週3で異なる目線の美容記事をお届け
BGやグリセリン
これって保湿成分?
作る側の意図とユーザーさん側の理解に溝
前回のブログの中でも少し触れましたが、お題にあげたような成分の配合役割について、ユーザーさんの中では理解に大きなが溝があり、今回はそんな話題。
この記事の目次
成分の役割 ~化粧品基材~
ユーザーさんだけにとどまらず、化粧品の企画や販売をされているメーカーさん、はたまたもっと言えば業界で営業を担っておられる現役の方の中にも、オーソドックスな成分に対しての理解に大きな溝がある話題についてお話をしていきます。
早速ですが、以下の成分について、ご覧の皆さんはどういった役割で配合されている成分と理解されていますか?
・BG
・DPG
・PG
・グリセリン
・プロパンジオール
・ペンチレングリコール
・1,2-ヘキサンジオール
・カプリリルグリコール
・エチルヘキシルグリセリン
後半の方の成分は、こちらの記事を長くご愛顧頂いている方々ならば、さすがに「防腐剤の代替」と正解のお答えが返ってくるかもしれませんね。
すべてがそうとは言い切れない側面もありますが、プロパンジオールから以下はその通り、大正解。
でも、ここにあげている成分はすべて、ほとんどのところで「保湿成分」として説明されていますね。
それを踏まえて課題なのは、グリセリンまでのところ。
おそらくほとんどの方は、これまで解説されてきた通り「保湿成分」と認識されているかと思います。
もちろん、メーカーさんの成分解説や製品のHPなどにもそう記載されていますし、この答えが間違いというわけではありません。
しかしながら、私たち化粧品の設計をしている人間の立場からすれば、これは保湿成分としての役目ではなく、他の重要な任務を担った基材成分として配合しているのですね。
だからこそ、市場のほぼすべての化粧品には配合されているわけですので。
つまり、保湿成分として必要不可欠だからというのではないということなのです。
いわば、私たちにとって保湿成分としての機能は二の次、三の次。
だって、お肌の保湿目的ならば他の成分でも十分補えますし、なにより他の保湿成分を使えば、これらの成分ほどにたくさん配合する必要もありませんから。
さらにいえば、これらの成分を原料のまま触ってみられた方はご存じですが、これらの成分をお肌に塗布した時のテクスチュアは、保湿成分と言われてもほど遠いギシギシとした使用感で、むしろ気持ち悪いといった意見の方が多いくらいです。
もちろん、優れた保湿機能を持っているのは間違いないですが、決して皮膚への浸透もよくありませんし。
で、前回の記事でも触れたように、昨今はこれらの成分は石油由来だったり、はたまたお肌に合わない方がおられるといった誤情報を信じるユーザーさんがおられたりで、そのニーズに合わせてこれらの成分もフリーにしてしまったコスメも市場に増えてきています。
当然のことながらメーカー企業さんも、他社ブランドとの差別化を図るためにこうしたフリーコンセプトを導入して新しいコスメとして発売したりと、市場は混とんとしているのが現状です。
まぁ、今はいわゆる美容業界の流行成分が枯渇している現状ですので、こういった方向性に新しさを求める市場の摂理というところと考えられますが。
それはさておき、私達技術者にとっては、単に保湿成分だから簡単に抜くことができると思われてしまう点に課題を感じ、そう簡単なものではない本来の機能があることに触れていきたいと思います。
防腐剤として?
巷でもよく言われることとして、こうした保湿成分として表記されている成分も、実は防腐剤として使われているという解説も耳にしますね。
今回あげている上のリストは、すべてをひっくるめてサイエンスの世界では「多価アルコール」と呼ばれていまして、同じ部類の成分の集団になっています。
そのため、弱い強いということはあるにしても、いずれも菌に対しての抵抗力を有しています。
この言葉を使うとすぐに「え? アルコールなの?」と誤解を招いて理解されるユーザーさんも多く、覚えておく必要はまったくありませんが、ひとくくりになる成分という程度で頭の隅っこに置いて頂ければよいかと思います。
誤解のないように、皆さんがすぐに思い浮かべる「アルコール(エタノール)」も化学構造的に同じ部類に入るというだけで、全く異なる性質ですので別モノと理解しておいて下さい。
グリセリンもアルコール類の一種と説明すると、驚かれるユーザーさんは多いですが。
というわけで、確かにBGやDPGといった保湿成分もある程度の防腐効果が見込まれ、パラベンやフェノキシエタノールといったオーソドックスな防腐剤の機能を助けてくれる、防腐補助成分としての役割も担っています。
いわば、これらの成分を配合しないと防腐剤そのものの配合量も多くしなければならず、できるだけ安全な保湿成分で防腐剤を少なくしてあげようという、昔からの処方のひと工夫と考えればよいですね。
かといってこれらだけでは完全に菌の繁殖力からは守れず、相乗効果を利用しているという表現がわかりやすいでしょうか。
とはいえ、これも実はこれだけの目的と言われればそれも正解とはいえず、もっと重要な役目を担って配合されています。
つまり、防腐剤の補助成分だけなら抜いてしまうことも可能になりますし、必ずしも必要とは言えませんね。
実はもっと大事な役割を担っています。
具体的にその説明に入っていきましょう。
水は氷る=化粧水も凍る
さて、ユーザーの皆さんも、化粧水などはほとんど水でできていると理解されていると思います。
保湿成分や有効成分といったって、何十%も配合されているわけではありませんので、ほとんどが水というのは正しいと言えます。
それはコーヒーといった飲料にしたところで同じで、コーヒーの抽出成分なんてたかが知れていますので、甘みを加える糖分が少し多めに配合されているだけでほとんどが水ということになるのと同じです。
でも、ユーザーの皆さんは気にしたこともないかもしれませんが、化粧水が凍ってしまった経験などないとは思いませんか?
