週3で異なる目線の美容記事をお届け
美里康人
何がもっとも多いと思いますか?
twitterの方でもつぶやきましたが、年明けすぐに化粧品開発展があり、弊社は技術提携をしている工場さんのブースに技術説明で立たせて頂いた次第ですが、予想をはるかに超える評判で離れることができず、記事アップが1週間遅れてしまいました。
まことに申し訳ありません・・・。
次回からスケジュール通りアップしてまいりますので、よろしくお願い致します。
さて、今回のお題につけた質問ですが、皆さんはどういったオイルの名称をイメージされたでしょう?
早速本題に入りましょう。
この記事の目次
化粧品向けオイル成分ランキング
さて、言うまでもなく今や環境保護の問題から動物由来の成分を化粧品に使うことなどほぼなくなりましたので、この質問の答えが植物油であることは間違いないと分かります。
では皆さんは、どういったオイルの名称が思い浮かびましたか?
スクワラン?
これはサメ由来だからと選ばなかった人もいれば、今やオリーブやとうもろこし由来の植物由来スクワランも多くなりましたので、成分の知識に対して優秀な方がむしろ「これだ!」と選んだ方も多いかもしれません。
いえ、でもこれは残念ながらNO!
となると、ヒマシ油・ホホバ油・ヒマワリ油…と、色々と出てきますが・・・残念ながらいずれもハズレ。
では何?
それはダントツで、「ヤシ油」です。
ユーザーさんにとっては意外かもしれませんが、これは圧倒的な数字でヤシ油が大量に使われています。
今回はこのヤシ油について話題にしてみましょう。
オイルランキングの発表のようなお題でしたのに、期待された方は申し訳ありませんでした。
ヤシ油の用途
さて、「ヤシ油」というまんまな成分名は、ほとんど化粧品の全成分に見られることはないかもしれません。
でも、このヤシ油は化粧品に使用される様々な界面活性剤といった素材の原料として大量に使われています。
ズルい…そんな声も聞こえてきそうですが、確かにユーザーの皆さんは全成分からしか情報を得られないので、少々変化球でしたね。
引っ掛け問題のようで、申し訳ありませんでした。
でもこのヤシ油、皆さんの知らないところで本当に大量に使われていること、そして実はこのヤシ油って、間違った認識をされている方も大変多い背景がありますので、そんなお話を進めていきましょう。
また今回のこの話題、ユーザーの皆さんにとって身近な製品と深く関係していますので、今回から数回に渡って解説が繋がっていきます。
続いて学んでいって頂ければと思います。
で、賢明なユーザーさんであれば、ここまで読まれてくると「なるほど」とヤシ油が使われたいくつかの素材を思い浮かべられたかもしれませんね。
そう、界面活性剤の原料として多く使用されています。
例えば
医薬部外品:ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド
化粧品:コカミドDEA
化粧品の表示名称の場合はちょっと分かりにくいかもしれませんが、「コカミド」とは「ココイルアミド」の略称で、ココヤシ油とアミドを足した成分名です。
ですので化粧品の成分名の場合は、よくヤシ油原料に「ココイル」と付けられていることが多く、そういう意味と理解しておけばよいでしょう。
ヤシ油原料の「ココイル」の成分名がついた成分は、他にも
医薬部外品:ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン
化粧品:コカミドプロピルベタイン
こちらもシャンプーなどにもよく見られる成分で、いずれも洗浄剤成分としてよく配合されています。
他に、アミノ酸系の洗浄剤にも
ココイルグルタミン酸TEA
また、ヤシ油を原料にした石けんもあります。
ヤシ脂肪酸Na
ハンドソープなど、液体の石けんによく使われています。
こうしてヤシ油は、様々な洗浄成分の原料として多用されています。
