ大半が主成分としてこのミネラルオイルで作られた製品があります
となると当然、ワセリンとはわけが違って生産コストに大きく影響を及ぼすわけです。
例えば、今は某100円ショップでも100mL入りでクレンジングオイルが販売(ワンコインではありません)されています。
コストがギリギリの製品を製造されているOEM工場さんならば・・・というのは、普通に考え得ることです。
そしてその工場さんは、他社製品用にわざわざ高グレードのミネラルオイルを個別に仕入れるでしょうか?

真意のほどは分からない提言でまことに申し訳ないのですが、もしも気になるユーザーさんがおられましたら、その旨を化粧品メーカーさんにぶつけてみられるのも一考かもしれませんね。
どこまでお答えしてくれるかは、分かりませんが。

というわけで今回の記事はここまでですが、実は次回の記事は、この最後のお話に疑問をさらに深くする業界事情のお話をしようと思います。
ひょっとしたら、上のミネラルオイルの謎が解けるかもしれません。

ではまた次週。

by.美里 康人

3 COMMENTS

Noah The Cat

先日面白げなYouTubeを見ました。
皮膚再生医療の専門医という北◯先生(一応名前は一部伏せておきます)のワセリンの使い方というコーナーです。
何が面白いというと、皮膚科医にとって患者さんに勧めるワセリンと、スキンケア化粧品を作る・使う人にとってのワセリンの意味は全然違うということ。
美里さんもオススメのキュレルの保湿スプレーを自分のスキンケアで使用していることです。
そして最後は私自身が小さい頃かかっていた皮膚科医と同じく、薄くて弱いバリア機能が壊れた皮膚を保護するにはワセリンしか悪影響を及ぼさない物はない、ということです。
そして、正常な皮膚の場合はワセリンはかなり効果を感じにくい物だと断言していること。
きちんと精製されたミネラルオイルやワセリンはほとんど肌に浸透しない。それが逆によい場合があるということでしょうか。

返信する
美里 康人

Noah The Cat様

引き続き、コメントありがとうございます。

先に疑問へのお答えを書いておきますと、
>ほとんど肌に浸透しない。それが逆によい場合があるということでしょうか。
その認識で良いと思います。
ヘタに余計なモノが浸透する位なら、表面の隠蔽の役目をはたすワセリンで、肌の機能を促すのが効果的と認識されれば良いと思います。

ただ、ご伝授頂いたYou Tubeを拝見しました。(ついでに友利さんのも)
基本的にこちらの先生のアドバイスは、正しいと感じました。

ただ、ちょっと双方のこちらを拝見して、「ちょっと待て・・・」と感じた事があります。
こちらでは全て書ききらないので、また記事にて触れようと思います。
端的にこちらで言える事として、私自身はこの記事で「ワセリンやミネラルオイルをおススメ」しているわけではありませんので。
実際、私はスキンケアの設計に両方とも一切使用しません。
この記事のスタンスは、ただ単に「悪い成分ではない」という内容なんですよね。

結論は、やはり彼らは皮膚治療のプロであって、スキンケアコスメのプロではないですね。

返信する
Noah The Cat

返信ありがとうございます。
精製された鉱物油やワセリンは単に荒れて剥き出しになった真皮やその下の組織にほとんど「悪さ」を「しないだけ」なんですよね。
例えるなら「お腹を壊した時や風邪の時のポカもとい、電解質飲料」ちょっと大袈裟ですが。
私は肌に何を付けても染みる時の「お守り」としてワセリンを持っています。
付けるような事態にならないようにする、予防の腸内細菌サプリのようなものがスキンケア化粧品の立ち位置かも知れませんね。

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