まぁ、化粧品を外に出しっぱなしにされる方もおられないでしょうから、思ってもみなかったのは当然のことなのですが。
それでも東北や北海道といった極低温になる地域ならば、荷物として運ばれてきたり倉庫に保管されている状態ならば、カチカチに凍ってしまうことがあってもおかしくないですか?
でもそんな化粧品、みたことも聞いたこともないはずですね。
それは前回の記事でも触れた通り、上で書いたような多価アルコールを配合することで、寒冷地でご使用頂いても凍らないようにしているんですね。
ご存じのように水は0℃以下では凍ってしまいますので、マイナスの温度になっても凍ったりしないように、BGやグリセリンが配合されているんですね。
もちろん、ちょこっと配合しただけでは0℃以下には耐えられませんので、数%レベルで配合されているというのが、処方設計のセオリーということなんです。
それだけではない大事な役目
上の解説は前回の記事でも取り上げましたが、こうした多価アルコール類を化粧品に配合するのは、他にも技術的な大きな意味を持っています。
ユーザーさんには少し理解が難しいかもしれませんが、そんな意味もあるんだ!という感じで覚えておかれるとよいと思います。
ここで解説するのにもっと分かりやすい例として、防腐剤のパラベンをピックアップしていきましょう。
パラベンといえば防腐剤としてオーソドックスな成分ですが、これは化粧水にもフツーに配合されている通り、水になんなく溶ける水溶性成分と認識されていると思います。
これは実は大きな誤解。
正確には化粧水に配合されているパラベンはメチルパラベンですが、この成分、実は水にはそんなにたくさん溶けません。
同じパラベンの仲間でもプロピルパラベンやブチルパラベンなどは、まったく水には溶けない油溶性成分ですし。
とても信じられないかもしれませんが、小麦粉みたいな粉成分であるパラベンをそのまま水にポ~ンと放り込んだとしたら、何日混ぜていてもプカプカと浮いたままで、まったく溶けません。
はい、化粧品会社に入社した時に製造の研修で最初にヤってしまい、とんでもなく怒られたことを覚えています(笑)
というわけで、パラベンを防腐剤として化粧水に配合するためには、水よりもパラベンが溶けやすい何かの溶剤を配合してやらなければならないんですね。
しかも、これを溶かすためのBGといった溶剤を少ししか配合していないと、寒冷地の低温地域にさらされた時に、化粧水全体の溶解性が低いことが影響してこのパラベンが結晶になって析出してしまう事故が起きます。
もともと水に溶けにくい成分ですから、一度低温になって結晶してしまうと二度と化粧水には溶けなくなり、腐ってしまうといった事態に繋がってしまうことになりますね。
ですので、パラベンを化粧水に配合するには、数%レベルでBGといった多価アルコールを配合してあげないといけないというわけです。
ここでの解説では一例にパラベンをとりあげましたが、他にもこういった水に溶けにくい成分を化粧品に配合するためには水だけではムリで、色んな成分が化粧水に溶けやすいようにしてあげるために、こういった多価アルコールの類の成分を使ってあげないといけないんです。
他にも身近な例では、洗顔クリームにも必ずといってよいほどグリセリンがたくさん使われていますが、これも洗浄成分(石けん成分)が固形にならないようにするための製剤ノウハウのひとつです。
洗顔クリームからグリセリンを抜いてしまうと、固形石けんみたくカチカチになってしまうんですね。
こうして並べてみれば一目瞭然。
大手ブランドさんの洗顔クリームを例に、ズラっと各社全成分の頭の一行目だけを抜き出して並べてみました。
メーカーさんによっては、一番多い成分に位置していることが分かります。
水で流れてしまうグリセリンですから、洗顔フォームの保湿成分として多量に配合しているわけではないことはお分かり頂けるでしょう。
もちろん、こうした多価アルコールはお肌にも安全な成分ですし、しかも保湿機能も持っていますので、化粧品の設計には必要不可欠な成分なんです。
他にも、ユーザーの皆さんに説明するには難しい機能として、乳化製品を設計する際のノウハウや、クレンジングを設計する際の隠れた製剤技術ノウハウなどがあり、こういった成分はただの保湿成分ではないと覚えておいて頂ければ、この記事も価値がありますね。
合成成分だから・・・
お肌に合わない気がする・・・
こういった理由だけでこれらの成分を省いてしまうのは、化粧品の基礎設計にとって非常に課題が多くなることを覚えておいて頂ければ、嬉しく思います。
多価アルコール
いつかは、これらの成分と水とオイルだけで乳化製品を設計したいと未来の想いをはせる美里ですが、実は大切な製剤成分のひとつだという、今回のお題でした。
ではまた次週。
by.美里 康人