またこうして成分名に出てくる素材だけでなく、脂肪酸の原料としても広く使用されています。
これはヤシ油の脂肪酸比率を見れば分かりやすいですね。
脂肪酸組成 | % |
カプリル酸 | 5.9 |
カプリン酸 | 5.3 |
ラウリン酸 | 47.7 |
ミリスチン酸 | 19.0 |
パルミチン酸 | 9.7 |
オレイン酸 | 7.1 |
その他 | etc |
ラウリン酸が半分程度も含まれていますので、洗顔フォームやボディソープなどによく使われる脂肪酸のラウリン酸はこのヤシ油から精製されることが多く、洗顔クリームによく使われるミリスチン酸もよく作られています。
さてこのヤシ油ですが、ここで皆さんが理解しているヤシ油に大きな誤解が生じているお話に進んでいきましょう。
ヤシ油の間違い
ヤシ油がとれるその植物は何かと問われると、ユーザーの皆さんは「ヤシの実がなるヤシの木」と、即答で返ってくることでしょう。
いや、ユーザーさんだけでなく、多くの化粧品技術者の方々の中にもそう思い込んでおられる方が多数おられるかと思います。
これ、実は大きな誤解を招いています。
ここまでヤシ油由来の原料と述べてきた成分のほぼ大半は実はヤシ油ではなく、実は「パーム油」なのです。
-ヤシ油とパーム油って、違うものなの?
皆さんがイメージしていたヤシの木は、南国の海辺に自生していて、ヤシの実、つまりはココナッツがなる木のことと思っていることでしょう。
あれは正確にはココヤシのことで、ココナッツオイルと呼ばれるヤシの実から採れるオイルが、本来の正式なヤシ油です。
南国の観光地にいくとヤシの実を割ったココナッツジュースが飲めるのも、この木。
なので皆さんのイメージは正解なのですが、実際に化粧品に使われているココナッツ由来のオイルはそれほど多くなく、原料として多量に消費されているヤシ油はパーム油が使われています。
ですので、ここまで説明してきた「ココイル」といった表記の成分原料は、ほとんどがパーム油なのです。
で、パーム油が採れるヤシは「アブラヤシ」と呼ばれるパームの木で、これは全く異なる植物になります。
写真を見て頂ければその違いは明確になります。
写真のように、実のカタチも全く違います。
ココヤシとアブヤシでは産地も全く異なりますし、ユーザーさん的にはまったくイメージが崩れてしまったかもしれませんね。
でも、代替で栽培されて使われているだけあって、実に含まれている油脂分の成分はほとんど変わりません。
脂肪酸組成 | ヤシ油 | パーム核油 |
カプリル酸 | 5.9 | 2.7 |
カプリン酸 | 5.3 | 2.9 |
ラウリン酸 | 47.7 | 46.8 |
ミリスチン酸 | 19.0 | 16.3 |
パルミチン酸 | 9.7 | 9.0 |
オレイン酸 | 7.1 | 16.7 |
その他 | etc | etc |
ただし、食用油の方ではそのままの抽出オイルを使いますので、この油脂名称は重要になります。
ですので、どの植物から採取された油脂なのかは、きちんと確認されるのが良いですね。
ヤシ油で販売戦争
今回の話題はちょっと意外なこんな話題でしたが、ユーザーの皆さんにとってここまでは“だからどうなの?”というお話で、特に気にしなければならない問題ではありません。
表を見て頂ければお分かりの通り、ヤシ油もパームの実の油も含有成分はほぼ同じといってよい違いしかありませんので。
しかしながらこの問題、実はここから派生してユーザーさんにとっては選択の悩みの元となる市場競争が起きています。
おそらく、どちらの主張が正しいのか判断に迷われて、翻弄されているユーザーさんも多いかと思います。
今回の内容を踏まえて、次回からだんだんとユーザーの皆さんにとって身近なお話、そして最終的にはそこから繋がって、敏感肌や赤ちゃん向けのボディソープの成分見極め術のお話へと進んでいく予定です。
引き続き、お読み頂ければと思います。
ではまた次週。
by.美里 康人